日本薬理学雑誌
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120 巻, 3 号
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ミニ総説号「薬理学におけるトランスレーショナルリサーチ:基盤研究から臨床まで」
  • 田中 利男, 辻本 豪三, 杉山 雄一, 橋本 易周
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 3 号 p. 141-148
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    ポストゲノムシークエンス時代に入り,薬理ゲノミクス(pharmacogenomics)/ケモゲノミクス(chemogenomics)が急激な発展を示し,ゲノム創薬やゲノム医療への展開が著しく認められる.ヒトゲノムシークエンスプロジェクトの成果を基盤としたゲノムサイエンスは,創薬科学の研究戦略においても,極めて短期間にパラダイムシフトを起こした.すなわちゲノム創薬の誕生である.ゲノム創薬とは,ヒトゲノムシークエンス後の遺伝子多型(ゲノム),遺伝子発現プロファイル(トランスクリプトーム),プロテオームにおける包括的機能解析を基礎に,ヒトゲノム上の総ての新しい創薬ターゲットを効率良く探索し,新しい薬物療法を可能にするだけではなく,患者個人の遺伝子多型情報に基づいた至適薬物療法(テーラーメイド医療)を実現するものである.このゲノム創薬の基盤となる薬理ゲノミクス/ケモゲノミクスは,創薬ターゲットバリデーションや薬物作用/薬物動態の統合的理解を導くことが期待されており,薬物応答性や副作用をゲノムレベルで解明,予測しようとするものである.薬理ゲノミクスにおいて,特にトランスクリプトーム解析が重要な研究戦略である.またin vivoやin vitroの莫大な薬理ゲノミクス情報からin silicoでのデータマイニングを可能にするため,バイオ/ゲノムインフォマティックスとケモインフォマティクスを統合したファルマインフォマティクスの構築が不可欠である.
  • 河野 洋治, 吉村 武, 貝淵 弘三
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 3 号 p. 149-158
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    従来,血管平滑筋収縮の制御機構は細胞内Ca2+濃度の上昇によるミオシン軽鎖のリン酸化で説明されてきた.ある種の病態やアゴニスト刺激時においては,細胞内Ca2+濃度とミオシン軽鎖のリン酸化レベルおよび発生張力は必ずしも一致せず,Ca2+濃度以外にも血管平滑筋収縮を制御するメカニズムが存在すると考えられていたがその分子メカニズムは不明であった.低分子量GTP結合タンパク質Rhoは種々の標的タンパク質を介して,細胞骨格や接着,細胞運動,平滑筋収縮を制御する.近年,Rhoおよびその標的タンパク質Rho-キナーゼ(Rho-kinase/ROK/ROCK)が細胞内Ca2+濃度に依存しない血管平滑筋の収縮機構に関与することが明らかになってきた.この新しい収縮機構が,ある種の高血圧や冠動脈攣縮などの循環器疾患の病態に関与していることが判明してきた.Rho-キナーゼの阻害薬などを用いた解析から,Rho-キナーゼが血管平滑筋の異常収縮を伴う疾患のみならず,動脈硬化や多臓器の保護作用創薬ターゲットとしてますます重要になってきた.
