日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
89 巻, 5 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 平 京子, 金戸 洋
    1987 年 89 巻 5 号 p. 243-252
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    プロリン特異性エンドペプチダーゼ(PPCE)は,プロリンを含む生理活性ペプチドの分解に重要な役割を演じている酵素で,学習・記憶の過程に関与するといわれるvasopressinの分解,不活性化にも関与している.本研究では,各種の合成PPCE阻害薬(Z-Pro-,Suc-Pro-,Suc-Pyr-,Suc-Sar- およびZ-prolinal)についてその学習・記憶過程への影響を検討した.マウスを用い従来からの能動的回避学習試行を反復する実験に加え,新たに考案した一試行性受動的―能動的回避学習実験について検討し,健忘薬scopolamineおよび学習の促進および習得した行動の保持に対する延長効果の知られているarginine vasopressin AVPの作用によって,これらの方法が抗健忘効果の判定に応用できることを確認した.最もPPCE阻害活性の強いZ-Pro-prolinalは能動的回避学習実験において試行の反復による回避反応の習得を促進し,その消去を遅延させた.他の阻害薬にも習得された回避反応の保持効果がみられた.一試行性受動的―能動的回避学習実験においても,ほぼそのin vitroでのPPCE阻害活性に平行した回避反応習得の促進作用がみられ,scopolamine誘発健忘に対する改善効果も得られた.また,それぞれ単独では無効量のAVP0.01μg/匹とz-Pro-prolinal 0.1μmole/匹の併用によって,有意な受動的および能動的回避学習の促進効果がみられた.これらの成績から,PPCE阻害薬の効果の一部はAVPの分解阻害によることが示唆された.
  • 柏俣 正典, 平松 正彦, 南 直幸, 佐藤 顕正, 南 直臣
    1987 年 89 巻 5 号 p. 253-259
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    肝臓から細胞膜分画を調製し,これに対する125I-epidermal growth factor (125I-EGF)の結合能を正常ラットとstreptozotocin糖尿病ラットの問で比較した.その結果,125I-EGFの結合は糖尿病ラットで明らかに低下していることがわかった.糖尿病ラットの結合は正常レベルの約60%であった.Scatchard解析による結果から,結合の低下は受容体の親和性の低下によるものではなく,受容体数の減少によるものであることが明らかとなった.糖尿病ラットにインシュリンを投与すると,受容体数は正常レベルにまで回復した.しかし,生理濃度のtriiodothyronineの投与は,受容体数に影響をおよぼさなかった.血中のEGF量は,正常,糖尿病およびインシュリン処理糖尿病ラットの間でほぼ同程度であった.以上の結果から,in vivoでのインシュリンの欠如は,肝臓のEGF受容体数を減少させることが強く示唆された.
  • 田中 哲治, 黒沢 元博
    1987 年 89 巻 5 号 p. 261-267
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    ラット肥満細胞を細胞破さい装置により破さいした後,Percoll比重法により顆粒を分離した.形態学的に膜の保たれた正常顆粒をdiphosphoinositide(DPI)とMg2+またはMn2+の存在下に[γ32P]ATPと反応させると,32P標識triphosphoinositide(TPI)が産生された.[α32P]ATPを用いても32P標識TPIは認められず,TPI産生はMg2+またはMn2+およびATPに依存したことより,ラット肥満細胞顆粒にはDPIキナーゼが存在することが明らかになった.本酵素のATPのKm値は3μMであった.Mg2+,Mn2+がそれぞれ20mM,lmMにおいて最大の反応がみられた.TPI産生量は反応時間に依存して増加し,反応温度は23°Cで最大の反応が認められた.またNaCl,KClおよびNa2HPO4,KH2PO4は単独でも共存下においてもTPI産生量に明らかな影響を示さなかった.100μM adenosine,AMP,ADPおよび10μM cyclic AMPは濃度に依存してTPI産生量を抑制した.
