日本薬理学雑誌
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138 巻, 3 号
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特集 アジアにおける動物実験代替法の展開
  • 大野 泰雄
    2011 年 138 巻 3 号 p. 99-102
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    薬理学研究における薬物の作用標的の解析や医薬品候補物質の研究等にin vitro試験法が広く利用されている.しかし,様々な理由で,in vitroで得られた結果が必ずしもin vivoで再現できないことが多く,in vivo動物実験を欠かすことができない.平成23年3月に予定していた薬理学会年会においても,多数の動物実験結果が発表される予定であった.一方,動物実験については,市民による反対運動もあり,3Rsの原則に則り適正に実施することが法的に求められている.また,世界的に代替法の開発・評価を専門的に行う国立の機関も多く構築されている.薬理学が今後も社会のサポートを得,継続して発展していくためには,関連法規制を遵守し,動物実験を行う機関,施設,機材および人材を整備し,代替法について研究者教育を行うとともに,それらの適切性について第三者により評価を受けることが重要である.これは一研究者により対応できることではなく,研究機関が組織として対応して初めて達成することが可能である.
  • 小島 肇夫
    2011 年 138 巻 3 号 p. 103-107
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    動物実験代替法(以下,代替法と記す)の開発を促すために各国に設立された代替法バリデーションセンターの協調を図るため,2009年に日米欧カナダの参加で,代替試験法協力国際会議(ICATM: International Cooperation on Alternative Test Methods)の覚書が交わされ,代替法の開発に国際協調がより重要視されることになった.さらに,2011年には韓国の追加参入が決まり,新たな覚書が交わされた.このICATMの取り決めに準じた日本動物実験代替法評価センター(JaCVAM: Japanese Center for the Validation of Alternative Methods)の活動状況および今後の国際対応についてまとめた.本来なら,ICATMの傘下においてJaCVAMは欧米間での調整役を果たすべきであるが,体制が未熟で層が薄いJaCVAMにはその役割が望まれていない.国際的な位置付けを高めるためにも,日本の技術力を利用して,より多くの画期的な試験法をテストガイドラインに提案していきたい.そのためには日本人専門家の協力が不可欠であると考えている.
  • 黒澤 努
    2011 年 138 巻 3 号 p. 108-111
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    アジアにおける動物実験代替法の研究は日本動物実験代替法学会が世界初の関連学会として誕生したときに開始された.その後動物実験代替法の研究は欧米で進展し,世界動物実験代替法会議が定期的に開催されることとなり,第6回世界動物実験代替法会議(WC6)が2007年に東京で開催され大きく開花した.この開催に合わせ,京都だけでなく,中国北京,韓国ソウルにてサテライト会議が開催され,アジア全域に動物実験代替法の研究が普及し始めた.とくに韓国では2007年に韓国動物実験代替法学会が設立され,活発な活動が行われている.また中国でも緩やかではあるが中国実験動物学会内,北京実験動物学会内に動物実験代替法に関する委員会が設立され,活動が開始されている.日本動物実験代替法学会はこれらの動きにも注目し,日中韓国際シンポジウムを定期的に開催している.また実験動物学関係者の動物実験代替法(3Rs)への関心は国際的な高まりを見せ,国際的な実験動物福祉に関する標準,法律,指針などで強調されるようになってきた.これを受けアジアにおいても各国の実験動物学会の連合体である,アジア実験動物学会連合(AFLAS)が2年に1度開催される折に3Rs関連の演題の発表だけでなく,シンポジウム,ワークショップが開催されている.また国際実験動物愛護評価認証協会(AAALAC International)の認証研究機関がアジアでは急増し,その基準文書のILARの指針の普及とともに,3RsとりわけRefinementへの認識の高まりと実践が本格化している.アジア各国における動物実験代替法への関心の高まりとそれをうけた国際的整合性を持った法整備に我が国も注目しなければならない.
総説
  • 瀬戸 実, 浅野 敏雄
    2011 年 138 巻 3 号 p. 112-116
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    Rhoキナーゼは1995~1996年に,低分子量GTP結合タンパク質Rhoの標的タンパク質として同定されたセリン・スレオニンタンパク質リン酸化酵素である.これまでの研究により,Rhoキナーゼは収縮,増殖,遊走,遺伝子発現誘導など細胞の重要な生理機能に関与していることが明らかになっている.また各種病態動物モデルを使用した解析より,Rhoキナーゼの活性亢進が数々の病態を引き起こす原因となっていることが示され,創薬のターゲットとして注目されている.RhoキナーゼにはROCK1とROCK2の2つのアイソフォームがあり高い相同性を有している.ROCK1とROCK2は体内に広く発現しているがROCK2は特に脳と骨格筋に強く発現している.現在製薬メーカーを中心に精力的にRhoキナーゼ阻害薬の開発が行われている.本総説においては,ヒトに投与されたRhoキナーゼ阻害薬の成績を中心に,その有用性について述べたい.
