日本薬理学雑誌
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126 巻, 1 号
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特集:薬物依存の評価法と戦略
  • 若狭 芳男, 佐々木 幹夫, 藤原 淳, 飯野 雅彦
    2005 年 126 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    薬物自己投与実験では,動物がレバースイッチを押すと静脈内あるいは胃内に留置されたカテーテルを介して一定量の薬液が体内に自動注入される方法が多く用いられ,アカゲザルおよびラットでの研究報告が多い.自己投与実験法により,薬物の強化効果の有無,強さおよび発現機序の研究が行われる.強化効果の有無は,自己投与回数の多寡によって判定されるが,自己投与回数は,自己投与の経路,静脈内への薬物注入速度,用量範囲,実験スケジュールなどの要因によって影響を受ける.すなわち,静脈内経路ではレバー押し行動に引き続き薬理効果が迅速に発現するため,胃内経路と比べて強化効果をとらえやすい.静脈内自己投与では,1回に注入される用量が同じでも注入速度を増すと摂取回数が増加する.強化効果を検索するための用量範囲は,弁別刺激効果もしくは何らかの中枢作用の発現用量などを目安に選定することが妥当と考えられる.Substitution proceduresでは比較的短期間に幅広い用量の強化効果の有無を検索できるが,ベースライン薬物がテスト薬物の自己投与に影響する場合がある.テスト薬物の自己投与を比較的長い期間観察する連続自己投与実験法では,強化効果の有無をより高い精度で検索できる.強化効果の強さを薬物の間で比較するための方法としては,比率累進実験法あるいは行動経済学の考え方に基づく需要曲線を用いる方法などが報告されている.強化効果の発現機序の検索には,特定の受容体のノックアウトマウスを用いた自己投与実験が行われている.自己投与実験期間中に発現する中枢作用の観察により,その薬物が乱用された場合の危険性を予測する参考情報が提供される.
  • 舩田 正彦
    2005 年 126 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    薬物依存症の治療法の確立および治療薬の開発のために,依存性薬物による精神依存形成機構の解明が必要である.このためには,精神依存動物モデルを確実に,かつ安定して獲得する方法論を確立することが必須となる.条件付け場所嗜好性試験(Conditioned place preference,CPP法)は,薬物の精神依存形成能を報酬効果から予測する方法として注目されている.CPP法はパブロフ型条件付けの原理に基づいており,動物に薬物を投与した時,その薬物が引き起こす感覚効果(中枢神経作用)と装置の環境刺激(視覚,触覚,嗅覚刺激など)を結びつける方法として開発された.CPP法は薬物の報酬効果を簡便な装置を利用することで,短期間で評価できることが最大の特徴である.また,短期間での評価が可能であることから,薬物の脳内微量注入による条件付けにより,精神依存形成における責任脳部位の同定が可能になった.一方,揮発性有機溶剤は“吸入”により乱用されることから,依存形成メカニズム解明のためには,薬物吸入により精神依存性を評価する装置の開発が必須であった.そこで,薬物吸入による揮発性有機溶剤用CPP装置の開発を試みた.その結果,トルエン吸入により報酬効果の発現が確認された.このCPP装置は簡便な操作で,一定量の揮発性有機化合物を動物に吸入させることができ,トルエン以外の揮発性有機化合物の報酬効果の評価にも応用できると考えられる.CPP法は装置を工夫することで薬物吸入による依存モデルの作製も可能であり,さまざまな薬物の精神依存形成能の一次的評価方法として非常に有用である.また,操作が簡便であり,評価に要する時間も短期間であることから,薬物の精神依存形成機構の解明に大きく貢献する評価法の一つである.  現在,わが国は第三次覚せい剤乱用期にあり,薬物乱用が大きな社会問題となっている.特に,覚せい剤,コカインおよび大麻などの違法性薬物の入手の可能性がこれまでになく高まり,薬物乱用の若年層への拡大が表面化している.また,こうした薬物の慢性的な使用により,精神疾患を発症することが知られている.