日本薬理学雑誌
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88 巻, 5 号
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  • 鍋島 俊隆, 加藤 晃, 亀山 勉
    1986 年 88 巻 5 号 p. 331-337
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    明暗弁別法を利用した条件回避反応(shuttle box法)を用い,マウスの視覚障害の検出を試みた.実験動物として正常ICRマウス,優性(Cts/Cts),劣性(cac/cac)遺伝性白内障マウス,遺伝的網膜変性マウス(C3H/HeNjcl)および雄の遺伝的網膜変性マウスと雌の正常ICRマウスを交配させて得られた雑種第一代マウス〔(ICR×C3H)F1〕を用いた.まず,正常ICRマウスを音と光を条件刺激として条件回避反応の訓練後,音刺激と光刺激を分化し条件回避反応を測定すると,音刺激に対する回避率の低下は認められないが,光刺激に対するそれは低下した.しかし,光刺激に対する回避率の低下は訓練を続けることにより,ほぼ分化前のレベルにまで回復した.その後,正常ICRマウスに0.1 N NaClによりアルカリバーンを惹起すると,光刺激に対する回避反応は低下し,その回復は認められなかった.Cts,cacマウスは正常ICRと同様なパターンを示し,C3HおよびF1マウスはアルカリパーンを惹起した場合と同様なパターンを示した.条件刺激分化後の光刺激に対する回避率の低下からの回復率を算出したところ,両遺伝性白内障マウスは,正常ICRマウスとは有意な差が認められず,アルカリバーンをしたICRマウスとは,有意な差が認められた.一方,C3H,F1マウスは正常ICRマウスとは有意な差があり,アルカリバーンをしたICRマウスとは有意な差はなかった.このことから,遺伝性白内障マウスの視覚障害は軽度であるが,C3H,F1マウスのそれは重度であると思われた.この方法を用いてマウスの視覚障害を検出することが可能であると思われた.
  • ―(6)-ShogaolとCapsaicinの薬理作用の比較―
    末川 守, 曽根 秀子, 榊原 巖, 池谷 幸信, 油田 正樹, 細谷 英吉
    1986 年 88 巻 5 号 p. 339-347
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    赤コショウの辛味成分であるcapsaicinと生のショウガに含まれず,乾燥したショウガに多く含まれ辛味成分のひとつである(6)-shogaolにっいて薬理学的に比較検討した.(6)-shogaol(0.5 mg/kg, i.v.)とcapsaicin(0.1 mg/kg, i.v.)は血圧に対して三相性の変化(降圧,昇圧そして再び降圧)を,心拍数および呼吸に対して徐脈および無呼吸を示した.両薬物によって惹起される著明な昇圧反応は脊髄が破壊されることによって著明に減弱し,また脊髄が仙髄部レベルまで破壊された状態下で惹起される両薬物の末梢性の昇圧反応は坐骨神経の切断,phentolamine(10 mg/kg, i.v.)およびsubstance P(SP)拮抗薬(0.5mg/kg, i.v.)の併用処置によって著明に減弱した.モルモット気管平滑筋に対して,(6)-shogaol(100 μM)とcapsaicin(10 μM)はSP拮抗薬(10 μM)で軽度に抑制される収縮を示すもののタキフィラキシーも誘発し,しかも両薬物間でクロスタキフィラキシーを示すことが確認された.(6)-shogao1(3.6 μM)はラット摘出心房標本に対して陽性変力および変時作用を示すが,(6)-shogaolによって惹起される心房の陽性の変化は(6)-shogaolの反復投与あるいは(6)-shogaolの前投与(100 mg/kg, s.c.)によって消失した.以上の結果から,(6)-shogaolとcapsaicinは非常に類似した作用を有していることが明らかになり,さらに両薬物は末梢臓器に対して神経系の末端からある種の活性物質を遊離させることによって作用を示すかも知れないという興味ある示唆が得られた.
  • 久留 正生, 中村 裕子, 奥本 武城, 池上 清輝
    1986 年 88 巻 5 号 p. 349-354
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    ヒツジ赤血球に対するBALB/cマウスの脾溶血斑形成細胞(HPFC)の産生は,carrageenan (0.3 mg/kg)を免疫する3日前および1日前の2回腹腔内投与すると,有意に抑制された.cysteine ethylester hydrochloride(ethylcysteine)は10~100mg/kgの経口投与で,このHPFC産生能の低下を用量に依存して回復させた.ヒツジ赤血球で免疫したマウスから得られた脾付着細胞(SAC)中のIa陽性細胞(抗原提供細胞)は増加したが,carrageenan投与マウスから得られたSAC中のそれは減少した.このマウスにethylcysteineを投与すると,SAC中のIa陽性細胞は増加した.また,cyclophosphamide(30 mg/kg)を免疫する前日および当日の2回腹腔内投与すると,HPFC産生は抑制され,胸腺リソパ球数および末梢血白血球数も減少した.ethylcysteine 10~100 mg/kgを免疫する2日前および1日前の2回経口投与すると,HPFC産生能の低下,胸腺リンパ球数および末梢血白血球数の減少は防止された.cyclopbosphamideを投与したマウスの脾T細胞中のLyt1.2陽性細胞(ヘルパーT細胞)は減少したが,このマウスにethylcysteineを投与すると脾T細胞中のそれは増加した.一方,cyclophosphamide処置マウスに本薬物を投与すると,脾細胞中のThy1.2陰性細胞(B細胞)は増加しなかった.以上の成績から,本薬物は免疫抑制マウスの免疫応答を回復させ,その回復作用はマクロファージおよびヘルパーT細胞を介して発現されるものと推定される.
