日本薬理学雑誌
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特集 クスリのリスクを科学する:基礎から臨床,過去から未来へ
  • 勝山 真人
    2024 年 159 巻 2 号 p. 77
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル 認証あり
  • 勝山 真人
    2024 年 159 巻 2 号 p. 78-82
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル 認証あり

    キノホルム(クリオキノール)は20世紀半ばに整腸剤として多用されたが,亜急性脊髄視束神経症(スモン)という薬害を引き起こしたため,1970年に我が国では販売中止となった.スモンは猛烈な腹痛に引き続き,特有のしびれ感が足先から下肢全体,あるいは腹部・胸部にまで上行する神経疾患であり,下肢の痙縮や脱力をきたし,重症例では視力障害や失明,さらには脳幹障害による死亡例まで存在する.しかしキノホルムによるスモンの発症メカニズムは未だ解明されていない.これまで著者らはDNAチップを用いて培養神経芽細胞腫においてキノホルムにより発現が変動する遺伝子を網羅的に解析し,①キノホルムがDNA二本鎖切断によるATMの活性化と,それに伴う転写因子p53の活性化を引き起こすこと,②キノホルムが転写因子c-Fosの発現誘導を介して,痛み反応に関与する神経ペプチドの前駆体VGFの発現を誘導すること,③キノホルムが転写因子GATA-2およびGATA-3の発現抑制を介して,腸炎,視神経炎,神経因性疼痛への関与が報告されているインターロイキン-8(IL-8)の発現誘導を引き起こすこと,などを見出し報告してきた.さらにキノホルムが細胞内に亜鉛を流入させるとともに,銅シャペロンATOX1の酸化型への変換により銅の代謝障害を引き起こし,ドパミンβ水酸化酵素の成熟阻害を介してノルアドレナリンの生合成を阻害することを見出した.このようにキノホルムは複数の経路を介して神経毒性を発揮しているものと考えられる.

  • 柳田 翔太, 川岸 裕幸, 諫田 泰成
    2024 年 159 巻 2 号 p. 83-89
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル 認証あり

    心毒性は抗がん薬の最も重篤な副作用の一つで,がんサバイバーのQOLを左右する要因となっている.抗がん薬による心毒性は,不整脈,心収縮障害,冠動脈疾患,高血圧症など多岐に渡るが,特に,心収縮障害(左心室駆出率の減少)は心不全につながる重篤な副作用である.従って,抗がん薬による心収縮障害リスクを予測することは非常に重要である.現在,ヒトiPS細胞由来心筋細胞(ヒトiPS心筋)は,ヒト心臓組織におけるイオンチャネルを発現していることから不整脈の発生リスク評価に利用されており,収縮障害や器質的毒性など他の心毒性に対しても実用化が期待される.抗がん薬による心収縮障害は慢性的な投薬によって発生すると考えられることから,我々はヒトiPS心筋の動きをイメージング解析することにより慢性曝露による収縮毒性を評価できる新たな手法を開発した.臨床試験で心不全が発生し開発が中止されたBMS-986094を陽性対照物質として用いて検討した結果,慢性曝露によりヒトiPS心筋の収縮速度や弛緩速度が濃度依存的に減少することを見出した.次に,機能的毒性や器質的毒性を示す抗がん薬であるドキソルビシンを検討したところ,収縮速度や弛緩速度が減少し,細胞障害が認められた.現在,作用点の異なる多数の抗がん薬の心毒性データを解析しており,臨床のリアルワールドデータと比較することにより本評価系の有用性や予測性を検証する予定である.本総説では,イメージングによるヒトiPS心筋の収縮評価法を概説し,抗がん薬の心毒性リスクに関する将来展望について紹介したい.

