日本薬理学雑誌
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136 巻 , 6 号
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特集 高尿酸血症・痛風治療のブレイクスルー
  • 安西 尚彦
    2010 年 136 巻 6 号 p. 316-320
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/06
    ジャーナル フリー
    ヒトおよび霊長類は進化の過程で尿酸酸化酵素(ウリカーゼ)を欠損したため,プリン代謝の最終産物は尿酸となる.高い血中尿酸値は霊長類の生存に有利に働いたと考えられるが,難溶性の尿酸の体内での蓄積は,関節内腔および尿細管内での結晶化を引き起こし,痛風特有の関節炎および腎障害の原因となる.原発性痛風の9割の患者に,腎臓での尿酸排出低下が認められるため,腎臓での尿酸代謝機序の解明は極めて重要である.尿酸は糸球体ろ過を受けた後,その9割が血中に回収される.そこでは尿細管細胞での尿酸の経上皮輸送(再吸収および分泌)が行われており,尿酸のトランスポーターが重要な役割を果たしている.最近の全ゲノム関連解析により新たな痛風発症因子として,複数のトランスポーターが報告され,注目を浴びている.腎尿細管上皮に存在する尿酸トランスポーターによる腎臓での尿酸代謝の理解が,新規尿酸降下薬創製につながることが期待される.
  • 市田 公美
    2010 年 136 巻 6 号 p. 321-324
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/06
    ジャーナル フリー
    食生活の欧米化や飲酒量の増加などにより,痛風・高尿酸血症の患者数は増加している.現在,高尿酸血症は,メタボリックシンドロームと高率に合併することが報告され,いくつかの機序が提唱されている.高尿酸血症の原因の1つである尿酸排泄能の低下,すなわち尿酸クリアランス低下の原因として,高インスリン血症の関与が考えられている.インスリンはナトリウム再吸収と共役して,尿酸の再吸収促進作用を有する.したがって,インスリン抵抗性により高インスリン血症を来し,腎尿細管でインスリン作用が亢進することにより,腎尿細管でのナトリウム再吸収増加を介して,尿酸クリアランスが低下し,血清尿酸値が上昇する.また,近位尿細管において尿酸の再吸収に働くトランスポーターURAT1を介して尿酸が再吸収される際,尿酸の交換基質として分泌される乳酸等が,肥満において増加し尿酸の再吸収を亢進させる機序も想定されている.高尿酸血症のもう1つの原因である尿酸合成亢進を引き起こす機序として,過食により肝臓での脂肪合成が亢進し,NADPHが消費されることから始まる連鎖が想定されている.このNADPHの供給のためペントースリン酸経路が亢進し,その中間代謝物であるリボース-5-リン酸が増加する.それにより,プリン体のde Novo合成系が亢進し高尿酸血症をきたす.また同時に,遊離脂肪酸が増加し,肝臓でのインスリン抵抗性が惹起され,インスリンに制御されている酵素活性の低下を介し,ホスホリボシルピロリン酸の合成が亢進し,プリン体の生合成系が亢進する機序も想定されている.一方,フルクトース摂取がメタボリックシンドロームを来しやすいことは知られている.同時に,このフルクトースが肝臓で代謝される際,ATPと無機リンが消費され,無機リンを用いたATP再合成の低下をきたし,無機リンにより抑制されていたAMPディアミナーゼの活性亢進を経て,AMPの分解が亢進し,結果的に尿酸への代謝が増加する.
  • 久留 一郎
    2010 年 136 巻 6 号 p. 325-329
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/06
    ジャーナル フリー
    高尿酸血症は高血圧患者の心血管事故の危険因子であることが報告されている.その原因として尿酸トランスポーターの役割が注目されている.尿酸トランスポーターURAT1は腎での尿酸再吸収を担い血清尿酸値を規定する分子であるが,近年URAT1が腎のみならず,血管や脂肪細胞に発現し尿酸を細胞内に取り込み細胞内レドックスの異常を惹起して血管の炎症やアディポサイトカインの分泌異常を惹起する.この事実は高尿酸血症による臓器障害は細胞内尿酸濃度の増加によると考えられる.一方で低すぎる血清尿酸値も相対的な酸化ストレスの増大が血管の攣縮を来して,腎不全のみならず心血管事故に関与する可能性が示されている.高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインに沿った高尿酸血症合併高血圧の管理が重要である.
  • 谷口 敦夫
    2010 年 136 巻 6 号 p. 330-334
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/06
    ジャーナル フリー
    かつて日本では痛風はまれな疾患であった.しかし,現在では日本での痛風の有病率は欧米に匹敵する.高尿酸血症も成人男性の20~30%に達する.このように痛風・高尿酸血症は日常診療で遭遇することの多い疾患であり,充分なコンセンサスの得られた治療ガイドラインが必要である.そこで,2002年に日本痛風・核酸代謝学会は高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインを作成し,標準的な治療法を示した.第2版は2010年1月に発刊され,第1版で示された高尿酸血症・痛風治療の基本を踏襲しつつ,第1版発刊以後の新たなエビデンスが加えられている.高尿酸血症には尿酸塩沈着による合併症と,尿酸塩の沈着が直接関連しない合併症がある.痛風は前者であり,このほかに痛風結節,痛風腎,尿路結石がある.一方,後者には生活習慣病あるいはメタボリックシンドロームがある.痛風では痛風発作と称される激しい関節炎や組織障害をきたす痛風結節が注目されがちである.しかし,痛風はあくまで高尿酸血症の合併症の1つであり,全身的な代謝異常としての認識が必要である.尿酸塩の組織沈着という観点から,高尿酸血症は血清尿酸値7.0 mg/dlを超える場合と定義されているが,第2版では最近の疫学調査の結果も重視し,血清尿酸値7.0 mg/dl以下であっても血清尿酸値が上昇する場合には生活習慣病のリスクが高まることに留意すべきであることが加えられた.一方,高尿酸血症・痛風の治療においては,基礎療法として生活指導が重要である.薬物治療では痛風関節炎(痛風発作)の治療と高尿酸血症の治療を区別する必要がある.高尿酸血症の治療については,痛風あるいは痛風結節の有無・高尿酸血症に伴う合併病態の有無・高尿酸血症の程度を考慮して治療方針を立てていく.このガイドラインが,高尿酸血症・痛風の臨床において有効に活用されることを期待する.