実験技術
  • 余川 隆
    2011 年 138 巻 3 号 p. 117-121
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    MRIを診断に応用する技術はここ20年間で大きく進歩した.無侵襲で体の軟部組織の病態変化を空間分解能高く画像化できることがMRIの特徴であり,内臓,脊髄や脳などの診断に適用されて今ではなくてはならないものになった.この方法を創薬研究に応用したものがphMRIである.製薬業界では中枢疾患治療薬の需要が高まっているにも関わらず,創薬にかかる莫大な費用と病態や治療における客観的なバイオマーカーが不足していることが原因で,新薬を容易に生み出せない状況が続いていた.このような状況の打開策としてMRIの1つの重要な方法であるfMRIを使った創薬バイオマーカー探索技術が進歩しはじめた.この方法によりヒトを含めた動物の脳機能をいろいろな側面で客観的に評価できることから,創薬バイオマーカーに対しfMRIは非常に有効であることが実証されphMRIと呼ばれている.具体的には薬品開発プロセスの異なったステージにまたがるようなターゲットバリデーション,中枢におけるオフターゲット効果,副作用ならびに治療濃度域の評価など早期の中枢への効果,早期のコンセプトの評価,患者の層別化,ドージングの最適化(投薬計画),レスポンダー識別等に関しphMRIによる信頼性の高いバイオマーカーが得られている.FDAがCPI白書で動物試験に画像法を用いることを推奨しており,創薬研究パイプラインの様々なポイントへ実験用MRIの導入が増えている.特に薬効薬理試験をはじめ毒性試験への応用が盛んになってきている.phMRIの使用が盛んになればより多くの信頼できるバイオマーカーが発見され,多くの有効な中枢治療薬の開発が促進されるだろう.また,様々なフェーズの精神疾患患者の脳機能と投薬の関係を詳細に調べることが可能になることを意味しており,まさに精神疾患の予防法の開発やテーラーメード医療が現実になる日が遠くないことを示している.
新薬紹介総説
  • 梛野 健司, 敷波 幸治, 齋藤 隆行, 原田 寧
    2011 年 138 巻 3 号 p. 122-126
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/10
    ジャーナル フリー
    ガランタミン(レミニール®)は,コーカサス地方のマツユキソウの球径から分離された3級アルカロイドであり,国内2剤目のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬として,軽度および中等度のアルツハイマー型認知症(AD)における認知症症状の進行抑制の適応症を取得した.ガランタミンの作用機序は,AChEに対して可逆的に競合阻害作用を示し,さらにニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のアセチルコリン結合部位と異なる部位に結合し,アロステリック活性化リガンド(APL)として作用することでnAChRに対するアセチルコリン(ACh)の作用を増強させる(APL作用).In vitro試験および動物を用いた行動薬理学的評価から,ガランタミンは,アミロイドβによる神経細胞障害に対して保護作用を示し,学習記憶の低下に対して改善効果を示した.国内臨床試験(GAL-JPN-5試験)では,軽度および中等度のAD患者580例を対象に,ガランタミン16 mg/日および24 mg/日の有効性と安全性をプラセボ対照二重盲検法により検討した.主要評価項目はADAS-J cogおよびCIBIC plus-Jの二元評価とした.その結果,認知機能評価の指標であるADAS-J cogでは,16 mg/日および24 mg/日ともにプラセボとの間に統計学的有意差を認め,そのエフェクトサイズは16 mg/日よりも24 mg/日の方が大きかった.一方,全般臨床評価であるCIBIC plus-Jでは,両投与量群ともに有意差は認められなかった.安全性評価では,16 mg/日および24 mg/日の忍容性は良好であった.ガランタミンの剤形には,錠剤(4,8,12 mg),口腔内崩壊錠(4,8,12 mg)および内用液(4 mg/mL)があり,患者の嗜好や状態により適切な剤形の選択が可能である.以上のことから,ガランタミンは,AD患者における新たな治療選択肢として期待される.
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