日本薬理学雑誌
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114 巻, 1 号
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  • シグマ受容体リガンドの薬理作用
    鍋島 俊隆, 村岡 勲
    1999 年 114 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    シグマ受容体は大きくシグマ1とシグマ2のサブタイプに分けることができる.最近になりシグマ1受容体が種々の種においてクローニングされた.この受容体のアミノ酸配列は種間ではよい相同性を示すが,既存の哺乳類のタンパク質とは相同性を示さないので,この受容体は,知られている他のいかなる受容体とも異なっている非常にユニークな受容体である.シグマ受容体は多彩な生理作用に係わっている.従って,シグマ受容体リガンドは,グルコースの利用,神経保護作用,抗精神病作用,抗うつ作用,抗不安作用,抗痴呆作用,抗けいれん作用,薬物依存拮抗作用,鎮咳作用,止瀉作用,抗炎症作用,涙液タンパク放出刺激作用,中枢性排尿反射抑制作用などを示す.これらの結果から,シグマ受容体は新規作用機序を持つ新薬開発のターゲットとして有望である.
  • シグマ受容体リガンドの薬理作用
    奥山 茂
    1999 年 114 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    シグマ受容体拮抗物質に関する最近の研究成果を精神分裂病治療薬との関連でまとめた.選択的シグマ1受容体拮抗物質であるNE-100はphencyclidine(PCP)誘発異常行動改善作用および認知障害改善作用を有するが,ドパミンアゴニスト誘発行動には影響を及ぼさず,カタレプシー惹起性も認められない.NE-100の作用機序はN-methyl-D-aspartate(NMDA)/PCP受容体イオンチャネル複合体の間接的な修飾作用およびドパミン作動性神経終末でドパミンの遊離調節作用が関与している可能性が示唆されている.また,最近報告された選択的シグマ1受容体拮抗物質MS-355/MS-377はNE-100と類似の薬理学的プロファイルを有するが,さらに,ドパミンD2受容体拮抗薬と同様にPCP誘発立ち上がり行動を抑制し,アポモルヒネクライミング行動およびメタンフェタミン逆耐性形成も抑制する.精神分裂病をターゲットとしたシグマ1受容体拮抗物質の臨床試験ではrimcazole,remoxipride,BMY 14802,panamesine(EMD 57445)およびSL82.0715について報告されている.Rimcazoleはオープン試験では有効であったが,ダブルブラインド試験で痙攣が誘発され,臨床試験を断念している.RemoxiprideはドパミンD2受容体拮抗薬と異なった治療効果を示したが,再生不良性貧血の副作用のため開発を断念している.BMY 14802は精神分裂病に無効であり,panamesineおよびSh82.0714は精神分裂病を対象としたオープン試験では好成績をあげている.本総説では最近のシグマ受容体拮抗物質の薬理学的プロファイルおよび精神分裂病を対象とした臨床試験成績を中心にまとめた.
  • シグマ受容体リガンドの薬理作用
    松野 聖
    1999 年 114 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    1993年に古典的シグマ受容体アゴニストの代表格である(+)-SKF-10,047に学習記憶障害改善作用が報告されて以来,新規シグマ1受容体アゴニストの創製と各種痴呆症モデルでの検討が実施され,現在ではシグマ1受容体サブタイプが学習記憶形成過程に重要な役割を果たしていることが明らかとなっている.また,その作用発現機序には脳内アセチルコリン神経系ならびに脳内ドパミン神経系が関与していることも既に証明されており,新しい作用点ならびに新しい作用発現機序を持つ抗痴呆薬候補化合物として新規シグマ1受容体アゴニストが注目されている.興味ある点は,この新規シグマ1受容体アゴニストの脳内神経賦活作用には部位特異性が存在していることであり,この部位特異性が1) 低用量での薬効発現,2) 各種健忘症モデルでの有効性,3) 副作用の軽減,4) 周辺症状の改善作用などを持ち合わせる要因になっているとも考えられ,臨床での高い有用性が期待されている.しかしながら,残念なことにシグマ受容体ファミリーのクローニング研究には進捗が無く,シグマ受容体の存在そのものに疑問が呈されており,選択的新規シグマ1受容体アゴニストが示す薬理作用も認められない傾向にある.この点を解消するためにも,1日も早くその存在を明確にする研究結果が報告されることを望むばかりである.