  • 樋口 昭平, 天沼 二三雄, 奥山 茂, 塩入 陽子, 田中 伸子, 新井 巌, 磯部 好彦, 小友 進, 相原 弘和, 天野 武宏
    1987 年 89 巻 5 号 p. 269-277
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    新規の非ステロイド系抗炎症物質TAの抗炎症,鎮痛および解熱作用を実験動物において検討した.マウス酢酸誘発血管透過性亢進ラットcarrageenin足浮腫形成およびモルモット紫外線紅斑形成に対してTAはそれぞれ40~160mg/kg,10~40mg/kgおよび10~40mg/kgの用量で用量依存的な抑制作用を示した.histamineによるラット皮膚血管透過性亢進に対しては,TAは200mg/kgの用量でも抑制作用を示さなかった.ラットでのcotton pellet肉芽腫およびadjuvant関節炎に対してそれぞれ50mg/kgおよび25mg/kgのいずれも6日間の連続投与によって有意な抑制作用を示した.マウス酢酸誘発writhing法,Randall-Sellitto法およびadjuvant関節炎疼痛法においてTAは,50~200mg/kgの投与量で用量依存的な鎮痛作用を示した.マウスでの圧刺激法におけるTAの鎮痛作用は他の抗炎症薬と同様に弱いものであった.酵母発熱ラットにおいて,TAは10~80mg/kgの用量で解熱作用を示した.以上のようにTAは実験動物において,ibuprofenよりもいくぶん劣る抗炎症,鎮痛および解熱作用を示し,他の非ステロイド系抗炎症薬と同様に抗炎症,鎮痛および解熱作用をもつことが示唆された.TAはラットおよびマウスにおいて胃障害作用を示し,その程度はibuprofenの1/2(ラット)および1/4(マウス)であり,その薬効から予測されるよりも弱い傾向であった.TAは塩酸による胃粘膜障害を用量依存的に軽減し,胃粘膜に対する保護的作用をもつことが示唆された.
  • 上田 房雄, 興井 隆, 木村 喜代史, 榎本 宏
    1987 年 89 巻 5 号 p. 279-284
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    塩酸によるラット急性胃粘膜損傷に対するdicloguamine maleateの防御効果を検討した.0.2N塩酸をin situに5分間胃粘膜に接触させることにより表層に限局した損傷(軽度な表層上皮細胞の剥離および粘膜固有層の浮腫)が認められた.これらの変化は透過型電子顕微鏡観察では上皮細胞間間隙の開大として捉えられた.dicloguamine maleate 3mg/kgの前処置により塩酸で惹起される表層上皮細胞の剥離,粘膜固有層の浮腫は改善され,粘膜損傷比率は減少傾向を示した.以上の結果より,dicloguamine maleateは胃粘膜上皮細胞を安定強化することにより表層上皮細胞の損傷に対して防御効果をもつことが示された.
  • 西村 享, 丸山 七朗, 田島 雅道, 金 隆, 新井 敏昭, 水野 祐尚, 太原 康博, 波多野 元久, 佐藤 精一
    1987 年 89 巻 5 号 p. 285-290
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    dexamethasone(DM)あるいはtestosterone propionate (TP)投与を行ったラット(4週齢♂)の骨創傷治癒に対し,PIatonin(Pl)がどのように影響するかをラットの頭頂骨に形成した骨創傷孔の面積変化から調べ,その結果を大腿骨の骨発育と比較検討した.Pl単独投与(1,10及び100μg/kg/day,s.c.,日曜を除く4週間投与)では,骨創傷孔の面積に著明な変化はみられず,同時に測定した大腿骨の長径,重量,カルシウム(Ca)量,ハイドロキシプロリン(HP)量のいずれにも影響が認められなかった.DM単独投与(2mg/kg/day,s.c.,日曜を除く2週間投与後,2週間休薬)では,骨創傷の治癒を遅延し,大腿骨では長径と重量で発育抑制が認められたが,Ca量,HP量では変化がみられなかった.Plとの併用投与では,DMによる骨創傷治癒遅延,大腿骨重量抑制からの回復を促進した.TP単独投与(4mg/kg/day,s.c.,日曜を除く2週間投与後,2週間休薬)では,いずれの測定値にも有意な差は認められなかったが,Plと併用することによって,大腿骨重量及びCa量の増加が認められた.以上の結果は,Pl単独では骨の発育・創傷治癒に著明な効果を表さないが,DMで起った骨の発育・創傷治癒抑制からの回復を促進し,TPとの併用では骨創傷の治癒の促進はみられなかったものの,骨の発育・石灰化には促進的作用があると考えられる.