  • 森川 宏二, 山内 利栄, 加藤 日出男, 伊藤 安夫
    1986 年 88 巻 5 号 p. 355-361
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    経口投与で活性の強い頻尿治療薬を見い出す目的で,新規に合成されたFL-155の麻酔下ラットの律動的膀胱収縮に対する作用を検討した.膀胱内圧を10 cm H2O以上にすると律動的な膀胱収縮が発現し,この反応は少なくとも120分間持続した.律動的膀胱収縮は脊髄のC1部切断,骨盤神経両側切断,thiopental(3.0 mg/kg, i.v.)あるいはlidocaine(1.0mg/kg, i.v.)により消失し,またatropine (0.01 mg/kg, i.v.)はその反応の高さを強く抑制した.FL-155およびflavoxateは,静脈内投与(それぞれ0.3~3.0 mg/kgおよび1.0~3.0mg/kg)あるいは十二指腸内投与(それぞれ12.5~100mg/kgおよび200~400mg/kg)において,この膀胱収縮を用量依存的に消失させ,特に十二指腸内投与においては,FL-155はflavoxateの8~16倍の活性を示した,これらの結果より,麻酔下ラットにおいて認められた律動的膀胱収縮は骨盤神経および中枢神経系(脊髄より上位の反射中枢)を介した多シナプス反射であること,さらにFL-155は経口投与で活性の強い頻尿治療薬に成る可能性が示唆される.
  • KCN誘発脳エネルギー代謝異常に対する改善作用
    安田 寛, 泉 律好, 中西 正人, 阿南 惟毅, 丸山 裕
    1986 年 88 巻 5 号 p. 363-367
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    脳のアノキシアによるエネルギー代謝異常に対するY-8894の作用を,マウスのKCN誘発脳アノキシアモデルを用いて検討したKCN 2.5 mg/kgの静脈内投与によって,マウスの脳内glucose,phosphocreatineおよびATP量は著減し,lactateおよびAMP量は著増した.したがって脳エネルギー代謝状態の指標となるenergy charge potential (ECP)は著しく低下し,脳代謝の不可逆性の障害が惹起された.このKCN誘発アノキシアによる脳エネルギー代謝障害に対して,Y-8894(30 mg/kg, i.p.)は著明な改善効果を示した.すなわち,脳内glucose量の減少およびlactate量の増加が有意(P<0.01)に抑制され,ATP量は正常レベルにほぼ維持された.ECPも一過性の軽度の低下を示しただけで,速やかに正常レベルに回復し,脳代謝状態は正常化した.正常マウスの脳代謝に対しては,Y-8894は脳内91ucose量を有意に増加させた.これらの成績から,Y-8894がアノキシアによる脳エネルギー代謝異常に対して改善作用を有することが示唆された.
  • 久留 正生, 中村 裕子, 奥本 武城, 池上 清輝
    1986 年 88 巻 5 号 p. 369-374
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    ethylcysteine(10および100 mg/kg)はyeast死菌を腹腔内投与する直前にICRマウスに経口投与すると,投与後2時間目に得られた腹水多形核白血球の食食能を有意に亢進させた.また本薬物(3および30 mg/kg)はyeast死菌投与の4時間前に経口投与しても,白血球貧食能k亢進作用を示した.cyclophosphamide(30 mg/kg)をyeast死菌投与の24時間前に腹腔内投与したマウスに本薬物(30 mg/kg)を経口投与すると,本薬物はcyclophosphamideセこよる腹水多形核白血球の貧食能の低下を回復させた.また,ethylcysteine(10~100 mg/kg)を560ラドのX線で全身照射したマウスに経口投与すると,末梢血白血球数の減少は回復しなかったが,白血球の貧食能,nitroblue tetrazolium(NBT)還元能およびlipopolysaccharide(LPS)の添加によるNBT還元能亢進の低下をいずれも回復させた.さらに,本薬物(3~30 mg/kg, p.o.)は投与後2および6時間目のモルモット末梢血白血球のyeast死菌貧食能,NBT還元能およびLPSによるNBTの還元能の亢進をいずれも増強させた.以上の成績から,ethylcysteineは実験動物での白血球の貧食能およびNBT還元能亢進作用を有し,さらにcyclophosphamideまたはX線照射による白血球の貧食能およびNBT還元能の低下を回復させることが明らかにされた.本薬物のこれらの作用は,生体防御能の低下した宿主の感染に対する抵抗性を賦活化する可能性が示唆される.
