日本薬理学雑誌
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141 巻 , 6 号
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唾液を用いた検査法の問題点と血中薬物動態測定代替法の展望
  • 脇田 慎一, 田中 喜秀, 永井 秀典
    2013 年 141 巻 6 号 p. 296-301
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/10
    ジャーナル フリー
    唾液は唾液腺から口腔内に分泌され,生体防御機能を担う生理活性成分を含むことが知られている.唾液腺の基礎研究が深まり,生体防御に関わる唾液分泌機序の解明とともに,唾液中の生理活性成分を極小量で正確に計測できる技術開発を用いることにより,生体の防御機能,すなわちストレス生体応答を可視化できる可能性がある.ストレスは,ストレス学説に基づき,脳内の神経伝達物質や血中ストレスホルモンを計測することによりストレス状態を評価できると考えられるが,特に健常者の場合,侵襲的な試料採取は非常に大きな外部ストレス刺激となり,正確なストレス評価ができない本質的な矛盾がある.代替試料として,血液成分を反映している唾液が注目されている.唾液中の生理活性成分の簡便迅速なバイオチップ開発が,唾液腺の基礎研究分野のみならずストレス負荷被験者実験などの人間工学や精神神経疾患の臨床研究分野で待望されている.ストレスに関する科学的に根拠のある生体指標として唾液ストレスマーカーが確立され,さらに,ストレスマーカーを正確に計測できるバイオチップ技術が開発されれば,精神疾患に至るかなり早期に,唾液を用いたストレス評価が精神疾患の未病マーカーとして利用されるポテンシャルを秘めている.本稿では,本研究開発の社会的背景,ストレスに関するストレス学説を概説し,現状のストレス計測評価法を俯瞰的に解説した.基礎研究,人間工学,臨床研究分野向けに,我々は,唾液中の生理活性成分である唾液ストレスマーカー候補を一滴で計測できるバイオチップ研究開発を進めている.ここでは,特徴的な研究開発例を2つ取り上げ,具体的な研究開発例の狙いと研究開発成果の一端を紹介する.
  • 石川 康子
    2013 年 141 巻 6 号 p. 302-305
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/10
    ジャーナル フリー
    唾液検査は,唾液採取が生体を傷つけない非侵襲的な方法であることや唾液中のホルモンはホルモン結合タンパク質と結合していないので血中のフリーホルモン濃度をよく反映していることの理由から,好感が持たれている検査法である.唾液中のホルモンや酵素は,免疫学的アッセイ法や酵素法により,古くからバイオマーカーとして利用されている.近年,エキソソームとして唾液中に現れたタンパク質をプロテオーム解析して,バイオマーカーとして各種の病気診断に使おうとしている.細胞膜に局在する膜輸送タンパク質もエキソソームによって唾液中に現れる.この膜輸送タンパク質が病気診断のためのバイオマーカーとなる可能性について示した.
  • 松尾 龍二, 美藤 純弘, 松島 あゆみ
    2013 年 141 巻 6 号 p. 306-309
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/10
    ジャーナル フリー
    上唾液核は顎下腺・舌下腺を支配する副交感神経系の中枢である.ラットの脳スライス標本を用いた電気生理学的実験により,上唾液核ニューロンは興奮性と抑制性のシナプス入力を受けていることが示されている.その主な受容体は興奮性がグルタミン酸受容体とムスカリン性アセチルコリン受容体,抑制性がGABA受容体とグリシン受容体である.免疫組織化学的にもこれらの受容体が検出された.一方,蛍光色素の軸索輸送を利用した組織学的検索により,上唾液核に入力する主な神経群は脳幹部の網様体,結合腕傍核,孤束核,および上位脳の視床下部外側野,扁桃体中心核,室傍核などである.これらの部位は上唾液核に直接入力すると考えられる.これらの神経核群の中で,抑制性GABAニューロンは主に脳幹部の網様体に存在し,前脳の扁桃体中心核や視床下部外側野にも検出された.これらの所見は,唾液分泌が食欲(摂食中枢としての視床下部外側野)や食の嗜好性(扁桃体中心核)を反映することを示唆している.さらに上唾液核へのコリン作動性入力の起始核として,脚橋被蓋核や背側被蓋核が上記の軸索輸送の実験で認められている.これらの部位は網様体賦活系と関連しており,覚醒やレム睡眠の維持などに重要である.精神ストレスは,食欲,情動,睡眠に影響することがよく知られており,これらの上位中枢の変化は唾液分泌にも変調を来すと考えられる.
