日本薬理学雑誌
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132 巻, 4 号
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総 説
  • 嵜山 陽二郎, 大橋 雅津代, 高橋 行雄
    2008 年 132 巻 4 号 p. 199-206
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/14
    ジャーナル フリー
    薬理学研究において,薬物の薬理学的プロファイルを明らかにするための試験の一つとして,薬物の用量反応試験がある.用量反応試験で得られる用量依存性データは,多くの場合非線形であるが,これに生物学的に意味のある解釈を与えるためには,非線形回帰モデルを用いた解析が大変有効である.最近,JMP,Prismなどの優れた統計解析ソフトウエアが普及し,非線形モデルが広く薬理学研究者にも使われるようになった.しかし,こうした統計解析ソフトを背景理論を理解した上で適切に使用している薬理学研究者は未だ少ないのが現状である.そこで本稿では,薬理学研究者が非線形モデルを正しく理解し適切に利用するための啓発活動の一環として,用量依存性データへの非線形モデルの適用事例をとりあげた.題材としては,動物の内臓痛試験で得られたシグモイド型用量依存性データを用いた.解析では先ずJMPを用い,データにロジスティック曲線をあてはめ,最大反応値,最小反応値,用量反応曲線の勾配および最大反応の半分の反応を示す対数用量の4パラメータについて,最小二乗法による同時推定を行った.次いで,目的の推定値を得るまでの過程の深い理解を支援するため,Excelソルバーを用いてJMPで得られた結果の追加解析を行ったところ,推定値についてはほぼ同一の結果が得られた.本稿の事例を参考に,用量依存性データを統計解析ソフトを用いて解析し,Excelソルバーによる追加解析も併せて行うことにより,非線形回帰分析のより一層深い理解が得られるであろう.
実験技術
  • 渚 康貴
    2008 年 132 巻 4 号 p. 207-212
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/14
    ジャーナル フリー
    近年,糖尿病,高血圧,高脂血症,肥満など,いわゆる生活習慣病が社会問題となっているが,これらの疾患は動脈硬化を引き起こし,脳卒中,心筋梗塞,神経障害,腎障害,網膜症などの血管合併症につながっていくため,生活習慣病さらにそれに引き続いて起こる合併症を改善する治療薬の要望は年々高まっている.本稿では,選択交配により作出された脳卒中易発症系高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用いて,その脳血管に対する脆弱性という特徴を生かし,血管障害合併症の中で脳卒中後遺症および糖尿病網膜症に対する治療薬評価系を確立した.SHRSPに1%食塩水を飲用水として与えることによって,脳卒中発症期間の短縮,初発発作重篤度の均一化をはかり,さらに初発発作後に飲用水を水道水に戻すことにより,再発作や慢性的神経症状などの後遺症が認められる脳卒中後遺症モデルを作成した.後遺症評価として,神経症状のスコア化やMRIによる画像診断により,薬剤の治療効果が評価可能である.また,脳血管が脆弱なSHRSPの特徴から,脳血管と構造が類似する網膜血管の脆弱性が想定されたため,ストレプトゾトシン投与によって高血糖を惹起させて,血糖依存的な網膜障害を発症する糖尿病網膜症モデルを作成した.本モデルにおいて,動物モデルでは発現が難しかった網膜症につながる網膜変化(VEGF mRNA発現亢進と律動様小波の潜時延長)が認められ,これらの指標を用いて薬剤の治療効果を明らかにした.このように選択交配により確立された自然発症病態モデル動物の発現している特徴を生かすことにより,さらに有用な疾患モデルを作出することが可能である.
