日本薬理学雑誌
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72 巻, 6 号
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  • 松田 弘幸, 河場 享子, 山本 幸生, 小川 俊太郎
    1976 年 72 巻 6 号 p. 657-672
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    14Cで標識された2-chlorophenyl-1-phenyl-3-(2 methyl piperidino)propyl ether methyl iodide(R97)のラットにおける吸収,分布,排泄,代謝を検討し,下記の結果を得た。静脈内投与では放射活性は速やかに各組織に移行し,5分後には血中の放射活性はほとんど消失した.主に肝,腎,心,肺などの臓器に高濃度に分布し,脳,眼などにはその移行が認められなかった.投与30分後より消化管内容物に高い放射活性がみられ,また胃および腸粘膜にも放射活性が認められた.投与後24時間までに尿中および糞中に排泄された放射活性はそれぞれに全投与放射活性の約12%および約40%であった.呼気中への放射活性の排泄はほとんど認められなかった.経口投与では放射活性の分布は消化管内に限定され,その他の組織への移行は認められなかった.投与後24時間までに全投与放射活性の約94%が糞と共に体外に排泄された.静脈内および経口投与によっても放射活性は胎盤および胎仔内に認められなかった.以上の所見は同時に行なった全身オートラジオグラフィーの結果によっても支持された.
  • 田中 いずみ
    1976 年 72 巻 6 号 p. 673-687
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    Closed colony(田村1950)で繁殖させた妊娠ラットにヒ素剤(As2O3)を投与し,21日目の胎仔ならびに母ラットの臓器のヒ素蓄積量を原子吸光分光光度計,arsenic analyzer unitで測定した.胎仔の臓器では肝,肝・脳を除いた臓器,脳および胎盤についてヒ素量を測定した,ヒ素剤無投与群にもヒ素の蓄積は認められたが,ヒ素剤投与群では,ヒ素の蓄積は胎盤が最高で,肝,肝・脳を除いた臓器に多く,脳では少なかった.その蓄積傾向は各臓器によって異なり,投与量とは必ずしも平行しない.胎盤ではヒ素の蓄積には一定の限界があり,脳では肝の約1/10以下で胎仔でも極めて微量であった―また母体ではヒ素剤無投与群でも肝,腎,脾,脳のいずれの臓器にもヒ素の蓄積は認められた.ヒ素剤投与群では,腎,脾が著しく増加し,肝,脳の順であった.母体におけるヒ素の蓄積傾向も,各臓器によって異なり投与量とは平行しなかった.ヒ素解毒剤であるDimercaprol,Thioctic acid,L-Ascorbic acidをヒ素剤と同時に投与すると,肝・脳を除いた臓器では統計学的に明らかに,脳では数字的に減少した.しかし胎盤,肝では対照群に比べて影響は認められなかった.母ラットにおいては,腎のヒ素蓄積量が対照群に比べ明らかに減少した.粉乳を主成分とする粉乳飼料で飼養し,ヒ素剤を投与した母ラットから生まれた胎仔の臓器のヒ素蓄積量は対照群と全く差異はなかった.しかし母ラットの腎のヒ素蓄積量は,統計学的に明らかに減少した.
  • 柳浦 才三, 石川 滋
    1976 年 72 巻 6 号 p. 689-700
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    ursodeoxycholic acid(UD)の胆汁分泌,胆汁成分組成(phospholipid,cholesterol,bile acids,bilirubin)におよぼす影響を,イヌを用いてchenodeoxycholic acid(CD),dehydrocholic acid(DG)との比較において検討した.麻酔下のイヌにおいて,これら3種の胆汁酸は全て用量に依存した著しい胆汁量の分泌増加と,BSPの胆汁内排泄量の増加を示した.その効力関係はDC>CD≥UDであった.無麻酔下,胆管痩イヌを用いた胆汁成分組成に対する作用では,UDはphospholipid,cholesterol,bile acids濃度を増加し,bilirubin濃度には著しい作用を示さない胆汁の分泌を促進した.さらに,それら成分排泄総量を著しく増加した.胆汁酸組成に対しては,UDが多量に出現し,cholic acid,CD濃度を減少させた.CDはphospholipid,cholesterol濃度をやや減少し,bilirubin濃度を1時間値で減少させたが,bileacids濃度を増加した,さらに,それら成分の排泄総量については著しく増加した,胆汁酸組成では,CDが著しく出現増加し,cholic acid濃度を減少した.なお,cholesterol排泄についてはUD,CDの作用は弱いものであった.DCはphospholipid,cholestcrol,bilirubin濃度を著しく減少した.bile acids濃度には著しい変化を示さなかった.さらに,それら成分の排泄総量については,1時間値で増加したが,2時間値では減少した.胆汁酸組成ではcholic acid,CDが減少し,3α,7α-dihydrioxy-12keto-5β-cholanic acidが出現した。また,DCの出現は認められなかった.以上のことより,これらの胆汁酸は肝に作用して胆汁分泌を促し,UD,CDは胆汁成分の分泌を促す成分分泌性の利胆薬と考えられ,DCは成分の淡い水分分泌性の利胆薬と考えられる.
