日本薬理学雑誌
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148 巻, 1 号
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特集 国際化に対応した薬理学におけるレギュラトリーサイエンス
  • 塚本 桂
    2016 年 148 巻 1 号 p. 4-8
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    社会は,最新の科学知見と技術を取り入れ,有効かつ安全な,未だ満たされない医療ニーズにも対応した革新的な医薬品の開発を求めているが,このような医薬品開発は開発期間の長期化とコストの増大に逼迫しており,効率化と成功確率の向上が喫緊の課題である.医薬品開発におけるレギュラトリーサイエンスは,医薬品のベネフィットとリスクを,関係するあらゆるステークホルダーが適切に判断,検証,予測するための学問である.医薬品開発過程で行われる判断の基準は,様々な要因によって変化するため,変化に遂次対応し,また,変化を予測して対応せねば,効率化と成功確率の向上は望めない.医薬品開発に関わる者が,レギュラトリーサイエンスという同じ土俵を共有することにより,異分野間の翻訳が可能となり科学的合意が形成されると考える.薬理学は,薬物治療に関連する様々な学問分野・研究領域を総合的に研究し,多角的な視野に基づいて,応用のための基盤を確立する科学である.現在の薬理学は,研究領域が細分化され高度に専門化されているが,研究成果を社会に医薬品という形で適応させるためには,総合的に有効性と安全性を評価する観点も求められる.すなわち,医薬品開発には全体を俯瞰する戦略が重要であり,そのためには薬理学者も,より実践的なレギュラトリーサイエンスを理解しておくことが有益である.この理解が深まれば,多領域を総合的に研究する共通性を有する薬理学とレギュラトリーサイエンスのシナジー効果と協働により,医薬品開発の各過程が円滑に橋渡しされ,効率的かつ確度の高い医薬品の創出が可能となるであろう.両学術分野の連携は,革新的医薬品の研究・開発を通じて,社会に大きく貢献することが期待される.

  • 細木 るみこ
    2016 年 148 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    基礎研究から得られた有望なシーズを迅速に実用化するためには,レギュラトリーサイエンスを推進することが必要である.独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は,欧米やアジアと連携した国際共同治験の推進,世界に先駆けた革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品の実用化促進のための支援,レギュラトリーサイエンス・国際化等の推進を目標(平成26~30年度)に掲げており,レギュラトリーサイエンス研究の実施,レギュラトリーサイエンス研究に精通した人材の育成等を行っている.そこで,レギュラトリーサイエンス研究の実施状況,アカデミア等との交流・連携を通じた人材育成状況など,PMDAにおけるレギュラトリーサイエンス推進の取り組みの現状について紹介し,産官学が連携することの重要性について述べる.

  • 宇山 佳明
    2016 年 148 巻 1 号 p. 14-17
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    近年,国際共同治験の増加に伴い,医薬品承認審査で評価する臨床データの多くは,日本人ではなく外国人データとなり,これらのデータに基づき日本人におけるベネフィットリスクをどのように評価することが適切であるのかは,レギュラトリーサイエンスにおける主要な検討課題の一つとなっている.また同様に,世界同時承認が現実化する中で,海外でもまだ十分な安全性情報が集積されていない新規医薬品について,迅速かつ適切に安全性を評価する仕組みづくりも重要な課題となっている.本稿では,医薬品開発の国際化が進む中で,医薬品の有効性及び安全性を適切に確保するために,レギュラトリーサイエンスの観点から現状と課題をご紹介し,今後の方向性について私見を述べることとしたい.

  • 頭金 正博
    2016 年 148 巻 1 号 p. 18-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    医薬品の有効性や安全性には,民族差がみられる場合があり,グローバルな多地域で新薬開発を進めるためには,医薬品の応答性における民族差に留意する必要がある.そこで,有効性と安全性の民族差の評価においてレギュラトリーサインス研究が必要になる.具体的には,薬物動態をはじめとして,効果や副作用における民族差がどの程度あるのか,また民族差が生じる要因は何か等の課題をレギュラトリーサインス研究によって明らかにすることがグローバル開発では必須になる.グローバル開発戦略に関しては,日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)E5ガイドラインが公表されて以来,ブリッジング戦略が2002年頃までは多く用いられた.一方,ブリッジング戦略は,諸外国で開発が先行することを前提とした開発戦略であり,ドラッグ・ラグの問題が提起されるようになり,最近では,同じプロトコールを用いて複数の地域(民族)を対象にした臨床研究を同時に実施する,いわゆる国際共同治験が行われるようになった.近年の薬物動態での民族差に関する研究の進展により,遺伝子多型等の民族差が生じる要因が解明される例も多くみられるようになった.一方,有効性や安全性に関する民族差については,民族差が生じる詳細な機構は不明であるが,抗凝固薬の例にみられるように,定量的に民族差を評価することが可能になった.また,最近は有効性や安全性を反映するバイオマーカーに関する研究も進展しているが,バイオマーカーにも民族差がみられる可能性もあり,留意する必要がある.今後は,これらの知見を基にして効率的なグローバルでの医薬品開発の促進が期待される.