  • 宮田 茂雄, 大澤 匡弘, 亀井 淳三
    2008 年 132 巻 4 号 p. 213-216
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/14
    ジャーナル フリー
    ストレスに対する抵抗能力(ストレス抵抗性)の低下は,精神疾患の発症に関わる危険因子の1つである.そのため,精神疾患の病態解明ならびに新規精神疾患治療薬の開発を目的として,動物のストレス反応を利用したストレス抵抗性の評価が盛んに行われてきた.著者らは高所ストレス負荷中に認められる動物のすくみ行動に着目し,行動解析の指標とすることで動物のストレス制御因子を評価できることを初めて明らかにし,高架式プラットホーム試験と呼ぶことにした.また,その後の検討から,マウスのすくみ行動はノルアドレナリン神経系およびセロトニン神経系により調節されていることが確認され,これまでに得られている知見を支持するものであった.また,糖尿病モデルマウスを用いた検討から,糖尿病によるストレス抵抗性の低下と前頭前皮質のセロトニン神経活性の低下との間に関連性を見出すこともできた.したがって,高架式プラットホーム試験法はストレス抵抗性の評価法として有用であり,既存の行動解析法と比べても実験手順の簡便さやストレス負荷法としての妥当性,コスト面で優れているといえる.
治療薬シリーズ(30) 標的分子薬-3-(1)
  • 秋永 士朗, 塩津 行正, 清井 仁, 直江 知樹
    2008 年 132 巻 4 号 p. 217-220
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/14
    ジャーナル フリー
    Bcr-AblおよびKITチロシンキナーゼ阻害薬imatinibの臨床的な成功により,多くの制がん薬の創薬研究者は『Oncogene-addiction仮説』を念頭に,第二のimatinibの研究開発に取り組んでいる.Fms-Like Tyrosine Kinase 3(FLT3)はclass III receptor tyrosine kinase familyに属し,急性骨髄性白血病(AML)で最も高頻度に活性化変異が認められる.中でもFLT3-ITD変異はAML患者の約30%に見られ,同変異を有する患者ではその生命予後が不良であることから,21世紀に入ると同時に,FLT3阻害薬開発競争が激化した.既に第一世代FLT3阻害薬でのProof-of-concept(POC)が達成されると共に,第二世代の阻害薬開発も活発となり,第一世代のFLT3阻害薬2剤は化学療法剤との併用でのPhase III試験に進んでいる.
創薬シリーズ(3) その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 高岡 雅哉
    2008 年 132 巻 4 号 p. 221-225
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/14
    ジャーナル フリー
    循環器に関する毒性は,生命に直接関連する重篤な副作用に結びつくことから,承認申請する医薬品の非臨床試験では,一般毒性試験による安全性評価に加えて安全性薬理試験を実施することが義務付けられている.これらの実験方法,検査項目および評価方法は適切なガイドラインあるいはガイダンスによって規定され,評価方法の科学的な妥当性については,ICHによって国際的にオーソライズされている.特に,安全性薬理試験では,心電図QT延長を伴う致死性不整脈誘発リスクについて,in vitroおよびin vivoの両手法を用いてそのQT延長ポテンシャルを検出することが求められている.In vitro試験としては,QT間隔(心室の興奮から再分極までの時間)延長の主要因である活性化の早い遅延整流性K+電流(IKr)抑制作用を検出するために,その電流が流れるK+チャネルをコードする遺伝子hERG(human-Ether-a-go-go-Related Gene)を導入した細胞を用いて,化合物のhERG K+チャネルに対する直接作用を,in vivo試験としては,テレメトリーシステムなどを用いて無麻酔・非拘束条件下の非げっ歯類の心機能に対する化合物およびその代謝物の潜在的な毒性が評価される.また,一般毒性試験の中では反復投与下における,心拍数,心電図測定に加え,心臓の病理学的評価により心機能に関する毒性評価が実施されている.本項では,循環器毒性の主体である心毒性を中心に解説を加える.まず,心臓の生理学について概説したのち,安全性薬理試験(hERG,テレメトリー試験法),一般毒性試験の中で実施される心毒性検査法(心拍数,心電図(ECG),病理組織学的検査)の概要,非臨床試験に用いられている動物種,ならびに心毒性の概略および血管毒性についても解説する.
