日本薬理学雑誌
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88 巻, 2 号
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  • 黒木 賀代子, 大住 伴子, 村上 雄次
    1986 年 88 巻 2 号 p. 65-70
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    glutaraldehyde(GA)のL株細胞に対する作用をformaldehyde(FA)を比較対照薬物として検討した.培養液中に種々の濃度で各薬物を混和して,24,48,72時間培養を行なった時点で生存細胞数を算定し,対照と比較した.先ず,実験Aでは,単層を形成した細胞の培養液にGA,FAを1~1,000μg/mlの濃度で添加したところ,1μg/mlではGA,FAいずれも軽度の増殖抑制作用を示したが,その影響はFAの方がやや強かった.10μg/mlの場合は,FAでは著しい細胞数の減少が現われたのに対し,GAでは対照に比べて増殖率が低下するのみで,細胞数の増加は阻止されなかった.100,1,000μg/mlではGAもFAも細胞数の急激な減少を起こし,その変化はFAの方が著しかった.次に実験Bでは,細胞浮遊液中にGAは0.65~80μg/ml,FAは0.65~10μg/mlの濃度になるように添加して培養し,細胞に対する付着阻止および増殖抑制の程度を調べた.GAもFAも0.65μg/mlでは対照と変わらない増殖を示し,1.3μg/mlでは24時間後の細胞数が僅かに減少したが,両者間に差異は認められなかった.しかし,2.5μg/ml以上では付着阻止ならびに増殖抑制がFAでより強く現われるようになり,GAとの差は濃度が高くなるに従って大となり,FAは7.5μg/ml,GAは60μg/mlで全細胞が死滅した.24時間後の細胞付着阻止率によって,GAとFAの作用曲線を作成した結果,付着阻止作用発現の最小濃度はいずれも0.80μg/mlとなったが,50%阻止濃度はGAは14μg/ml,FAは5.0μg/ml,100%阻止濃度はGAは58μg/ml,FAは7.0μg/mlとなった.このようにGAは培養細胞に対して1μg/mlでも増殖抑制作用を示し,細胞毒性はかなり強いと考えられるが,全細胞を死滅させる濃度はFAの約8倍となったことから,GAの細胞毒性はFAに比ぺるとかなり低く,生体軟組織に対する作用もより緩和であると思われる.
  • 河野 浩行, 瀬山 義幸, 山下 三郎, 赤須 通範, 井上 肇
    1986 年 88 巻 2 号 p. 71-76
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    実験的アレルギー性鼻炎ラット(鼻炎モデル)を用いて,cepharanthine(CR)の抗アレルギー作用を検討した.能動感作鼻炎モデルにおいてCR群は,対照群に比べ有意に鼻腔灌流液中のpontamine sky blue (PSB)漏出が抑制された.ketotifen (KT)を投与した薬物陽性対照群も,同様にPSB漏出が抑制された.さらに,灌流液中のβ-glucuronidase(β-G)活性は,CR群,薬物陽性対照群共に,対照群と比べ抑制された.一方,受動感作鼻炎モデルにおいてCR群は,対照群と比べ有意にPSB漏出が抑制された.薬物陽性対照群も同様だった.しかし,β-G活性は,GR群,薬物陽性対照群共に,対照群と差はなかった.用量依存性を検討した結果,CR群,薬物陽性対照群共に,用量依存的にPSB漏出を抑制した.以上から,CRはアレルギー性鼻炎に対し,有効である可能性と,作用機序としてKTと同様な肥満細胞の脱顆粒の抑制が示唆された.
  • 小野 尚彦, 角南 明彦, 山本 紀之, 山崎 靖人, 三宅 秀和
    1986 年 88 巻 2 号 p. 77-84
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    indomethacin(IND)の誘導体であるproglumetacin maleate (PGM)の鎮痛・解熱作用を等モル用量のINDと比較検討した.マウスphenylquinone writhingに対するPGMの効果は,被験薬1時間前投与時ではINDの約0.8倍であったが,4時間前投与時ではINDの約2倍であった.ラット硝酸銀関節炎疼痛に対してもPGMはINDの約1.5倍の効果を示したが,ラットadjuvant関節炎疼痛に対してはINDの約0.7倍の効果であった.一方,PGMはラット正常体温には全く影響をおよぼさない投与量で,ラットyeast発熱に対する抑制作用を示したが,その効果はINDの約0.5倍であった.またウサギLPS発熱に対するPGM、の解熱効果はINDの約0.3倍と弱かった.これらの結果から,PGMはINDにほぼ匹敵する強力な鎮痛効果を有するが,解熱効果は概して緩和であることが示された.このPGMの鎮痛・解熱作用は主として生体内で代謝されたINDによるものと考えられる.以上より,PGMは抗炎症作用に加え,鎮痛・解熱作用を有した非ステロイド性抗炎症薬であることが示唆された.