  • 柳浦 才三, 阿部 洋一, 船田 一夫, 細川 友和
    1976 年 72 巻 6 号 p. 701-708
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    本実験の目的は,視床下部刺激下の条件回避,逃避行動を指標として,2,3薬物の向精神作用の解析を試みることである.回避行動に対してchlorpromazine(CPZ)とdiazepam(DZP)は共に回避行動を抑制し,回避反応潜時と頭部運動潜時を共に延長した.さらに眼裂の開大,瞳孔散大などの自律反応も遅延した.また,軌跡量と頭部運動数はCPZ,DZP共に減少を示した.一方,逃避反応潜時については,CPZでは影響がみられなかったが,DZPはこれを延長させた.次に逃避行動に対してDZPはCPZと異なり,回避行動が出現し,軌跡量が増加した.methamphetamineでは,回避行動は出現しなかったが, 条件刺激下において,一般行動と逃避反応潜時は減少した.一方,chlordiazepoxideは,逃避行動から回避行動への移行が認められるなど,DZPと共通性がみられた.
  • 山本 順之祐, 前川 寛, 関谷 淳
    1976 年 72 巻 6 号 p. 709-714
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    著者らは,先にラットにおいてのみpropranololにより持続的な血圧上昇作用が起こることを観察した,今回は,このpropranololの昇圧作用の起こりやすいある種の血管緊張の状態が存在すると考えられるので,その昇圧作用の起こりやすい条件を検討することを目的として,以下の実験を試みた.1)Propranololによってほとんど血圧変化の認められないモルモットやウサギにα遮断剤を前投与して,収縮性緊張を減少させておいてからpropranololの血圧作用を検討した.2)各種濃度のisoproterenolおよびvasopressinの混合溶液を用いて,spinal ratの末梢血管にβ-receptorを介する拡張性緊張と収縮性緊張との各種の組合わされた血管の緊張状態を人工的にこしらえておき,これらの状況下におけるpropranotaiの血圧作用を検討した.その結果,1)モルモットやウサギにおいても,α遮断剤前処置後にはpropranololにより持続的な昇圧作用が認められた.2)Isoproterenolの一定量と各種濃度のvasopressinとの混合液を持続注入中propranololを投与すると,vasopressinの濃度に比例して血圧上昇作用が認められた.しかし,vasoprcssinの濃度がある濃度以上になると,かえって昇圧高は抑えられる傾向を認めた.以上の結果より,propranololの昇圧作用の発現には,β-receptorを介する拡張性緊張と,それに対応する適度な収縮性緊張の組合わせの存在が必要であることが認められた.
  • 野津 隆司, 古川 達雄
    1976 年 72 巻 6 号 p. 715-723
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    Lithium(Li)塩の躁うつ病治療における作用機作検索のため,薬物による異常状態下でのLiの作用について,行動薬理および脳内catecholamine代謝の両面から検討した.Open-field法による自発運動量測定の結果,methamphetamine(MAPT)のambulationおよびrearing増加作用に対し,lithium chloride(LiCl)は急性投与(2.4mEq/kg)で抑制効果を示した.しかしLiClの亜急性投与(2.5mEq/kg×2/日,4.5日)後MAPTを投与すると,stereotypeの円周運動を生じてambulationの異常尤進がみられた.またreserpine類似薬(Ro4-1284)による自発運動減少に対し,LiCl急性投与では影響を与えなかったが,LiClの亜急性投与後Ro4-1284を投与すると,Ro4-1284投与短時間後の一過性の運動冗進は消失し,また241時間後の回復が促進される傾向が認められた.他方,LiCl亜急性投与後薬物を併用して,脳内のnorepinephrine(NE)・dopamine(DA)代謝を検討した.MAPTによるDA代謝変化に対してLiは有意な作用を現わさなかったが,NE代謝変化に対しては脱アミノ体の減少を抑制し,O-メチル脱アミノ体の減少も抑制する傾向を示した.またRo4-1284によるNE代謝変化に対してはLiは有意な作用を示さなかったが,DA代謝ではDAの減少を抑制した。従ってLiはMAPTならびにreserpine類似薬による行動ならびにNE・DA代謝変化に対してある程度拮抗し,この作用が1,iの躁うつ両相に対する治療効果の機作になんらかの関連を有するものと思われる.
  • 姉崎 健, 桜田 忍, 安藤 隆一郎, 木皿 憲佐, 中浜 博
    1976 年 72 巻 6 号 p. 725-737
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    Untamed catsを用い,それらが示す情動行動に対し,benzodiazepine系の新化合物であるMS4101の影響をdiazepamと比較検討し,次の成績を得た.1)Offensive behaviour(whine,striking,biting)は棒でネコにtappingすることによって著明に観察され,またdefensive behaviour(hissing,crouching body,ear flattening)は,毛ふき刺激,棒の提示およびtappingによって著明に観察された.2)Offensive behaviourは,M54101,diazepam2および4mg/kg i.p.投与30分後より著明に抑制され,total scoreからその50%抑制用量を求めると,Ms4101で2.40(1.95~2.95)mg/kg i.p.,diazepamで0.96(0.69~1.34)mg/kgi.p.であった.3)Defensive behaviourはMS4101,diazepam2および4mg/kg i.p.投与30分後より一様に抑制されtotal scoreから50%抑制用量を求めるとMS4101で3.00(2.46~3,66)mg/kg i.p.,diazepamで1.45(1.14~1.84)mg/kg i.p.であった.4)MS4101およびdiazepam投与後四肢失調作用を検討した結果diazepamの方がMS4101より強かった.木箱に懸垂させて落下の有無から筋弛緩のED50用量:を求めると,MS4101は7.40(5.14~10.66)mg/kg i.p.でdiazepamでは4.30(3.03~6.11)mg/kg i.p.であった.5)MS4101,diazepam2および4mg/kg i. p.一回投与において食物摂取量が増加することを認めた.