医療施設における薬物関連精神疾患に関する調査から,その発病に至る薬物として覚せい剤が50%,有機溶剤は30%を占め主要な原因薬物になっているのが現状である(1,2).こうした薬物関連精神疾患,薬物依存症の治療法の確立およびその治療薬の開発のために,依存性薬物による精神依存形成機構の解明が必要である.  さらに,法的規制を受けていない化学物質である通称“脱法ドラッグ”の乱用は若年層を中心に浸透しているのが現状である.こうした化学物質は,強力な精神依存形成能を有する危険性や未知の毒性などが発現する危険性を有する.事実,幾つかの化学物質は乱用され重大な社会問題となっている.したがって,化学物質の薬物依存性を,迅速に評価できる動物実験の必要性が高まっている.  こうした背景から,薬物の依存形成能を迅速に評価し,さらに精神依存動物モデルを確実かつ安定して獲得する方法論を確立することが重要である.国内および海外の研究施設において,条件付け場所嗜好性試験(Conditioned place preference,CPP法)は,薬物の精神依存形成能を報酬効果から予測する方法として注目されている(3,4).海外では1980年代に,ラットを使用した研究からCPP法が確立されてきた(3,4).国内では1990年代に世界に先駆けて,鈴木らにより遺伝子改変マウスの利用を視野に入れたマウスを使用したCPP法が確立された(5).その後,マウスを利用したCPP法に関する研究報告が飛躍的に増えている.CPP法に関する詳細な実験技術に関しては,既に鈴木らのグループにより紹介されている(5,6).本総説では,こうした報告を踏まえCPP法の基礎として,実際の実験方法と実験を実施する際の留意点に関して総括した.また,CPP法は薬物の報酬効果を,短期間で評価できることが最大の特徴および有用性である.すなわち,動物の維持が短期間で済むため「薬物の脳内微量注入による条件付け」の実施が可能になった.そこで,こうした技術とCPP法を利用した薬物の報酬効果発現の解析を通じ,明確になりつつある薬物精神依存形成における責任脳部位に関する代表的な知見をまとめてみた.さらに,CPP法の応用例として,当研究部で確立に成功した揮発性有機溶剤であるトルエン吸入による報酬効果評価の実例を紹介する.
  • ―依存性薬物の自覚効果と依存形成機構の解明―
    溝口 博之, 野田 幸裕, 鍋島 俊隆
    2005 年 126 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    ヒトは,風邪薬を飲むと共通して眠気を感じ,アルコール飲料の種類に係らず適量を飲むと多幸感が得られる.このような薬理作用を介してヒトは,ある種の薬物の摂取体験からその薬物を認知し,自覚する.これは,摂取感覚効果(自覚効果)と呼ばれ,ヒトばかりでなく,サルをはじめとする多くの動物でも認められる.依存性薬物は,それぞれ特異的な感覚自覚効果を持ち合わせており,この自覚効果が快感(陽性強化)であればそれを求めて乱用される.したがって,自覚効果は依存形成の重要な因子の一つとして考えられている.ヒトでの自覚効果は,薬物を投与したときの摂取感覚を質問表によって調べる方法が用いられている.実験動物の場合は,自覚効果を直接知ることはできないことから,薬物の摂取感覚効果を利用した薬物弁別試験が用いられている.我々はこれまでにラットの薬物弁別試験を用いて,依存性薬物の1つであるメタンフェタミンの自覚効果の発現機序について検討してきた.すなわち,メタンフェタミンに対する弁別を獲得したラットの側坐核と腹側被蓋野において,神経の活性化の指標となるc-Fosタンパクの発現の増大が認められたことから,メタンフェタミンの弁別刺激効果には,ドパミン作動性神経系を中心とした神経回路が重要であることを明らかにした.メタンフェタミンの弁別刺激効果は,ドパミンD2およびD4受容体拮抗薬によって抑制され,さらに,細胞内cyclic AMP(cAMP)量を増加させるロリプラムやネフィラセタムによっても同様に抑制された.これらの結果から,メタンフェタミンの弁別刺激効果は,D2様受容体とリンクした細胞内cAMP系シグナル経路を介して発現しているものと示唆される.したがって,細胞内cAMP量を増大させるような薬物やD2様受容体を介したシグナル経路を抑制するような薬物は,薬物依存の予防・治療薬となる可能性がある.
