日本薬理学雑誌
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146 巻 , 6 号
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新たな治療戦略につながる長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1およびGPR120/FFAR4を介した生体作用とその分子機構
  • 平澤 明, 竹内 理人, 白井 遼平, 陳 藻, 石井 翔太, 飯田 桂子
    2015 年 146 巻 6 号 p. 296-301
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    オーファン受容体のリガンド探索研究により,Gタンパク質共役型の遊離脂肪酸受容体のファミリー(FFAR1,FFAR2,FFAR3,FFAR4,GPR84)が見出された.この脂肪酸受容体は,短鎖から長鎖までの鎖長の脂肪酸を識別し,様々な臓器で生理機能を果たすセンサ分子群であることが明らかになりつつある.その中で,FFAR1(GPR40),FFAR4(GPR120)は,どちらも長鎖不飽和の遊離脂肪酸を内因性のリガンドとする受容体であり,FFAR1は,膵臓でのインスリン分泌に,FFAR4は腸管でのインクレチン分泌および脂肪組織の制御など,代謝調節に重要な役割を果たすことが明らかになっている.FFAR1とFFAR4の内因性リガンドの類似性を考えると,選択性を有する化合物の探索は,受容体の生理機能解析のツールとして重要である.我々は,ホモロジーモデリングにドッキングシミュレーションと部位特異的変異導入を組み合わせて用いることで,化合物の親和性を予測し,新規の選択性を有する化合物を得るとともに,リガンドと受容体の結合に重要なアミノ酸残基の同定に成功している.また,各種摂餌条件下で,脂肪酸受容体遺伝子欠損マウス臓器の発現プロファイルを遺伝子オントロジーを用いて解析することで,代謝調節に関する役割を検討した.現在,FFAR1に対するアゴニストは糖尿病に対する医薬品として開発段階に進んでおり,FFAR4に関しても肥満,糖尿病などの代謝疾患に対する薬物標的となる可能性が示されている.本稿では,遊離脂肪酸センサとしてのFFAR1,FFAR4研究の現状と創薬応用の可能性について,我々のFFAR4に関する知見を含めて紹介する.
  • 中本 賀寿夫, 徳山 尚吾
    2015 年 146 巻 6 号 p. 302-308
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    脂肪酸由来の様々な因子が疼痛や炎症に関与していることが明らかになりつつある.特に,ドコサヘキサエン酸(DHA)のようなn-3系脂肪酸の摂取は炎症性疼痛ならびに神経障害性疼痛に対して有効性が高いことが強く示唆されている.近年,DHAのような遊離型の長鎖脂肪酸がGタンパク質共役型受容体の1つである長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1のリガンドであることが発見された.これらの受容体を介した脂肪酸シグナルは,末梢領域においてインスリンなどのホルモン分泌の調節を介して糖・脂質代謝の恒常性維持に関与していることから,糖尿病治療薬の標的分子として注目されている.一方,中枢神経系領域においては,これら受容体は広範囲にわたって発現していることが知られているにもかかわらず,生理的な意義やその役割はほとんどわかっていない.最近我々は,DHAによる抗侵害作用の発現には脳内の長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1を介したβ-エンドルフィンの遊離が関与していることを示した.さらに,GPR40/FFAR1は下行性疼痛制御系の起始核である青斑核および大縫線核領域に発現していることを見出し,GPR40/FFAR1アゴニストがこれらの神経系を直接的または間接的に活性化することで,痛みを抑制することを明らかにしている.一方,慢性疼痛時には脳内GPR40/FFAR1のタンパク質発現が,一過性に発現増加することやGPR40/FFAR1アゴニストの遊離脂肪酸が変動することを報告している.また,これらの変動にはアストロサイトが関与していることも示した.これらの知見は,脳内の遊離脂肪酸を介したGPR40/FFAR1シグナル伝達機構が,疼痛制御機構の調節に重要な役割をしていることを示唆するものである.本総説では,脳内GPR40/FFAR1の新たな生理作用としての疼痛制御機構における役割について紹介する.