  • シグマ受容体リガンドの薬理作用
    亀井 淳三
    1999 年 114 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    σ受容体リガンドが強い鎮咳作用を持っており,σ受容体が中枢性非麻薬性鎮咳薬の作用に重要な役割を果している可能性が考えられている.σ受容体リガンドが抗潰瘍作用を示し,σ受容体リガンドによる抗潰瘍作用はσ受容体を介した重炭酸塩の分泌亢進作用が主な作用機序であると考えられている.σ受容体リガンドが網膜細胞に対する興奮性アミノ酸誘発細胞毒性に対する抑制作用を持つことから,σ受容体特にσ1受容体作動薬が網膜動脈の閉塞,糖尿病性網膜症,加齢性黄斑変性,網膜血色素異常,緑内障などの病態時にみられる網膜の虚血による細胞障害の治療薬になる可能性が考えられている.本稿では,これらσ受容体リガンドの鎮咳,抗潰瘍および網膜細胞に対する作用についてまとめた.
  • シグマ受容体リガンドの薬理作用
    野田 幸裕, 亀井 浩行, 鍋島 俊隆
    1999 年 114 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    近年研究が盛んに行われているシグマ受容体は,うつ病や不安神経症などのストレス関連疾患に関与していることが示唆されている.シグマ受容体アゴニストは,抗うつ薬のスクリーニングに汎用されている強制水泳試験や尾懸垂試験において無動状態を緩解し,この緩解作用は,シグマ1受容体アンタゴニストによって拮抗される.シグマ受容体アゴニストの中でもシグマ1受容体作動薬の(+)-N-アリルノルメタゾシン((+)-SKF-10,047)およびデキストロメトルファンは,抗うつ薬や抗不安薬でも治療効果の得られない治療抵抗性のうつ病モデルと考えられている恐怖条件付けストレス反応をフェニトイン感受性シグマ1受容体を刺激することによって緩解し,この緩解作用の発現には中脳辺縁系ドパミン作動性神経系の賦活化が関与していることが示唆されている.一方,シグマ受容体の内因性リガンドとしてニューロステロイドのデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)やニューロペプチドのニューロペプチドY(NPY)が注目されている.DHEA硫酸塩は,強制水泳による無動状態や恐怖条件付けストレス反応を緩解し,これらの緩解作用は,シグマ1受容体アンタゴニストによって拮抗される.また,NPYは,コンフリクト試験において抗不安作用を示し,実験動物にストレスを負荷すると血漿中のNPY含量が変化することが認められている.このように,シグマ受容体はストレス関連疾患との関連性について注目されており,シグマ受容体アゴニストは,従来の抗うつ薬や抗不安薬とは異なる新しいタイプのストレス関連疾患治療薬となりうる可能性が示唆されている.
  • シグマ受容体リガンドの薬理作用
    植田 弘師, 吉田 明
    1999 年 114 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    1976年にシグマ受容体はオピオイド受容体のファミリーに属するものとして明らかにされたが,その後分類のいきさつや生理機能が充分解明されなかった為,あまり注目されてこなかった.ところが最近,シグマ1受容体が学習記憶障害改善作用や抗うつ作用,さらには神経細胞保護作用など高次脳神経機能に関連していることが多数報告されるようになり選択的シグマ1受容体アゴニストが新しい治療薬として注目されるようになってきた.これと並行して,膜1回貫通型シグマリガンド結合タンパク質のアミノ酸配列が報告され,また一方で脳シナプス膜におけるGタンパク質連関型シグマ受容体存在の証明などを機にこれまで未知な点が多かったシグマ受容体研究が急速な発展を遂げつつある.さらに,神経ステロイドの即時型反応(non-genomic action)にこのシグマ受容体が関連することが明らかになり,様々な行動薬理,神経化学的性質をシグマ化合物と共有することが明らかになってきた.神経ステロイドの血中濃度と高次脳機能との関連が報告されはじめ,今後,シグマ受容体関連化合物が神経ステロイド機能調整薬として応用されることが期待されるであろう.
