日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
119 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
ミニ総説号「NOの病態生理-創薬への展開-」
  • 中木 敏夫, 菱川 慶一
    2002 年 119 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/10
    ジャーナル フリー
    L-アルギニン(L-Arg)が尿素回路を構成するアミノ酸であることは古くから知られていたが,今日のように注目を集めるようになったのはNO合成酵素の基質であることが明らかになったからである.NO合成酵素には3種類のアイソザイムがある.3種類のNOSは細胞内L-Arg濃度により,理論的にはすでに十分な基質濃度に達している.L-Argを増やしても活性は最大でもわずかに1%増加するのみであり,差がある反応として認知できる量のNOが新たに産生されるとは考えられない.それにもかかわらず,新たに外部からL-Argを追加するとNOの産生量が増加し,NOによる生体反応が惹起される.この現象をアルギニンパラドックスと呼ぶ.アルギニンパラドックスの説明は,未だ十分とは言えないが,これまでいくつか提唱され,次のことが考えられている.L-Argにより分泌するインスリンの作用がパラドックスを説明する一部であるとする考え方がある.細胞外L-Argが長期間低濃度に押さえられると,細胞内のL-Arg産生のみではたとえKm値よりも高濃度であってもNO産生を維持するには不十分である.細胞内L-Arg自身よりも,細胞外のL-Argが輸送体に運ばれてきた時にeNOSの基質となるという考え方がある.内因性拮抗物質(ジメチルアルギニン,シトルリン,アグマチン)が増加すると,より高濃度のL-Argを必要とする.神経細胞内のL-Arg濃度は細胞外L-Argへの依存度が高く,細胞外のL-Arg添加により多くの場合NO産生の増加を来すが,シトルリン濃度とL-Arg濃度の比がnNOSによるNO産生量を決める,などである.
  • 赤池 昭紀, 香月 博志, 久米 利明
    2002 年 119 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/10
    ジャーナル フリー
    グルタミン酸神経毒性はパーキンソン病,アルツハイマー病などの中枢神経変性疾患および脳虚血に伴うニューロン死の危険因子の一つであり,一酸化窒素(NO)はグルタミン酸神経毒性のメディエーターとして重要な役割を果たしている.グルタミン酸―NO系により誘発されるニューロン死は種々の内在因子による制御を受けることが報告されてきた.筆者らはパーキンソン病における中脳黒質ドパミンニューロン死に注目し,ラット胎仔由来中脳ドパミンニューロンにおいて,エストラジオールが細胞内活性酸素を減少することによりNOを介するグルタミン酸神経毒性を抑制することを示した.NOおよびグルタミン酸神経毒性を制御する新規内在性因子を探索する目的で培養線条体細胞条件培地に含まれる神経保護活性物質の精製·単離を試みたところ,その保護活性成分はエーテルにより抽出される低分子量疎水性化合物であり,培養線条体培地に添加されている牛胎仔(FCS)にも含量は少ないものの同様の活性物質が含まれていることを見出した.原料の入手が容易なことからFCSの神経保護活性に注目して研究を続けた結果,側鎖部分にmethylsulfoxideをもつ環状ジテルペンの新規化合物の単離に成功した.ついで,黒質線条体切片におけるドパミンニューロン死を制御する因子の解析を行った.中脳黒質と線条体の共培養下でドパミンニューロンが線条体に線維を投射すると,ドパミンニューロンのグルタミン酸神経毒性に対する抵抗性が増大した.この変化には中脳切片における活性酸素の除去能の亢進が関与することを見出した.以上の結果は,細胞内活性酸素レベルを制御する内在性因子がNOの関与するニューロン死に対する防御機構として重要な役割を果たすことを示唆する.
  • 安屋敷 和秀, 戸田 昇, 岡村 富夫
    2002 年 119 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/10
    ジャーナル フリー
    多くの臓器機能がノルアドレナリン作動性神経とコリン作動性神経による拮抗的二重支配によって生理的調節を受けている.しかし,陰茎海綿体を含む血管系においては,収縮神経であるノルアドレナリン作動性神経に拮抗的支配を行っているのはコリン作動性神経ではなく,非アドレナリン性,非コリン性(NANC)神経と考えられてきた.陰茎海綿体を支配するNANC神経が一酸化窒素(NO)作動性神経であり,同神経の興奮により活性化した神経型NO合成酵素が,NOを合成する.同神経から遊離されたNOが海綿体平滑筋細胞内の可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し,上昇したサイクリック(c)GMPにより海綿体平滑筋は拡張し,流入した血液の充満により勃起が生じる.海綿体内の血液量を調節する海綿体動静脈にもNO作動性神経が分布し,その機能の強さが海綿体>動脈>>静脈であることも勃起の発生に役立つかもしれない.したがって,海綿体洞への血液流入を妨げる動脈閉塞や海綿体や支配動脈を拡張するNO作動性神経機能の低下は,勃起障害(Erectile Dysfunction: ED)の原因となりうる.ただし,海綿体および血管内皮に存在する内皮型NO合成酵素によって合成されるNOも,勃起機能に一部関与する可能性がある.選択的ホスホジエステラーゼ5型(PDE-V)阻害薬であるバイアグラ(Sildenafil)は,主として神経由来のNOにより産生されたcGMPの分解を抑制し,EDを改善する効果があると考えられる.勃起機能の体系的な研究を通して,より選択的で安全なED治療薬の開発が望まれる.