新薬紹介総説
  • 野村 俊治, 田平 淳一, 林 利彰, 濱田 悦昌
    2008 年 132 巻 4 号 p. 227-235
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/14
    ジャーナル フリー
    エプレレノンは,選択的アルドステロンブロッカーであり,海外において高血圧および心不全に対する治療薬として開発され,本邦では高血圧症に対する治療薬として2007年に承認された.エプレレノンは鉱質コルチコイド受容体に対するアルドステロンの結合を抑制し,in vitroにおける鉱質コルチコイド受容体への親和性はスピロノラクトンの1/20程度であったが,in vivoではほぼ同程度であった.また,エプレレノンの鉱質コルチコイド受容体に対する選択性は,スピロノラクトンと比較してより高く,性ホルモン関連有害事象が少ないことが期待された.エプレレノンの降圧作用は,食塩感受性のDahl食塩負荷ラットおよびアルドステロン/食塩負荷ラットにおいて確認され,食塩非感受性の脳卒中易発症性自然発症高血圧ラット(SHRSP)においても認められた.さらに,エプレレノンは,高血圧に伴う様々な臓器での血管損傷を抑制する,いわゆるend-organ protection作用を有していることが確認された.エプレレノンの降圧作用には,腎での作用の他,アルドステロンによる血管の機能変化および血管損傷を抑制することによる血圧調節能の維持,中枢でのアルドステロンの作用を抑制することによる血圧上昇の抑制,およびアルドステロンによるnon-genomic actionの抑制等が寄与している可能性が考えられた.臨床試験では,50~200 mgにおける降圧効果が確認され,忍容性が高いこと,他の降圧薬と比較して同等以上の降圧作用を発現し,また,併用によりさらに血圧を安定させうることが示された.加えて,臓器保護作用を有しており,性ホルモン関連有害事象の発現頻度が低いことも示された.
  • 野中 崇司, 勝浦 保宏, 杉山 浩通, 宮城 文敬
    2008 年 132 巻 4 号 p. 237-243
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/14
    ジャーナル フリー
    オルベスコ®インヘラーは新規のプロドラッグ型ステロイドであるシクレソニドを主薬とする定量噴霧式エアゾール剤(pMDI)であり,本邦では初めての1日1回の用法による成人の吸入ステロイドとして承認された.本稿ではシクレソニドの非臨床成績および臨床成績について概説する.シクレソニドは肺に吸入された後,組織のエステラーゼによって活性代謝物である脱イソブチリル体(desisobutyryl-ciclesonide:des-CIC)へと変換される.des-CICは強力かつ特異的にグルココルチコイド受容体に結合し,既存薬に匹敵する抗炎症作用を有することがin vitroおよびin vivoの非臨床薬理試験で示されている.さらにシクレソニドの作用は持続的であることが肺細胞を用いた検討で示されており,そのメカニズムとして細胞内滞留性を有する脂肪酸抱合体の形成による可逆的な代謝経路の関与が示唆された.オルベスコ®インヘラーは完全溶解型の製剤であるために,デバイスから噴射されるエアロゾルは1μm程度の微細粒子の割合が高く,末梢気道まで効率よく到達する.そのため,本剤の効果は末梢気道にまで及ぶと考えられる.その一方で,薬剤の口腔沈着率が低いことからカンジダ症や嗄声などの局所副作用の低減が期待される.また,シクレソニドはdes-CICとしての消化管からの生物学的利用率が低いこと,全身循環に移行した場合においてもタンパク結合率が高いために遊離型薬物濃度が低いこと,さらに肝臓で速やかに代謝不活性化されることなどの特性により,全身性副作用の軽減も期待できる薬剤である.これらの特性に基づいて国内外で臨床試験を実施した結果,1日1回の用法で喘息患者の呼吸機能,症状,QOLが改善されること,および長期の安全性に問題がないことが確認された.現在,吸入ステロイドは国内外で喘息の薬物治療の第一選択薬とされているが,本邦ではその普及率は未だに低いのが現状である.オルベスコ®インヘラーが新たな吸入ステロイド薬の治療選択肢を提供し,吸入ステロイド治療の定着と喘息患者のQOL向上に寄与することを期待する.
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