  • シグマ受容体リガンドの薬理作用
    仲田 善啓, 井上 敦子, 杉田 小与里
    1999 年 114 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    シグマ(σ)受容体は中枢神経系に存在し,ハロペリドールやコカインなどの向精神薬物がそのリガンドになりうること,精神分裂病患者で受容体数の減少および遺伝子の多型が観察されたことから,精神機能に関与していることが示唆されている.しかしσ受容体の生理的機能については未だ不明な点が多く,思索の域をでない状態であるといえる.σ受容体には2つのサブタイプ(σ1,σ2)が見い出され,σ1受容体はそのcDNAとゲノムが複数の動物種でクローニングされている.σ受容体の中枢神経系での機能を明らかにする目的で,モルモットおよびラットにハロペリドールを慢性投与し,σ受容体結合活性とσ1受容体をコードするmRNAを定量解析した.その結果,ハロペリドールは,σ1,σ2両受容体に同等の親和性を有しているにもかかわらず,慢性投与により,σ1受容体結合量は減少したが,σ2受容体結合量は変化しなかった.この結合量減少作用はモルモットにおいてラットより著しく大きく観察された.また,モルモットとラットにおいてσ1受容体mRNAはハロペリドール慢性投与により影響を受けないことが明らかになった.以上の結果より,σ1とσ2受容体はin vivoにおいて異なった機構により制御されている可能性が考えられた.また,ハロペリドールによるσ1受容体結合量の減少は受容体の遺伝子からの転写活性減少によるものではないことがわかった.さらに,モルモットとラットのσ受容体に対するハロペリドールの作用の相違から,ハロペリドール投与による臨床効果を考える上で代謝産物のσ受容体への影響を考慮すべきであることが示唆された.
  • シグマ受容体リガンドの薬理作用
    石原 熊寿, 笹 征史
    1999 年 114 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    シグマ(σ)受容体の機能を電気生理学的研究による知見を基に概説する.現在,合成されている薬物はσ受容体に対する作用様式が確立していないのでσ受容体リガンドとして記載する.中脳辺縁系ドパミン(DA)神経系において,(+)SKF10,047(N-アリルノルメタゾシン)は腹側被蓋野のDAニューロン発火を亢進する.一方,黒質のDAニューロンに対してN,N'-di(o-tolyl)guanidine(DTG)などは自発発火を抑制,逆にBMY-14802([alpha-(4-fluorophenyl)-4-(5-fluoro-2-pyrimidinyl-1-piperazine butanol])は発火を亢進するなど,全身投与したσ受容体リガンドはDAニューロンに対し,一定の効果は見られていないようである.小脳プルキンエ細胞の自発発火は局所投与されたDTGなどによって抑制される.この作用にはカテコールアミン神経系の関与が示唆されており,運動系に対するσ受容体リガンドの作用を説明するものと考えられる.海馬CA3野ニューロンのin vivo記録においてSR31742A([cis-3-(hexahydroazepin-1-yl)1-(3-chloro-4-cyclohexylphenyl) propene-1, hydrochloride])やハロペリドール(σリガンド:Hal)の全身投与によって自発発火は抑制される.海馬切片においては,(+)SKF10,047はバースト状の活動を抑制する.また,高濃度(1mM)のDTGはCA1野集合活動電位をほぼ完全に抑制する.一方,我々の研究では,新規σ受容体リガンドのOPC-24439((m-(p-chlorobenzyloxy)-N-cyclopropylmethyl-N-methylbenzylamine hydrochloride)(1-100 μM)がCA1野の集合活動電位を抑制する.in vivoで局所投与したNMDAによる単一海馬CA3野ニューロンの発火亢進に対して低用量のDTGなどの投与はHal感受性に増強作用を示すが高用量では無影響であり,用量作用関係はベル型となる.Non-NMDA受容体を介する発火には影響しない.一方,NMDA反応に無効なσ受容体リガンドもある.また,CA1野および苔状線維破壊後のCA3野においては(+)-ペンタゾシンのみが増強作用を示す.これはDTGなどが苔状線維終末に働くことを示すと思われる.σ受容体に高い親和性をもつニューロペプチドYの局所投与はCA3野におけるNMDA誘発反応をHal感受性に増強する.ニューロステロイドのデヒドロエピアンドロステロンもHal感受性にNMDA反応を増強する作用を示す.逆にプロゲステロンは増強に拮抗作用を示す.培養ニューロンのホールセル記録でのNMDA誘発内向き電流は比較的高濃度のDTGなどによって用量依存性に抑制される.しかし,Non-NMDA反応に対する抑制はわずかである.これらの結果からσ受容体リガンド(内在性物質も含む)はNMDA受容体に対し2相性の作用を持っており,σ受容体リガンドの学習・記憶調節作用および虚血時などにおける神経細胞死の保護作用との関係が示唆される.他に,海馬培養ニューロンにおいてCa2+チャネルの抑制が報告されている.また,NCB-20細胞においてはα2チャネルの抑制作用(結果として細胞の興奮)がσ受容体リガンドの作用として観察される.このようにσ受容体は精神機能やシナプスの可塑性などに関係するニューロン活動を多様に調節することが示されてきているが,なお十分な成績は得られていない.
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