  • 増田 均, 東 洋
    2002 年 119 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/10
    ジャーナル フリー
    L-NMMAとADMAは,生体内で産生されるNOS阻害物質であり,循環器疾患のみならず同領域以外の疾病の発症·進展過程において重要な役割を演じている.タンパク質を構成するアルギニン残基のguanidino窒素がPRMTとSAMとによってメチル化された後,タンパク分解に伴ってL-NMMA,ADMAおよびSDMAが遊離される.L-NMMAとADMAのみがNOS阻害活性を有し,全てのNOSアイソフォームを阻害する.L-NMMAとADMAはDDAHによってL-citrullineとmethylamine(dimethylamine)とに代謝される.NOSとDDAHとが同一細胞内に共発現していること,また,DDAHの抑制剤によって細胞内にADMAが蓄積しNO産生が抑制される結果,内皮依存性の血管収縮反応が惹起される.DDAHが組織においてADMA濃度を調節していることを示唆する.System y+を介する輸送の亢進も細胞内L-NMMAとADMA濃度調節機構として重要である.酸化LDLやサイトカインによるPRMT発現亢進やDDAH活性低下もADMA増加の一因をなす.高コレステロール血症,鬱血性心不全,動脈硬化,腎不全,高血圧,血栓性末梢血管障害,妊娠中毒症,精神分裂病や多発性硬化症などの患者血漿中にはADMAのみ高濃度に検出されている.一方,内皮損傷後の再生内皮細胞においてL-NMMAとADMAはともに著しく増加する.また,糖尿病による動脈硬化の増悪や虚血後の尿道弛緩不全の際に内皮細胞または尿道組織のL-NMMAとADMAはともに増加する.NOSは細胞内に局在しており,血漿中ADMA濃度の上昇が,NOS活性抑制に直接関係しているか否かについては注意を払うべきである.L-NMMAとADMAは,単にNO産生の抑制にとどまらず,活性酸素を過剰に産生し,内皮機能を低下させることも知られている.
実験技術
  • ―拡張型心筋症の遺伝子治療―
    河田 登美枝, 仲澤 幹雄, 豊岡 照彦
    2002 年 119 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/10
    ジャーナル フリー
    難治性の心不全や突然死を来たす特発性拡張型心筋症は約20%が先天性と推定されている.現在,積極的な治療法は心臓移植に限られるため,特に小児では遺伝子治療が有望視されている.ヒト拡張型心筋症と酷似した病態を示すTO-2ハムスターはモデル動物として有用であり,細胞膜の安定性を保つdystrophin(Dys)関連タンパク複合体(Dys-Related Proteins: DRP)の中のδ-sarcoglycan(SG)遺伝子および全SGタンパクが欠損している事を我々は確定した.同じδ-SG遺伝子変異によりヒトでも家族性拡張型心筋症を起こすことが知られている.TO-2の心筋細胞に欠損遺伝子を生体内で強制発現させる遺伝子療法を計画し,その方法を検討した.レポーター遺伝子の発現確認法として組織化学染色よりも免疫組織学的染色の方が感度および特異性の両面で優れていることを示した.組換えアデノ随伴ウィルスベクターに正常δ-SG遺伝子をCMVプロモーターの下流に組み込み,心筋症ハムスター(5週令)の心筋に開胸手術して導入する.導入10および20週後にδ-SG遺伝子の転写産物が発現し,心筋細胞に全SGタンパクの発現が認められた.心筋細胞の萎縮も改善し,心筋障害は認められなかった.さらに心血行動態観察より両心の拡張機能および鬱血状態が明らかに改善した.従って組換えアデノ随伴ウィルスベクターを用いたδ-SG遺伝子補充療法は,心筋症治療にきわめて有効であり,この方法は現在積極的な治療法のない変性疾患の治療にも応用が期待される.
新薬開発状況
  • 平山 良孝, 茅切 浩
    2002 年 119 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/10
    ジャーナル フリー
    カリクレイン-キニン系は循環調節,炎症·アレルギー,痛み,ショック等において多くの生理的,病態生理的役割を果たしていると考えられている.キニンの受容体にはこれまでにB1およびB2の2種類が知られており,ブラジキニン(BK)をはじめとしたキニンはそれらの受容体を介して作用を示す.B2受容体は多くの組織において恒常的に発現されており,キニンの大部分の生理学的活性を媒介していると考えられている.一方,B1受容体は炎症反応や組織傷害等により発現が誘導され,炎症反応の維持やそれに伴う痛みに関与していることが示唆されている.B2受容体に対する拮抗薬の研究はBKのペプチドアナログから始まり,最近では非ペプチド性拮抗薬に主流は移っているが,臨床試験結果が開示されているのはペプチド性拮抗薬NPC567,CP-0127とHOE-140の3剤である.これらの薬剤は,鼻炎,気管支喘息,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)·敗血症,外傷性脳傷害等で評価され,ある程度BKの関与について示唆する役割を果たしたが,いずれも治療薬として期待されたほどの作用を示したとは言えなかった.また,いずれの試験についても,拮抗薬としての効力や試験時の投与用量·用法に関してB2受容体拮抗薬の力量を充分に判断できる試験であったかどうか,疑問が残されている.今後は新しく見出された拮抗薬を中心に,これら既存の適応症に対する有効性に関して結論が出されるとともに,これまでに試されてこなかった適応症に対しても可能性を確かめられることが望まれる.B1受容体拮抗薬については未だに臨床評価されたものはないが,ペプチドタイプ拮抗薬やB1受容体遺伝子KOマウスでの検討によりその役割が明らかにされつつあり,今後のさらなる研究の進展が期待される.
feedback
Top