日本薬理学雑誌
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116 巻 , 3 号
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  • 遠藤 仁
    2000 年 116 巻 3 号 p. 114-124
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    生体内に投与された薬物が吸収,分布,代謝,排泄のプロセスを経る中で幾度かは細胞膜を通過する.脂質親和性が強く,分子量が小さい薬物は細胞膜の脂質二重層を単純拡散で通過する可能性はあるが,多くの薬物およびその代謝物はこの二重層を通るに当り特別な担体を必要とする.これを薬物トランスポーターと呼ぶ.生体にとって異物である薬物を認識して細胞膜を通過させる薬物トランスポーター分子が近年相次いで同定されている.これらは,その化学構造,輸送薬物,輸送機序の差異により5群に大別される.即ち,(1)有機イオン薬物トランスポーターファミリー,(2)ATP依存性薬物トランスポーターファミリー,(3)ペプチドトランスポーターファミリー,(4)肝由来有機アニオントランスポーターファミリー,(5)アミノ酸・ポリアミン・コリントランスポーターファミリーである.これら5群の薬物トランスポーターに共通した性質は,細胞膜を12回貫通する膜タンパク質である.輸送基質である薬物の選択性が多様で特異性が低い.組織分布がそれぞれのトランスポーターにおいて特有であり,薬物動態の各ステップでの役割が明確である.細胞内ドメインにはリン酸化部位が想定され,薬物トランスポーター機能がトランスポータータンパクのリン酸化,脱リン酸化による調節を受けている.古典的な酵素と基質の高い特異的認識性とは異なり,薬物トランスポーターの基質認識の多選択性についての分子メカニズムは未だ明らかにされてはいないものの,薬物トランスポーターの多くの分子種は内因性基質と外来性異物である薬物を共に認識する.即ち,本来的には内因性物質や栄養の輸送に必須のトランスポーターが獲得した広い基質認識の中に,類似物質として薬物分子も認識されて細胞膜を通過するように分子進化して薬物トランスポーターとなったものと推定される.薬物問相互作用,薬物トランスポーターの遺伝的多型を含む薬物動態における薬物トランスポーターの役割,基質薬物の分子認識機序の解明,等が今後の研究課題である.
  • 篠崎 温彦
    2000 年 116 巻 3 号 p. 125-131
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    神経伝達物質の研究に必要な種々の生理活性物質が天然化合物の中に隠されていると信じ,グルタミン酸感受性シナプスに対する種々の天然薬物の働きを調べてきた.その結果,幸いにも数種の極めて強力で有用なグルタミン酸受容体アゴニストを見いだすことに成功した.これらのアゴニストは現在のグルタミン酸受容体の基礎生物医学研究に必須の薬物として世界中の研究者により汎用されている.カイニン酸は興奮毒性薬の代表として神経変性疾患の実験室レベルでの研究を可能にし,また受容体サブタイプの分類に貢献した.キスカル酸は,カイニン酸と並んで,グルタミン酸受容体サブタイプ分類に大きく寄与すると共に,fast-EPSP生成をはじめとするグルタミン酸の生理学的機能の解明に貢献した.アクロメリン酸はカイニン酸の骨格を含有しながらカイニン酸とは異なって脊髄下部の抑制性介在ニューロンを特異的に破壊し,カイニン酸とは全く異なるタイプの神経変性疾患のモデル動物を作ることができる.一方,これらのイオンチャネル型受容体のアゴニストとは別に,CCGの構造異性体の一つ,L-CCG-Iは,trans-ACPDと並んで代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR)の薬理学的研究の礎となり,mGluRの機能解明に結びついた.DCG-IVはL-CCG-Iのカボキシル誘導体であるが,強力なGroupIIのmGluRのアゴニストであり,カイニン酸誘発痙攣や神経細胞死を極めて低用量で阻止し,GroupIIのmGluRのアゴニストは新しい医薬品の候補として脚光を浴びつつある.コンフォーメーションを微妙に変化させた:L-F2CCG-Iはいわゆる‘priming’作用を呈し,新しいグルタミン酸トランスポーターの働きとの関連が期待されている.
  • 加藤 茂明
    2000 年 116 巻 3 号 p. 133-140
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    脂溶性ビタミンA.D,ステロイド,甲状腺ホルモン,エイコサノイド等の低分子量脂溶性生理活性物質は,核内レセプターのリガンドとして働くことが知られている.核内レセプターは1つの遺伝子スーパーファミリーを形成するリガンド誘導性転写制御因子である.そのためこれらリガンドの生理作用は,核内レセプターを介した遺伝子発現調節により,その作用を発揮する.核内レセプターは,リガンド結合に伴い転写共役制御因子(コリプリッサー)の解離と転写共役活性化因子(コアクチベーター)の会合が起こる.これら転写共役因子群は複合体を形成しており,クロマチン上のヒストンのアセチル化を制御することで,リガンド依存的に転写を制御する.これら最近の動向を概観するとともに,我々の知見についても述べたい.