  • 莚田 泰誠
    2024 年 159 巻 2 号 p. 90-95
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
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    薬理遺伝学的検査は,薬剤の有効性と副作用のリスクを予測することにより,患者に利益をもたらす.臨床現場で有用な薬理遺伝学バイオマーカーには,薬物代謝酵素および薬物トランスポーター遺伝子,ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子がある.HLAはヒトの免疫に関与する重要な分子であり,かねてより,薬疹,薬物性肝障害,無顆粒球症などの副作用発現リスクとの関連について解析されてきた.HLAは多くの遺伝子から構成されており,各遺伝子には数十種類の型(アレル)があり,副作用と関連するHLAアレルが多数報告されている.HLAアレルと副作用リスクとの関連におけるオッズ比は約5から数千であり,副作用のリスクに極めて大きな影響を与えることが示されている.したがって,薬物療法開始前のHLA遺伝子検査は,副作用の回避に大きく貢献することが期待されるが,検査の臨床的有用性を示すためには,検査結果に基づく医療介入の効果を前向きに示す必要がある.筆者らは,HLA-A31:01検査結果に基づく治療介入がカルバマゼピン誘発薬疹の発症率に及ぼす影響を検討するため,前向き臨床試験GENCAT研究を実施した.HLA-A31:01陽性患者にはバルプロ酸などの代替薬が投与された結果,カルバマゼピン誘発薬疹の発症率が約60%減少した.臨床的有用性が示された薬理遺伝学検査が,診療ガイドラインに反映されることにより,より安全で適切な層別化医療の確立につながることが期待される.

  • 寺田 智祐
    2024 年 159 巻 2 号 p. 96-99
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル 認証あり

    ハイリスク医薬品の育薬研究においては,モニタリングの強化や事前のリスク把握など,臨床薬理学的観点から取り組むべき課題は多い.本稿では,分子標的抗がん薬の血中濃度モニタリングと,薬理遺伝学検査の臨床実装に基づいたリアルワールドエビデンスの創出を取り上げ,我々の研究成果を中心に概説した.

特集 敗血症性多臓器不全の病態生理学的解明と創薬基盤形成
  • 松田 直之, 服部 裕一
    2024 年 159 巻 2 号 p. 100
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル 認証あり
  • 松田 直之, 町田 拓自, 服部 裕一
    2024 年 159 巻 2 号 p. 101-106
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル 認証あり

    敗血症(sepsis)は,感染症として臓器機能不全が進行する病態と定義される.敗血症の治療では,抗微生物薬の投与に加えて,さまざまな臓器の機能不全を進行させないための全身管理が必要とされる.敗血症の病態形成に関与する分子機構は,pathogen-associated molecular patterns(PAMPs)およびdamage-associated molecular patterns(DAMPs)として,広く認識されるようになった.これらPAMPs/DAMPsは,パターン認識受容体であるToll様受容体,RAGE,NOD様受容体,C型レクチン受容体,cGAS,MDA-5,RIG-I様受容体などを介して,細胞内でNF-κB,AP-1,STAT-3などの転写因子を活性化させ,炎症性分子やサイトカインの産生を転写段階から高める.一方で敗血症では,組織の基幹細胞,免疫細胞,血管内皮細胞などの細胞死を加速させる.敗血症における細胞死の形態も,ネクローシスやアポトーシスに加えて,オートファジー,ネクロプトーシス,マイトファジー,パイロトーシス,ネットーシス,フェロトーシスなどが知られるようになった.このような病態生理学的解釈に基づいて,敗血症に対する新規創薬科学が期待される.

  • 西堀 正洋, 和氣 秀徳, 阪口 政清
    2024 年 159 巻 2 号 p. 107-111
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
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    血漿タンパク質histidine-rich glycoprotein(HRG)は,全身炎症反応時にCRPやα1-antitrypsinのような急性相タンパク質とは逆の動態を示し,血漿中レベルが著明に低下する.マウスの盲腸結紮・穿刺の敗血症モデルを用いてHRGの動態と補充治療薬としてのHRG静注効果が検討され,有望な治療効果が見出された.ヒト血液細胞と培養血管内皮細胞を用いて,HRGの各細胞に対する薬理作用が検討され,細胞の恒常性維持と保護作用を発揮することが明らかにされた.仮説されたHRGの特異的受容体の一つとして,C-type lectin family 1A(CLEC1A)が同定された.さらに,ICU内敗血症患者の血漿中HRG測定データから,HRGレベルは,患者の重症度と予後予測の極めて優れたバイオマーカーとなることが分かった.これまでHRGの生理機能の重要性や,敗血症やARDS病態形成における役割については殆ど注目されてこなかったが,HRGは敗血症カスケードの進行防止と生体恒常性維持に働く重要な血漿因子であることが強く示唆される.

