nitrendipine の心・脈管系に対する作用を特に冠循環に着目して麻酔イヌ,イヌ血液灌流乳頭筋および摘出血管標本で検討した.麻酔イヌにおいて nitrendipine の静脈内(0.3~10μg/kg)および十二指腸内(0.1mg/kg)投与では血圧は下降したが,冠および椎骨動脈血流量は著明に増加した.nifedipineもほぼ同様の作用を示した.nitrendipine の少量(3μg/kg,i.v.)で左心室内圧最大上昇速度(maxdP/dt)および心筋酸素消費量(MVO
2)は反射性に軽度増加し,大量投与(30~100μg/kg,i.v.)では減少した.また,nitrendipine は冠血流量増加と同時に冠動静脈血酸素濃度較差(a-vO
2)を減少させ,心臓への酸素供給を増加した.nifedipine も同様に心臓への酸素供給を増加した.nitrendipine およびnifedipine の冠動脈内投与による麻酔イヌの冠血流量増加作用の ED50 値は,それぞれ,0.51 μg および 0.42 μgでほぼ同等であったが,血液灌流乳頭筋収縮力の抑制作用の ED50 値はそれぞれ,14.9 μgおよび 2.3 μg であり,nitrendipine の方が nifedipine よりも約5倍血管選択性が高かった.ウサギ摘出大動脈標本においてnitrendipine および nifedipine は KCl 収縮を抑制し,その IC50 値はそれぞれ,2.01×10
-9Mおよび8.01×10
-9Mであったが,phenylephrine による収縮は 10
-7M でも約20%しか抑制されなかった.さらに,nitrendipine はブタ摘出冠動脈においてKCl,acetylcholine,hista.mine,5-hydroxytryptamine,norepinephrine および prostaglandin F
2α による収縮を抑制し,冠スパスムモデルの一種とされる3,4-diaminopyridine で誘発したイヌ摘出冠動脈の周期的収縮を消失させた.以上,nitrendipine は Ca
2+ 拮抗作用によると考えられる選択的な血管拡張作用によって,心臓の後負荷(血圧)軽減作用および冠血流量増加作用による心臓への酸素供給増加作用ならびに抗スパスム作用を示し,狭心症の治療に対して有用であることが示唆された.
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