  • 吉川 正信
    2013 年 141 巻 6 号 p. 310-313
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/10
    ジャーナル フリー
    頭頸部には,聴覚,嗅覚,味覚などの感覚器や口腔粘膜が含まれており,放射線照射による感覚器障害,粘膜炎,潰瘍,唾液腺障害などが頭頸部がん患者に苦痛を与えている.中でも唾液腺障害は,照射期間中から発症し,照射終了後も回復しないケースが多く,患者のQOL低下の一因に挙げられている.半世紀以上前にチオール基を有する含硫アミノ酸のシステインが高い放射線防護作用を示すことが発見されて以来,アミノ酸を放射線防護薬とする研究は長い歴史を持つ.しかし,アミフォスチンを代表とする放射線防護薬は,毒性,腫瘍に対する防護効果などの問題があり臨床で使われることが難しい.これまでに放射線防護薬として研究されてきたアミノ酸はすべてl-アミノ酸であった.d-メチオニンは硫黄を含む求核剤であり,明白な副作用を伴うことなく,白金含有抗がん薬治療を受けている患者に対して,抗腫瘍効果を損なわず粘膜炎,聴器毒性,腎毒性などに対して予防または軽減効果を示すことが報告されている.我々のグループはd-メチオニンが低LET放射線であるX線照射のみならず重粒子線である炭素イオン線照射後の舌粘膜上皮細胞の菲薄化および唾液腺機能障害に対して防護効果を示すことを明らかにした.d-メチオニンによる放射線照射マウスの唾液量および生存率に対する改善効果は臨床的有用性を示唆するものであった.
総説
  • 大島 光宏, 山口 洋子
    2013 年 141 巻 6 号 p. 314-320
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/10
    ジャーナル フリー
    成人の約8割が罹患しているとされる歯周病は歯肉炎と歯周炎に分けられる.歯肉炎の原因は主に細菌であり治療可能であるが,歯が抜ける歯周炎は,原因が未だ不明であり,有効な薬物治療法も確立されていないなど問題が残されている.筆者らは最近,歯肉上皮細胞と組み合わせてコラーゲンゲル三次元培養で検討した結果,重度歯周炎罹患患者の歯肉より,コラーゲンを極度に分解する「アグレッシブな線維芽細胞」を分離し,この細胞が歯周炎の原因のひとつである可能性が高いことを見出した.本稿では,この着想に至った経緯と歯周炎をコントロールできるような治療薬の探索の試みについて論述する.
  • 芳賀 達也
    2013 年 141 巻 6 号 p. 321-326
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/10
    ジャーナル フリー
    ムスカリン性アセチルコリン受容体について,その概略,最近決定されたM2サブタイプ(ムスカリンM2受容体)の立体構造,受容体の細胞内移行,創薬の対象としてのアロステリックサイト,などについて解説した.ムスカリン受容体は,ロドプシン,βアドレナリン受容体と共に,Gタンパク質共役受容体(GPCR)のモデルとしての役割を担ってきた.ムスカリンM2受容体の細胞膜貫通構造は,ロドプシンやβアドレナリン受容体のそれとよく似ており,同じような機構で働くと推測される.ムスカリン受容体の細胞内第3ループ(I3)は,特徴的に長く,フレキシブルな構造を持ち,受容体のアゴニスト依存性リン酸化・細胞内移行に寄与する.細胞外ループもムスカリン受容体に特徴的な構造をしており,アロステリックサイトを構成する.アロステリックサイトに働くリガンド,特にM1受容体特異的なPositive Allosteric Modulator(PAM)はアルツハイマー病の,M4特異的なPAMは統合失調症の薬となることが期待されている.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(3)
新薬紹介総説
  • 谷口 圭一, 角田 裕俊, 戸村 裕一, 加来 聖司, 内田 渡
    2013 年 141 巻 6 号 p. 333-337
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/10
    ジャーナル フリー