  • 岡部 進, 古谷 和春, 前田 和彦, 相原 剛, 藤下 晃章, 藤内 俊輔
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 3 号 p. 159-171
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    胃が塩酸を分泌し,さらに胃および隣接臓器である食道および十二指腸に潰瘍が発生することが判明して以来,潰瘍の成因との関連で特に胃酸分泌機構および胃酸に対する胃粘膜の防御機構,各種粘膜細胞の分化·増殖が検討されてきた.その結果,胃酸分泌細胞(壁細胞)には,アセチルコリン(M3),ヒスタミン(H2),ガストリン(CCK2)などの受容体が存在することが判明し,かなり特異性の高い拮抗薬も開発されてきた.また,壁細胞に存在する酵素H+,K+-ATPase(プロトンポンプ)やECL細胞に存在するヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)に対応する阻害薬も開発された.しかし,薬物の特異性,持続時間などの点で,薬理学的に胃粘膜の生理機能や恒常性を詳細に解明することは困難であった.一方分子生物学および遺伝子工学の発展により,特定の遺伝子を標的にして,遺伝子欠損または過剰発現マウスが作製された.これらのマウスの使用により,従来薬理学的には解明が出来なかった諸問題が明らかとなり,また予期しなかったような新しい事実も発見できるようになった.H2受容体欠損マウスでは,生後しばらく胃酸分泌は低下したが,成育とともに野生型と同じとなった,しかし,胃粘膜は肥厚し,メネトリエ病様変化が発生した.HDC欠損マウスにおいても,成育とともに胃粘膜の肥厚はおきたが,メネトリエ病様変化ではなかった.興味深い知見として,HDC欠損マウスにおいては,ヒスタミンに対する壁細胞の感受性が著明に亢進し,野生型に比較して胃酸分泌は数倍上昇した.M3受容体およびCCK2受容体欠損マウスでは胃酸分泌は明らかに低下していたが,胃粘膜の肥厚などは発生しなかった.壁細胞欠損マウス,H+,K+-ATPase欠損マウスでは,胃内は無酸であり,胃粘膜は萎縮していた.ガストリン過剰発現マウスにおいては,ヘリコバクター菌を感染させることにより,胃ガンの発生が認められた.今後,これらの遺伝子改変マウスの使用により,近い将来胃ガンの発生機構の解明も大いに期待される.
  • 山本 経之, 釆 輝昭
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 3 号 p. 173-180
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    精神疾患の動物モデルは,その根底に存在する神経機構の解明や前臨床における新規化合物の治療効果の予測を行う上において欠くことが出来ない.しかし当然のことながら,動物の脳内で起っている事とヒトの脳内で起っている事が等しいという証拠を見い出せない為に,適切な精神疾患の動物モデルを確立することは極めて困難である.ヒトにおける精神疾患の初期の動物モデルは,ヒトと動物で観察される行動上認められる症状の類似性,即ち“表面妥当性”(face validity)に基づいたものが多かった.その後,行動系の変容と神経系の変容との関連性が,動物での変化とヒトの臨床像との間で認められるか否かという“構成妥当性”(construct validity)に基づいた動物モデルの開発もなされるようになってきた.動物モデルの実際的な有用性は,結局,精神疾患に対する新規化合物の臨床効果を予測する“予測妥当性”(predictive validity)にある.本稿では,主に,精神疾患患者の症状に類似した症状を引き起こすことが期待できる環境ストレスや薬理学的処置による分裂病とうつ病の動物モデルに焦点を当て,これらの妥当性を考慮に入れながら概説する.
  • 有吉 範高
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 3 号 p. 181-186
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    ヒューマンゲノムプロジェクトの成果が今後の医療を大きく変革させると言われている.とりわけ医薬品に関わる業界へのインパクトは大きく,創薬のプロセスから臨床現場における薬剤の使い方に至るまで薬物に関わるおおよそ全ての過程が変貌するであろうと予想されている.文部科学省科学技術政策研究所·科学技術動向研究センターの技術予測調査によれば,2012年には個人個人の遺伝子の構造,一塩基多型(SNPs)等を含む全塩基配列が即座に安価で決定できるようになり,診断やオーダーメード治療に普及する,そうである.しかしながら薬物療法の現場において治療前にどのような遺伝子診断を行い,患者一人一人に最適な与薬を行うかという問題を,概念的にではなく現実問題として捉えた場合,技術の発展による診断法の進歩と低コスト化だけではおおよそ不充分である.インフォームドコンセントの在り方等倫理的な問題を含めた遺伝子診断体制の整備も無論急務ではあるが,もっとも重要と考えられることは臨床における充分なevidenceの蓄積である.すなわち与薬前に判定を行う遺伝子多型は,診断や薬物療法における有用性が確立されたものであり,真に患者のメリットになるものでなければならないのはもちろんのこと,遺伝子型にプラスして表現型に影響を及ぼす患者の年齢,病態,併用薬等を加味した上での投与設計がなされて始めて個人個人に最適化された薬物療法が達成できる.本稿では,遺伝因子が薬物療法において重要であるとの認識の出発点から,薬理遺伝学という学問領域の開花·発展の歴史を振返り,現状における問題点を通じて10年後(2012年)という近い将来の薬物療法への臨床薬理遺伝学の応用について展望してみたい.