  • 児玉 純一, 福嶋 正孝, 坂田 利家
    1976 年 72 巻 6 号 p. 739-744
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    Theophylline(以下Thと略)慢性投与によるラットの摂食行動の変化について検討を行い,次の結果が得られた.1)Th慢性投与で24時間摂食量は変化しなかった.2)しかし,light time(0900-2100)とdark time(2100-0900)別セこ測定すると,Th群ではlight timeに摂食量が増え,dark timeの摂食量は減少した.3)対照群では1日総摂食量のうち約80%がdark timeに摂取されたが,Th群ではこの割合が60%以下に減少した.4)全実験期間中のTh群と対照群の体重の変動には差を認めなかった.以上のごとく,正常ラットの摂食行動は照光に強く影響を受けるが,Th慢性投与をすることによりこのlight-dark cycleとの関連性が消失し,nocturnal feederとしての特徴がなくなる.この変化の発現機序を,Th投与による摂食行動のlight timeへのtime shiftとしてとらえ検討を加えた.
  • 柳浦 才三, 船田 一夫, 阿部 洋一, 細川 友和
    1976 年 72 巻 6 号 p. 745-752
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    視床下部刺激下の情動行動を検索するためには,情動の表出と体験という2つの要素を考慮する必要がある.従来より著者らは,視床下部の情動行動を表出の立場から薬理学的に検索してきた.また,体験の水準を明らかにするため,前報において古典的条件づけにより視床下部刺激下のconflict-induced behaviorの形成を試みるとともに,この行動modelを用いて向精神薬の作用検索を行った.そこで本実験では,さらYom..視床下部刺激の質的検討および条件反応に対する向精神薬の作用検索を行う目的で,視床下部刺激による学習行動について検討した.動物は視床下部領域に慢性電極を植込んだウサギを用い,実験装置はウサギ用に改良したshuttle boxを使用した.強化実験は,慣れが形成した動物について,条件刺激としてブザー音,無条件刺激として視床下部の電気刺激を用いて行った.その結果,回避形成群,回避から逃避形成に変化した群および逃避形成群の3群が出現した.回避を形成した群を回避行動mode1,回避から逃避形成に変化した群および逃避形成群を逃避行動modelとして分類した.さらに,これらの行動modelは,強化過程の反応潜時に対する作用あるいは消去工作の結果から,学習された行動であることが判明した.
  • 舛本 省三, 増田 千春
    1976 年 72 巻 6 号 p. 753-762
    発行日: 1976年
    公開日: 2007/03/29
    ジャーナル フリー
    強力な抗炎症剤2-(2-fluoro-4-biphenylyl)propionic acid(Flurbiprofen,FP-70)の抗炎症作用機序を既存の薬剤と比較検討した.各種起炎物質によるラット後肢足脈浮腫実験で,histamine,serotoninおよびkininと関連が深い浮腫に対する抑制作用は,soy bean trypsin inhibitorの作用に類似し,diphenhydramineおよびdibenamineのそれとは異った.しかしkinin生成およびkininase活性に対して影響を示さなかった.モルモット肺ホモジネートにおけるarachidonic acidからのprostaglandin(PG)合成を0.64μMで50%阻害し,ibu-profen(IP)の96.5倍,indomethacin(IM)の10.1倍,acetylsalicylic acid(AS)の2,280.6倍強い作用を示した.しかしPGE2によるラット皮内毛細血管透過性尤進に対しては抑制作用を示さなかった.ラット肝ライソゾーム酵素のacidphosphataseおよびβ-glucuronidaseの活性をIMと同等に阻害し,ライソゾームからの酵素遊離をIMおよびphenylbutazone(PB)と同等に抑制した.また犬の赤血球の加熱溶血をIMと同等に,IPおよびPBの10倍強く抑制し,強い生体膜安定化作用を示した.ラット肝ミトコンドリアのATPase活性を,10μMで74.7%促進した.この促進作用は,FP-70>IM>IP>PB=ASの順に強かった.またこのミトコンドリアの酸化的リン酸化を50μMで28.5%uncoupleしたが,IMより弱かった.以上の結果から,FP-70はAS様作用を有する酸性非ステロイド性抗炎症剤の典型的な薬剤であるが,その抗炎症作用は最も強力で,PG合成阻害作用,生体膜安定化作用およびATPase活性化作用が重要と思われる.
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