日本薬理学雑誌
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128 巻, 6 号
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特集:パッチクランプ
  • 若森 実
    2006 年 128 巻 6 号 p. 365-368
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    形質膜上に存在するイオンチャネルやトランスポーターは創薬の標的となるとともに,薬物の副作用の標的となる可能性もある.イオンチャネルやトランスポーターの機能を中心に研究する時,パッチクランプ法は強力な研究手法であり,開発以来瞬く間に薬理学分野の主要な研究手法のひとつとなった.分子生物学的手法によるイオンチャネルやトランスポーターの同定とその発現実験,スライス標本への応用でパッチクランプ法の重要性はますます高まっている.パッチクランプ法にはwhole-cell法(conventional法とperforated法)とsingle-channel法(cell-attached法,inside-out法とoutside-out法)があり,各測定法の利点と欠点を踏まえたうえで,目的により使い分ける必要がある.
  • 小林 力
    2006 年 128 巻 6 号 p. 369-374
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    新しいパッチ電極planar chipで初めてギガシールが形成されたとき,その20年前(79-84年)ポスドクとしてNeherのもとでパッチクランプ法発展に貢献したSigworthは,今後パッチクランプはすべてplanar chipを使うようになり,装置も次の3種類になるだろうと予言した.(1)生物物理学者が使うパッチクランプ装置,例えばたった一つのイオンの挙動を感知するようなもの.(2)製薬産業で使う大量検体を処理するもの.(3)生化学者が自分の実験台の上で手軽に使うもの.もちろん,後者2つは電気生理がわからなくともピペット操作とキーボードだけで電流が取れてしまう「オートパッチクランプ」でなくてはならない.製薬産業が使うものと生化学者が使うものの厳密な区別は難しいが,前者については,384ウェル薬物プレートに対応する創薬ロボットIonWorks Quattro,後者に対しては,かわいらしく実験台の端に置いて使うPort-a-PatchやPatchBoxが開発され,予言どおりになった.高い技術力を持つ多くのメーカーが参入していて,少し前までは考えられなかったようなすばらしい装置が,他にも続々と登場している.自動パッチクランプ装置のすごさは,熟練したマニプレータ操作が不要になり,1日のデータ取得数が飛躍的に伸びたことだけではない.器械の上にコーヒーカップをごんと置いてもびくともしない安定なシール.数十msで外液交換できるマイクロ潅流システム.細胞内液の交換も簡単になり,アカデミアにおいても今までできなかった実験が可能になるだろう.
  • 小林 真之
    2006 年 128 巻 6 号 p. 375-380
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    脳スライス標本を対象としたパッチクランプ法は,単一チャネルの特性からニューロンやシナプス・神経回路の特性まで,多岐にわたる電気生理学的特性を解明する最も有力な手法の一つである.最近では,顕微鏡の技術的進歩によって厚い脳スライス標本を対象とした記録も可能となり,従来あまり行われなかった成熟動物の解析が行われるようになってきた.また,ホールセル記録と細胞内カルシウム濃度の同時計測といった薬理学的手法やGFP導入動物からの記録およびsingle-cell PCRなど遺伝子工学的な手法などが次々と導入されている.これらの手法と同様に最近行われるようになってきたパッチクランプの手法の一つに,dual whole-cell patch clamp recording(paired recording)がある.Paired recordingは,複数の部位から同時に記録する手法であり,単一細胞から単一細胞へのシナプス伝達の特性を詳細に解析できる.また,電気的シナプスの解析や同一細胞における細胞体と樹状突起における活動電位やシナプス後電位の解析など,従来の手法では調べることができなかったことを観察可能にした.そこで本稿では,脳スライス標本におけるpaired recordingの概要と手技を紹介する.
  • ─大脳皮質体性感覚野のシナプス応答─
    吉村 恵, 土井 篤, 水野 雅晴, 古江 秀昌
    2006 年 128 巻 6 号 p. 381-387
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    脊髄後角細胞からのin vivoパッチクランプ記録法とその応用については,すでに「日薬理誌.124,111-118(2004)」に詳細をのべた.そこで,本稿では大脳皮質体性感覚野に焦点をあわせ,筆者らが開発した方法と実験結果について紹介したい.周知のように体性感覚情報は脊髄で修飾・統合をうけたのち,脊髄視床路や後索―内側毛帯路,または脊髄網様体視床路を通り,第一次体性感覚野に投射される.また,網様体視床路の一部は扁桃体や前帯状回,島などに送られ情動的な変化を誘起する.体性感覚野は視床からの入力をうけたのち,興奮性および抑制性の介在ニューロンを介してさまざまな処理を行っていると考えられるが,その結果はIV/V層に存在する錐体細胞で統合され,視床や感覚連合野,運動野,対側の感覚野および他の広い部位に投射される.細胞外記録やPETをもちいた研究から体性感覚野は頭頂葉中心後回(第一次体性感覚野:S1)とその外側部後方のシルビウス溝にそった第二次感覚野(SII)に投射される.そこで修飾・統合を受けたのち,側頭葉にある感覚連合野や辺縁系に伝えられ,さらに高度の処理をうける.PETを用いた実験から感覚情報は対側のSIに投射するだけでなく,同側のSIIにも投射することが知られている.また,SIには痛み刺激に応答する細胞が存在することも明らかにされ,感覚情報処理に関しさまざまなことが分かってきた.しかしながら,単一細胞のシナプスレベルにおける解析は細胞内記録法を用いて行われているが,安定した記録ができるのは大型の細胞に限られ,いまだ詳細な解析は行われていない.本稿で紹介するin vivoパッチクランプ記録法は,小型の細胞からも比較的安定した記録を長時間にわたって行うことが可能で,今後細胞外記録法などとあわせ,感覚情報が皮質レベルでどのような情報を受けているかを明らかにするための有益な方法になると思われる.
