日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
116 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 生垣 一郎
    2000 年 116 巻 2 号 p. 63-69
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ナフトピジルはフェニルピペラジン誘導体に属する新規のα1アドレナリン(α1)受容体遮断薬であり,前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療薬である.ナフトピジルはヒト前立腺膜標品のα1受容体への[3H]プラゾシンの結合を競合的に拮抗し,Ki値は11.6nMであった.クローニングされたヒトα1受容体サブタイプ(α1a,1b,1d)に対する親和性を調べたところ,ナフトピジルは,α1a-およびα1b-受容体サブタイプに対する親和性よりα1d-受容体サブタイプに対する親和性が約3~17倍高かった.フェニレフリン投与イヌモデルにおいて,ナフトピジルは血圧に比べて前立腺部尿道内圧に対してより高い選択性を示した.ナフトピジルの前立腺部尿道内圧に対する選択性はタムスロシンやプラゾシンよりも高かった.また無麻酔ウサギtiltingモデルにおいて,ナフトピジルはタムスロシンやプラゾシンよりもtilting時の血圧反射に及ぼす影響が小さかった,臨床試験においても,本剤は前立腺肥大症に伴う排尿障害患者の自覚症状と他覚所見に対する有効性が確認され,本邦において前立腺肥大症に伴う排尿障害治療薬として承認を取得し,臨床で使用されている.
  • 島添 隆雄
    2000 年 116 巻 2 号 p. 71-78
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    糖尿病と中枢体内時計機構,なかでも同調機能との関連性について,非インシュリン依存型糖尿病モデルOtsuka Long Evans Tokushima Fatty (OLETF)ラットおよびインシュリン依存型糖尿病モデルstreptozotocin(STZ)投与ラットを用いて検討した.明暗条件を8時間ジャンプさせたところ,行動リズムの再同調にOLETFラットの方が対照ラットに比べ有意に長い日数を要した.STZ投与ラットでも同様の傾向が認められた.また,高血糖発症前のOLETFラットでは,100luxまでの比較的弱い照度での視交叉上核内Fos発現が正常ラットに比べ有意に少なかった.高血糖発症後では,300luxという強い照度でも発現の減少が認められた.STZ投与ラットでは,投与数日で発現の減少傾向が認められ,2-3カ月後では有意に減少した.さらに,高血糖発症前のOLETFラットでは,低濃度のグルタミン酸負荷による視交叉上核自発放電リズムの位相変化も有意に小さかった.高血糖発症後になると高濃度負荷でも位相変化が有意に小さくなった.しかし,STZ投与ラットでは投与2-3カ月後でも正常ラットと同程度の位相変化が認められた.以上の結果,OLETFラットでは高血糖発症前より同調機能が低下していることが明らかになった.これは,体内時計の同調機能低下が糖尿病の発症要因の一つになる可能性を示唆するものである.また,高血糖の進行に伴って同調機能低下が一層増悪されることが推察される.一方,STZ投与ラットの同調機能については更なる検討が必要である.
  • 仙波 純一
    2000 年 116 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    SSRIの登場は,うつ病の治療だけでなく,診断や病因の探求にも大きな影響を与えている.第1にはうつ病の薬物療法に対する影響である.SSRIは副作用が少なく使いやすい抗うつ薬であるため,中核的なうつ病だけでなく,抗うつ薬の副作用のために服薬の維持が難しかった軽症のうつ病に対しても,有用であることがわかった.こうして,以前は精神療法や対症療法的な抗不安薬の適応とされた軽症のうつ病に対して,その診断や薬物療法についての知見が増加した.また,副作用による脱落の少ないSSRIは,うつ病の再燃や再発の防止にも適していることがわかり,うつ病の自然史研究の所見と合わせて,うつ病の長期経過への関心がいっそう高まった.第2にうつ病の病因研究に対する影響である.うつ病の病因として提唱されていたモノアミン仮説では,セロトニンとノルエピネフリンの機能の重要性は同じように扱われていた.しかし,SSRIがうつ病に有効となると,ノルエピネフリンのうつ病での役割は何なのだろうという疑問が生じてきている.それぞれのモノアミンに選択的に働く抗うつ薬が開発されることにより,旧来いわれていたセロトニン欠乏性うつ病やノルェピネフリン欠乏性うつ病などという概念に,新しい視点がもたらされる可能性がある.第3の影響としては,SSRIがうつ病のみならず,強迫性障害やパニック障害などの不安障害にも有効なことから,不安とセロトニンの関連にも新しい視点がもたらされたことである.