特集 中枢-末梢臓器間連関機構を介する生体機能の制御と破綻
  • 平子 哲史, 和田 亘弘, 影山 晴秋, 竹ノ谷 文子, 井上 修二, 塩田 清二
    2016 年 148 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    ガラニン様ペプチド(galanin-like peptide:GALP)は,60アミノ酸残基からなり,種差を越えて高いホモロジーを有することが特徴である.免疫組織化学的手法によりGALPはレプチンの作用を受けるとともに視床下部内で複数の摂食調節ニューロンとニューロンネットワークを形成することが明らかになっている.また,最近の研究で,摂食調節作用に加え,中枢性の抗肥満作用を有していることが明らかとなった.さらに,我々はGALPを脳室内に投与するとその直後に呼吸商が低下することを見出した.これは脂質代謝が亢進していることを示唆する結果であり,GALPの新しい生理作用として注目した.本稿では,GALPの摂食・エネルギー代謝調節について,特に,自律神経系を介した末梢組織での脂質代謝調節機構について我々の研究結果について概説する.

  • 山田 哲也
    2016 年 148 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    体重の調節メカニズムは,摂食とエネルギー消費の調節に集約されるが,近年,エネルギー消費における褐色脂肪組織(brown adipose tissue:BAT)の働きが注目されている.BATは脱共役タンパク質(uncoupling protein-1:UCP-1)の発現に特徴づけられ,熱産生に特化した組織である.BATが担っている熱産生の内で食事誘発性熱産生は,食物摂取に呼応するエネルギー消費調節の仕組みと捉えることができるため,個体レベルのエネルギー代謝調節メカニズムの一つと考えられる.本稿では,BATの食事誘発性熱産生を調節する臓器間神経ネットワークに焦点を絞り,体重調節のメカニズムとその意義について考察する.

  • 原田 慎一, 徳山 尚吾
    2016 年 148 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    脳卒中は,我が国における主な死因の一つであるが,有効な治療法が少ない.近年,遺伝子組み換え型組織プラスミノーゲンアクチベータの保険適用が拡大され,発症後3時間以内から4.5時間以内にまで治療可能時間が延長されたものの,充分とは言い難い.すなわち,効率の良い治療戦略の確立が求められている.糖尿病または高血糖状態は,脳卒中に対する重要な危険因子の一つであるが,糖尿病の既往歴のない人でも,脳卒中発症後に高血糖を呈し,それをインスリンで制御することによって死亡率が抑制されるとの臨床報告がなされている.我々は,脳虚血ストレス動物において,肝臓におけるインスリン感受性の低下が一過性の耐糖能異常(虚血後高血糖)を誘発し,神経障害を悪化させることを明らかにしてきた.近年,糖代謝制御は,肝臓を含む個々の末梢臓器における制御のみではなく,視床下部を介した中枢末梢臓器間連関による神経支配を受けることが注目されている.我々は,神経ペプチドであるorexin-Aを視床下部内に局所投与することで,延髄から肝臓に投射している迷走神経の活性化を介して,肝臓におけるインスリンシグナル系を賦活化させ,脳虚血性耐糖能異常による神経障害の増悪を抑制することを見出してきた.本総説では,これまでに著者らが得た知見を概説する.本総説を通し,中枢-末梢臓器間連関の概念を取り入れた全身性の糖代謝調節機能の制御が脳卒中治療において肝要であることを提唱する.