総説
  • ─異なったパラダイムの和諧を求めて─
    寺澤 捷年
    2006 年 128 巻 6 号 p. 389-394
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    「東洋の知」は「西洋の知」とは異なったパラダイムである.東洋の知に立脚した漢方の特徴は「気の思想」に基づく独特の病態認識と複数の生薬を組み合わせた「漢方方剤」を用いる点にある.他方,「西洋の知」は近代自然科学を基盤に据えており普遍性・客観性・論理性を追求する体系であり,この目的を遂行するために要素還元論をその研究手法の根幹に据えている.生気論に立脚し,しかも多成分系薬剤を用いる「東洋の知」の客観性・普遍性を如何に担保するか,この2つの異なったパラダイムを如何に和諧させるかについて考えてみた.この和諧によって医学・医療の新たな展開が図られると確信するからである.本稿ではこの目的のために,生薬の品質評価,漢方方剤の品質評価,病態認識の客観化,薬理学的研究の方法論,および臨床効果の客観的評価の手法について論じた.
  • 丹羽 俊朗, 白神 歳文, 大村 稔, 近藤 利彦, 黒田 昌利, 高木 明
    2006 年 128 巻 6 号 p. 395-404
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    カルシニューリン阻害薬であるタクロリムスは主にチトクロムP450 3A4(CYP3A4)およびCYP3A5で代謝され,multidrug resistance protein 1(MDR1)の基質になる.また,CYP3A4,CYP3A5およびMDR1には遺伝子多型が存在することが知られている.そこで,これらの薬物代謝酵素およびトランスポータの主要な遺伝子多型を紹介し,タクロリムスの薬物動態に及ぼす影響を整理した.CYP3A4*1の変異であるCYP3A4*1BCYP3A5*1の変異であるCYP3A5*3,MDR1のexon 21の2677G>T/Aおよびexon 26の3435C>Tの変異等の発現には人種差が存在する.CYP3A5*1/*1またはCYP3A5*1/*3を有する患者の投与量換算したタクロリムスのトラフ濃度(C/D)および血中濃度―時間曲線下面積(AUC/D)は,CYP3A5*3/*3を有した患者(CYP3A5を発現していない)に比べて減少する.MDR1では遺伝子多型の影響が認められたという報告と認められなかったという報告が混在している.タクロリムスの薬物動態には肝臓と消化管の両方に存在しているCYP3A4,CYP3A5およびMDR1の遺伝子多型が複雑に絡み合って影響しているものと推察され,最近での報告例のように,他の遺伝子多型等の諸因子を統一した条件で,目的とする遺伝子多型の影響を詳細に評価する必要があるように思われる.
治療薬シリーズ(10)アトピー性皮膚炎
  • 新井 巌
    2006 年 128 巻 6 号 p. 405-410
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    アトピー性皮膚炎の診断基準には「アトピー性皮膚炎は,増悪・寛解を繰り返す,掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている.我々は,これらの病態特徴の内“掻痒”に注目し,病態モデルの選定を行った.その結果,皮膚炎を自然発症するNC/Ngaマウスの掻破行動(掻痒)が同マウスの皮膚炎発症に強く関与し,その掻破行動に対する薬物作用も臨床効果と類似性を示すことから,NC/Ngaマウスの掻痒がアトピー性皮膚炎患者の病態を部分的に反映する可能性を示唆した.そこで,NC/Ngaマウスの自発掻破行動を指標に,掻痒の発現機構を検討した結果,これまで掻痒誘発因子の一つと考えられて来たプロスタグランジンD2(prostaglandin D2:PGD2)が,プロスタノイドDP1受容体(DP1)を介してNC/Ngaマウスの掻痒を抑え,更に掻破により傷害された皮膚バリヤの修復に寄与することを見出した.また,皮膚への掻破負荷は,皮膚のPGD2産生量を急激に増加させることから,皮膚においてPGD2が掻痒抑制性の調節物質として,過度の掻破を抑え皮膚傷害を回避するフィードバック機構として存在する可能性を示唆した.NC/Ngaマウスの自発性掻痒に対する,PGD2による抑制と非ステロイド性抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)による増悪から「アトピー性掻痒のPGD2による調節仮説」なるものを構築し,DP1作動薬のアトピー性掻痒および皮膚炎治療薬としての可能性を考察した.
