日本薬理学雑誌
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129 巻, 3 号
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特集:血管病の分子機構と新たな治療戦略
  • 三宅 隆, 森下 竜一
    2007 年 129 巻 3 号 p. 158-162
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    分子生物学の進歩に伴い血管疾患の病態解明が進み病変進行に関与する遺伝子・細胞内シグナルなどをターゲットにした分子治療も考案されてきた.そのなかで核酸医薬を使った治療法の開発も行われ,多くの遺伝子制御法が研究されている.核酸医薬は目的とするDNA・mRNAの相補的な塩基配列をもつ人工的に化学合成された核酸分子で高い特異性と容易な合成法が特徴である.動物実験で有用性が報告された主なものはアンチセンスとデコイで,臨床試験に進んでいる研究もあり次世代の治療薬として期待されている.対象疾患のひとつに血行再建後の内膜肥厚による再狭窄がある.アンチセンス法では細胞周期調節遺伝子をブロックして平滑筋細胞の増殖を抑制する方法がとられ,デコイ法では多くの細胞周期遺伝子群を制御している転写因子E2Fの活性を抑制する治療法が検討された.また病変進行に重要な因子である炎症を制御する転写因子NFκBに対するデコイも良好な内膜肥厚抑制効果を報告している.しかしE2Fデコイの臨床試験では有意な治療効果が見られず,さらに複数の現象を制御するためNFκBとE2Fを同時に抑制するキメラデコイの開発が行われている.また小径の動脈瘤もデコイ療法のターゲットとなっている.動脈瘤の進展には血管壁の炎症とMMPの発現による細胞外マトリックスの破壊が重要な機序になっている.これに関与する転写因子がNFκBとetsであり,これをデコイで同時に抑制することで動脈瘤の縮小効果が見られ,MMP分泌・炎症の抑制による細胞外マトリックスの破壊停止に加え,エラスチン・コラーゲンの合成抑制を解除し細胞外マトリックスを再生する効果が確認された.このように核酸医薬は血管疾患においても新規治療法となる可能性が示されている.
  • 佐藤 靖史
    2007 年 129 巻 3 号 p. 163-166
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    血管新生は,促進因子と抑制因子のバランスによって制御されると考えられている.これまでに数多くの促進因子や抑制因子が同定されてきたが,血管新生調節の全容は未だ明らかとなっていない.特に血管新生抑制因子に関して,これまでに報告されてきた血管新生抑制因子は,主に血管内皮以外の細胞が産生され,血管新生刺激とは直接的には連動せず,血管新生のバリヤーとして作用するものが中心であった.ネガティブフィードバック調節は,生体に備わった基本的な調節機構である.我々は,血管新生促進因子の刺激を受けた血管内皮が,血管新生のネガティブフィードバック調節を担っている可能性を想定した.そこで,代表的な血管新生促進因子であるVEGFの刺激によって血管内皮に発現誘導される遺伝子の網羅的解析を行い,その中から生理活性を有する新規因子の単離・同定を試みた.その結果,血管内皮が選択的に産生し,しかも自身に対して選択的に作用して血管新生を抑制する新規因子を発見し,vasohibinと命名した.血管新生は,癌,網膜症,粥状動脈硬化などの病態と深く関わっている.そこで,それらの疾患に対するvasohibinの効果についての検討を進めているが,これまでの成績は,vasohibinが血管新生抑制因子として,それら血管新生関連疾患へ治療応用可能であることを示している.
  • 吉田 雅幸
    2007 年 129 巻 3 号 p. 167-170
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    近年,高レムナントリポタンパク血症が動脈硬化症の危険因子として注目されている.1980年代初頭より血漿中性脂肪値が独立した冠動脈疾患の危険因子であることが報告されているが,その後,中性脂肪に富むリポタンパク(TG-rich lipoprotein,TRL)の中でも腸管由来のカイロミクロンと肝臓由来のVLDLが部分的に水解されて生じるレムナントリポタンパク(RLP)が食後高脂血症の主体として動脈硬化症に重要な役割を果たすことが知られるようになった.このRLPを単離する手っs法の開発を契機に培養細胞や動物モデルにおけるRLPの炎症惹起作用が最近明らかにされ,抽出したRLPが末梢血の単球細胞に作用し,その接着現象を亢進させること,また,血管平滑筋細胞に対してはその増殖を著明に亢進させることなどを報告した.さらに,ApoB48受容体を介してマクロファージの泡沫化を促進することを解明した.また,血小板や血管内皮細胞に対する影響も報告があり,動脈硬化症の進展に関与することが示唆される.しかし,RLPはサイズ・組成等,きわめて不均一であり,どのようなサイズ,アポリポタンパク/脂質組成を持った粒子がこれらの作用を引き起こすかはまだはっきりとは分かっていない.今後はRLPに含まれる活性中心の同定とその作用機序の解明が研究の中心になると思われる.
