日本薬理学雑誌
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119 巻, 4 号
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ミニ総説号「遺伝子改変動物を用いた薬理学的研究」
  • 牛首 文隆, 成宮 周
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 119 巻 4 号 p. 201-207
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    プロスタグランジン(PG)とトロンボキサン(TX)より成るプロスタノイドは,刺激に応じて局所で合成され,局所のホメオスタシスの維持や種々の病態形成に関与する生理活性脂質である.プロスタノイドの作用は,標的細胞上に存在する各々のプロスタノイドに特異的な受容体を介して発揮される.これらには,PGD2,PGE2,PGF2α,PGI2,TXA2に特異的な受容体として,各々DP,EP,FP,IP,TPが含まれる.さらに,EPにはEP1,EP2,EP3,EP4の4種類のサブタイプが存在する.従来,プロスタノイドは,炎症のメディエーターとしての役割が良く知られている.しかし,生体内でプロスタノイドが果たす役割や,それを仲介する受容体の種類については,充分には解明されていない.その原因として,通常,組織には複数種のプロスタノイド受容体が発現しており,各プロスタノイドは,特に外来性に投与された場合,それに固有の受容体以外の受容体に作用する可能性が挙げられる.また,従来各プロスタノイド受容体に特異的なリガンドとして,ごく限られた種類のアゴニスト·アンタゴニストしか開発されていないことも挙げられる.このような状況の中で,最近受容体ノックアウトマウスの解析により,プロスタノイドが果たす種々の生理的·病態生理的な役割が解析·評価されつつある.本稿では,これらの解析によって得られた,最新の知見を紹介する.
  • 山崎 浩史, 鎌滝 哲也
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 119 巻 4 号 p. 208-212
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    ヒトのがんの大部分は環境中に存在する化学物質にその原因があると考えられるようになった.発がん物質の多くは不活性な物質であり,生体内で代謝的に活性化されてその作用を発揮することが知られている.しかし,代謝過程で不安定な中間代謝物の生成が見られ,これらの活性中間体がDNA等を攻撃することにより発がん性を示すことが観察されている.この反応に関与する薬物代謝酵素の中にチトクロムP450(総称をP450,各分子種をCYP)と呼ばれる一群の酵素がある.化学物質の発がん性と関係の深い変異原性を調べるバクテリア試験菌株に,ヒトP450を導入することで,実験動物ではなく,ヒトにおける代謝を調べると同時に,反応性に富む代謝中間体のDNA損傷性を高感度に検出できる系が樹立されている.動物のin vivoにおけるがん原性の作用発現におけるP450の役割を明らかにする目的で,CYP1A2,CYP1B1およびCYP2E1遺伝子のノックアウトマウスが作出された.これらのノックアウトマウスにおいては,典型的な発がん性物質を投与してもその発がん性が極めて劇的に低減することから,哺乳動物種におけるP450の役割がin vivoにおいて明らかとなった.ヒトのP450を実験動物に発現させた世界最初の例はヒト胎児に特異的に発現しているCYP3A7である.ヒト胎児に特異的に発現するP450であるCYP3A7を導入したトランスジェニックマウスは,ヒトの胎児に対する発がん性物質などの毒性の一部を推測するための強力な遺伝子改変動物となることが期待された.肝外臓器において,遺伝子改変の結果発現したCYP3A7は発がん性アフラトキシンを代謝的に活性化した.しかし,肝においては,マウス固有のCYP3A酵素の影響を受け,その役割は必ずしも明らかにすることはできなかった.P450の比較的ゆるやかな基質特異性を考慮し,宿主の対応するP450をノックアウトして,ヒトP450遺伝子を導入すると,優れたヒト型の遺伝子改変動物を用いた薬理学的研究のツールとなるであろう.