  • 生駒 晃彦
    2006 年 128 巻 6 号 p. 411-415
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    アトピー性皮膚炎の治療の柱となるのは原因・悪化因子の除去,スキンケアおよび薬物療法で,主に用いられている治療薬は,炎症に対するステロイド外用薬とタクロリムス軟膏,皮膚バリア機能障害に対する外用保湿剤,そう痒に対する抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬である.ステロイド外用薬は治療の主役であるが,副作用の危険性もあるために適切な使用法が求められる.強さがランク付けされ,部位や症状に応じて使い分けられている.タクロリムス軟膏は顔面の皮疹に対するステロイド外用薬の代替薬としてその地位を確立しつつある.抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬は痒みの原因の一部を抑えるのみなので,補助療法として位置づけられる.新しい治療薬としては核酸医薬が注目されるが,その他にもさまざまな抗炎症薬の効果が試されて報告されている.痒みに対してはオピオイドκ受容体アゴニストや抗NGF療法が注目される.
新薬紹介総説
  • 原田 喜充, 小原 教仁, 今枝 孝行
    2006 年 128 巻 6 号 p. 417-424
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    塩酸セルトラリン(ジェイゾロフトTM錠25 mg,50 mg)は,選択的セロトニン再取込み阻害薬に分類されるうつ病およびパニック障害治療薬である.本薬は脳内セロトニン神経のシナプス前終末部におけるセロトニン再取り込みを強力かつ選択的に阻害する薬物であり,脳内のシナプス間隙におけるセロトニン濃度を高めて持続的にセロトニン神経伝達を亢進するものと考えられる.ラット脳シナプトソームを用いたin vitro試験において,本薬はセロトニン取り込みに対し強い阻害活性および高い選択性を示した.健康成人男性を対象とした第I相試験において,本薬の薬物動態は臨床用量において線形性を示すことが確認されている.本薬は主に肝臓で代謝されるが,薬物相互作用のリスクが少ないことがin vitro試験やヒトにおける薬物相互作用の検討試験から示されている.本邦ではうつ病およびパニック障害を対象としたプラセボ対照ランダム化治療中止試験が臨床試験として実施され,いずれの疾患に対しても本薬の有効性が示され,また本薬による主な有害事象は,悪心,傾眠等であり,臨床使用する際に,特に問題となるものは認められなかった.
  • 大竹 昭良, 佐藤 修一, 池田 賢, 笹又 理央, 宮田 桂司
    2006 年 128 巻 6 号 p. 425-432
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/14
    ジャーナル フリー
    コハク酸ソリフェナシン(ベシケア®錠)は膀胱組織選択的なムスカリン受容体拮抗薬であり,現在,新規過活動膀胱治療薬として世界各国で使用されている.ヒトムスカリン受容体を用いた結合実験において,コハク酸ソリフェナシンは膀胱収縮に主に関与しているムスカリンM3受容体に最も高い親和性を示すことが確認された.摘出ラット膀胱標本を用いた機能実験において,コハク酸ソリフェナシンはカルバコール刺激による収縮に対して,濃度依存的かつ競合的な拮抗作用を示した.また,過活動膀胱モデルラットにおいては減少した膀胱容量および1回排尿量を用量依存的に増加させた.更に,ラットおよびカニクイザルの膀胱平滑筋細胞および顎下腺細胞において,コハク酸ソリフェナシンはカルバコール刺激による細胞内カルシウム濃度上昇を濃度依存的に抑制したが,その作用は顎下腺細胞よりも膀胱平滑筋細胞において強かった.麻酔ラットにおいてもカルバコール刺激による膀胱内圧上昇および唾液分泌を用量依存的に抑制したが,唾液分泌よりも膀胱内圧上昇に対する抑制作用の方が強かった.以上のin vitroおよびin vivo試験により,コハク酸ソリフェナシンは膀胱組織選択性を示すことが明らかとなった.第I相臨床試験において,コハク酸ソリフェナシンは1日1回製剤となる良好な体内動態プロファイルを示した.過活動膀胱患者を対象とした第III相臨床試験において,コハク酸ソリフェナシンは尿意切迫感,頻尿および切迫性尿失禁のいずれの症状に対しても有意な改善作用を示した.更に,長期投与試験によって,その改善作用は長期間維持されることも確認された.一方,口内乾燥等の副作用発現率は低く,その忍容性が確認された.以上,前臨床薬理試験および臨床試験の結果より,コハク酸ソリフェナシンは過活動膀胱の諸症状に対して高い改善効果を示すとともに,服薬コンプライアンスの高い有用な薬剤であることが示された.
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