日本薬理学雑誌
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120 巻, 1 号
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ミニ総説号「粘膜の生理と病態」
  • 黒野 祐一
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    鼻腔は下気道へと向かう吸気の加湿·加温作用,吸気中に含まれる様々な微生物やアレルゲンを吸着しこれを粘液線毛運動によって除去する作用など,生理的そして非特異的な生体防御機構を備えている.さらに分泌型IgAを中心とする特異的生体防御機構も備え,病原微生物を排除あるいはこれらを常在菌叢として共存させる極めてユニークな器官である.粘膜局所で産生される分泌型IgAは,溶菌作用や補体活性作用を持たず,中和作用や凝集作用のみを有し,これによって細菌が上皮表面へ定着するのを妨げる.鼻分泌液中にはこの分泌型IgAが多量に含まれ,その濃度は血清型IgAやIgG,IgMと比較してはるかに高い.慢性副鼻腔炎では,これら免疫グロブリンの産生が亢進し,鼻分泌液中の濃度が上昇する.しかし,病原菌に対する特異的抗体価は逆に低下し,慢性炎症における局所免疫機能の障害が示唆される.したがって,鼻副鼻腔炎など上気道感染症の予防には,全身免疫のみならず,粘膜局所免疫も高めることが必要かつ重要と考えられる.そこで,インフルエンザ菌外膜タンパクを用いて,マウスを経鼻,経口,経気管,さらに腹腔内全身免疫し,その免疫応答を検討した.その結果,鼻腔洗浄液中の分泌型IgAの特異的抗体活性がもっとも高値を示したのは経鼻免疫群であり,この免疫応答と相関して,経鼻免疫群ではインフルエンザ菌の鼻腔からのクリアランスがもっとも高かった.以上の結果から,鼻粘膜など上気道粘膜の防御そしてその病態に粘膜免疫応答が重要な役割を担っており,上気道感染症の予防には経鼻ワクチンが有効と考えられる.
  • 田中 宏幸, 永井 博弌
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    気道は,外界と接する臓器であり,常に吸気とともに異物を取り込んでいる.しかし,気道粘膜における種々の組織により,異物による感染や気道炎症から生体は防御されている.気道粘膜には,異物排除や湿度調整に重要な気道上皮,粘液分泌およびIgA抗体の放出に関与する粘膜下腺ならびにIgA産生やリンパ球のホーミングに重要な気管支関連リンパ組織が存在し,それぞれ粘膜免疫に関与している.一方,気道粘膜における代表的な疾患として気管支喘息が挙げられる.近年,基礎および臨床における研究により,特にアトピー型気管支喘息の病態解明が進められている.すなわち,その特徴であるIgE産生には,ヘルパー2型T細胞(Th2)から主として産生されるIL-4やIL-13などのサイトカインおよび細胞膜上の補助因子であるCD40とそのリガンドが重要であり,気道内好酸球増多には,分化·増殖因子であるIL-5ならびに細胞膜上のケモカイン受容体CCR3が重要であることが明らかにされている.一方,呼気性呼吸困難症状とも密接に関係する気道過敏性の発症機序に関しては不明な点が多いが,近年,遺伝子改変マウスを用いた検討により,Th2サイトカインなどの種々の機能分子の関与が推察されている.さらに,難治化·重症化に気道組織の器質的変化,すなわち気道リモデリングが注目されている.気道リモデリングは,上皮の肥厚,杯細胞の過形成,上皮基底膜下の線維化ならびに気道平滑筋の肥厚·過増生を特徴とし,気道壁の肥厚により内腔の狭小化が起こり,結果として気道過敏性あるいはβ2刺激薬などに対する反応低下を招いている可能性が推察されている.これらの病態に対し,近年,サイトカインに対する中和抗体などを用いた治験が進められているが,気管支喘息が多因子疾患であることを考えると,今後,複合的な機能分子の抑制が重要なアプローチになるものと思われる.