総説
  • 木村 英雄
    2010 年 136 巻 6 号 p. 335-339
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/06
    ジャーナル フリー
    H2Sは温泉や下水などで遭遇するあの卵の腐ったにおいの主で,毒ガスとして悪名高い.1989年と1990年に,牛,人,ラットの脳にH2Sが存在することを示した3報の論文をきっかけに,私たちは1996年に,H2S生産酵素cystathionine β-synthase(CBS)が脳に存在し,記憶のシナプスモデルである海馬長期増強(LTP)を誘導促進することから,neuromodulator(神経調節物質)としてのH2Sを提案した.翌年には,生産酵素cystathionine γ-lyase(CSE)が,胸部大動脈,門脈,回腸などの平滑筋組織に存在し,H2Sが弛緩作用を示すことから,平滑筋弛緩因子として報告した.昨年には,第3の生産酵素3-mercaptopyruvate sulfurtransferase(3MST)を発表し,脳や血管内皮における機能を提案した.H2Sにはシグナル分子としての働きに加えて,神経や心筋を酸化ストレスから保護し,インスリンの分泌制御,抗炎症作用,疼痛への関与など,その作用は多岐にわたっている.基礎研究が進む一方で,H2Sの医療応用への開発が進んでいる.ここでは,最近のH2S研究の進展について概説する.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(10)(11)
  • 段 孝, 宮田 敏男
    2010 年 136 巻 6 号 p. 340-343
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/06
    ジャーナル フリー
    脳梗塞,虚血性心疾患の治療および予防薬として,プラスミノーゲン・アクチベーター・インヒビター-1(PAI-1)阻害経口薬の開発が待たれている.筆者らはSBDD技術からリード化合物TM5007を取得し,構造最適化を図り,TM5275を経て,さらに改良を重ねた結果,現在では複数の臨床開発候補化合物を有している.筆者らの経験を踏まえて,大学における創薬ならびにトランスレーショナルリサーチの意義,その難しさや今後の展望について述べる.
  • 本橋 新一郎, 中山 俊憲
    2010 年 136 巻 6 号 p. 344-347
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/06
    ジャーナル フリー
    NKT細胞は抗原提示細胞上のCD1d分子に提示された外来性抗原である糖脂質,α-ガラクトシルセラミド(αGalCer)を認識し活性化する.活性化したNKT細胞はがん転移モデルにおいて強力な抗腫瘍効果を示すことから,ヒト担がん状態においても内在性NKT細胞の活性化により強力な抗腫瘍効果を発揮することが期待される.これらのことから内在性のNKT細胞活性化を目指すαGalCerパルス樹状細胞療法およびin vitroでNKT細胞を活性化し投与する活性化NKT細胞療法,さらには両者を組み合わせた複合免疫療法を臨床研究として施行している.原発性肺癌および頭頸部癌に対して現在までに報告してきた,NKT細胞を標的とした免疫細胞療法の安全性,NKT細胞特異的免疫学的解析結果さらには臨床効果につき概説する.
新薬紹介総説
  • 檜杖 昌則
    2010 年 136 巻 6 号 p. 349-358
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/06
    ジャーナル フリー
    マラビロクは,HIV(human immunodeficiency virus)が宿主細胞に侵入する際に補受容体として利用するCCケモカイン受容体5(CCR5)に対して選択的に作用するCCR5阻害薬である.既存の抗HIV薬とは異なり,細胞膜上のCCR5に結合してHIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120とCCR5との結合を遮断することによりCCR5指向性HIV-1の細胞内への侵入を阻害するという新規作用機序で,抗ウイルス作用を発揮する.CCR5指向性実験室HIV-1株および臨床分離株を用いた抗ウイルス作用の検討では,マラビロクはすべてのクレードのCCR5指向性HIV-1に対してほぼ同等の抗ウイルス作用を示した.一方,CXCR4指向性および二重指向性HIV-1に対しては作用を示さなかった.また,逆転写酵素阻害薬耐性またはプロテアーゼ阻害薬耐性ウイルスに対しても野生型と同等の抗ウイルス作用を示した.In vitroでの検討で耐性ウイルスの出現が確認されたが,これらはCCR5指向性を維持しており,指向性変化は認められなかった.他の抗HIV薬による治療歴がある最適背景療法(OBT)実施中のCCR5指向性HIV-1感染患者を対象に行われた主軸となる2つの臨床試験では,ベースライン値から投与48週目までのHIV RNA量の減少量は,OBT単独群(プラセボ)に対し,マラビロク300 mg 1日1回または2回投与群で有意に減少幅が大きく,また,CD4リンパ球の増加量においてもプラセボ群より有意に高い結果が得られ,OBTにマラビロクを上乗せすることでOBT単独よりも優れたウイルス学的,免疫学的効果が得られることが示された.マラビロクは,新しい作用機序を有する抗HIV薬であり既存の薬剤に耐性のHIV感染症にも有効であることが示唆され,HIV感染の薬物治療の新たな選択肢として重要な役割を果たすことが期待される.
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