日本薬理学雑誌
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134 巻, 3 号
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特集:TRPチャネルタンパク質の新たな機能と病態生理
  • —PLC/DAG系とPLA2/ω-hydroxylase/20-HETE系のクロストーク—
    井上 隆司, 森 誠之, 瓦林 靖広, 菅 忠
    2009 年 134 巻 3 号 p. 116-121
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    TRPタンパク質は電位変化以外の種々の物理化学刺激で活性化されるCa2+透過型非特異的陽イオンチャネルであり,感覚伝導を始め種々の生体機能とその破綻による病態に関与していると推測されている.最近の研究成果から,TRPタンパク質(チャネル)のうちの多くが,低浸透圧,ずり応力などの機械刺激で活性化されることが明らかとなってきた.興味深いことに,そのうちの多くが,血圧・血流変化等の機械刺激に暴露されている心血管系に発現している.しかし,これらの機械刺激感受性TRPチャネルがどのような分子機序によって活性化されるのか不明であった.本稿では,心血管系全般に亘って高レベルで発現し,血管緊張度,心血管のリモデリング等に密接に関与していることが明らかとなってきたTRPC6タンパク質に焦点を絞り,このチャネルタンパク質が受容体刺激,機械刺激の協働作用によって極めて効率的に活性化され,その分子機序として,PLC/ジアシルグリセロール(DAG)系とPLA2/ω-hydroxylase/20-HETE系のクロストークが重要であるという我々の仮説を中心に,心血管TRPタンパク質を巡る機械情報伝達のトピックスを紹介する.
  • 山本 伸一郎, 清水 俊一, 森 泰生
    2009 年 134 巻 3 号 p. 122-126
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    Transient receptor potential channel(TRPチャネル)のmelastatin(M)ファミリーに属するTRPM2はカルシウムイオン(Ca2+)透過性のカチオンチャネルであり,単球/マクロファージや好中球など免疫系細胞において最も豊富に発現が認められている.また,TRPM2は過酸化水素などによる酸化的ストレスによって活性化される特徴を有しているが,詳細な機構には不明な点が多い.筆者らは,当初培養細胞を用いた実験で過酸化水素刺激によるTRPM2を介したCa2+流入が細胞死を引き起こすことを初めて明らかにした.しかし,TRPM2に対する特異的な阻害薬やknock out(KO)マウスがこれまで存在しなかったことから,生体内においてTRPM2がどのような生理的役割を担っているかについては明らかにされていなかった.最近,筆者らは単球/マクロファージにおいて過酸化水素刺激によるケモカイン産生誘導にTRPM2を介したCa2+流入が重要な役割を果たしていることを明らかにした.さらに,in vivoにおけるTRPM2の生理的役割を明らかにするためにTRPM2 KOマウスを作製し,炎症性疾患の発症や進展におけるTRPM2の役割を検証した.その結果,デキストラン硫酸ナトリウムを用いた炎症モデルマウスにおいて,TRPM2依存的な単球/マクロファージからのケモカイン産生が炎症部位への好中球の浸潤を惹起し,炎症の増悪を引き起こしていることを明らかにした.本稿では,我々が明らかにした単球/マクロファージにおけるケモカイン産生誘導および炎症におけるTRPM2の関与の詳細を述べ,炎症性疾患における新規創薬ターゲット分子としての可能性を有するTRPM2の重要性について議論し,筆者らが得ている新しい知見を加えて詳細が不明である酸化的ストレスによるTRPM2の活性化について再考する.
  • 渡邊 博之
    2009 年 134 巻 3 号 p. 127-130
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    近年,心血管系・呼吸器系組織においても,多くのTRPチャネルの発現が確認され,その機能的役割が徐々に明らかとなってきている.病態との関連では,TRPCチャネルを介したCa2+流入が心肥大形成に重要であること,血管炎症にともなったTRPC1発現増加がその後の血管リモデリングに促進的に働くこと,種々の内皮依存性血管拡張反応において内皮TRPV4がバイオセンサーとしてCa2+流入経路として働くこと,咳嗽反射の神経伝達にTRPV1活性化が関与していることなど,多くの知見が明らかとなっている.将来的にTRPチャネル修飾薬は,循環器・呼吸器疾患の治療薬として登場してくる可能性を秘めている.
