日本薬理学雑誌
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125 巻, 4 号
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ミニ総説:トランスポーター▼研究の最前線
  • 杉山 雄一, 前田 和哉
    2005 年 125 巻 4 号 p. 178-184
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/01
    ジャーナル フリー
    近年,トランスポーターのクローニング,機能解析が進むにつれて,トランスポーターの広範な基質認識性に加え,多くの薬物を輸送することが明らかとなり,薬物動態におけるトランスポーターの重要性がクローズアップされてきた.トランスポーターは,薬物吸収を司る小腸,薬物の排泄を担う肝臓や腎臓,また,脳・中枢を保護するため,物質の膜透過を制限する血液脳関門・血液脳脊髄液関門など広範な組織に発現が認められる.そのため,トランスポーターは,吸収・排泄に関与して全身の薬物動態を制御する因子として働くのみならず,局所の薬物の分布も制御していることが考えられてきた.また,トランスポーターは,組織特異的に発現するものも見られ,特定の臓器に薬物を送達するターゲットとして有効であると考えられる.従って,代謝酵素と並んで,トランスポーターへの基質認識・輸送特性を理解することは,薬物動態の至適化や標的指向化を行うにあたって重要な情報となる.また,これらトランスポーターを介した薬物間相互作用や遺伝子多型,病態や相互作用薬による発現変動などによる機能変化があることが報告されてきた.従って,個々の薬物についてこのような機能変動が薬物動態・薬効・副作用にどのような影響を与えるかを解析する必要性が出てきている.そのためには,in vitro発現系などの実験結果からin vivoにおける動態を定量的に予測する方法論,ヒトin vivoにおいて個々のトランスポーターの機能を推定するprobe drugの開発などトランスポーター研究の基盤作りとともに,より臨床における事例を明らかにしていくことによりさらに臨床医療におけるトランスポーターの重要性が明らかになるものと考えられる.
  • 小林 綾, 木村 泰久, 松尾 道憲, 植田 和光
    2005 年 125 巻 4 号 p. 185-193
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/01
    ジャーナル フリー
    ABCタンパク質は,よく保存されたATP結合ドメインを1機能分子あたり2つもつ膜タンパク質ファミリーであり,バクテリアからヒトまで生物界に幅広く存在する.ヒトのもつ49種類のABCタンパク質は生理的に重要な役割を負っており,それぞれの遺伝子の異常がさまざまな疾病を引き起こす.特に,癌の薬剤耐性や,糖尿病,動脈硬化などの現代人にとって重大な疾患と関連しており,創薬のターゲットとして重要である.MDR1は幅広い構造の多種類の薬剤を結合し,ATP加水分解に依存して細胞や体内から排出する.MDR1は癌の多剤耐性だけでなく,多くの薬剤の小腸からの吸収性や体内動態と直接結びついており,薬剤の開発において重要である.糖尿病治療薬スルホニル尿素剤の受容体であるSURは,ATP感受性K+チャネルの制御サブユニットとして機能し,細胞内代謝状態の変化にともなって膜電位を調節し,膵β細胞からのインスリン分泌および虚血時の心筋細胞保護に重要な役割を果たしている.また最近,ABCA1やABCG5,ABCG8など多くのABCタンパク質が脂質恒常性維持に関与していることが明らかになりつつある.ABCA1はapoA-Iにコレステロールとリン脂質を受け渡し高密度リポタンパク質(HDL)を形成する過程に重要な役割を果たしている.しかし,そのメカニズムや翻訳後調節機構はいまだ未知であり,それらの解明がABCA1をターゲットとした脂質恒常性改善薬の開発には必須である.また,ABCG5やABCG8などのハーフサイズのABCタンパク質が,植物ステロールの吸収の抑制やHDL形成に関与していることが明らかになりつつある.脂質の動態の分子メカニズムの解明および脂質恒常性維持に関与するABCタンパク質をターゲットとした創薬はこれから佳境に入ろうとしている.