  • 栗原 崇, 宮田 篤郎
    2015 年 146 巻 6 号 p. 309-314
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    G protein-coupled receptor 40/free fatty acid receptor 1(GPR40/FFAR1)は,インスリン分泌細胞である膵ランゲルハンス島β細胞に高発現するGタンパク質共役型受容体として発見され,その後の機能解析から,遊離中・長鎖脂肪酸刺激によるグルコース依存性のインスリン分泌促進作用に関与することが判明し,低血糖リスクの少ない新たなインスリン分泌促進薬創薬の標的として注目されている.一方,GPR40は中枢神経系にも発現が知られているが,その機能については未解明な点が多い.我々は,マウス脊髄にGPR40が発現していることを確認すると共に,一次知覚神経節および脊髄後角神経細胞に発現していることを見出し,さらに末梢での炎症および神経障害に伴い,これらの組織においてGPR40タンパク質発現レベルが上昇することを見出した.続いて,マウス炎症性疼痛モデル(カラゲニンモデル,完全フロイントアジュバントモデル)および末梢神経障害性疼痛モデル(L4/5脊髄神経結紮モデル)を用い,機械刺激あるいは熱刺激に伴う疼痛様行動に対するGPR40作動薬の効果を検討したところ,くも膜下腔投与により疼痛様行動が減弱すること,その減弱効果はGPR40拮抗薬により拮抗されることを見出した.一方,GPR40拮抗薬を単独でくも膜下腔投与すると,アジュバントおよび神経障害モデルにおいて,機械刺激に対する疼痛様行動が惹起された.GPR40作動薬の鎮痛効果の作用機序を検討するため,脊髄スライス標本を作製し,後角膠様質神経細胞から自発性EPSCsを記録した.GPR40作動薬は,疼痛モデルマウスにおいて自発性EPSCsの平均振幅には影響を与えなかったが,平均発生頻度の有意な抑制効果を示した.以上の結果は,GPR40が鎮痛薬開発の新規ターゲットとして有望であることを示唆する.
総説
  • 栗原 正明
    2015 年 146 巻 6 号 p. 315-320
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    危険ドラッグや違法薬物を速やかに規制する場合,動物実験や生物学的試験には多くの時間を要するため,インシリコによる活性予測が必要となる.薬物が作用する標的タンパク質が不明であるか,判明しているが三次元構造が明らでない場合は,リガンド側の構造情報のみで活性予測を行うQSAR(Quantitative Structure-Activity Relationship:定量的構造活性相関)法が一般的である.QSAR法とは化合物の構造と生物学的(薬学的あるいは毒性学的)な活性とを定量的に数学的な関係であらわしたものである.すでに危険ドラッグ規制の根拠となる活性データとしてQSAR法による予測活性が用いられてきた.一方,ここ数年ある構造の危険ドラッグを規制すると,少し構造の違った危険ドラッグが流通するといういわゆる「いたちごっこ」の状態が続いている.その対策として平成25年にある範囲の化合物群(数百化合物)を一度に指定する包括規制を導入した.それにより,今後流通すると予測される活性を有する化合物群を事前に規制することができる.この包括規制においては,指定する化合物の中には,まだ合成されていない化合物も含まれ,その活性を求めることはインシリコで行うしかない.今後ますます,インシリコよる活性予測の重要性が高まるだろう.
  • 古川 絢子, 郡山 恵樹
    2015 年 146 巻 6 号 p. 321-326
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    網膜色素変性症(retinitis pigmentosa:RP)は,わが国でも患者数が多いが,未だに有効な治療薬や治療法が確立されておらず,2015年から指定難病に定められた.今後,超高齢化社会を迎える日本ではさらなる患者数の増加が見込まれることから,RPの治療法確立が急務である.RPの最終病態は網膜視細胞の脱落である.この病態形成に関わる細胞内イベントとして活性酸素,細胞内カルシウム,カルシウム依存性プロテアーゼ,アポトーシス関連分子がそれぞれ報告されている.しかしながら,これらの報告はRPの病態形成の一部を解明したものであり,相互の関連性が明らかでないことから,その全体像は未だに不明である.最近,70 kDa熱ショックタンパク質(HSP70)がアポトーシスを抑制し,細胞保護機能を示すことが注目されている.しかしRPにおけるHSP70の役割は解明されていない.近年,我々はHSP70が活性酸素によりカルボニル化修飾され,カルシウム依存性カルパインにより切断されることで視細胞死を引き起こすことを初めて明らかにした.さらにHSP70発現誘導薬を用いてHSP70を補うことで細胞死を抑制できることを解明した.本総説において,我々はRPの新規治療薬開発の標的としてHSP70発現誘導薬を提唱する.さらにドラッグリポジショニングの観点から,HSP70発現誘導作用をもつ既存医薬品による新規RP治療薬としての可能性について述べる.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(26)
  • 藤原 雄介, 山本 弘史, 福島 千鶴, 小守 壽文, 田中 義正
    2015 年 146 巻 6 号 p. 327-331
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    アカデミア創薬の環境はこの10年で大きく変わった.それでもアカデミアの創薬は大きな困難を伴う.最大の問題点は,製薬企業が評価を行うことができるまで創薬開発を進めていくことは,ひとつの研究室だけでは非常にハードルが高いことである.創薬のターゲット候補の発見,スクリーニングによる候補化合物の同定,最終的な薬物候補への最適化,臨床研究という創薬に必要な多くの過程をひとつの研究室で行うことは不可能に近い.もしもひとつの創薬シーズにおいて,多くの専門家,研究室が参加することができれば,アカデミアの創薬開発は大きく進むだろう.こういった状況の中で,長崎大学が創薬に対してどのようにオープン・イノベーションに取り組んでいくかを紹介する.
