高血圧による圧負荷や虚血などのストレスによって誘発される心筋細胞の肥大化(心肥大)には,細胞内Ca
2+濃度上昇によるCa
2+シグナリング経路の活性化が重要な役割を果たしている.この過程には,カテコラミンやアンジオテンシン(Ang),エンドセリン(ET)などの神経体液性因子の関与が示唆されており,これらは全てG
qタンパク質と共役する受容体を介して心肥大を誘導する.しかし,G
qタンパク質によるCa
2+シグナリング活性化のメカニズムについてはよく分かっていなかった.我々は,ラット新生児の初代培養心筋細胞を用いて,ジアシルグリセロール(DAG)で活性化される
transient
receptor
potential
canonical(TRPC)チャネル(TRPC3とTRPC6のヘテロ4量体チャネル)がAng II刺激によるCa
2+シグナリングの活性化および心肥大形成を仲介することを初めて明らかにした.また,全てのG
qタンパク質共役型受容体刺激が心肥大を引き起こすわけではなく,TRPC3/TRPC6チャネルとタンパク複合体を形成するG
qタンパク質共役型受容体だけが心肥大を起こすこともわかってきた.さらに,TRPC3/TRPC6チャネルを阻害する化合物が個体レベルの心肥大や心機能障害を抑制することも明らかにされてきた.これらの結果は,TRPC3/TRPC6チャネルが心不全治療薬の新たな標的分子となることを示唆している.
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