  • 野沢 敬, 玉井 郁巳
    2005 年 125 巻 4 号 p. 194-199
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/01
    ジャーナル フリー
    経口投与可能な薬物を創製するためには,溶解性,安定性,膜透過性のような多様な因子を克服する必要がある.Biopharmaceutical Classification System(BCS)においてClass 1やClass 2に分類される薬物は単純拡散による高い膜透過性を有する場合が多いが,初回通過効果を受けやすい.一方,Class 3に属する薬物は溶解性や初回通過効果の問題は少ないが,単純拡散による膜透過は期待できず,トランスポーターを介した膜透過性改善が望まれる.本研究では,既存薬物の膜透過性をいかにして改善できるか,という課題に対して,トランスポーターに着目した吸収改善手法の提唱を試みた.トランスポーターは300種類以上の分子の存在が推定されており,基質選択性,発現組織,機能が多様であり,各分子の特徴を十分把握すれば消化管吸収を含め薬物動態制御に利用できる可能性がある.小腸上皮細胞において栄養物摂取に働くペプチドトランスポーターPEPT1は基質認識性が広い.PEPT1はプロトン勾配を駆動力とするが,その至適pHは化合物によって異なる.本検討では,PEPT1を介した膜輸送が消化管内生理的pHよりも低い酸性領域で高くなり,通常では30%程度の吸収率しか示さないβ-ラクタム抗生物質のセフィキシムに着目した.そして,PEPT1を介したセフィキシム輸送に最適な管腔内酸性pHを酸性高分子を用いて得ることによって,in vivoでの吸収改善を試みた.酸性高分子として腸溶性製剤被膜に利用されるポリメタクリル酸誘導体を同時投与することによりセフィキシムの吸収率を2倍以上に改善することができた.従来,化学構造の変換無しにトランスポーターによる膜輸送改善を試みた例はなく,本成果はトランスポーター活性を利用した新しい薬物吸収改善手法を提案するものである.
  • 水野 尚美, 丹羽 卓朗
    2005 年 125 巻 4 号 p. 200-206
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/01
    ジャーナル フリー
    薬物トランスポーターは生体内の様々な臓器に発現し,薬物の輸送に関わっている.近年,多くのトランスポーター分子が同定されると共にその機能解析が急速に進み,薬物の体内動態を決める重要なファクターの一つであることが明らかになってきた.そのため,医薬品開発の面からもトランスポーター研究への関心が高まっている.本稿ではP糖タンパク(P-gp)と有機アニオントランスポーター(OATP-C)を例に,我々のトランスポーター研究への取り組み事例を紹介する.幅広い基質認識性を有するP-gpは,薬物の中枢移行性に重要な役割を果たしている.P-gp基質になる場合,P-gpにくみ出されるため中枢移行性は著しく低下する.中枢移行性を確保するためには,P-gpの基質にならない化合物を選択するべきである.In vitro評価系としては遺伝子導入細胞を用いた経細胞輸送系が,in vivoでのP-gpの寄与を見積もるにはノックアウトマウスが,一般的に用いられている.ヒトOATP-Cは肝血管側膜に発現し,種々有機アニオンの肝取り込みに重要な役割を果たしている.OATP-Cは肝臓に特異的に発現していることから,肝ターゲッティングに利用できると考えられる.このようにトランスポーターの輸送特性を考慮して動態特性の至適化を図ることが,効率よい医薬品開発につながると考えられる.
シリーズ:ポストゲノムシークエンス時代の薬理学
  • 村上 学
    2005 年 125 巻 4 号 p. 209-212
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/01
    ジャーナル フリー
    20世紀後半における遺伝子組換え動物作製法の開発により,遺伝子の機能を解析するために,遺伝子組換え動物,特にマウスを用いることが一般的になった.遺伝子の機能に注目して遺伝子組換えマウスを考える場合,既製のマウスを導入する場合と,新しくマウスを作製する場合では相当の違いがある.既製のマウスを導入する場合はSPF飼育における検疫が重要である.少人数のグループが新しくマウスを作製する場合は,限られた設備,予算を有効に使うために競争を避け,解析する遺伝子の選択,研究計画の進め方を熟慮する必要がある.個々のマウスの解析法は,遺伝子組換え動物作製法に比べ,遅れている.日本国内には効率よい機能解析のために,個体動物解析手法データベースがあり,いっそうの充実が望まれる.共同研究を行う時は多面的解析の研究レベルを維持する努力が重要である.
