日本薬理学雑誌
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132 巻, 2 号
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実験技術
  • 石川 智久
    2008 年 132 巻 2 号 p. 79-82
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    皮膚血管は冷却刺激に応答して収縮し,体表面からの熱放散を制限する.この反応は,交感神経の興奮を介する全身性メカニズムと,局所的に皮膚血管の収縮反応性が増大する局所性メカニズムとが相乗的に機能して引き起こされる.局所性メカニズムの存在は,摘出血管を用いたin vitro実験によって証明されてきた.我々は,ラットやマウスを使ってin vivoで皮膚血流調節を解析する実験方法を確立した.皮膚循環は,様々な因子に起因する神経性の影響を強く受けるため,in vivoで皮膚血流を定量的に測定することは難しい.そこで,電位依存性Na+チャネル阻害薬であるテトロドトキシン(TTX)処置により神経伝導を遮断した条件下で皮膚血流を測定することを試みた.この条件下においても,ラットおよびマウスの後肢を局所冷却することにより,足底部の皮膚血流量が減少することを証明し,局所性メカニズムによる反応をin vivoで定量的に評価できることを示した.興味深いことに,マウスとラットでは,この反応の主要なメカニズムが異なっていた.すなわち,ラットでは,冷却刺激により血管あるいは周囲の細胞からATPが遊離され,これが交感神経終末のP2受容体に作用することでノルアドレナリン遊離を誘発し,平滑筋細胞の主にα1受容体の活性化を介して皮膚血管が収縮するのに対し,マウスでは,冷却刺激はRhoキナーゼの活性化を介して血管平滑筋のα2C受容体を介した収縮反応性を増大させることで皮膚血管を収縮させることが示唆された.In vivoでの解析は,レイノー病はもちろん,糖尿病やホルモン異常など末梢循環障害を来たす病態と皮膚循環調節との関係を解析する際に不可欠であり,この解析方法はこうした病態の治療薬や予防薬の開発にも役立つであろう.
  • 山本 浩一, 大和谷 厚
    2008 年 132 巻 2 号 p. 83-88
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    ラットやマウスなどの齧歯類動物には嘔吐反射はないが,抗がん薬の投与や回転刺激,放射線照射など催吐作用のある刺激を与えると,カオリンなどの通常の餌としては異常な物に対して食欲を示すパイカ行動(異味症)が現れる.催吐刺激により現れるこの行動はそれぞれの刺激に特異的な制吐薬の前処置によって抑制でき,われわれはパイカ行動を指標とすれば齧歯類を悪心・嘔吐の研究に応用できることを報告してきた.齧歯類でも特にマウスは遺伝子改変動物を用いることができるなど利点も多いが,催吐刺激によるカオリン摂取量は,ラットに比べて非常に少ないことや,カオリンペレットをあちこちに食べ散らかすために摂取量の正確な測定は困難であった.そこで,われわれは経口摂取しても消化管から吸収されず糞便中に排出される赤色色素のカルミンを添加して作成したカオリンペレットを用い,催吐刺激後2日間の糞便を回収し,糞便中から抽出したカルミンを比色定量することにより精度よくマウスのカオリン摂取量を定量する方法を開発した.これまではイヌ・フェレット・ネコ・ブタ・サルなどの中型から大型の比較的高価で遺伝的なバックグラウンドが一定していない動物を用いざるを得ず,多大な労力と費用のかかっていた悪心・嘔吐の実験を,齧歯類動物のパイカ行動を利用することによって簡便化することができ,悪心・嘔吐の発症機構そのものの研究に加え,新規薬物の有害作用としての悪心・嘔吐のスクリーニングにも広く応用できるものと期待している.
治療薬シリーズ(27) 腎疾患治療薬
  • 林 一己
    2008 年 132 巻 2 号 p. 89-95
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    2012年の腎臓病患者の予測は3,500万人を超え,透析医療は各国の医療経済を圧迫している.また,先進国では高齢化や生活習慣に基づく,高タンパク摂取,高血圧,高血糖,高食塩負荷等の腎への負担は増大している.しかしながら,誤解を恐れずに表現すれば一般的に腎臓は再生しないと考えられている.魚類におけるネフロン再生は報告されているものの,両生類以上での再生は見られず,ヒトに至っては幹細胞から足突起細胞への分化にすら成功していない.従って,人は神への挑戦にも増して,腎疾患進行にブレーキをかける薬剤の開発に注力すべきであろう.腎疾患の発症,進展には糸球体過剰濾過に代表される非免疫学的機序と接着分子発現亢進や炎症メディエーター産生を介した免疫炎症反応が複雑に関与していることは良く知られている.現在,糸球体過剰濾過を是正するレニン・アンジオテンシン系の抑制が腎機能維持の第一選択として一般化されているが,腎疾患の進行を完全に食い止めることはできず,他のキープレーヤーの存在が示唆されている.近年,代謝拮抗薬であるmethotrexateがリウマチ患者の心血管イベントを抑制する事が報告された事から,従来にも増して心血管病変における免疫炎症反応の関与が注目されている.当然,動脈硬化病変形成に酷似している腎疾患の進行抑制において新たなアプローチとして免疫炎症反応への関心が高まる.創薬に必須の腎疾患動物モデルではどうだろうか.腎炎モデル動物ならいざ知らず,非免疫学的に惹起した慢性腎疾患モデル動物における免疫炎症反応が主役級の役割を果たしているか否かに興味が持たれる.そこで,本稿で非免疫学的に作製する腎疾患モデルの発症,進展への免疫炎症反応の関与および血行動態改善薬への上乗せ効果が期待出来る免疫炎症反応抑制薬について概説する.
