日本薬理学雑誌
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128 巻 , 1 号
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特集:ストレスから精神疾患に迫る―ストレスが脳を変える―
  • 神庭 重信
    2006 年 128 巻 1 号 p. 3-7
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/29
    ジャーナル フリー
    あらゆる疾患の原因は,遺伝子と環境とで説明できる.たとえば,交通外傷は環境が,血友病のような遺伝子疾患は単一遺伝子が原因である.そしてがん・糖尿病・高血圧などの生活習慣病の発症には遺伝子と環境による同程度の寄与が推定されている.精神疾患の多くは,これら生活習慣病に類似しており,遺伝子の影響と環境の寄与がほぼ同程度であると考えられている.環境が精神疾患の発症に関与するとして,それには大きく二つの関わり方がある.一つは,精神疾患の発症脆弱性を作る環境ストレスであり,他は精神疾患の発症の誘因としてのそれである.発症脆弱性の形成に関わるストレスとして問題になるのは,幼弱期の環境である.胎児期から幼少時期,脳が発生・発達しつつあるとき,脳は環境への感受性が高く,かつ好ましい環境を強く必要とする.たとえば胎児期であれば,妊娠中の母親の受けるストレスが脳発達に影響することが知られている.また幼少時期であれば,親子関係を中心とする家庭環境の影響は極めて大きい.同じ遺伝子を共有する一卵性双生児でも,形質に違いが見られ,統合失調症や双極性障害で不一致例がみられる.これは一卵性双生児のおかれたおなじ生活環境でも,個々人のユニークな体験が重要であることを意味する.さらに言えば,発症に予防的に作用する環境もあれば,促進的に作用する環境もあるだろう.本稿前半では,環境と遺伝が精神疾患にどのように関わっているのか,その最新の知見を説明し,後半では,心理的ストレスが脳の微細構造,なかでも海馬の錐体細胞の萎縮あるいは神経新生に影響を与えることの実験的証拠を紹介する. 本特集は,万有生命科学振興国際交流財団主催のセミナーを元にしたものです.
  • 曽良 一郎, 福島 攝
    2006 年 128 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/29
    ジャーナル フリー
    注意欠陥・多動性障害(AD/HD:Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)における治療薬として使用されているアンフェタミンなどの覚せい剤の作用メカニズムについては十分に解明されていないが,覚せい剤がドパミン(DA)やノルエピネフリン(NE)などの中枢性カテコールアミンを増やすことから,ADHDへの治療効果が中枢神経系におけるカテコールアミン神経伝達を介していることは明らかである.モノアミントランスポーターは主に神経終末の細胞膜上に位置し,細胞外に放出されたモノアミンを再取り込みすることによって細胞外濃度を調節している.ドパミントランスポーター(DAT)は覚せい剤の標的分子であり,ADHDとの関連が注目されている.野生型マウスに覚せい剤であるメチルフェニデートを投与すると運動量が増加するが,多動性を有しADHDの動物モデルと考えられているDAT欠損マウスでは,メチルフェニデート投与により運動量が低下する.野生型マウスではメチルフェニデート投与後に線条体で細胞外DA量が顕著に増加するのに対して,DAT欠損マウスでは変化がなく,これに対して前頭前野皮質では,野生型マウスでもDAT欠損マウスでもメチルフェニデートによる細胞外DA量の顕著な上昇が起こった.前頭前野皮質ではDA神経終末上のDATが少ないためにDAの再取り込みの役割をNETが肩代わりしていると考えられており,メチルフェニデートは前頭前野皮質のNETに作用して再取り込みを阻害するためにDAが上昇したと考えられた.筆者らは,この前頭前野皮質におけるDAの動態が,メチルフェニデートによるDAT欠損マウスの運動量低下作用に関与しているのではないかと考えている.  1937年に米国のCharles Bradley医師が多動を示す小児にアンフェタミンが鎮静効果を持つことを観察して以来,注意欠陥・多動性障害(AD/HD:Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)におけるアンフェタミンなどの覚せい剤の中枢神経系への作用メカニズムについて数多くの研究がなされてきたが,未だ十分に解明されていない.覚せい剤がドパミン(DA)やノルエピネフリン(NE)などの中枢性カテコールアミンを増やすことから,ADHDへの治療効果が中枢神経系におけるカテコールアミン神経伝達を介していることは明らかである.健常人への覚せい剤の投与は興奮や過活動を引き起こすにもかかわらずADHD患者へは鎮静作用があることから,覚せい剤のADHDへの効果は「逆説的」と考えられている.本稿では覚せい剤の標的分子の一つであるDAトランスポーター(DAT)に関する最近の知見を解説するとともに,我々が作製したDAT欠損マウスをADHDの動物モデルとして紹介し,ADHDの病態メカニズム解明に関する近年の進展について述べる.