  • 竹内 孝治, 加藤 伸一, 香川 茂
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    胃粘膜に軽微な傷害が発生した場合,酸分泌は著しく減少し,胃内アルカリ化が生じる.このような酸分泌変化は非ステロイド系抗炎症薬ばかりでなく,一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬の前処置によっても抑制される.特にNO合成酵素阻害薬の存在下に胃粘膜傷害を発生させた場合,胃酸分泌は“減少反応”から“促進反応”に転じ,この変化はヒスタミンH2拮抗薬,肥満細胞安定化薬,および知覚神経麻痺によって抑制される.すなわち傷害胃粘膜では,プロスタグランジン(PG)およびNOを介する酸分泌の抑制系に加えて,粘膜肥満細胞,ヒスタミンおよび知覚神経を介する酸分泌の促進系も活性化されており,両者のバランスによって傷害胃での酸分泌反応が決定されている.通常は抑制系が促進系を凌駕しているために“酸分泌減少”として出現するが,NO合成阻害薬では抑制系が抑制される結果,促進系が顕在化し,“酸分泌促進”を呈する.傷害発生に伴い管腔内に遊離されてくるCa2+はNO合成酵素の活性化において必要であり,管腔内Ca2+の除去も胃内アルカリ化を抑制する.興味あることに,PGは傷害胃の酸分泌変化において両面作用を有しており,“抑制系”の仲介役に加えて,“促進系”の促通因子としての作用も推察されている.また,傷害胃で認められる酸分泌変化に関与するPGやNOはそれぞれCOX-1およびcNOS由来のものであり,傷害後に認められる胃内アルカリ化は選択的COX-2阻害薬やiNOS阻害薬によっては影響されない.このように,傷害胃粘膜の酸分泌反応は正常胃粘膜とは明らかに異なり,内因性PGに加えて,NO,ヒスタミン,知覚神経を含めた複雑かつ巧妙な調節系の存在が推察される.このような酸分泌変化は障害発生に対する適応性反応の一つであり,傷害部への酸の攻撃を和らげることにより,傷害の進展を防ぎ,損傷部の速やかな修復を促す上で極めて重要である.
  • 奥村 利勝, 高後 裕
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 1 号 p. 29-31
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    近年増加傾向にある糖尿病の治療は,血糖値を適正な領域に維持することが基本である.経口摂取した食物がいかに血糖値に反映されるかを理解する必要があり,糖質の消化,吸収には小腸粘膜の生理を知ることが重要である.食物中の糖は小腸で消化され2糖類から単糖類に分解され小腸上皮より吸収される.この際に2糖類を分解するαグルコシダーゼ阻害薬を用いると,糖の吸収が遅れ血糖値の上昇パターンが変化する.この作用は糖尿病患者の血糖値の改善につながり,現行広く臨床で用いられる薬剤の開発へつながった.加えて,食欲や胃排出は血糖値への影響が強い.小腸上皮で作られるアポリポプロテインA-IVが中枢神経系を介して食欲や消化管機能を抑制する.この作用は糖尿病の病態を考えると食物摂取を抑制してエネルギー摂取量を抑制し,胃排出能を抑制して小腸での糖吸収を遅延させることを示唆し,糖尿病治療に貢献することを考えさせる.従って,アポA-IVが糖尿病治療の新しい分子ターゲットになる可能性がある.
  • 幸 義和, 大田 典之, 廣井 隆親, 清野 宏
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 1 号 p. 32-38
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    最近,IL-15は粘膜免疫関連サイトカインとして注目されている.そこで本総説では,最初に,IL-15は粘膜免疫のIgA免疫応答の制御において重要なサイトカインである証拠を示す.腸管のB-1細胞にはIL-15レセプターが優先的に発現している.加えてIL-15は2つの異なった状態(sIgM sIgA+ and sIgM+ sIgA)にあるIgA免疫応答誘導循環帰巣経路独立型のB-1細胞に働くのに対して,IL-5はsIgM sIgA+の状態のB-1細胞にのみ働く.一方,循環帰巣経路依存型のB-2細胞はIL-5とIL-6のレセプターを発現しておりIL-5とIL-6の作用でIgA産生細胞に分化する.次に,我々はマウスの腸管上皮細胞特異的にIL-15を強制発現させることによって小腸炎症モデルを確立した例を示す.このIL-15トランスジェニックマウスの中でIL-15によって誘導されたCD8αβ+ NK1.1+細胞は小腸炎症の発症に重要である.さらにこのT細胞はTh1タイプのサイトカインを産生しており,このT細胞の選択的な増加はIL-15の抗アポトーシス活性に帰するのであろう.これらの結果は,IL-15は粘膜免疫のIgA免疫応答に重要なサイトカインであるが,その腸管免疫での制御異常が生体に不利な効果を与えることを示唆している.