  • 西田 基宏, 佐藤 陽治, 仲矢 道雄, 黒瀬 等
    2009 年 134 巻 3 号 p. 131-136
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    高血圧による圧負荷や虚血などのストレスによって誘発される心筋細胞の肥大化(心肥大)には,細胞内Ca2+濃度上昇によるCa2+シグナリング経路の活性化が重要な役割を果たしている.この過程には,カテコラミンやアンジオテンシン(Ang),エンドセリン(ET)などの神経体液性因子の関与が示唆されており,これらは全てGqタンパク質と共役する受容体を介して心肥大を誘導する.しかし,Gqタンパク質によるCa2+シグナリング活性化のメカニズムについてはよく分かっていなかった.我々は,ラット新生児の初代培養心筋細胞を用いて,ジアシルグリセロール(DAG)で活性化されるtransient receptor potential canonical(TRPC)チャネル(TRPC3とTRPC6のヘテロ4量体チャネル)がAng II刺激によるCa2+シグナリングの活性化および心肥大形成を仲介することを初めて明らかにした.また,全てのGqタンパク質共役型受容体刺激が心肥大を引き起こすわけではなく,TRPC3/TRPC6チャネルとタンパク複合体を形成するGqタンパク質共役型受容体だけが心肥大を起こすこともわかってきた.さらに,TRPC3/TRPC6チャネルを阻害する化合物が個体レベルの心肥大や心機能障害を抑制することも明らかにされてきた.これらの結果は,TRPC3/TRPC6チャネルが心不全治療薬の新たな標的分子となることを示唆している.
実験技術
  • 大村 優, 木村 生, 吉岡 充弘
    2009 年 134 巻 3 号 p. 137-141
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    動物実験において注意機能・衝動性を定量的に評価することは,注意欠如多動性障害,統合失調症,薬物依存,境界性人格障害など様々な精神疾患の治療薬開発に役立つ.特に衝動性の評価・治療薬開発はいわゆる「キレる」人間の増加,自殺の増加という現代社会の様相を踏まえると社会的要求の高い問題である.本稿では,注意機能・衝動性を適切かつ同時に測定できる評価系として,5-選択反応時間課題(5-choice serial reaction time task)とその簡略版である3-選択反応時間課題(3-choice serial reaction time task)を紹介する.著者らはこれらの課題を用いて,コルチコトロピン遊離因子が注意機能を高めること,ニコチンが衝動性を高めることなどを報告してきた.しかし,5-選択反応時間課題はその有用性にも関わらず日本ではほとんど用いられていない.その主な原因は,この課題の手順が複雑で理解し難いこと,そして動物の訓練に時間がかかることにあると考えられる.本稿の主要な目的は2つある.一つは5-選択反応時間課題の複雑な手順を可能な限り分かりやすく解説すること,そしてもう一つは訓練時間を短縮するために著者らが開発した3-選択反応時間課題を紹介することである.本稿によりこれらの課題が日本でも広く用いられるようになり,上述の治療薬開発に少しでも貢献できれば幸いである.
創薬シリーズ(4) 化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その3) 代謝(1)(2)
  • 水間 俊
    2009 年 134 巻 3 号 p. 142-145
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    腸管代謝は経口薬が循環血中に入るまでの初期に起こる過程であり,吸収率,肝アベイラビリティとともに重要な因子である.近年,腸管のCYP3Aによる第I相酸化代謝が経口バイオアベイラビリティを低下させるという認識が深まりつつある.さらに,最近,第II相代謝の抱合代謝についても,SULT1A3による硫酸抱合代謝,UGT1A8,UGT1A10などによるグルクロン酸抱合代謝が経口バイオアベイラビリティに大きなインパクトを与えることが明らかになった.これはプレシステミック臓器アベイラビリティとして評価すると肝代謝よりも大きなインパクトである.一方,視点を変えるとドラッグデリバリーの観点からも腸管代謝は興味深い.例えば,プロドラッグが活性薬物になる(程度の差はあるが)過程にもなり,トランスポーターを介した吸収ルートを利用するプロドラッグのプロドラッグ(プレプロドラッグ)への展開なども期待される.
  • 永田 清
    2009 年 134 巻 3 号 p. 146-148
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    チトクロムP-450(P450)が発見され半世紀が過ぎようとしているが,その間にP450の単離精製,それに続くcDNAの単離および遺伝子配列の解明は,薬物代謝の研究に大きな進歩をもたらした.その大きな成果の一つとして,薬物代謝が関わる薬物相互作用の分子機構の解明が挙げられる.その結果,酵素活性阻害や酵素誘導の予測が可能となってきた.また,各個人に適した薬物投与設計,即ちPersonal Medicineが近年注目を浴びており,その実現を目指して個人間の異なる薬理効果あるいは副作用・毒性発現の原因をP450遺伝子配列の違いによって説明する試みが行われている.一方で薬物代謝酵素活性の個人間変動は,これら酵素の遺伝子多型ではすべて説明できないことも判明してきた.さらに,P450は化学物質の酸化反応の過程で活性代謝産物を生じやすく,それが原因で毒性を引き起こすことがあるため問題となっている.
新薬紹介総説
  • 田中 真, 森 裕史, 清水 聖, 松岡 俊行, 山本屋 肇, 南出 敏臣, 森 政道, 野崎 一敏, 碓井 孝志, 下川 建一郎, 鈴木 ...