  • 西川 徹
    2006 年 128 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/29
    ジャーナル フリー
    統合失調症の発症に,遺伝的要因や胎生期や周産期の環境的要因によって,神経細胞や神経回路網の発達障害が生ずることが関与している可能性が注目され,ニューロン,グリアおよび神経回路・シナプス形成等の発達に重要な役割を果たす因子の変化と統合失調症の関連が検討されているが,未だ不明な点が多い.一方,統合失調症は神経変性疾患とは異なり,脳細胞の明らかな変性・脱落,炎症等を伴わないことから,未知の作動原理に従う脳内システムや病的過程の存在を念頭においた病因・病態へのアプローチが必要な可能性がある.そこで筆者らは,1)統合失調症は思春期以降に発症するが,ドパミン作動薬,NMDA型グルタミン酸受容体遮断薬等の統合失調症様異常発現薬が精神機能に及ぼす影響も発達に伴って変化し,小児期までは精神病状態を誘発しにくい,2)実験動物では,陽性症状の再燃モデルと言われる覚せい剤その他のドパミン作動薬が誘導する逆耐性現象が,一定の発達段階以降に成立し,フェンサイクリジン(PCP)をはじめとするNMDA受容体遮断薬投与後に出現する異常行動も幼若期と成熟期では明らかな差異が認められる,等の発達依存的現象に着目し,統合失調症の分子機構へのアプローチを試みている.すなわち,統合失調症の発症や再燃に関与する新たな候補遺伝子として,覚せい剤またはPCPを投与した各発達段階のラットにおいて生後発達に伴って反応性が著しく変化する脳部位で,一定の発達段階以降にこれら薬物によって発現異常が生じる遺伝子群を探索した.幼若期と成熟期を比較すると,少なくとも大脳新皮質で双方の統合失調症様異常発現薬に対する反応性に著明な差が認められることを見出した.さらに,大脳新皮質から,それぞれの薬物に発達依存的応答性を示す複数の遺伝子を検出し,構造,局在,薬理学的特性,コードタンパク等を解析することにより,統合失調症モデルにおける意義を検討した.
  • 山田 光彦, 山田 美佐, 高橋 弘, 丸山 良亮
    2006 年 128 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/29
    ジャーナル フリー
    ストレス社会と言われて久しい現代において,うつ病のもたらす社会的影響は大きく,画期的な治療薬が存在しないためうつ病治療は長期化し,低経済成長社会,高齢化社会の到来とともに大きな問題となっている.うつ病の治療には適切な薬物療法が必須である.新規抗うつ薬の開発は神経伝達物質の薬理学に基づいて行われており,これまでに一定の成果を上げている.しかし,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)を含めて我々が日常臨床で用いている抗うつ薬は50年前に偶然発見された「モノアミン仮説」の範囲を超えるものではない.また,現在臨床で利用されている抗うつ薬の有効性は実は60~70%にすぎず,新しい治療薬の開発が強く求められている.実際,抗うつ薬の臨床効果は長期間の服薬継続によって初めて生じるのであり,抗うつ薬の真の作用機序を理解するためにはこれまでの作業仮説にとらわれない新しい創薬戦略が用いられなければならない.近年,抗うつ薬長期投与により間接的に引き起こされた神経化学的変化を遺伝子転写機構の調節を伴う量的変化・タンパク質の発現変化として捉えることが可能となってきている.我々は,「真の抗うつ薬作用機序とは機能タンパク質の発現を介した脳システムの神経可塑性変化・神経回路の再構築である」という新しい作業仮説の検証を進めている.偶然の発見に頼ることのない「抗うつ薬新規ターゲット分子の探索」は我々に画期的な作業仮説を提言するものであり,将来は新しい作用機序を持つ医薬品の開発という具体的成果につながるものであると考えられる.