  • 野田 幸裕, 鍋島 俊隆
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 119 巻 4 号 p. 213-217
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    近年,種々の神経精神疾患の病態を薬理学的に解明しようとする研究は,遺伝子のクローニングやノックアウト等の遺伝子工学や分子生物学的手法の導入によって飛躍的に進歩してきた.例えば,遺伝子変異マウスを用いた行動薬理学的研究,培養細胞や摘出標本などを用いた分子生物学的研究および神経化学的研究から学習·記憶や薬物依存の形成には,細胞内シグナル伝達の活性化および神経遺伝子発現の調節が重要であることが見出されている.我々は,脳内カテコールアミンの合成能を遺伝的に障害し,ドパミンおよびノルアドレナリン作動性神経機能を低下させたtyrosine hydroxylase(TH)遺伝子変異マウスの潜在学習能力を調べたところ,野生型マウスに比べ潜在学習能力は低下していたが,他の空間認知記憶能には差はなかった.また,TH遺伝子変異マウスは,モルヒネ依存を形成しなかった.この変異マウスの脳内cyclic AMP(cAMP)含量は,野生型マウスに比べ有意に減少していたことから,脳内カテコールアミン作動性神経系の機能低下による細胞内情報伝達系の低下が,潜在学習障害やモルヒネ依存の発現に関与していることが示唆された.そこで,cAMP response element(CRE)の共役因子のCRE結合タンパク(CREB)結合タンパク(CBP)遺伝子を改変させたマウス(CBP遺伝子変異マウス)を用いてcAMPから核内のCREB,CREおよび標的遺伝子の転写へと続く一連のカスケードが潜在学習やモルヒネ依存にどのように関与しているかを検討した.この変異マウスにおいても潜在学習能力は低下しており,モルヒネ依存は形成されなかった.以上の知見から潜在学習およびモルヒネ依存の形成には脳内カテコールアミンおよびcAMPが関与する情報伝達系が重要な役割を果たしていることが示唆された.
  • 市川 幸司, 野田 哲生, 古市 泰宏
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 119 巻 4 号 p. 219-226
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    筆者らは,ヒト早老化症状の原因となる遺伝子の研究を行い,その結果,ウエルナー症候群やロスムンド·トムソン症候群というヒト遺伝性早老症ではDNAヘリカーゼをコードする単一遺伝子の欠損が原因であることを明らかにしてきた.これらの早老症では,ゲノムの不安定化が組織·臓器特異的に起こり,そのために若年であってもいわゆる老化徴候とみられる症状を表わす.こと老化に関しては,種を越えて論じることは難しいことを意識しつつも,我々は早老症実験動物を得る目的で,ヘリカーゼ遺伝子をノックアウトしたマウスを作る努力を続けて来た.本稿では,ウエルナー症候群やロスムンド·トムソン症候群の原因となるDNAヘリカーゼ2種に関する遺伝子改変マウス作製への我々の試みについて述べるとともに,同様にDNAヘリカーゼが原因であり,ゲノムの不安定化を伴うブルーム症候群の遺伝子改変マウスについても紹介する.
  • 徳冨 芳子, 鳥橋 茂子, 徳冨 直史, 西 勝英
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 119 巻 4 号 p. 227-234
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    消化管律動性収縮の起源として,神経と平滑筋細胞の間に介在するCajal間質細胞(ICC)が関与することが,従来から指摘されていた.我々は,レセプター型チロシンキナーゼをコードするc-kit遺伝子の機能を調べる過程で,c-kit 遺伝子座(W )ミュータントマウスおよびc-Kit中和抗体投与BALB/cマウスの消化管におけるc-kit 発現細胞の著しい減少と自動運動能の低下を見い出した.また,ICCがc-kit 遺伝子を発現していること,そしてICCのネットワーク構造の発達と維持にc-Kitタンパクが重要な役割を果たしていることも明らかにした.このc-KitをICCの特異的なマーカーとして用いることにより,ICCが,律動的な電気的slow waveの発生源(ペースメーカー細胞)として,また,神経から平滑筋細胞へのシグナル伝達のメディエーターとして機能していることが分かってきた.ICCは間葉系細胞に由来し,前駆細胞からの分化もc-Kitに依存することが示されている.ICCは分布する組織層によって分類され,それぞれのサブタイプで平滑筋細胞,或いは線維芽細胞様の微細構造を呈している.c-Kitタンパク(レセプター)のリガンドであるSl 因子は,消化管において神経細胞と平滑筋細胞に発現しており,Sl 遺伝子座ミュータントマウスや,W 或いはSl 遺伝子座にlacZ を導入したトランスジェニックマウスなどを用いた解析からも,c-Kit/Sl 因子がICCの分化·増殖に関与すること,即ち消化管律動性収縮の“key molecule”であることが示唆されている.本稿では,これらの知見に加えて,c-Kit/Sl 因子の関与が示唆されている消化管運動性疾患の病態生理学についても紹介する.