  • 船越 公太, 江頭 健輔
    2007 年 129 巻 3 号 p. 171-176
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    我々はステント内再狭窄に炎症が重要な役割を果たしていることに注目し,単球走化因子(MCP-1)のステント内再狭窄での関わりを明らかにした.そして変異型MCP-1タンパク(7NDタンパク)の遺伝子導入はステント内新生内膜形成を有意に抑制した.我々は電着塗装の応用でポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ナノ粒子をステントにコーティングする技術を開発した.緑色蛍光タンパク(GFP)遺伝子プラスミドを封入したナノ粒子をコーティングしたステントをブタ冠動脈に留置したところ,28日後にも発現が確認された.我々は単球走化因子(MCP-1)のステント内再狭窄での関わりを明らかにし,変異型MCP-1タンパク(7NDタンパク)の遺伝子導入はステント内新生内膜形成を有意に抑制することを明らかにしてきた.次には7ND遺伝子プラスミドを封入したナノ粒子を用いた遺伝子プラスミド溶出ステントを作製し,有効性を評価する予定である.
治療薬シリーズ(13) リウマチ
  • 杉田 尚久
    2007 年 129 巻 3 号 p. 177-181
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    関節リウマチなど複雑な免疫系疾患の病因・病態の理解が深まる中で,TNFαをターゲットとする生物学的製剤の開発により,関節リウマチの症状改善に加えて関節破壊の進展を制御することも可能となってきた.生物学的製剤に関しては,TNFαなどの炎症性サイトカインをターゲットとするアプローチに加えて,B細胞表面の機能分子などを標的とする創薬展開も活発になっている.CD20分子に対する抗体リツキシマブは,B細胞除去作用により関節リウマチに対して治療効果を発揮し臨床応用されている.一方で,シグナル伝達系や病態形成のパスウェイの解明により,炎症反応にかかわる機能分子を特異的に修飾する経口投与可能な分子ターゲット医薬品の開発も進んでいる.その代表格のp38阻害薬では関節リウマチに対する臨床効果も認められており,今後,免疫難病に対する治療薬の選択肢が益々充実してくるものと期待される.
  • 竹内 勤
    2007 年 129 巻 3 号 p. 182-185
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    関節リウマチの治療は,近年大きな変貌をとげ,治療戦略そのものが塗りかえられた.優れた臨床効果を示すメトトレキサートなどの抗リウマチ薬の充実,画期的な臨床効果,関節破壊抑制効果を示す生物学的製剤の導入など,新しい薬剤がその大きな原動力となった.一方,これら薬剤の治療法の見直しも行なわれ,これらを組み合わせた治療戦略によって,従来では考えられなかったほどの素晴らしい治療効果が認められている.その背景と,新しい治療薬,治療戦略について概略する.
創薬シリーズ(1) 標的探索
  • 木下 誉富
    2007 年 129 巻 3 号 p. 186-190
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    Structure-Based Drug Design(SBDD)は,薬物を得るまでに合成すべき化合物を合理的に絞り込むことができる創薬手法であり,関連する諸技術の進歩により急速に定着してきた.具体的な手順としては,X線結晶構造解析により薬物候補化合物-標的タンパク質の結合様式を原子レベルで可視化し,その構造情報を正確に抽出して薬物設計を行っていく.著者らはアデノシンデアミナーゼのSBDD研究において,わずか2ステップで約800倍の活性を持つ阻害薬の創出に成功した.もちろんX線結晶構造解析に基づくSBDDも万能の創薬手法ではない.膜タンパク質の結晶化が困難を極めること,タンパク質の構造変化に対応できないこと,阻害薬から薬剤への過程には有効に働かないことなど問題がある.しかし,周辺の技術革新は目覚しいものがあり,万能型SBDDが完成する日がすぐそこまで来ている.
創薬シリーズ(2) リード化合物の探索
  • 上田 博嗣
    2007 年 129 巻 3 号 p. 191-195
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    温暖多湿な日本では,カビ,酵母,細菌などの多様な微生物の利用を可能にしてきた.また,古くより醸造,アミノ酸醗酵を基にした天然物醗酵研究技術の蓄積があった.これらの背景より,日本で醗酵天然物からタクロリムスやミカファンギン等の世界で使用される薬を創製することが出来た.醗酵創薬には,優秀なmedicinal chemistでさえ考えられない様な多彩な構造と強いユニークな活性を伴った化合物が得られるという魅力がある.醗酵天然物資源を拡張するとともに,醗酵天然物のスクリーニングにマッチし,対象疾患の本質を反映する適切な“High Contents Screening”を設定し,醗酵天然物の本来あるべき能力を適切に見いだす事により,画期的な創薬のタネを発見することができる.微生物産物の多様な構造と活性を最大限に引き出す最新の創薬技術と融合させることにより,醗酵創薬を医薬品創薬のひとつの柱として確立しようと現在,奮闘している.