    2009 年 134 巻 3 号 p. 149-157
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    ミノドロン酸水和物(以下,ミノドロン酸:リカルボン®錠1 mg/ボノテオ®錠1 mg)は,骨粗鬆症を適応症として2009年4月より日本国内で発売された第三世代のビスホスホネート系薬剤である.ミノドロン酸は,日本国内で創製され,既存薬に比べ骨吸収抑制作用の力価が高いことが特長である.また,日本人骨粗鬆症患者において,プラセボに対する椎体骨折防止効果が検証された初めてのビスホスホネート系薬剤であり,相対リスクを2年間で58.9%減少させた.非臨床試験において,ミノドロン酸は,投与後,特異的に骨に集積し,骨吸収の過程で破骨細胞により放出される酸により骨から遊離し,破骨細胞に選択的に取り込まれる分布経路が示唆された.また,ミノドロン酸は,メバロン酸代謝経路におけるファルネシルピロリン酸(FPP)合成酵素を強力に阻害したことから,破骨細胞内で低分子量グアノシン三リン酸(GTP)結合タンパク質のゲラニルゲラニル化を抑制することで破骨細胞の機能を低下させ,その結果,骨吸収を強力に抑制するものと推察された.閉経後骨粗鬆症の病態モデルである卵巣摘出骨粗鬆症モデルにおける検討では,ミノドロン酸は,骨代謝マーカー,骨密度,骨梁構造および骨強度を既存薬よりも低用量で改善した.また,続発性骨粗鬆症モデルであるステロイド性骨粗鬆症モデルや不動性骨粗鬆症モデルにおいても,骨密度および骨強度を改善した.さらに,ミノドロン酸は,ビタミンK2および活性型ビタミンD3と併用した場合,これら薬物の作用を打ち消すことなく相加的に作用した.これら非臨床試験の結果より,ミノドロン酸は,骨粗鬆症病態において骨代謝回転の亢進を抑制することにより,骨密度の減少を抑制し,骨梁構造の破綻を阻止し,骨強度の低下を抑制したと考えられ,新規の骨粗鬆症治療薬になりうることが期待された.臨床試験において,後期第II相試験の成績から,ミノドロン酸の臨床推奨用量を1日1回,1 mgと判断した.その後,国内外で汎用されている既存薬のアレンドロネートを対照とし,腰椎骨密度を主評価項目とした第III相試験,およびプラセボを対照とし,椎体骨折の発生率を主評価項目とした第III相試験を実施した.これら2つの第III相試験で,ミノドロン酸は骨密度増加効果および骨折防止効果を示した.一方,安全性については,特段の問題は認めず,安全に長期投与可能な骨粗鬆症治療薬であることが示された.今後,ミノドロン酸は,強力な骨吸収抑制作用より骨粗鬆症患者の骨折防止に寄与し,骨粗鬆症治療の選択肢を広げるものと期待される.
  • 藤井 裕, 天野 学, 芹生 卓
    2009 年 134 巻 3 号 p. 159-167
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    ジャーナル フリー
    ダサチニブ(スプリセル®錠)は慢性骨髄性白血病およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の病因となるBCR-ABLチロシンキナーゼを阻害する分子標的治療薬である.ダサチニブはBCR-ABLのみならず,SRCファミリーキナーゼ(SRC,LCK,YES,FYN),c-KIT,EPH(エフリン)A2受容体およびPDGF(血小板由来増殖因子)β受容体を強力に阻害し,ダサチニブのBCR-ABLチロシンキナーゼに対するin vitroでの阻害活性はイマチニブの260倍であった.また,イマチニブが立体構造上ABLの活性化ループが閉鎖状態にある不活性型にのみ結合するのに対し,ダサチニブはこの不活性型に加えて活性化ループが開放状態にある活性型にも結合可能である.これらの作用により,ダサチニブはイマチニブ抵抗性の白血病に対しても効果を示すものと考えられる.ダサチニブはイマチニブ治療抵抗性の主要因であるBCR-ABLキナーゼドメインの変異に対して,19種類中T315I以外の18種類の変異を有する細胞に対して細胞障害作用を有していた.ダサチニブの海外および国内臨床試験の結果,イマチニブ抵抗性または不耐容の慢性期慢性骨髄性白血病患者に対しては1回100 mg 1日1回投与で,また,イマチニブ抵抗性または不耐容の移行期または急性期慢性骨髄性白血病,並びに再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病患者に対しては1回70 mg 1日2回投与で承認された.また,非血液毒性によるイマチニブと本薬との交叉不耐容はほとんど認められなかった.今後,ダサチニブはイマチニブ抵抗性または不耐容の慢性骨髄性白血病および再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の治療に新たな選択肢を提供するチロシンキナーゼ阻害薬と考えられた.
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