  • 金井 隆典, 渡辺 守, 日比 紀文
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 1 号 p. 39-45
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    最近,潰瘍性大腸炎とクローン病の分子免疫学的な病態メカニズムが徐々に明らかにされるにつれ,従来の治療法とは異なった,より病態に特異的な治療法,サイトカインや免疫担当細胞に着目した治療法が開発,研究されるようになった.特に,抗TNF抗体によるクローン病治療に代表されるように,実際の臨床現場に応用され,優れた成績が報告されつつある.潰瘍性大腸炎とクローン病といった生涯にわたり治療を余儀なくされる疾患に対して,副作用が問題となる長期副腎皮質ステロイド投与に替わる,より効果的な治療法の開発は本病が若年で発症することを考え合わせ,社会的にも重要な問題である.免疫学の進歩の恩恵を受け,数年後の炎症性腸疾患治療は従来とは全く異なった新たな局面からの治療法が開発されることも考えられている.本稿では,現在までに明らかとされた炎症性腸疾患の免疫学的病態と,サイトカインに関連した知見に基づいた治療法の開発状況について概説した.
実験技術
  • 曽良 一郎, 池田 和隆, 三品 裕司
    原稿種別: 実験技術
    2002 年 120 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    オピオイド系の分子メカニズムの研究は,遺伝子ノックアウト動物モデルを利用することにより,作動薬,拮抗薬などを用いるだけでは為し得ない解析が可能となった.遺伝子ノックアウトマウス作製は,分子遺伝学,細胞培養,発生工学の実験手技の集大成であり,長期にわたる労働集約的な実験作業を要するプロジェクトである.ターゲティングベクター作製のためのゲノムDNAの入手から始まり,ES細胞への遺伝子導入,キメラマウス作製の後に,はじめてノックアウトマウスを得ることができる.また,表現型を行動学的,解剖学的,生化学的に解析する際に,ノックアウトマウスであるが故の留意点もある.本稿では,新規のみならず既知のノックアウトマウスの解析を予定されている研究者も対象に,概略的知識および成功を左右するいくつかのコツを,筆者らの経験をもとに紹介する.
新薬紹介総説
  • 藤原 将寿, 劉 世玉
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 120 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    ラミブジン(商品名;ゼフィックス®錠100,(-)-1-[(2R,5S)-2-hydroxymethyl-1,3-oxathiolan-5-yl]cytosine)は,デオキシシチジン誘導体であり,B型肝炎ウイルス(HBV)の複製を阻害する抗ウイルス薬である.ラミブジンは,生体内のリン酸化酵素で三リン酸化体に変換された後,HBV-DNAポリメラーゼによりウイルスDNAに取り込まれ,ウイルスDNAの伸長を停止させることで抗ウイルス活性を発揮する.HBV-DNAが組み込まれた肝細胞を用いたin vitro試験において,0.01-0.116 µMの濃度で50%のウイルス産生を抑制する事が証明された.また,HBV感染マウスモデル(Trimeraマウス)において,血清中のHBV-DNAレベルが,無処置群に比較し,ラミブジン投与群で減少することが観察された.更に,臨床試験において,血清中のHBV-DNAおよび肝壊死·炎症活動性および線維化の進行抑制等の高い有効性を示し,長期投与においても有害事象の発生はプラセボ投与群と差が認められないという高い安全性が認められた.ラミブジン耐性ウイルスの出現が臨床試験において報告されているが,そのウイルスは野生株に比較し増殖能が弱い事が確かめられている.以上の事より,ラミブジンはウイルス増殖が認められるB型慢性肝炎患者に有用であることが確かめられ,現在本邦をはじめとして幅広く世界中で使用されている.
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