新薬紹介総説
  • 渡辺 秀子, 矢野 誠一, 影山 明彦
    2007 年 129 巻 3 号 p. 197-207
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    吸入ブデソニドは,持続性の局所抗炎症作用および気道選択性を有し,気管支喘息の治療薬としての高い効果が期待されてきた.細胞内のブデソニドは,エステル体では不活性だが,組織リパーゼによる緩徐な加水分解を受け活性化される.この可逆的エステル化により,組織内での曝露および受容体飽和が持続し,長時間の抗炎症作用が発揮される.この特性に関して,in vitro(ヒト気管上皮細胞)において脂肪酸エステル体生成が確認され,吸入投与後のヒト切除肺組織内においてもブデソニドと共にブデソニドエステル体が実際に存在することが確認された.さらに,副腎摘出ラットの気管内注入の研究では,ブデソニドは,エステル化を受けないプロピオン酸フルチカゾンと比較して,局所抗炎症作用がより長時間持続することが示された.一方,ブデソニド吸入投与後,血漿中および末梢組織内では,エステル化がほとんど認められないことがラットの研究で示された.ブデソニドの水性懸濁液によるブデソニド吸入を用いた米国での小児気管支喘息患者を対象とした臨床試験では,12週間投与における試験成績(4試験)より,有効性および安全性が確認され,52週間投与における試験成績(4試験)より,長期の安全性が示された.本邦では,6ヵ月から5歳未満の小児気管支喘息患者を対象に第III相オープン臨床試験(試験0765)が実施され,24週間投与での有効性および安全性が確認された.さらに,本試験の投与継続試験である試験0768では,最長96週間の長期投与においても安全性に懸念を示唆する所見ならびに徴候は認められなかった.以上より,ブデソニドは気管支喘息に対して高い効果と安全性が示された.本剤の導入によって,既存のステロイド薬の吸入を効率的に行えない乳幼児患者に対して,新たな治療薬を提供する機会を得たと考える.
  • 隅野 留理子
    2007 年 129 巻 3 号 p. 209-217
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/14
    ジャーナル フリー
    インターフェロンベータ(IFNβ)-1a筋注用液状製剤(販売名:アボネックス®筋注用シリンジ30μg)は天然型ヒトIFNβとほぼ同じ構造をもつ遺伝子組換え型のインターフェロン製剤である.厚生労働省により特定疾患に指定されている多発性硬化症に対しIFNβ-1a 30 μgを週1回筋肉内投与することにより,脳MRI検査で検出される病変の新規発現,拡大を抑え,再発を抑制することが確認された.国内臨床試験において,日本人の多発性硬化症患者を対象に,IFNβ-1a 30 μgを週1回,24週間筋肉内投与し,投与前後の脳MRI検査1回当たりのガドリニウム(Gd)増強病巣数,新規Gd増強病巣数により有効性を評価した結果,病巣数は有意に減少した.また,年間再発率が61.4%,年間静注ステロイド治療回数が53.2%低下した.海外臨床試験においては,外国人の多発性硬化症患者を対象に,IFNβ-1aまたはプラセボを週1回,最長2年にわたり筋肉内投与し,身体機能障害の持続的進行開始までの期間を評価した結果,プラセボ群と比較して有意に延長した.また,Gd増強病巣容積,年間再発率,年間静注ステロイド治療回数も,プラセボ群と比較して有意に減少した.さらに,初発の脱髄症状を伴い臨床的に診断確実な多発性硬化症へ移行するリスクの高い外国人の早期多発性硬化症患者を対象に,最長3年間にわたり臨床的に診断確実な多発性硬化症発症までの期間を評価した結果,プラセボ群と比較して有意に延長した.また,他の試験結果と同様に,脳MRI検査で検出される病巣数および病巣容積も有意に減少させた.一方,IFNの臨床効果を減弱させる可能性が示唆される中和抗体の発現率は,海外で行われたIFNβ-1a長期投与試験において1~7%であった.国内で実施された臨床試験においては投与期間が24週間と短期であり,全例で中和抗体の発現は認められなかった.IFNβ-1a 30 μgの週1回筋肉内投与は,国内および海外の臨床試験において問題となるような有害事象は認められず,高い臨床的有効性と忍容性を示した.
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