日本薬理学雑誌
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79 巻, 1 号
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  • 伊東 祐之
    1982 年 79 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 1982年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    アドレナリンおよびコリン作働性神経―筋伝達の例としてそれぞれモルモット輸精管およびイヌ気管平滑筋を例にとりプロスタグランディンズ(PGs)やその生合成阻害剤であるインドメタシンの自律神経―効果器伝達に及ぼす効果をわれわれの実験結果を中心に述べ,その作用機構や薬理学的意義について検討した.低濃度のPGs(10-10~10-8M)はモルモット輸精管で記録される興奮性接合電位(e.j.p.)の大きさを著明に抑制する.このとき平滑筋細胞の膜電位,膜実効抵抗,微小接合部電位,e.j.p.のfacilitationや小さな交感神経束(5~10μm)から記録した活動電位に変化は認められない.すなわち低濃度のPGsの作用点は交感神経末端のノルアドレナリン放出機構にあり[Ca2+]0との拮抗作用によりその放出を抑制すると考えられる.しかしインドメタシンはe.j.p.の大きさを増強しないので内因性PGsが交感神経―筋伝達の負の調節因子として重要な役割を果たすとは考えにくい.一方イヌ気管平滑筋で記録されるe.j.p.の大きさは実験経過中に徐々にしかも連続的に減少するが,インドメタシンの投与によりe.j.p.の大きさの減少は停止し,一過性の増大ののち一定の大きさのe.j.p.が記録できる.このとき低濃度のPGsはe.j.p.の大きさを著明に抑制するが平滑筋細胞の膜電位,膜実効抵抗,アセチルコリン感受性に変化は見られない.インドメタシンの連続投与により約半数のイヌで自発的咳が観察され,このとき気管平滑筋では膜脱分極と徐波を伴う自発的咳が観察された.この結果はイヌ気管平滑筋に於て,内因性PGsがコリン作働性神経末端に作用し,アセチルコリンの放出を抑制し,興奮性―神経筋伝達に於て負の調節因子として重要な役割を果たしていることを示し,その生合成阻害によりヒトで観察されるアスピリン喘息様症状が引き起こされたと考えられる.このようにPGsの自律神経―効果器伝達の調節因子としての役割を種および臓器特異性を中心に考察した.
  • 松本 公一郎, 津田 健, 酒井 利孝, 坪島 正巳
    1982 年 79 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 1982年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    PGE1の誘導体である16,16-dimethyl-tráns-Δ2-PGE1 methyl ester (ONO-802)の妊娠維持,黄体機能および排卵に及ぼす影響を検討した.1)妊娠ラットにおいて,ONO-802は妊娠2日目の投与で妊卵着床を部分的に阻害したが,着床期以後の妊娠4~15日目投与では作用せず,17日目投与(2mg/kg ip.bid)で流産作用が発現し,21日目投与(10~100μg/kg ip,1時間間隔で最高5回)では強力な分娩誘発作用が認められた.PGE1はONO-802の作用と類似しており,一方PGFは妊卵着床後の流産作用と分娩誘発作用を,PGE2は妊卵着床前および着床後の流産作用と分娩誘発作用を示した.PGFおよびPGE2の流産作用は妊娠ステージの進行とともにその作用を増強した.妊娠ウサギにおいて,ONO-802は妊卵の着床阻害作用および着床後妊娠ステージの進行とともに増大する流産作用が認められた.末梢血中estradiol-17β値は増加傾向を示したが有意の変化ではなかった.progesterone値は高投与量(1mg/kg,ip,bid)で有意の減少を示したが,流産作用は必ずしも血中progesterone値の減少に依存しなかった.2)子宮摘出・偽妊娠ラットにおいて,PGF2。およびPGE2は黄体期間の短縮効果を示したが,ONO-802にはPGE1と同様そのような作用はなかった.HCG投与による偽妊娠ウサギにおいては,ONO-802は高投与量(250μg/kg,ip,tid)の5~10日間連日投与で黄体退行作用を示した.3)周期的排卵を示すラットにおいて,発情前期の14時30分および15時30分の2回ONO-802 1mg/kgを投与した時排卵阻害作用が認められた.しかし,indomethacinと異なりHCG誘発排卵を阻害しなかった.ONO-802によって阻害された排卵は,PGE2またはHCGによって回復した.