  • 春藤 久人, 杉浦 麗子, 久野 高義
    2005 年 125 巻 4 号 p. 213-218
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/01
    ジャーナル フリー
    ここ数年間各種生物のゲノムシークエンスプロジェクトが進行し,多くの生物種のゲノムの全構造が次々と明らかにされている.この成果を生かした遺伝子機能の網羅的解析により,生命現象を理解することを目的にしたいわゆるポストゲノム研究に入り,比較的早い時期に全塩基配列決定が終了した酵母,線虫,ショウジョウバエなどの生物は,高等生物のモデルとして,医学,薬学および生命科学の分野で大きな役割を果たすようになってきた.中でも酵母は,強力な遺伝学的解析と組み合わせた膨大なゲノミクス情報が得られ,酵母ホモログが存在するような高等動物の遺伝子機能解析に有力な情報を提供している.近年ゲノム創薬に酵母ゲノミクスを応用することにより,ハイスループットスクリーニングなどの網羅的な遺伝子機能解析により,薬物の作用様式や標的分子あるいは経路に関する新たな情報が蓄積しつつある.本稿では創薬研究における酵母ゲノミクスの活用について,具体的な例を挙げてモデル生物としての酵母の役割について述べたい.
総説
  • 廣中 直行
    2005 年 125 巻 4 号 p. 219-224
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/01
    ジャーナル フリー
    実験心理学的な手法を用いて行動に対する薬物効果を調べる行動薬理学は,現在の薬理学の中で確たる地歩を築いている.しかしながら,分子生物学や脳科学が急速に発展している今日,その存在意義が根本から問い直されていると言えるであろう.本稿では薬理学とくに創薬の現場と結びついた研究の領域で,動物の行動実験を行うことにどのような意義があるのかを考えてみたい.そこでまず行動薬理学の草創期を振り返り,条件回避行動に対するクロルプロマジンの静穏効果の発見,オペラント行動に対する薬物効果の頻度依存性の発見,薬物依存研究における薬物自己投与実験の創造という3大重要知見の意義を考察する.次に創薬の現場における行動実験の利用法について,(1)薬効薬理領域における動物モデルの考え方,(2)安全性薬理領域における行動テストバッテリーの組み方,(3)非臨床と臨床をつなぐ外挿の考え方について,筆者なりの見解を述べる.最後に,今後行動薬理学がいかなる方向に発展する可能性を宿しているか,脳科学や精神医学との関連を考える.
実験技術
  • 廣瀬 謙造
    2005 年 125 巻 4 号 p. 225-231
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/01
    ジャーナル フリー
    siRNAやsiRNA発現ベクターを用いたRNAiは,哺乳動物細胞において簡便で迅速な遺伝子発現抑制を実現することができ,遺伝子とその機能の関係を網羅的に理解するための画期的な技術として期待されている.我々は,任意のDNA断片を酵素的にsiRNA発現コンストラクトへと変換する技術であるEPRIL(enzymatic production of RNA interference library)法を開発した.このEPRIL法によって生成されるsiRNA発現コンストラクトは多様性に富んだRNAiライブラリーを構成する.従って,ある遺伝子についてRNAiライブラリーを作製すると,その遺伝子の様々な部分に対応するsiRNAコンストラクトが得られる.siRNAは配列によって効果が著しく異なることが知られているが,RNAiライブラリーをスクリーニングすることによって,最も強力な遺伝子発現抑制作用を有するsiRNA発現コンストラクトを取得することができる.また,EPRIL法の原料としては,多種類のDNA混合物であるcDNAライブラリーを用いることができる.cDNAライブラリーから作製されたRNAiライブラリーは,発現している遺伝子を網羅するのに十分な複雑性を持つと考えられ,このライブラリーを用いることによって網羅的な機能遺伝子の探索が可能になる.以上のように哺乳動物におけるRNAiの可能性を広げるEPRIL法は,今後の薬理学研究や創薬科学において重要な貢献をするであろうと期待される.
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