  • 西村(鈴木) 多美子, 豊島 聰, 宇山 佳明, 山田 博章, 細木 るみこ, 藤森 観之助, 長尾 拓
    原稿種別: ミニ総説号
    2002 年 120 巻 3 号 p. 187-194
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    医療用新医薬品(新医薬品)の承認審査は,平成9年に医薬品医療機器審査センター(審査センター)が設立されてから医薬品副作用被害救済·研究振興調査機構(医薬品機構),審査センター,厚生労働省医薬局審査管理課でそれぞれ役割を分担し,科学的な判断に基づく承認審査が進められている.国内外での新医薬品開発における規制当局側のサポートあるいは審査体制が整備されている中,トランスレーショナルリサーチの重要性が提言されはじめている.申請資料には,非臨床試験データと臨床試験データが求められるが,臨床での有効性及び安全性の評価の際には,非臨床試験のデータによる裏付けも重要であり,リスク·アンド·ベネフィットを考慮して承認の可否が判断される.そこで,新医薬品承認申請において必要とされる薬理学の役割について,レギュラトリーサイエンスの観点に立って,1)開発中の治験相談の立場から,2)申請後の承認審査の立場から,3)安全性薬理ガイドラインの立場から,及び,4)基礎薬理学の立場から,最近の承認審査に関わる薬理学の役割,基礎研究との関連性等について個人的意見を述べる.
原著
  • 小林 正敏, 原 久仁子, 秋山 康博
    原稿種別: 原著
    2002 年 120 巻 3 号 p. 195-204
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    7週齢Wistar系ラットを用いて低カルシウム(Ca)および低マグネシウム(Mg)飼料飼育による骨量および骨強度の変化とビタミンK2(V.K2)の効果を検討するため2つの実験を行った.実験1では低Ca(0.01%)および種々のMg濃度(0.09,0.015,0.003%)飼料4週間飼育後の変化を観察した.いずれのMg濃度群においてもIntact群(Ca 0.5%,Mg 0.09%)に比し,大腿骨骨幹部の骨密度は85%,最大点荷重は50%に低下し,飼料中Mg濃度低下の影響は認められなかった.一方,飼料中Mg濃度の低下に対応して大腿骨弾性率,骨中Mg量は低下し腎組織中Ca量は増加した.すなわち大腿骨の弾性率および異所性石灰化は飼料中Mg濃度の影響を受けることが明らかになった.実験2では,低Ca(0.01%)·低Mg(0.003%)飼育モデルを用いて飼育8週後の病態に対するV.K2の作用を検討した.低Ca·低Mg飼料飼育により血中および大腿骨中Ca,Mg濃度は低下し,血中PTH濃度,オステオカルシン量および尿中デオキシピリジノリン量は増加した.すなわち,骨の代謝回転が亢進した病態であることが示唆された.また低Ca·低Mg飼料飼育により大腿骨骨端部骨密度および骨幹部骨密度,骨面積,皮質骨幅,最大点荷重は低下し,腎組織中Ca量は増加した.V.K2投与群では低Ca·低Mg飼料飼育対照群に比し血中Ca,Mg濃度は高値を,PTH,腎組織中Ca量は低値を,大腿骨骨密度,骨強度は高値を示した.すなわちV.K2はこのモデルでの骨強度の低下および軟部組織の石灰化に対し改善作用を有することが示唆された.
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