  • 小島 勝彦, 岩野 勝行, 西村 英明, 吉村 明, 奥田 博久, 鈴木 良雄
    1982 年 79 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 1982年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    guaiazulene誘導体のスクリーニング中に著明なShay潰揚の抑制作用を示したSuccinic acid mono-3-guaiazulenamide (TPH-3)について種々の実験潰瘍ならびに胃酸分泌に対する効果を検討したところ以下のような結果が得られた.1)ラットのShay潰瘍,幽門結紮-aspirin潰瘍,拘束水浸ストレス潰瘍の予防実験において,TPH-3(200mg/kg i.d.あるいはp.o.)は潰瘍指数を有意に抑制した.2)TPH-3はモルモットのhistamine潰瘍を著明に抑制し,12.5,25,50mg/kg p.o.の間で明らかな用量―反応関係が得られた.3)ラットの焼灼潰瘍ならびに拘束水浸ストレス潰瘍における治癒実験では,TPH-3は弱い治癒効果を示した.4)幽門結紮ラットの胃液分泌はTPH-3の100mg/kg i.d.で有意に抑制された.TPH-3はhistamine,pentagastrinおよびcarbacholによる胃酸分泌を有意に抑制したが,histamineによる胃酸分泌を特に強く抑制した.6)一般薬理実験で抗Ach,抗histamine H1-受容体作用は認めなかった.7)TPH-3は胃液分泌抑制作用により急性潰瘍を抑制するが,これは主としてhistamineによる胃液分泌機構のいづれかの点に作用しているものと推察される.
  • 藤井 恵美子, 塚原 富士子, 野本 照子
    1982 年 79 巻 1 号 p. 33-41
    発行日: 1982年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    ストレプトゾトシン(STZ)投与後2週における糖代謝,血中および尿中Ca,Mg,Cu量および血圧変動に及ぼす甲状腺摘除(Tx)の影響について実験した.血中および尿中Ca,Mg,Cu量に対するTxの影響はみられなかった.グリコヘモグロビン(HbA1)量はTxで増加し,Tx+STZ2週ではさらに増加した.しかし,高血糖を得るためにTx前処置ではSTZの多量を必要とし,STZによるノルエピネフリン(NOR),AChの血圧反応の抑制を,Tx前処置では正常に近づけたことから,甲状腺機能低下は,STZ糖尿の糖代謝および循環動態の一部を改善することが示唆される.
  • 和田 靖史, 江藤 義則, 大平 明良, 塚本 政巳, 中村 政記
    1982 年 79 巻 1 号 p. 43-55
    発行日: 1982年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    acemetacin (ACM)はindomethacim(IND)のcarboxymethyl esterであり,生体内でINDに代謝されることが明らかにされている.今回,ACMの抗炎症作用をINDと比較するとともに,prodrugとしての可能性について検討した.急性炎症モデルである血管透過性亢進,carrageenin,kaolinおよびnystatin足浮腫および紫外線紅斑に対し,ACMは経口投与により用量依存性の強い抑制作用を示した.さらに,慢性炎症のモデルであるpaper disk法による肉芽増殖およびadjuvant関節炎に対しても,ACMは強い抗炎症作用を示した.これらの炎症反応に対するACMの経口投与による抗炎症作用は,モル用量で比較しINDとほぼ同等であった.また,ex vivoにおける血小板凝集反応に対して,ACMは経口投与でINDに匹敵する効果を示した.ACMのcarrageenin足浮腫抑制作用は副腎摘出および連続投与によりほとんど影響されなかった.一方,ACMを炎症部位に局所投与した場合,carrageeninおよびkaolin足浮腫に対する抑制作用はINDと比較し極めて弱かった.さらにin vitroの試験において,prostaglandin生合成抑制作用およびADPによる血小板凝集に対する抑制作用も,ACMはINDの1/30~1/100の効果しか示さなかった.従って,代謝されにくい局所投与やin vitroにおけるACMの効果はINDに比較し著しく弱いことから,未変化体ACMの抗炎症作用は極めて弱いものと思われた.エステラーゼ活性の低いモルモットを用いた紫外線紅斑に対するACMの抑制作用発現は,INDと比較し明らかに遅効性であった.以上の結果から,ACMは吸収された後,生体内で活性物質(IND)に代謝され抗炎症作用を示すと考えられ,いわゆるprodrugとしての性質を有する薬剤であることが示唆された.