総説
  • 籾山 俊彦
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 4 号 p. 235-240
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    中枢神経系の興奮性および抑制性シナプス伝達は,シナプス前終末に存在する複数種のカルシウムチャネルサブタイプによって制御されている.幼若ラット脳および脊髄のスライス標本にN型およびP/Q型カルシウムチャネルに選択的なブロッカーを投与し,シナプス電流あるいはシナプス電位に対する効果を解析することにより,これまでに海馬,小脳,脊髄,脳幹,線条体等におけるシナプス伝達に対するN型,P/Q型,その他のカルシウムチャネルサブタイプの関与の程度が定量化されている.また,ドパミン等の修飾物質のシナプス前受容体活性化により,シナプス前終末へのカルシウム流入が遮断されて,その結果グルタミン酸やGABAの遊離が抑制される,という機構がいくつかの中枢シナプスで報告されており,特に,線条体ではシナプス前D2型受容体とN型チャネルとの選択的な共役が最近明らかとなった.さらに,いくつかの中枢シナプスでは生後週2-3週までに,シナプス伝達に対するN型チャネルの関与が消失することが明らかになっている.今後は,シナプス前終末におけるカルシウムチャネル各サブタイプと生理活性物質受容体および伝達物質遊離部位との位置関係,受容体活性化によるこれらの機能分子の動態,生後発達変化を形態学的にも捉えることが望まれる.
実験技術
  • 兼松 隆, 平田 雅人
    原稿種別: 実験技術
    2002 年 119 巻 4 号 p. 241-246
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    ポストシーケンス時代の到来にともない,膨大な機能の分からないタンパク質が出現することは,容易に想像がつく.また,機能の分かったタンパク質においても,新たな機能の解明の必要性が生じることもあろう.現在,機能の分からないタンパク質の機能予測をする場合,そのタンパク質が結合する分子を見つけだして,それを手がかりに機能予測をするという手法がよくとられる.本稿では,タンパク質相互作用分子の検索法から両者の相互作用解析法までを順を追って紹介する.実験技術として目新しいものではないが,タンパク質間相互作用解析のアプローチとそれぞれの解析法の利点や問題点等も含めて解説する.さらに,このアプローチを用いて,我々は新規イノシトール1,4,5-三リン酸結合タンパク質(PRIP-1)がプロテインホスファターゼ1情報伝達系とGABAA受容体情報伝達系に関わることを明らかにしたので合わせて紹介する.
新薬紹介総説
  • 村田 陽介, 杉本 収
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 119 巻 4 号 p. 247-258
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    気管支喘息は現在,気道の慢性炎症性疾患としてとらえられており,その病態発現における種々のケミカルメディエーターの関与が明らかになっている.これらのうち,特にペプチドロイコトリエンであるLTC4,LTD4およびLTE4は気道の平滑筋収縮作用や起炎作用を有し,喘息に対して病態生理学的な役割を果たしていることが明らかにされている.ザフィルルカストはこれらのペプチドロイコトリエンとCysLT1受容体上で競合的に拮抗する気管支喘息長期管理薬である.ザフィルルカストはモルモットおよびヒト肺由来の細胞膜標品において[3H]LTD4および[3H]LTE4の細胞膜に対する特異的結合を強力に阻害し,摘出モルモット気管および肺実質,ならびに摘出ヒト気管支のペプチドロイコトリエンにより誘発される収縮を抑制した.さらにLTD4により誘起されるモルモットの血管透過性亢進を強力に抑制した.In vivo試験系では,モルモットを用いた試験でLTD4により誘起される呼吸困難を用量依存的に抑制し,LTD4および卵白アルブミンにより誘起または惹起される肺機能低下に対して予防および改善作用を示した.また,LTD4により誘起される気道組織中への好酸球浸潤および気管支浮腫に対して抑制効果を示した.一方,自然感作されてブタ回虫抗原に対してアレルギー反応を呈するヒツジでは,ブタ回虫抗原に惹起される即時型および遅発型気道収縮,ならびに気道過敏性亢進に対して抑制作用を示した.臨床薬理試験においては,本薬はLTD4あるいはアレルゲン吸入による気道収縮,ならびに運動誘発による呼吸機能の低下を抑制し,また,メサコリンに対する気道過敏性の発現を阻止した.さらに,成人気管支喘息患者を用いた臨床試験でも本薬の優れた有効性が確認された.以上のように,本薬は気管支喘息の治療に有効であり,その効果はペプチドロイコトリエン拮抗作用によるものであることが示された.
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