総説
  • 川崎 富久, 上村 俊雄, 谷口 昌要, 高崎 淳
    2006 年 128 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/29
    ジャーナル フリー
    我々は土壌細菌QS3666株が生産する新規環状デプシペプチドYM-254890が,ADP惹起ヒト血小板凝集を強く阻害することを発見した.詳細な作用機構の検討を行った結果,本剤は特異的なGq/11阻害薬であり,作用点はGq/11のGDP/GTP交換反応であることが判明した.YM-254890はADP刺激後の[Ca2+i増加,P-セレクチン発現および血小板shape changeを阻害した.また,本剤はコラーゲン,TRAP,アラキドン酸,U46689惹起血小板凝集をADPと同様に阻害したが,PMA,リストセチン,thapsigargin,A23187惹起血小板凝集を阻害しなかった.YM-254890は,高ずり応力条件下における血小板凝集やコラーゲン表層上での血小板壁血栓形成を阻害するばかりか,種々のin vivo血栓症モデルにおいても強力な抗血栓作用を発現し,血栓溶解剤との併用効果も確認された.さらに,YM-254890はマウス血管内膜肥厚モデルにおいて,血管傷害3週間後の内膜肥厚形成を抑制した.しかし,本剤はGqばかりではなくG11も阻害することから強い末梢血管拡張作用を有し,全身投与では降圧用量との安全域が狭いため,その臨床応用には慎重な用法用量の設定が必要と考えられた.そこで,ラットラウリン酸誘発下肢壊死モデルにおいて,ラウリン酸傷害後の動脈内に単回投与を行ったところ,既存薬であるPGE1やクロピドグレルより強い薬効が確認され,安全域も拡がった.YM-254890はGq/11が関与する種々の疾患の治療薬となり得る可能性が示唆された.また,本剤はGq/11のGDP/GTP交換反応を阻害するユニークな化合物であり,Gタンパク質活性化機構,Gq/11媒介性シグナル伝達あるいはGq/11の生理機能を解明する有用なバイオプローブとなることが期待される.
実験技術
  • 中西 孝子, 植田 俊彦
    2006 年 128 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/29
    ジャーナル フリー
    酸化ストレスは生体内にある不飽和脂肪酸を過酸化脂質へと変化させるとともに,糖尿病網膜症や加齢黄斑変などの原因となるため,過酸化脂質の増加が疾患の原因に関与していると考えられている.この過酸化脂質の一つであるリノール酸ハイドロパーオキサイド(LHP)をウサギ角膜実質に投与した.明らかな炎症所見が無いにもかかわらず,約2週間にわたって,輪部血管から角膜実質に血管新生が生じるモデルを作成した.経時的に摘出した角膜片中にはLHP投与後24時間までに,投与されたLHPは消失した.さらにtumor necrosis factor-alpha(TNF-α),vascular endothelial growth factor(VEGF),matrix metalloprotease-9(MMP-9)活性が6時間から12時間をピークに出現した.投与24時間後に輪部血管から新生血管の発芽が観察された.その後,新生血管はLHP投与14日後まで1日あたり0.24 mmの割合でLHP投与部位に向かって成長し,約3 mmとなった.TNF-α阻害薬,抗酸化作用を持つ漢方薬(柴苓湯)などを前投与した場合,血管新生は抑制されたことより,酸化ストレスの関与が考えられた.しかし,vitamin Eでは抑制されなかったことより,本モデルではTNF-αやVEGF,MMP-9活性だけでなく,それ以外の因子が含まれていると考えられた.
治療薬シリーズ(5) 糖尿病
  • 武内 浩二, 鈴木 伸宏, 小高 裕之
    2006 年 128 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/29
    ジャーナル フリー
    糖尿病の大部分は遺伝的素因に環境因子が加わることによって発症し,その病態は膵のインスリン分泌不全に標的組織のインスリン抵抗性が加わった状態,あるいはいずれかが特に重症化した状態として認められる.糖尿病モデル動物は,このような糖尿病の代謝内分泌異常の理解に有益な知見を提供してきたのみならず治療薬の開発にも貢献してきた.現在臨床の場で使用されている,αグルコシダーゼ阻害薬,インスリン抵抗性改善薬,速効性インスリン分泌促進薬,GLP-1誘導体などの糖尿病治療薬は,動物モデルにおいて有効性が確認され,実際臨床の場においてその薬効は証明されてきた.今後は,新規作用メカニズムをもつ薬剤の評価にふさわしい新たなモデル動物の作成,特に発生工学的手法を用いた糖尿病モデル動物の作成および血管合併症モデル動物の作成が重要になるであろう.
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