新薬紹介総説
  • 栗山 千亜紀, 植田 喜一郎, 荒川 健司
    2015 年 146 巻 6 号 p. 332-341
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    カナグリフロジン水和物(以下カナグリフロジン,製品名:カナグル®錠(国内),Invokana®錠(海外))は,2型糖尿病治療薬として2013年3月に米国で初めて承認されたナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬である.2014年7月には,国内でも承認を取得した.1990年,田辺三菱製薬は世界に先駆け,尿糖排泄促進による経口糖尿病治療薬の創薬研究に着手し,経口投与でSGLTを阻害するT-1095の創製に成功した.さらに治療薬としてより適した化合物を探究し,誕生したのがカナグリフロジンである.カナグリフロジンは,腎近位尿細管において糸球体ろ過された大部分のグルコースの再吸収を担うSGLT2を選択的かつ競合的に阻害し(SGLT1とのIC50値の比は158倍),血中の過剰なグルコースを尿糖として排泄することでインスリン非依存的に糖尿病モデル動物の高血糖を是正する.肥満モデル動物においては,体重および体脂肪増加を抑制する効果を認めた.Zucker diabetic fatty(ZDF)ラットにカナグリフロジンを反復投与することで,持続的に血糖値を低下し,インスリン分泌能の改善および膵β細胞量の維持をもたらした.また,カナグリフロジンとDPP-4阻害薬テネリグリプチンとの併用投与,およびラットでの消化管内糖質量に関する検討から,小腸SGLT1阻害を介した糖質吸収遅延作用を有することも示された.2型糖尿病患者を対象とした国内外の臨床試験において,カナグリフロジンは持続的なヘモグロビンA1c(HbA1c)改善,体重および血圧低下,eGFRの低下抑制効果等を示しており,実施中のグローバル大規模臨床試験(CANVAS,CREDENCE)の結果にも大いに期待がもたれている.
  • 箕浦 秀明, 岩井 めぐみ, 谷内 由太, 片島 正貴, 高橋 秀之
    2015 年 146 巻 6 号 p. 342-348
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    ニチシノン(オーファディン®カプセル)は,4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)阻害薬であり,高チロシン血症Ⅰ型(hereditary tyrosinemia type 1:HT-1)患者の治療を適応として,これまでに世界37ヵ国にて承認されている.本邦においては,2010年2月の「第1回医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で検討され,開発企業の募集または開発要請を行った医薬品のリストに掲載されたことを受けて,アステラス製薬株式会社は本邦での承認取得申請に取り組み,2014年12月に「オーファディン®カプセル」として承認された.HT-1の原因は,チロシン分解経路の最終段階にあるフマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ(FAH)の欠損であり,肝臓および腎臓において,FAHより上流の中間代謝物であるフマリルアセト酢酸(FAA)およびマレイルアセト酢酸(MAA)が組織中に蓄積され,これら臓器に障害をもたらすと考えられている.ニチシノンは,ラット肝臓のサイトゾル画分を用いたin vitro試験において,チロシン分解経路におけるFAAやMAA産生の上流に位置するHPPDに対して阻害作用を示した.また,マウスおよびラットにおいてニチシノンの単回投与によって肝臓中HPPD活性が阻害されることが確認された.さらに,HT-1のモデル動物と考えられるFAH欠損マウスにおいて,FAHホモ欠損マウスの新生児期での肝機能障害による致死性がニチシノンの投与により回避された.以上の結果より,ニチシノンはチロシン分解経路においてFAHより上流の酵素であるHPPDを阻害し,反応性の高いチロシンの中間代謝物の産生・蓄積を抑制することによって,HT-1患者の病態を改善すると考えられる.ニチシノンのHT-1患者に対する有効性および安全性を検討した試験であるNTBC(2-[2-nitro-4-(trifluoromethyl)benzoyl]cyclohexane-1,3-dione)試験において,ニチシノンはHT-1に特徴的な生化学的パラメータに加え,死亡,肝移植,肝細胞がん,および急性ポルフィリン症等のHT-1の臨床的転帰を改善した.NTBC試験で最もよく報告された有害事象は眼障害であり,ニチシノンの薬理作用によって生じる血漿中チロシン濃度の上昇によるものである可能性が考えられた.眼症状の発現確率とチロシン最高血漿中濃度との間に有意な相関が認められたことから,チロシンおよびフェニルアラニンを制限した食事療法との併用により血漿中チロシン濃度を低く保つ必要がある.また,NTBC試験および欧米での市販後成績から,ニチシノン投与に関連すると考えられる重篤な有害事象はほとんど報告されていなく,忍容性は良好であると考えられた.
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