  • 崎村 克也, 平仁田 尊人, 宮本 道彦, 永田 健一郎, 山本 経之
    2005 年 126 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    薬物依存研究の視点は,(1)依存の形成機構の解明および(2)薬物への“渇望”の再燃・再発機構の解明にある.薬物依存の実験法としては,1)薬物選択試験法,2)条件づけ場所嗜好性試験法,3)薬物弁別試験法および4)薬物自己投与実験法が繁用されている.しかし,前者3つの実験法は依存性薬物の強化/報酬効果または薬物摂取行動の機構解明に迫れても,薬物への“渇望”の再燃・再発の機構解明に向けての妥当性の高い戦略とは言い難いが,ラットの薬物自己投与実験法では“渇望”の動物モデルが確立されている.“渇望”を誘発する臨床上の要因として,(1)少量の興奮性薬物の再摂取(priming),(2)薬物使用を想起させる環境因子(薬物関連刺激),そして(3)ストレスの3種類が知られている.ヒトで乱用される薬物はラットでの薬物自己投与行動が成立し,上記の刺激により生理食塩液投与下でのレバー押し行動(薬物探索行動)が発現する.この行動が臨床上の“渇望”を表す動物モデルとして考えられている.脳内局所破壊法と薬物の脳内微量注入法により,薬物摂取行動と薬物探索行動(“渇望”)では,脳内責任部位が異なることが明らかにされている.また,薬物探索行動は,その誘発要因により発現パターンやD2受容体の関与の仕方が異なることも分かっている.これらの知見は,薬物探索行動の発現機序が誘発要因の違いによって異なることを示唆している.一方,近年,薬物探索行動における内因性カンナビノイドの関与が示唆され,内因性カンナビノイドとドパミンやグルタミン酸神経系とのクロストークに熱い視線が注がれている.今後の薬物依存研究は,“渇望”の発現機序の解明と共に,“渇望”のモデル動物での情動や認知機能の変容にも焦点をあて,多面的に薬物依存を捉えていく必要がある.
  • ―網羅的プロファイリングを中心に
    浅沼 幹人, 宮崎 育子
    2005 年 126 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    従来,ある事象に関与すると考えられる分子の同定は,既知の関与分子と連関のあると報告された分子の発現の増減を一つ一つ確認していく,あるいは既知の分子と結合するタンパクをFar-Western法,two-hybrid法などで見つけていくという手法が用いられてきた.しかし,これではある事象に関与する既知の分子機構の枠を越えた新たな分子機構を発見したり,新たな観点に基づく分子仮説を提唱できるような発見をすることは難しかった.これに対して,10-20年前から,ある事象で発現が増減しているmRNAをスクリーニングする手法として,differential display法とそれに続くライブラリースクリーニング,RACE法などが広く用いられ,キット化された.さらに,近年1,000-10,000ものcDNA断片をブロットしたナイロン・グラス・プラスチックcDNAアレイが市販あるいはオーダーメードされるようになり,様々な生物学的・病理学的事象で発現が変化している遺伝子の網羅的検索が可能になった.近年のポストゲノムの潮流と遺伝子とタンパクの発現の乖離から,二次元電気泳動などによる発現タンパクのスクリーニング,さらに抗体がブロットされた抗体アレイを用いてのタンパク発現の網羅的検索も可能になってきている.しかし,これらの網羅的検索法はそれぞれ長所および短所,限界を有しており,目的に応じて使い分ける必要がある.本稿では,主に覚醒剤の急性毒性発現にかかわる遺伝子・分子の分子生物学的網羅的検索法の自検例を交えて,それらの長所・短所について概説する.