  • 千葉 茂俊
    2000 年 116 巻 2 号 p. 85-92
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    末梢血管の調整に最も濃厚に関与しているのは交感神経であることに異論はないであろう.血管周囲神経の電気刺激(PNS)によって遊離される化学伝達物質に関する研究は膨大である.現在ではノルアドレナリン(NA),ATP,ニューロペプチドY(NPY)の3物質が代表といえる.筆者らは摘出血管の潅流法(カニューレ挿入法)を用い,イヌ脾動脈標本でPNSを行うと,比較的容易に二峰性の血管収縮反応を引き起こすことを見い出した.この二峰性の反応の機序を明らかにするための薬理学的分析を進めてゆく過程で,PNSによるプリン作動性反応の性格がかなり解明された.すなわち,(1)第1峰は主にP2X受容体を介するプリン作動性であり,第2峰は主にα1受容体を介するアドレナリン作動性であること,(2)少量のテトロドトキシン(TTX)やグアネチジンは第2峰のみを選択的に抑制すること,(3)イミプラミンは第2峰のみを増強すること,(4)prejunctionalなα2受容体の遮断はNAだけでなくATP遊離も増強すること,(5)prejunctional P1(A1)受容体活性化はATPだけでなくNA遊離も抑制すること,(6)冷所保存血管はまず第1峰反応を選択的に抑制すること,(7)ωコノトキシン(ω-CTX)は両峰を共に抑制することなどである.この他に第1峰のみを誘発できる電気刺激条件を見い出し,その条件でのプリン作動性反応の作用様式についても記して,血管調節末梢神経機構に関与するプリン作動性要素の理解に役立たせたいと考えている.
  • 中川 弘, 樋浦 明夫, 久保 吉廣
    2000 年 116 巻 2 号 p. 93-100
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    予想に反して,生後2日目にカプサイシン(CAP)処理を行うと,マウスの後根のC-fiberは顕著に減少するのにかかわらず,侵害熱刺激に対する反応は正常であった.その矛盾の原因を検討するため,本研究ではCAP処理後の侵害熱刺激に対する抗NGFおよびNGFの影響を調べた.生後2日目のマウス(12匹)にCAP(50mg/kg)を背側皮下に単回投与した.CAP処理後5日目から30日間抗NGF(3μl/g/日)を背側皮下に連続投与した.同様に生後10日目のマウス(6匹)にもCAP(50mg/kg)を投与し,CAP処理後5日目から30日間NGF(3μl/g/日)を連続投与した.CAP処理後10日目からHargreaves法による熱刺激を,10日間あるいは20日間(投与後60日以降)毎に行い,後足を引き上げる時間(侵害刺激に反応するまでの時間)を測定した.CAP+抗NGF群とCAP群を比較すると,明らかに前者の方に反応時間の遅延が認められた.このことは,生後2日目にCAP処理するとC-fiberが減少するとともに,残存ニューロンから発芽が生じ,その発芽を抗NGFが抑制していることを暗示している.一方,CAP+NGF群とCAP群を比較すると,有意差はないが前者の方に反応時間の短縮が認められた.この理由は,生後10日目にCAP処理後の後角内での発芽がNGFにより増強されたためと考えられる.このように生後早期にCAP投与によるC-fiberの大量消失にかかわらず,侵害熱刺激に対して正常に反応する原因の一つとして,残存ニューロンからの発芽が何らかの役割を果たしている可能性が示唆された.しかし,抗NGFやNGFの単独の作用がデータに影響を及ぼしていることも考えられるため,発芽が原因であるということを証明するには,脊髄後角内での発芽を免疫組織化学的に検証する必要がある.
feedback
Top