  • 川島 博行
    2000 年 116 巻 3 号 p. 141-148
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    骨や軟骨は,他の臓器に比して再生能力の乏しい組織である.従って,加齢に伴う代謝機能の破綻や組織の変性,欠損に基づくこれら硬組織の機能異常は,高齢者のQOLに多大な影響を与えることになる.より具体的にいえば,骨粗鬆症と変形性関節炎あるいはリウマチ性関節炎などが,高齢者の行動を著しく制限することになる.これらを解決するためには,骨・軟骨の分化・再生に関する詳細な知識が必要になる.近年の分子生物学および発生生物学の進歩により,軟骨細胞や骨芽細胞の分化に関する知識が集積し,分子レベルでこれらを理解することも可能に成りつつある.本稿では,軟骨分化の調節に関する現在の知見ならびにこれを応用した軟骨欠損部の再生治療の可能性について,また,骨の再生・修復あるいは骨形成に関しては,骨折の治癒や骨の欠損部の再生促進のためのBMPの応用や,骨形成を特異的に刺激する方法論の有無など,基礎知識の現状と治療薬の可能性などについて展望してみたい.
  • 藤田 芳司
    2000 年 116 巻 3 号 p. 149-157
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    21世紀の医療はEvidence based medicine, Tailor(Custom) made medicine, Personalized medicineなどといわれているが,別の表現をすれば“Right drug toright patient at right time by right dose”というように個々の患者に最適の薬を提供できる医療でもある.薬理ゲノミクスは全解明されつつあるゲノムの情報を基に,薬に対する種々の生理現象をより本質的に解明できる有効な手段であり,21世紀の医療・創薬に大きなインパクトを与えると予測される.それらを大別すると以下の3つが想定される.後に詳述するが第1には短期的インパクトで,既存薬および開発後期段階の化合物の副作用を低減したり薬効を高めるためのアプローチである.第2は中期的なインパクトで,開発初期段階において薬効に関連した遺伝子の転写調節(プロモーター)領域やコード領域を調べておくことで,質の高い臨床試験をデザインしようというものである.第3のインパクトは長期的なもので,疾患感受性遺伝子群から創薬ターゲットを見出しスクリーニングすることから始まる.これはゲノム創薬といわれる新しいアプローチで,多分野において芽生えている新技術の価値をいかに早く評価・融合して研究戦略に組み込めるかという「Systematic (Integrated) approach」とも言える.今後,疾患感受性遺伝子の同定における国際的な競争は激化することが予想され,SNPs解析の応用,薬理プロテオミクスの効率化と構造ゲノム科学の融合は,薬理ゲノミクスの一つの重要な焦点になるであろう.
  • 豊岡 照彦
    2000 年 116 巻 3 号 p. 158-162
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    近年の分子生物学,遺伝子工学技術の急速な進展に伴い,従来の薬物療法や外科的治療でも治療に難渋した種々の疾患について第3の選択として遺伝子治療が注目されてきた.今世紀最後の第73回日本薬理学会年会で年会長の長尾拓,東大教授が起案されたシンポジウムの1つ「遺伝子治療の現状と未来」はヒトゲノム計画が予想以上に速やかに進行し,ヒトのgenomic全塩基配列が解明され,徐々に発表されつつある現況で非常に時宜を得た好企画と言えよう.本稿では2,000年最後を飾るにふさわしいシンポジストとして以下に記載した順番に,ベクターの解析,虚血性疾患の遺伝子治療,現在移植に代わる有効な手段が開発されていない重症心不全の遺伝子治療など近未来で実現可能と予想される領域から既に臨床実用化された肺癌の遺伝子治療,アデノシンデアミナーゼ欠損症の遺伝子治療まで現在本邦で望みうる最高レベルの発表を簡略に紹介した.(文責:豊岡照彦.東京大学医学部内科循環器専攻)
  • 田中 正敏, 三澤 美和
    2000 年 116 巻 3 号 p. 163-170
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    日本薬理学会では第67回年会(1994年)以来,薬理学教育全般をテーマとしたシンポジウムは行われていない.現今,薬理学をとりまく環境は大きく変化している.第73回年会ではこうした状況を踏まえ,企画教育委員会が中心となって,薬理学教育の現在の問題点と今後のあり方についてシンポジウムを企画し実施した.薬理学を含めライフサイエンス分野の研究の手法とストラテジーは最近急速な変化を遂げつつあり,学問分野の境界も不鮮明になってきている.“薬理学とは何?これからどういう位置づけになる?”という当惑あるいは不透明感を,薬理学を対象としてきた研究者や教育者が否応なく今日意識しているに違いない.本シンポジウムでは基礎医学(生化学),臨床医学(病院内科),病院薬剤部,製薬企業,行政(厚生省)といった5分野の識者から,これからの薬理学教育に対する提言をしていただいた.5人の演者の講演内容を振り返ってみると,どの分野からも実用的薬理学教育の必要性が提起された.医学部の教育にあっては,診断面偏重からもっと治療面を重視していくべきである.薬物療法を高度化するため薬理学と臨床薬理学の教育を充実すべきである.また医師国家試験科目に薬理学を加える必要がある.薬学部の教育にあっては,医療チームの一員として責任をもって医薬品の適正使用を引き受けられる資質を備えた薬剤師の育成が時代の要請である.また新薬創製を進める製薬企業の研究に従事する者のためには,世界に新薬を提供できる力のついてきたわが国の創薬技術を担えるよう,狭い枠から脱却した新しい感覚の薬理学教育が要望された.ともあれ21世紀を迎えるにあたり,薬理学教育には沢山の課題が山積しており,どの学部も同じ内容とスタイルの薬理学教育は時代的限界に来ている可能性があり,このシンポジウムを機にこうした教育面の論議が今後盛んになっていくことを期待したい.