  • 柳浦 才三, 武田 弘志, 三澤 美和
    1982 年 79 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 1982年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    臨床上,鎮咳去痰薬として使用されているglyceryl guaiacolateの去痰作用およびその作用機序を検索する目的で,気管杯細胞,気管腺の分泌活性に及ぼす影響およびこれら分泌細胞含有糖蛋白(GP)動態に及ぼす影響について組織学的,組織化学的面から検討を行なった.体重9~13kgの雄性雑犬の摘出気管をHanks液中に於いてglyceryl guaiacolate(10-7~10-4M)で30分間処置した.その後,光顕用気管組織標本を作製し,alcian blue (pH2.5)-periodic acid schiff[AB(pH2.5)/PAS]染色,AB(pH 1.0)/PAS染色の2重染色を施した.これを150倍の顕微鏡写真にし,組織学的・組織化学的指標に従って定量的に解析を行なった.1)杯細胞に及ぼす影響:染色陽性総杯細胞数および杯細胞stain indexに何ら変化は認められなかった.2)気管腺に及ぼす影響:気管腺腺房内径および固有層の厚さに対する腺房内径の比率は,濃度に依存して有意な増加を,また,腺房の厚さは逆に減少を生じた.AB(pH2.5)/PAS染色標本に於いて,stain index Blueを呈する酸性糖蛋白(AGP)高含有気管腺腺房細胞数は著明に減少し,stain index Purpleを示すAGP低含有細胞数は相対的に増加した.stain index Redを示す中性糖蛋白(NGP)含有細胞数には変化が認められなかった.さらに,AB(pH1.0)/PAS染色標本に於いて,stain index Blueを示す硫酸化糖蛋白(SGP)高含有細胞数の減少が認められた.3)インキュベーション液中の2,3高分子成分の変化:インキュベーション液中の総糖質,蛋白質およびN-acetylhexosamine濃度は,いずれもglyceryl guaiacolateの濃度に依存して増加した.以上より,glyceryl guaiacolateは杯細胞の分泌機能に対しては何ら影響を示さないが,気管腺の分泌機能には著明な促進作用を示す.さらに,この気管腺の分泌機能促進作用は,粘液(主としてAGP)の細胞からの排出亢進に因る事が明らかとなった.また,本薬物は,分泌細胞内に含有されるGPの質には影響を及ぼさない事も示された.
  • 池田 久基
    1982 年 79 巻 1 号 p. 65-76
    発行日: 1982年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    妊娠中のphenytoin(PHT)投与が,胎仔の中枢神経系機能発達にどのような影響をおよぼすか,特に出生後の機能変化有無を検索する目的で本実験を行なった.妊娠ラットを,妊娠1~10日,妊娠14~21日,妊娠1~21日と妊娠15日目のみ投与の群に分け10,50,100あるいは200mg/kgのPHTを,対照には生理食塩水を皮下注射し,出生した第1世代仔(PHT-Fl,N-F1)についてpentobarbita1睡眠時間,diazepamによるアタキシア,haloperidolによるカタレプシー,pentetrazolによるけいれん発現につき比較検討した.その結果,pentobarbital,Pentetrazolに対する反応には全く変化をみとめず,diazepamによるアタキシアもPHT lOOmg/kg1~21日投与F1雌においてのみ持続時間の延長を認めた.しかし,9~13週において各週1回ずつテストしたhaloperidol(1mg/kg i.p.)によるカタレプシー持続時間に著明な変化を認めた.haloperidol週1回投与をくり返すとN-F1ラットにおいてもカタレプシー持続時間が次第に延長を示すようになったが,PHT50または100mg/kgを妊娠全期間あるいは前期に投与したF1群,特に雌においてはN-F1の2~3倍までも延長した.一方,妊娠後期および200mg/kgを妊娠15日目に1回投与したF1群では逆にhaloperidol-カタレプシー持続時間の延長が小あるいは全く認められなかった.PHTを妊娠全期間に投与したF1群でも10mg/kgの少量の場合,カタレプシー持続時間は短縮する傾向にあった.PHT-F1群において成長発育の異常は認められなかったが,開眼時期が有意に早まる成績を得た.以上胎仔期のPHT投与は出生後のhaloperidolに対する反応の変化をひき起こすこと,さらにPHT投与時期,投与量によってF1のhaloperidolに対する感受性が異なることが明らかとなった.これらの結果からラット胎仔期に投与されたPHTは比較的特異的にカタレプシー発現に関係あるdopaminergic neuronおよび関連neuronの発生,発達に影響をおよぼすことが示唆され,また,その変化が成熟後も残ることが明らかとなった.
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