  • 坂本 多穗, 黒川 洵子
    2024 年 159 巻 2 号 p. 112-117
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル 認証あり

    先進国においては,集中治療医学の進歩により敗血症死亡率が減少している一方で,高齢化や肥満に伴って罹患率が上昇している.このため,敗血症の後遺症患者が増え,リハビリに必要なコストが医療を圧迫している.ICU acquired weakness(ICU-AW)は,重症疾患患者の多くが経験する呼吸筋や四肢の筋力低下であり,敗血症患者の50~75%に後遺症として見られる.本疾患は,ICU退院時の人工呼吸器の離脱困難や退院後の日常生活動作の低下を招く.ICU-AWは数年間持続する症例も多く,敗血症サバイバーの社会復帰困難と,長期生存率の低下要因となる.敗血症患者はICU入室中に高血糖,不動,人工呼吸器装着,筋弛緩薬投与,ステロイド性抗炎症薬投与など,多重の筋障害因子にさらされることで,高サイトカイン,高NO,高ROSの状態が複合的に作用し,ICU-AWの発症を引き起こすと考えられる.しかし,ICU-AWの発症機序については不明な点が多く,治療法の開発のためには病態生理学の解明が待たれる.また最近のICU-AW研究により,骨格筋自体が敗血症における炎症応答や代謝異常の主要な臓器であることが明らかになりつつある.本稿では敗血症における骨格筋の病態生理学と治療薬開発の国際的動向について我々の研究成果をふまえて概説する.

総説
  • 山本 由似
    2024 年 159 巻 2 号 p. 118-122
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
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    多価不飽和脂肪酸(PUFA)は脳の発達と機能に重要な役割を果たしている.近年の研究により,脳内PUFAのバランスの乱れが,自閉症や統合失調症などの精神疾患と関連していることが示されている.しかし,PUFAが脳機能に及ぼす効果の細胞および分子レベルのメカニズムはいまだ不明な点が多い.PUFAは水に不溶性であるため,細胞内輸送にはキャリアーが必要である.脂肪酸結合タンパク質(FABP)は細胞内で遊離脂肪酸に結合し,その細胞内輸送,シグナル伝達,遺伝子転写に関与する脂質シャペロンとして機能する.著者らは,FABPによる脳内PUFAの恒常性と神経可塑性の関係に焦点を当てた.我々は,n-6系PUFAに親和性の高いFABP3が,成体マウスの前帯状皮質(ACC)のγ-アミノ酪酸(GABA)抑制性インターニューロンで強く発現していること見出した.ACCは認知と情動行動の調整に関与する辺縁系の一部である.FABP3欠損マウスでは,ACCにおいてGABA合成および抑制性シナプス伝達が過剰となる.一方,n-3系PUFAに強く結合するFABP7も脳内において重要である.我々はFABP7がアストロサイトにおいて脂質ラフト機能を制御し,FABP7を欠損したアストロサイトは,外部刺激に対する応答に変化をもたらすことを見出した.さらにFABP7欠損マウスは,錐体細胞ニューロンの樹状突起形成が異常となり,スパイン密度と興奮性シナプス伝達の低下を示す.本稿では,PUFAやFABPと人間の精神障害との関連について,特にFABP3およびFABP7を中心に,脳内での機能解明における最近の進展について紹介する.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流61 ~ベンチャーが拓く創薬研究~
  • 日比野 はるか, 石神 圭子
    2024 年 159 巻 2 号 p. 123-128
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/01
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    オープンイノベーション概念の提唱から20年,世界の潮流を追いかける形で,日本でも起業や水平分業が盛んになっている.しかし,ライフサイエンス分野では,専門性の高さ,必要投資の規模の大きさ,成功確率の低さなどから,オープンイノベーションの基盤は未だ発展途上にある.湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)では,2018年の開所以来5年間,多様なプレイヤーがオープンイノベーションを実現できる場を目指して,エコシステムの構築に挑戦してきた.取り組みのポイントは,ライフサイエンスに精通した運営組織が多角的なアプローチを行っていること,一方でコミュニティの構成メンバーの力を積極的に借りながら,互助的なしくみや文化を醸成していることである.本稿では,オープンイノベーションの場づくりを行うサイエンスパークの立場から,ベンチャー企業を含む多様なプレイヤーを支援する取り組みを紹介する.

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