  • 池上 孝雄, 近藤 信雄
    2000 年 116 巻 3 号 p. 171-180
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    膵β細胞におけるインスリン分泌不全は,インスリン抵抗性と並んで2型糖尿病の成因となる主要な障害である.特に食事摂取に対応した急峻なインスリン分泌反応-初期インスリン分泌-の欠失は病態発症の早期から顕著であり,結果として食後高血糖を呈する.糖尿病患者に強化インスリン療法を施行した近年の大規模臨床試験は,糖尿病性合併症の発症予防・進展阻止のためには,空腹時高血糖のみならず食後高血糖の是正も含めた厳格な血糖コントロールが重要であることを明らかにした.しかし,既存のインスリン分泌促進薬(スルフォニル尿素(SU)剤)は,主として空腹時高血糖の低下に寄与するものであり,食後血糖の制御は充分ではない.この食後高血糖を是正する新たなインスリン分泌促進薬としてナテグリニド(ファスティック®,スターシス®)が登場した.本剤はSU骨格を有さないにもかかわらず,SU剤と同様に膵β細胞膜上のSU受容体に結合し,作用を発現する.in vitro作用機序の類似性とは対照的に,イヌにおける血糖降下のパターンは,SU剤に比して速効かつ短時間であった.さらにラットにおいて,ヒトの摂食習慣を模倣した6時間間隔2回の糖負荷による血糖上昇をいずれも抑制し得た(SU剤では抑制不可能).臨床試験においては,ナテグリニド30,60,90,120mgの1日3回,12週間投与によって2型糖尿病患者の食後血糖推移が用量依存的に改善し,初期インスリン分泌反応も回復した.加えて,空腹時血糖値,HbAlc値の低下も認められた.ナテグリニドはその作用の速効性・短時間性ゆえに,2型糖尿病患者で減弱した初期インスリン分泌を補完し,毎食後の血糖上昇を抑制する.生理的インスリン分泌の再現によって良好な血糖コントロールを実現する新たな手段として,臨床での活躍が期待される.
  • 倉田 知光
    2000 年 116 巻 3 号 p. 181-187
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    マイクロダイアリシス法は,微小透析プローブの一部に備えられた半透膜を介して単純拡散により膜内部に移行してきた物質を連続的に回収する方法である.本稿では,末梢臓器・組織でのマイクロダイアリシス法,特に我々が開発してきた無麻酔・無拘束下での検討について概説する.末梢臓器・組織での検討は,主に肝臓,皮下組織,眼球および血中の4部位に関して行なってきた,血中薬物動態の検討には,2種類の微小透析プローブを作成し,連続的にかつ長時間の検討を可能にしてきた.また,同時に,プローブから直接静脈内に薬物投与が行なえるように薬物注入用チューブを備えた物も開発し,プローブ留置後は実験動物に全く触れることなく薬物の投与および血中薬物動態の検討を可能にした.一方,末梢臓器用のプローブを用いた検討では,これまで,各時点で屠殺しなければならず,連続的な検討が困難であった1個体での臓器内薬物動態の検討を,無麻酔・無拘束下で長時間連続的に検討することを可能にした.さらに,末梢臓器用のプローブに若干の修飾を加え,眼球内への薬物移行性に関する検討も行なった.紙面の都合上詳細なデータは割愛し,本稿では主に実験の手技に関して述べる.
  • 田上 昭人
    2000 年 116 巻 3 号 p. 189-196
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ヒトゲノム計画の進展により,診断から薬の創薬まですべての過程は大きく影響を受け,近い将来には“ありふれた病気”に対しても患者の遺伝的体質に合わせた処方,治療が可能となる.このゲノム情報・技術をもとに患者各人に個別至適化した“テーラーメイド医療”を現実化するために,薬理ゲノミックスは,有用となる.薬理ゲノミックスの具体的方法論としてsingle nucleotide polymorphism (SNP,一塩基多型),特に,薬物応答性に関する遺伝子のSNPが重要となり,その解析法が開発されつつある.現在,SNP解析に用いられている高感度・高速度の解析法について紹介する.
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