新薬紹介総説
  • 森本 宏, 菊川 義宣, 村上 尚史
    2016 年 148 巻 1 号 p. 39-45
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    尋常性痤瘡は,思春期の男女の顔面,胸部,背部に好発する面皰を初発疹とする慢性炎症性疾患である.尋常性痤瘡の病因は,脂腺性毛包での毛包漏斗部の角化異常に伴う閉塞およびPropionibacterium acnesP. acnes)などの細菌増殖による炎症惹起を含め,多因子が絡み合って発症する疾患とされる.また,表在性皮膚感染症である毛包炎や毛瘡は,毛包にStaphylococcus aureusS. aureus)またはStaphylococcus epidermidisS. epidermidis)が感染し,紅色丘疹や膿疱を呈する.オゼノキサシンは,キノロン系抗菌化合物であり,細菌のデオキシリボ核酸(DNA)複製に関与するDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼⅣを阻害して抗菌作用を発揮し,幅広い抗菌スペクトルと強い抗菌作用を示す.尋常性痤瘡患者を対象とした国内臨床試験において,2%オゼノキサシンローションを1日1回,12週間塗布することにより,最終評価時の炎症性皮疹数の減少率において2%オゼノキサシンローションのプラセボに対する優越性が検証され,対照薬である1%ナジフロキサシンローション(1日2回)に対して非劣性が検証された.また,2%オゼノキサシンローション塗布により,炎症性皮疹数の減少率は治療開始2週後からプラセボに対し有意な差が認められた.さらに,表在性皮膚感染症を対象とした国内臨床試験において,2%オゼノキサシンローションを1日1回,7日間塗布することにより,最終評価時の有効率が70.0%であるとともに,菌陰性化率はS. aureusで80.0%およびS. epidermidisで95.0%であった.承認時までの臨床試験で認められた因果関係が否定できない有害事象は,757例中35例(4.6%)に認められ,主に適用部位である皮膚に発現した事象であった.以上から,2%オゼノキサシンローションは,尋常性痤瘡および表在性皮膚感染症治療において治療効果が高く,臨床上懸念される安全性の問題が少ない薬剤と考えられる.

  • 田中 祥貴, 青木 郁夫, 石根 貴章, John J. Renger, Christopher J. Winrow, 久田 智
    2016 年 148 巻 1 号 p. 46-56
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/13
    ジャーナル フリー

    オレキシンは視床下部外側部の神経細胞で産生されるニューロペプチドで,動物の覚醒状態維持に重要な働きをしている.スボレキサントはヒトのオレキシン受容体(OX1R及びOX2R)に対する強力で選択性の高いアンタゴニストで,不眠症の経口治療薬として開発された.スボレキサントのヒトOX1R及びOX2Rに対する結合親和性は高かった(Ki値はそれぞれの受容体で0.55 nM及び0.35 nM).各種動物(マウス,ラット,ウサギ,イヌ及びアカゲザル)のOX1R及びOX2Rに対してもヒトと同程度の結合親和性を示した.ラットにスボレキサントの10,30及び100 mg/kgを投与すると,用量依存的に覚醒が減少し,同時にデルタ睡眠とレム睡眠が増加した.同様な覚醒の減少とノンレム睡眠及びレム睡眠の増加は,イヌにスボレキサントを1及び3 mg/kg経口投与したとき,及びサルにスボレキサントの10 mg/kgを経口投与したときにも認められた.臨床薬理試験の結果から,スボレキサント40 mgを非日本人健康非高齢被験者に単回経口投与した際のTmaxは約2時間で,終末相半減期は12.2時間であった.また,1日1回反復投与した際,投与3日目までに定常状態に達し,AUC及びCmaxの累積係数の推定値は1.2~1.6であった.スボレキサントを空腹時単回投与した際の薬物動態は,日本人健康男性被験者と非日本人健康男性被験者で大きな差はみられなかった.また,後期第Ⅱ相及び第Ⅲ相試験での不眠症患者の薬物動態より,非高齢者にスボレキサント20 mgを投与した際のAUC0-24h及びCmaxは,高齢者にスボレキサント15 mgを投与した際と同程度であった.臨床試験の結果から,スボレキサントは睡眠維持及び入眠のいずれの症状改善にも効果を有し,長期間投与で薬剤耐性もみられない.また,おおむね良好な忍容性が認められ,翌日への持越し効果も許容可能な程度であり,臨床上懸念される,投与中止による退薬症候や反跳性不眠は認められない.したがって,本剤は,不眠症の新たな治療選択肢の一つとなると考える.

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