  • ―HPLC-EIAによるサル血漿中代謝物の測定―
    山口 敏朗, 山下 明子, 菅野 浩一
    1986 年 88 巻 5 号 p. 375-387
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    睡眠導入作用の評価において,アカゲザルはヒトの良いモデルとされている.新しい睡眠導入剤450191-Sを薬効量(1 mg/kg)で老齢アカゲザル2頭および若齢アカゲザル3頭に経口投与し,各時間における活性代謝物の血漿中濃度を測定した.M-1は測定代謝物中最小の血漿中濃度曲線下面積(AUC)を示した.M-2のAUCは老齢アカゲザルにおいて若齢アカゲザルの約10倍高い値を示した.M-AのAUCは測定代謝物中2番目に大きな値を示し,また,老齢アカゲザルのそれは若齢アカゲザルに比べ約4倍高かった.M-3のAUCは測定代謝物中最大値を示し,投与後12~16時間で最高濃度に達した後,半減期約12時間で徐々に消失した.M-4は投与後24時間まで少量ずつ一定して認められ,以後消失した.450191-Sはアミノペプチダーゼにより脱グリシル化されM-1となり吸収されると言われている.若齢アカゲザル2頭にM-1を0.73 mg/kg(450191-Sと等モル量)で経口投与し,活性代謝物の血漿中濃度の経時変化を,若齢アカゲザルに450191-Sを投与した場合と比較した.M-1投与にもかかわらず,M-1の血漿中濃度は極めて低く,そのAUCは測定代謝物中最小値を示し,また,450191-Sを投与した時の約1/6であった.M-2の血漿中濃度も著しく低く,そのAUCは45019-Sを投与した時の約1/3であった.M-A,M-3およびM-4の血漿中濃度およびAUCは450191-Sを投与した場合と大差なかった.以上の結果から,アカゲザルに450191-Sを経口投与した場合,M-2とM-Aの血漿中濃度に著しい年齢差のある事が明らかとなった.また,M-1を投与した場合,450191-S投与に比べM-1およびM-2の血漿中濃度が極めて低く,両化合物間に著しい違いが認められた.
  • 蘇木 宏之, 内田 康美, 舛尾 正俊, 東丸 貴信, 加藤 彰一, 杉本 恒明
    1986 年 88 巻 5 号 p. 389-394
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    アデニールサイクラーゼ活性化作用をもつforskolinの心不全に対する作用検討の一環として,我々の開発した左心室心筋内プロテアーゼ注入による心筋破壊,輸液,メソキサミン投与による低拍出性末梢血管抵抗増加型イヌうっ血性心不全モデルを用いて,forskolin静注の効果を検討した.forskolin5.0 μg/kg静脈内投与により,大動脈血流量は0.50→0.72Z/min(平均値,N=7),総末梢血管抵抗19,980→10,390 dynesec/cm5,平均左房圧17.5→7.9 mmHg,左室拡張終期圧22.8→16.8 mmHgと変化した.体血圧は102.5→77.7 mmHgと減少し,心拍数は92→122 b/minと増加した.Vmaxは2.32→2.82 l/secと増加し,拡張期時定数Tは90.7→59.2msecと減少した.forskolinの増量により,総末梢血管抵抗,平均左房圧,左室拡張終期圧は用量依存性に減少した.以上のことから,forskolinは血管拡張作用と心筋収縮能,弛緩能の増加によりうっ血性心不全を改善する方向に作働するものと考えられる.
  • 山田 庄司, 諸橋 富夫
    1986 年 88 巻 5 号 p. 395-401
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    sodium salicylate(SS)によるカルシウム(Ca),リン(Pi)およびマグネシウム(Mg)の尿中への排泄と血中濃度に及ぼす影響について,Wistar系ラットを用いて検討した.SS 200mg/kgの投与により,低Ca血症および低Pi血症が発現した.高Mg血症はSS 400 mg/kg投与で初めて引き起こされた.SS 200 mg/kgを投与したラットにおけるクリアランス実験で,SS投与によって糸球体酒過量(GFR)の変化なしに,尿量の減少が認められた.尿中へのCa排泄は,主にfiltered loadの低下によって減少した.一方,Piは尿細管における再吸収が抑制され,血中Pi濃度の低下にも拘わらず尿中への排泄が増加した.また,Mgの再吸収は促進され,尿中への排泄が減少した.以上の結果から,ラットにおいて,1) 腎臓以外の部位に対するSSの作用によって発現する低Ca血症が,尿中へのCa排泄を減少させる主因である.2) SSは腎臓におけるPiの再吸収を抑制し,これが低Pi血症の発現に関与している.3)SSは腎臓におけるMgの再吸収を一時的に促進するが,血中Mg濃度の上昇に対する影響は少ない.ことが明らかとなった.また,これらの腎臓における電解質代謝に対するsalicylateの作用は,cyclooxygenase阻害作用以外の作用である可能性が示唆された.
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