  • 天野 託, 関 貴弘, 松林 弘明, 笹 征史, 酒井 規雄
    2005 年 126 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    メタアンフェタミン(MAP)を5日間反復投与し,側坐核ニューロンと腹側被蓋野ドパミンニューロンのドパミンレセプターに対する感受性を検討した.MAP最終投与後5日後では,生体位の実験において,マイクロイオントホレーシスにより投与したドパミンおよびMAP対し,側坐核のニューロンは過感受性を示した.また,スライスパッチクランプ法を用いた実験でも,生体位と同様にD2レセプターに対する感受性の亢進が起こっていた.腹側被蓋野ドパミンニューロンのD1およびD2両レセプターもドパミンに対する感受性亢進が起こっていることが,スライスパッチクランプ法を用いた検討でも明らかになった.さらに,最終投与後5日後において,実験終了後のピペットから回収したmRNAをRT-PCRにより増幅した結果,側坐核ニューロンにはドパミンD1およびD2LレセプターのmRNAが存在していたが,両受容体のmRNAの発現パターンは生食投与群およびMAP投与群で,変化は認められなかった.以上の事から,MAP反復投与により,腹側被蓋野ドパミンおよび側坐核ニューロンにおいてドパミンレセプターの過感受性が起こると考えられる.しかし,ドパミンレセプターサブタイプの分画に変化がなく,おそらく細胞表面で作用するD2レセプター密度の増加か,細胞内伝達系の変化によりD2レセプターの機能が亢進している可能性が考えられる.MAPによるD2レセプターの感受性の変化にプロテインキナーゼC(PKC)が関与しているかをGFP標識PKC(PKC-GFP)のトランスロケーションをコンフォーカルレーザー顕微鏡下に観察し検討した.MAPの急性投与はSHSY-5Y細胞においてPKC-GFPのトランスロケーションを引き起こさなかった.
  • 成田 年, 宮竹 真由美, 鈴木 雅美, 鈴木 勉
    2005 年 126 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    依存性薬物に対する精神依存形成時には中枢神経系の可塑的な変化が起きている.近年,中枢神経系における神経伝達効率に対するグリア細胞の重要な役割が認識されるようになった.著者らは数種の依存性薬物のグリア細胞,特にアストロサイトに対する作用に着目し,in vivoおよびin vitroレベルで多角的に検討している.最近,強力な精神依存形成能を有する覚せい剤メタンフェタミンがアストロサイトを直接的かつ持続的に活性化するのに対して,麻薬性鎮痛薬であるモルヒネのアストロサイトへの作用が間接的かつ一過性であることが明らかになった.著者らの一連の研究成果は,メタンフェタミンの強力なアストロサイト活性化作用が,中枢神経系の可塑的な変化を惹起させ得る可能性を示唆するものである.一方,メタンフェタミンのような強力な依存性薬物とモルヒネは本質的に異なるものであり,臨床現場において適切にモルヒネを使用すれば,覚せい剤のように不可逆的な神経変性は形成されないものと考えられる.
  • 山田 清文, 永井 拓, 中島 晶, 鍋島 俊隆
    2005 年 126 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    薬物依存には中脳辺縁系ドパミン作動性神経系を中心とする報酬回路シナプスの可塑性が関与していると考えられている.我々はDNAアレイを用いて薬物依存関連分子を同定し,その病態生理学的役割について解析してきた.本稿では組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)および腫瘍壊死因子(TNF-α)の覚せい剤および麻薬依存における役割を解説する.tPAはモルヒネあるいはメタンフェタミンの処置により側坐核(NAC)で誘導され,主に神経細胞で発現する.tPA遺伝子欠損(tPA-KO)マウスではモルヒネおよびメタンフェタミンの報酬効果が減弱し,モルヒネの自発運動量増加作用およびメタンフェタミンの逆耐性にも障害が認められた.さらに,tPA-KOマウスではNACにおけるモルヒネ誘発性ドパミン遊離も障害されていた.tPA-KOマウスにおける行動およびドパミン遊離の障害は,tPAあるいはプラスミンをNACに補充することにより野生型マウスのレベルにまで回復した.したがって,tPAは覚せい剤および麻薬依存に促進的に作用するpro-addictive factorと考えられる.一方,モルヒネおよびメタンフェタミンにより誘導されるサイトカインTNF-αは薬物依存に抑制的に作用するanti-addictive factorとして機能する.すなわち,TNF-αはドパミントランスポーター(DAT)およびシナプス小胞トランスポーター(VMAT-2)を活性化してメタンフェタミン誘発性のドパミン遊離を抑制し,メタンフェタミンの報酬効果,弁別刺激効果および神経毒性を抑制する.以上の結果より,依存性薬物に対する感受性や薬物依存の再発脆弱性にはpro-addictive factorsとanti-addictive factorsの発現変化あるいは両者のバランス変化が重要な役割を果たしていることが考えられる.
