日本薬理学雑誌
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143 巻 , 2 号
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漢方薬理学:漢方薬適用における利益性
  • 佐藤 廣康
    2014 年 143 巻 2 号 p. 56-60
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/02/10
    ジャーナル フリー
    近代医学しか勉強してこなかった我々が,伝統医学,漢方薬の理解を容易にするには,構成生薬の含有成分の基礎薬理学的エビデンスから追究していくことが早道である.古来の伝統医療は主観に基づいた理論概念による漢方処方である.科学的解析法のない時代,永い臨床経験に当時の最高水準の技術から確立したものである.しかしながら,現代に生きる我々は有効成分の作用機序を捉まえて,薬理学的エビデンスから伝統医療の中の漢方医学の理解を進めていきたいと考える.臨床上,医療は西洋薬が主体であり,和漢薬・漢方薬は補完・代替医療として捉えるべきである.多成分複合剤である漢方薬は高齢者,女性に高い適応性があり,また西洋薬に対して非適合性体質患者への絶対的必需性も高い.複合多成分薬である漢方薬は多種多様な相互的薬理効果を有し,西洋薬とは異なる利益的効果を発揮する.これからも漢方薬の適用による有益性を最大限に活用していくべきである.
  • 中瀬 朋夏
    2014 年 143 巻 2 号 p. 61-64
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/02/10
    ジャーナル フリー
    安全で有効性の高いがん治療戦略の開発において,漢方由来成分を用いた治療法がその重要性を高めている.経験的に古くからマラリアの特効薬として利用されてきたアルテミシニンとその誘導体は,キク科の植物であるセイコウ(Artemisia annua L.)から分離されたセスキテルペンラクトンで,構造中のエンドペルオキシドブリッジ(-C-O-O-C-)と細胞内鉄イオンが反応し,フリーラジカルを生成する.近年,トランスフェリン受容体が高発現し鉄イオンを豊富に含有するがん細胞に対して,アルテミシニンの細胞毒性が極めて高いことが注目されている.筆者は,トランスフェリンのN-グリコシド鎖にアルテミシニンを修飾したがん標的アルテミシニンが,アポトーシスを介して,がん細胞に特異的な抗がん活性を示すことを明らかにした.さらに,抗がん薬の効果は細胞内環境の影響を大きく受けることから,がん細胞内の酸化ストレスやエネルギー産生を制御することで,アルテミシニン誘導体の効果を操る手法を開発した.その結果,酸化ストレス耐性のがん細胞に対して,抗酸化促進機能を担うシスチントランスポーター活性を抑制することにより,アルテミシニン誘導体の細胞毒性効果を増強できることが明らかになった.漢方由来成分の効果を最大限に発揮するため,がん標的送達システムや細胞内環境を調節・維持するトランスポーターを制御できる薬剤学的手法を駆使して,今後,臨床応用へ向けたさらなるがん治療戦略の開発を期待する.
  • 条 美智子, 柴原 直利
    2014 年 143 巻 2 号 p. 65-68
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/02/10
    ジャーナル フリー
    近年,漢方薬は様々な疾患に幅広く用いられ,その中でも五苓散は漢方医学において体内の水分代謝調節作用を持ち,生体恒常性の維持に有意に作用するとされ,臨床的にも使用頻度の高い漢方方剤のひとつである.また,多くの疾患がチャネル遺伝子の異常であることが明らかになり,正常なチャネルの局在が生理機能の恒常性維持に重要であることが分ってきた.そのひとつに腎障害があり,腎臓の集合管に存在する水チャネルであるアクアポリン(aquaporin:AQP)の発現異常により尿濃縮障害が生じることも証明されている.また,慢性腎不全モデルである5/6腎摘ラットにおいて集合管でのアクアポリン2のmRNAおよびタンパク質発現量が比較的保存されていることが報告され,これが残存尿濃縮力を支えていることが示唆されている.そこで本研究では高血糖状態を介さずに,線維化を惹起する5/6腎摘ラットを用い,五苓散の尿濃縮機能と腎組織中のアクアポリン1~3タンパク質発現量,さらに腎障害進展抑制作用に対する五苓散の影響について検討した.五苓散を投与することにより,尿中タンパク量を低下させることから,腎障害進展抑制作用を有する.また,五苓散は腎皮質のアクアポリン2タンパク質およびアクアポリン3タンパク質発現量を正常状態に回復することにより,尿浸透圧を維持したことが示唆された.以上のことから,五苓散は体内の水分代謝調節作用による生体の恒常性を維持することで,電解質異常改善効果や腎保護作用を併せ持つ漢方方剤であることが示唆された.
  • 岸田 友紀
    2014 年 143 巻 2 号 p. 69-72
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/02/10
    ジャーナル フリー
    骨関節とは,身体運動に関わる骨・筋肉・関節・神経などの総称を指す.骨関節疾患に関連した様々な症候のうち,漢方薬が適応となるのは,変性疾患・骨量低下・筋肉の減弱・神経活動の低下などを基盤としており,その多くは疼痛が慢性化している.骨関節疾患には,炎症・熱感を生じるものと,冷えによって増悪するものの両者が存在する.漢方薬の利点として,生薬の組み合わせを工夫することで体感温度を変化させ,これらの症状に対処できることが挙げられる.また,漢方薬は,多種類の生薬を組み合わせた薬剤のため,多彩な薬効を示す.そのため,主訴だけではなく,時には患者が意識していなかった心身の不具合を改善したり,一剤で多岐にわたる症状を改善したりすることが可能である.これも,骨関節疾患に漢方薬を応用する利点となる.本稿では,個々の症例を通して,骨関節疾患に漢方薬を使う意義についてまとめる.