  • 永松 正
    2008 年 132 巻 2 号 p. 96-99
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    抗GBM腎炎は糸球体基底膜に対する抗体により惹起されるラットモデルで,糸球体腎炎の発症進展に関する研究はこのモデルから始まったと言える.Heymann腎炎,抗Thy1腎炎はそれぞれ尿細管刷子縁膜やメサンギウム細胞に局在する抗原に対する抗体によって惹起される.BSA腎炎は外来抗原とその抗体によって惹起される腎炎である.HIGAマウスはIgA腎症のモデルで,NZB/W F1マウスやMRL/lprマウスはループス腎炎の自然発症腎炎モデルである.これらの腎炎モデルを用いて病態の解明や薬理学的研究がなされてきた.近年,分子生物学の発展とともに,遺伝子改変モデルを用いて抗GBM腎炎やループス腎炎の発症進展を調べたり,これらのモデルのgene chipやプロテオーム解析により,従来の研究で得られてきた腎炎の発症・進展因子に関する情報が分子レベル,遺伝子レベルで研究できるようになった.
治療薬シリーズ(28) 標的分子薬-1
  • 小山 則行, 曲尾 直樹, 山本 裕之, 松井 順二, 鶴岡 明彦
    2008 年 132 巻 2 号 p. 100-104
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    VEGFあるいはVEGF受容体を阻害し,がんの血管新生を抑制する抗がん薬の開発が進んでいる.E7080は強力なマルチキナーゼ阻害作用を有し,血管新生に重要なVEGFおよびFGF,PDGF,SCFの受容体に選択性が高いことを特徴とする化合物である.ヒトがん細胞株を移植したヌードマウスの検討では,肝がん,肺がん,大腸がん,乳がんなどのモデルにおいて優れた抗腫瘍効果が,マウス大腸がん株同所移植モデルでは延命効果が明らかにされている.また,肺がんモデルにてプラチナ製剤と併用することで,腫瘍縮小効果の相乗的な増強が認められている.一方,マウス浮遊内皮細胞は,E7080投与により血液中の数が顕著に変動することから,血管への作用を検証する新たなバイオマーカーになると思われる.近年の研究で,腫瘍内血管の構造と,がんの悪性度や血管新生阻害薬の有効性との関連が明らかにされつつある.浮遊内皮細胞や腫瘍内血管研究の,臨床での新たな展開に期待したい.
  • 小泉 史明
    2008 年 132 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    近年,がん分子標的薬の開発が盛んになり,一部で臨床使用が可能となった.分子標的薬は,標的分子に作用する薬剤として同定されるため,おのずとバイオマーカー研究とは親和性が高いと考えられる.バイオマーカーには様々なものが存在するが,がん薬物療法においては,高い毒性と低い有効性の点から,薬効,安全性を予測するバイオマーカー研究が盛んにおこなわれている.また,新薬開発の初期段階から,バイオマーカーを利用する試みも始まっている.本稿では,がん臨床におけるバイオマーカー研究の中から,抗がん薬のバイオマーカー研究の現状を概説し,今後の方向性について述べてみたい.
新薬紹介総説
  • 津田 久嗣
    2008 年 132 巻 2 号 p. 111-118
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    メシル酸ガレノキサシン水和物(GRNX,ジェニナック®錠200 mg)は経口キノロン系抗菌薬であり,新薬として2007年10月より発売された.近年,感染症治療の場で,薬剤耐性菌の増加が問題となっており,ガレノキサシンはペニシリン耐性肺炎球菌を含む多剤耐性肺炎球菌やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌を含む呼吸器や耳鼻咽喉科領域感染症の主要な原因菌に対して,強い抗菌活性および高い臨床的有効率を示し,経口抗菌薬で初めてペニシリン耐性肺炎球菌に対する適応を取得した.経口吸収は良好で,従来のフルオロキノロン系抗菌薬と比べ高い血漿中濃度が得られ,また,半減期が長く大きな曲線下面積(AUC)を示し,1日1回の服用が可能という特長を有する.ガレノキサシンの用量は薬物動態/薬力学理論に基づき決定され,血漿中および組織中濃度は原因菌の最小発育阻止濃度(MIC)や耐性変異抑制濃度(MPC)を超えており,耐性化を起こし難い薬剤と考えられる.また,フルオロキノロン系抗菌薬で懸念されている心電図QT間隔延長,光毒性,低血糖,中枢神経系障害,肝毒性等の重篤な副作用は臨床試験においてみられなかった.以上のことから,ガレノキサシンは呼吸器および耳鼻咽喉科領域の耐性菌を含む感染症に対して,新たな治療方法を提供できる経口抗菌薬として期待される.
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