シリーズ:ポストゲノムシークエンス時代の薬理学
  • 鈴木 善幸, 池尾 一穂, 五條堀 孝
    2005 年 126 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    ゲノムネットワークとは,ある生物種のゲノムにコードされているタンパク質や転写制御領域などといった,いわゆる遺伝子情報が織り成す生体分子ネットワークの総体と定義され,それは転写制御ネットワーク,代謝ネットワーク,さらにはタンパク質ネットワークなどといった部分ネットワークから構成されている.これらのネットワークの進化については,これまでの先駆的な研究により,その構成要素であるタンパク質の獲得や喪失による進化史の一部が明らかにされるとともに,ネットワークの内部では部位によって進化的保存度が異なることや,構成要素であるタンパク質の進化がネットワークにおける他のタンパク質との相互作用による影響を受けていることなどといった進化機構の一部も明らかになってきている.ゲノムネットワークプロジェクトは,ヒトの様々な細胞における遺伝子発現様式,DNA-タンパク質相互作用,さらにはタンパク質-タンパク質相互作用などを網羅的に解明し,データベースを構築,そしてそれを用いて様々な研究を推進するという一大プロジェクトであり,ヒトにおける様々な疾患の発現機序などが解明されることが大いに期待されている.
  • 鎌滝 哲也
    2005 年 126 巻 1 号 p. 60-65
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/01
    ジャーナル フリー
    テーラーメイド薬物治療を実現するために,ポストゲノム時代の一側面として何が必要かを考えてみた.テーラーメイド医療の究極的な目的は個々の患者の遺伝子から患者の体質のタイプわけを行い,患者のタイプに合った適切な医薬品を適切な量投与して,有効で安全な薬物治療を実現することである.この目的に対して,代表的な少数の医薬品については目標を達成できたと言えるが,その達成度は未だ低い.実際には,テーラーメイド医療を真に地に着いたものにするためには,もっともっと困難なステップが待っている.これまでに知られている遺伝子多型だけでは体内動態が推定できない例が数多くある.この場合には,新規の多型の発見とエピジェネッティックスなどの未知の因子の解明を急ぐ必要がある.さらに,国家規模で医薬品に「異常な」応答性を示した患者の遺伝子を収集して,その遺伝子解析を進める必要があるだろう.次に,新たに見出された多型の臨床的な意義の検証が必要である.これにも手間と暇が必要だろう.多数の医師と患者の協力なしには実現しない.臨床現場に応用できるようにするには,先ず患者の遺伝子情報が得られなくてはならないし,次にこの遺伝子情報を集積するセンターが必要である.また,患者の遺伝子情報を臨床現場で引き出せるようなポケットサイズの情報処理端末が必要だろう.これにはパイロット的な技術開発を急がなくてはならない.技術的には可能だろうが,未だ現実的にはなっていない.この臨床までの応用には個人の遺伝子情報の保護のために,情報を引き出す時に指紋の認識などの様な方法で個人の特定を行わなくてはならないだろう.このような署名代わりのやり方で本人から遺伝子情報を引き出す「許可」が得られなくてはならない.そのためのIT技術の開発研究も急がなくてはならない.すでに,民間レベルではある程度走り始めているようだが,民間レベルでは限界がある.途中まで完成されてきている知識体系をテーラーメイド医療の原点に立ち返り,患者のために現実に使えるようにすること.これも大きな「ポストゲノム」と言えるだろう.
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