総説
  • 東田 千尋, 久保山 友晴
    2014 年 143 巻 2 号 p. 73-77
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/02/10
    ジャーナル フリー
    伝統医学で用いる薬物(天然物)中から画期的な薬理作用を示す化合物がこれまで数多く同定されており,伝統薬物研究は新薬開発の重要な基盤となってきた.伝統薬物由来の化合物に関する薬理研究の報告は多いが,そのほとんどが薬効に関連したシグナリング分子の活性や発現の制御を示したもので,化合物の直接の作用点を示した報告は少ない.直接の作用点が不明なままでは,化合物の真のシグナリングが明らかになったとは言えない.さらに,化合物の作用点を明らかにすることは,対象となる疾患の治療ターゲット分子を提唱することに繋がり得る.そこで本総説では,近年,直接の作用点が明らかになった伝統薬物由来の化合物の報告を例に挙げ,伝統薬物の薬理研究が,疾患治療戦略に新しい視点を与える可能性について概説する.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(12)
新薬紹介総説
  • 松永 勇吾, 田中 貴男, 齋藤 洋一, 加藤 博樹, 武井 峰男
    2014 年 143 巻 2 号 p. 84-94
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/02/10
    ジャーナル フリー
    アコチアミド塩酸塩水和物(アコファイド®錠,以下,アコチアミド)は,機能性ディスペプシア(FD)の治療薬として,ゼリア新薬工業株式会社で創製されたアセチルコリンエステラーゼ(以下,AChE)阻害薬である.FDは胃十二指腸領域から発せられる食後のもたれ感,早期満腹感,心窩部痛または心窩部灼熱感などの症状を呈するが,それらの症状の原因となりそうな器質的病変が認められない機能性消化管障害である.症状の発症要因の一つとして,FD患者において胃前庭部の運動の低下や胃排出の遅延が認められていることから,症状の改善には消化管運動を亢進させ,機能を改善させることが有用であると考えられる.アコチアミドはAChE阻害作用を有し,イヌおよびラットにおいて胃運動亢進作用を示し,さらに,アドレナリンα2受容体作動薬であるクロニジンによって惹起させた胃運動低下モデルおよび胃排出遅延モデルなどの消化管機能低下に対して改善効果を示した.臨床第II相試験において,FD患者を対象にアコチアミドの有効性を検討した結果,主要評価項目である最終調査時点の被験者の印象では本剤1回100 mg群はプラセボ群,50 mg群および300 mg群より改善率が高かった.このため,本剤1回100 mg(1日3回)を臨床推奨用量とし,臨床第III相試験で食後の膨満感,上腹部膨満感および早期満腹感の症状を有するFD患者を対象に有効性を検討した.主要評価項目である被験者の印象の改善率および3症状(食後の膨満感,上腹部膨満感および早期満腹感)消失率共に100 mg群でプラセボ群より有意に高い値を示した.よって,本剤1回100 mg 1日3回投与でのFDに対する有効性が確認された.また,本剤休薬後も改善効果が維持されることが示唆された.さらに,長期投与試験において本剤休薬後に症状の再燃が認められた場合でも,耐性を形成させることなく,服薬を再開することで再度の改善が得られると考えられた.以上のことから,アコチアミドはFD患者の食後膨満感,上腹部膨満感,早期満腹感などの諸症状に対して改善効果を示す薬剤であり,FDの治療薬として有用な薬剤になると期待される.
  • 明歩谷 博, 牛山 尚美, 市瀬 亮太, 高須賀 剛
    2014 年 143 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/02/10
    ジャーナル フリー
    パージェタ点滴静注420 mg/14 mLは,米国のGenentech, Inc.(以下,Genentech社)により創製された遺伝子組換えヒト化モノクローナル抗体,ペルツズマブ(遺伝子組換え)を有効成分とする点滴静注用製剤である.ペルツズマブはヒト上皮増殖因子受容体2型タンパク質(HER2:human epidermal growth factor receptor type 2)の細胞外領域で二量体形成に関与するドメインIIに結合することにより,HER2-HER3等の二量体形成を阻害し,ヘテロダイマーからのリガンド依存性シグナルを遮断する.一方,トラスツズマブは,HER2タンパク質の細胞外領域で比較的細胞膜に近いドメインIVに結合し,リガンド非依存性シグナルを遮断する.ペルツズマブとトラスツズマブはHER2への結合部位,作用メカニズムが異なることから,両剤を併用することでより広範なHER2シグナル遮断を通じて相乗的な抗腫瘍効果が得られると考えられている.ペルツズマブとトラスツズマブの併用は,HER2高発現ヒト乳がん株KPL-4移植モデルを用いた非臨床試験において高い抗腫瘍効果を示し,トラスツズマブによる治療中に増悪したHER2陽性転移・再発乳がん患者を対象とした第II相臨床試験(BO17929試験)においてその有効性が示された.これらの成績を受けて,HER2陽性転移・再発乳がんを対象に,初回治療としてトラスツズマブ+ドセタキセルにペルツズマブあるいはプラセボを併用する国際共同第III相臨床試験(CLEOPATRA試験)が実施された.その結果,主要評価項目である独立判定機関評価による無増悪生存期間および副次的評価項目である全生存期間の有意な延長が認められた.また,ペルツズマブ併用の有無により有害事象の発現率,有害事象による死亡および投与中止の頻度に大きな違いが認められず,ペルツズマブの忍容性が確認された.これらの成績に基づき,2012年6月に米国,2013年3月に欧州にてHER2陽性転移・再発乳がんの一次治療として承認された.また,本邦では2013年6月に「HER2陽性の手術不能又は再発乳癌」の効能・効果で承認された.
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