  • 阿部 充生, 小野 靖彦, 山崎 芳伸, 氏家 新生, 池田 滋
    1987 年 89 巻 5 号 p. 291-298
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    生体位の膀胱機能に対するterodilineの影響を,ラットを用いて検討した.ラットの膀胱内へ生理食塩水を持続注入した際に,terodiline(1~10mg/kg,i.v.)は用量依存的に排尿反射発現までの時間を延長するとともに,排尿反射発現時の閾値圧を明らかに上昇させた.尿道を結紮したラットの膀胱内へ生理食塩水を注入した時,適度な内圧に達すると排尿反射収縮が生ずるが,これに対してterodiline(1~10mg/kg,i.v.)およびverapamil(1mg/kg,i.v.)は完全な抑制作用を示した.atropine(1mg/kg,i.v.)では,収縮高および収縮頻度の部分抑制を示すのみで,収縮を消失させることはなかった.また,terodilineは排尿反射が発現する際の骨盤神経遠心性発射の振幅の増大に対しても抑制作用を示した.骨盤神経末梢断端および中枢断端刺激による膀胱収縮はterodiline(1~10mg/kg,i.v.)によって用量依存的に抑制された.また,atropine(1mg/kg,i.v.)においても投与直後より抑制がみられ,その作用はいずれも持続した.下腹神経を切断すると排尿回数の増加および1回あたりの尿量の減少が認められたが,これはterodiline 1~10mg/kgの経口投与により改善された.
  • 高瀬 英樹, 三浦 治, 伊藤 敬三
    1987 年 89 巻 5 号 p. 299-306
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    黄連解毒湯,三黄瀉心湯,安中散ならびに大柴胡湯のethano1およびaspirinによって誘発されるラットの胃粘膜障害に対する作用を胃粘膜電位差(PD)を指標として検討し,sucralfate,cimetidine,16,16-dimethyl-prostaglandin E2(DMPGE2)およびproglumideの作用と比較した.1)黄連解毒湯および三黄瀉心湯は,sucralfateおよびDMPGE2と同様に,ethanolならびにaspirin誘発PD低下を有意に抑制した.2)安中散および大柴胡湯は,cimetidineと同様に,aspirin誘発PD低下を抑制したが,ethano1誘発PD低下を抑制しなかった.3)proglumideは,ethanolおよびaspirinによって誘発されるPD低下を抑制しなかった.4)黄連解毒湯は,sucralfateおよびproglumideと同様に,正常なPDに対して著明な作用を示さなかったが,三黄瀉心湯,安中散ならびに大柴胡湯は,DMPGE2およびcimetidineと同様に正常なPDを有意に増加した.以上の結果から,黄連解毒湯,三黄瀉心湯,安中散および大柴胡湯はいずれも胃粘膜を保護する作用を有しているが,その作用機序は,黄連解毒湯と三黄瀉心湯,安中散,大柴胡湯とでは異なることが推察された.
  • 平井 収, 藤津 隆, 奥 良也, 佐藤 寿, 下村 恭一, 円入 克介, 妹尾 八郎, 森 襄, 菊地 博之
    1987 年 89 巻 5 号 p. 307-316
    発行日: 1987年
    公開日: 2007/02/23
    ジャーナル フリー
    癌免疫療法剤として開発されたNocardia rubraの細胞壁骨格(N-CWS)の抗腫瘍効果発現における宿主機能の関与について,BALB/c系マウスの同系腫瘍を用いて検討した.BALB/c系マウスに同系線維肉腫Meth AとN-CWSとを混合して皮内移植,もしくはMeth A細胞を皮内移植後N-CWSを腫瘍移植部位に投与すると,Meth A細胞の生着,及び増殖は抑制された.N-CWSのこの抗腫瘍効果は,T細胞機能が欠損しているBALB/c系ヌードマウスでも認められた.しかし,ハイドロコーチゾン,カラゲニン,あるいはシリカで処理するといずれのマウスでもN-CWSの効果は減弱することからマクロファージの関与が示唆された.マウスにN-CWSを皮内投与した部位には,Meth A細胞に対してin vitroで傷害性を示す細胞が,投与後3日目から認められた.一方,N-CWSの投与により腫瘍が退縮した正常マウスにおいては,全身的な腫瘍特異的抵抗性の成立がみられたが,ヌードマウスでは認められなかった.この抵抗性はWinnテストの結果より,液性成分ではなく,細胞成分により担われていることが示された.このように局所投与におけるN-CWSの抗腫瘍効果は宿主の免疫機能を介して発現されるが,投与直後においては,投与部位におけるマクロファージの活性化により抗腫瘍効果が発現され,次いで成立する全身的腫瘍特異的抵抗性によって,更に抗腫瘍活性を示すことが示唆された.
feedback
Top