マウスの自発運動測定をめぐる諸問題,とくに個体差につき,薬物効果検定の観点から,約700匹のddG系成熟雄マウスを使用して考察した.methamphetamine(1~16mg/kg),
d-amphetamine(1.25~5mg/kg)およびmorphine(5~20mg/kg)を皮下投与し,その後180~400分間にみられた平面フィールド内における水平運動の変動推移を,反応パターンとして個体別に記録して分析した.上記3薬物は用量が適当であればいずれもマウスの自発運動を明らかに促進した.しかしたとえ動物側および測定器機側の条件を一定にしても,薬物に対するマウスの反応性には極めて大きな個体差が見られ,しばしば最低と最高の差は40~70倍に及んだ.このような個体差と,実験時の季節あるいは動物の体重との間には直接の相関性は認められず,むしろ入手時の動物群や飼育時期に関連した条件の違いが問題であると考えられた.また薬物投与前に高い運動活性を示した個体ほど薬物反応性についても強い傾向が認められた.こうした著明な個体差を考慮しつつ,自発運動量の変化から薬物の標準的効果を推定するためには,統計学上少くとも15匹以上の実験例数を必要とすることが確認された.また必要な観察時間については,薬物の種類によって異なるが,一般に薬物投与後少くとも1時間以上測定することが適当と考えられた.さらに,methamphetamineあるいは
d-amphetamine投与時には,それぞれ4および5mg/kgまでは用量依存的に自発運動の促進効果が見られたが,それ以上の量になると逆に用量依存的にこの効果が減弱した.これは水平性運動と競合する首ふりや嗅ぎまわりあるいは旋回行動等の常同行動が混在して出現し,その出現率も用量依存的に高まることに起因していた.つまり薬物の種類と用量によっては,質的に相違する行動が同時に測定され,個体差をさらに強めることがある.
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