    ビキサロマー(キックリン®カプセル)はリン酸吸着ポリマーであり,透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の治療薬として本邦で使用されている.ビキサロマーはリン酸溶液を用いたin vitro試験およびブタ消化物を用いたex vivo試験においてリン酸を吸着することが確認された.正常ラットでの検討では,ビキサロマーの混餌投与により用量に応じた尿中リン排泄量の減少および糞中リン排泄量の増加が確認された.高リン血症を伴うchronic kidney disease(CKD)モデルラットにおいてはビキサロマーの混餌投与により血漿リン濃度を低下させることが確認された.以上の試験結果より,ビキサロマーは消化管内で消化物中のリン酸を吸着し,糞中に排泄することで,CKDモデル動物で生じる血漿リン濃度の上昇を抑制することが示唆された.さらに,ビキサロマーはセベラマー塩酸塩,コレスチミドに比較して水分吸収量が少なく,吸収した際の膨潤体積も小さかった.本邦で実施された臨床試験では,血清リン濃度低下作用を主要評価項目とした第III相比較試験において,既存治療薬のセベラマー塩酸塩に対する非劣性が確認され,52週間の長期試験において血清リン低下作用が持続することが確認された.安全性において,便秘や腹部膨満感などの消化器系の有害事象の頻度が同種のポリマー製剤であるセベラマー塩酸塩よりも低いことが確認された.以上,非臨床試験および臨床試験の結果から,ビキサロマーは消化管からのリン酸吸収を抑制することで,血中リン濃度低下作用を示す薬剤であることが示された.また,便秘などの消化器系副作用が少ないことが示されており,ビキサロマーの膨潤の程度が小さい特性が寄与している可能性が示唆された.
  • 鍔本 義治, 後藤 守兄
    2013 年 141 巻 6 号 p. 339-349
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/10
    ジャーナル フリー
    アナグリプチン(スイニー®錠)は(株)三和化学研究所で創製され,興和(株)と共同で開発されたジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬である.アナグリプチンは濃度依存的にDPP-4を可逆的かつ競合的に阻害し,ヒト組換えDPP-4活性を50%阻害する濃度(IC50)は3.3 nMである.また,極めて高い酵素選択性を有し,DPP-8,DPP-9等のDPP-4類縁酵素に対する阻害作用は極めて弱く,他のプロテアーゼに対する作用もほとんど認められない.ラットまたはイヌを用いた検討において,アナグリプチンの経口投与は,用量に依存した強力な血漿DPP-4活性阻害作用を示した.また,アナグリプチンは糖尿病モデルラットにおいても,血中のDPP-4を強力に阻害し,インスリン濃度を増加させ,糖負荷後の血糖上昇を抑制した.グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)分泌促進作用が知られているα-グルコシダーゼ阻害薬またはビグアナイド薬とアナグリプチンを併用投与した結果では,糖尿病モデルラットにおいて,血中活性型GLP-1濃度がさらに増加し,これらの薬剤との併用によるGLP-1作用の増強が期待された.臨床試験では,健康成人を対象とした第I相試験において,アナグリプチンの投与量依存的な血中濃度の上昇と血漿DPP-4活性阻害率の上昇が確認され,1回100 mgを1日2回投与することにより24時間にわたって血漿DPP-4活性の阻害を高率に維持できることが示された.2型糖尿病患者を対象として,アナグリプチンを1回50~200 mg,1日2回(BID),12週間投与した第II相試験では,用量依存的なHbA1cの低下が確認され,推奨されるアナグリプチンの用法・用量は100 mg BIDであることが示された.続く第II/III相試験では,アナグリプチンの1回100または200 mg,1日2回,12週間投与の有効性および安全性が再確認され,ボグリボースを有意に上回るHbA1c低下作用が示された.さらに,第III相の単独長期投与試験および経口血糖降下薬(α-グルコシダーゼ阻害薬,ビグアナイド薬,スルホニルウレア薬またはチアゾリジン薬)との併用長期投与試験では,いずれの単独または併用療法においても,アナグリプチン100 mg,1日2回投与の有効性および安全性が確認され,血糖コントロール改善効果が治療期52週まで持続することが示された.また,効果不十分な患者では,200 mg,1日2回に増量することにより,37.6%~59.7%の患者でさらなるHbA1cの低下が認められた.これまでの臨床試験において低血糖症の発現率は低く,報告された低血糖症はいずれも軽度の事象であった.また,アナグリプチン投与による重篤な副作用は認められていない.以上の結果が示すように,アナグリプチンは優れた有効性と安全性を有しており,新しい糖尿病治療薬として期待される.
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