  • 中尾 康夫, 中谷 晴昭, 菅野 盛夫
    1986 年 88 巻 2 号 p. 85-94
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    新しいβ-遮断薬,nipradilol(10,30,100μg/kg,i.v.)およびその代謝物,denitro-nipradilol(30,100μg/kg,i.v.)の心拍数ならびに房室伝導におよぼす影響を自律神経健常麻酔犬および薬理学的に自律神経の影響を取除いた麻酔犬で検討し,あわせてpropranolol(30,100μg/kg,i.v.)の作用と比較した.自律神経健常麻酔犬において,nipradilolのβ-遮断作用はpropranololより強く,denitro-nipradilo1のそれはpropranololとほぼ同程度であった.これら薬物は,用量依存性に心拍数を減少し,心房-His束興奮伝導時間(AH)を延長した.これらの変化の程度は,nipradilolで最も強く,denitro-nipradilolはpropranololと同程度の作用を示し,三薬物のβ-遮断作用の強さと平行していた,房室結節機能的不応期(AVNFRP)は,AHの延長に対応して増加した.しかし,His束心室筋興奮伝導時間(HV)は,いずれの薬物によっても有意な影響を受けなかった.reserpine前処置,atropine処置麻酔犬において,propranolol(100,300μg/kg,i.v.)は,心拍数および房室伝導に極く軽度の影響しか与えなかったが,nipradilol(30,100μg/kg,i.v.)は心拍数を有意に減少し,AHを延長するとともにAVNFRPを有意に増加した,しかも,これらの作用は,propranolol投与後においても観察された.denitro-nipradilo1(30,100,300μg/kg,i.v.)もpropranololと異なり,有意な心拍数減少,AH延長およびAVNFRP増加をもたらした.これらの成績は,nipradilolおよびその代謝物であるdenitro-nipradilolは,β-遮断作用とは別の直接的抑制作用を洞房結節および房室結節におよぼし得ることを示唆している.
  • 稲場 均, 加藤 克明, 矢野 崇
    1986 年 88 巻 2 号 p. 95-99
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    糖尿病自然発症マウス(C57BL/KsJ db+/db+,以下糖尿病マウスと呼称する)にtrapidil20あるいは60mg/kgを長期経口投与したところ,低下した神経伝導速度の回復作用が認められた.また,坐骨神経内のソルビトールの増加およびミオイノシトールの減少が抑制された.さらに,血清総コレステロール値の上昇およびHDL-コレステロール比の低下は抑制されたが,血糖値および血清トリグリセリド値には影響が見られなかった.以上の結果から,trapidilは,糖尿病マウスの神経内代謝異常あるいは微小循環障害を改善することにより神経伝導速度の低下を回復させることが示唆された.
  • 柴田 学, 大久保 つや子, 高橋 宏, 工藤 照夫, 猪木 令三
    1986 年 88 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    モルヒネ誘導体及びペプチド性オピオイドの末梢における鎮痛効果を検討する目的で,morphine,ethylketocyclazocine(EKC),dynorphin,[D-Ala2,Met5]-enkephalinamide,[Met5]-enkephalinについて,われわれが考案したformalinによる足蹠疼痛モデル(性質の異なる第1相,第2相の2つの疼痛が得られるのが特徴)を用いて,被検薬10-9~10-6の微量を炎症局所に投与して,疼痛抑制効果を検討した.その結果オピオイドペプチドでは20~500pmolの用量でdynorphin>[D-Ala2,Met5]-enkephaHnamide>[Met5]-enkephalinの順で用量に依存した抑制効果を認めた.これに対しEKC,morphineでは0.4~2.2nmolの用量で,疼痛モデル第1相は用量依存的に抑制するものの,疼痛第2相では却って過敏が用量に依存して出現した.これらの疼痛抑制はlidocaine hydrochlorideが示す抑制用量の約1/10,000~1/500用量であり,局所麻酔作用とは異なった機序によるものと考えられた,また,これらの拮抗を見るためにnaloxoneと,末梢側にのみ作用を示すN-methyl levallorphanを用いて,作用消失の有無を検討した.その結果第1相疼痛においては,被検薬すべての疼痛抑制は,両拮抗薬によって有意に拮抗されたが,第2相ではN-methyl levallorphanのみに拮抗が認められた.またEKC,morphineによる疼痛過敏もN-methyl levallorphanで有意に拮抗された.以上の事実より末梢においても,オピオイドによる疼痛制御機構が存在し,そのなかにはnaloxoneによって拮抗されず,N-methyl levallorphanによってのみ拮抗される,中枢と異なった受容器の存在が考えられた.またEKC,morphineによって,むしろ疼痛過敏が生ずる機構の存在も示唆された.
  • 永井 康雄, 吉田 清志, 成実 重彦, 棚山 薫晴, 永岡 明伸
    1986 年 88 巻 2 号 p. 109-123
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    新規ベンゾキノン系化合物で脳血管障害治療効果を有するイデベノン(CV-2619)の脳内作用部位を明らかにする目的で[14C]CV-2619投与後の脳内分布および脳内グルコース利用率をウィスター系ラット(WKY)および脳卒中易発症系高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用いて検討した.[14C]CV-2619は2.5および10mg/kg静脈内投与により用量依存性に脳内へ移行し,投与5分後で投与量の0.45~0.56%が脳内へ移行した.[14C]濃度の脳内部位の差はほとんど認められなかったが,全脳オートラジオグラムでは脳梁および内包など白質部で高い分布が見られた.[14C]CV-2619 100mg/kg経口投与15分後の脳内濃度はWKYで0.22~0.39μg/g(CV-2619換算値),脳卒中発症後のSHRSPで0.17~0.28μg/gを示した.一方,腹腔内投与(30mg/kg,i.p.)15分後に行なった脳内未変化体および代謝物組成の分析では,両ラットの大脳皮質,小脳,視床および側坐核で未変化体の高い分布が認められた.脳卒中発症3週間後のSHRSPでは脳内グルコース利用率は脳全体で正常ラット(WKY)の43%まで著明に低下したが,CV-2619 30mg/kg,i.p.の3日間連続投与により43%から65%まで改善された.特に視床背内側核,視床下核,尾状核-被穀,下丘および小脳核で有意な改善作用が見られた,以上の成績を基に本薬の主な薬効薬理作用(SHRSPにおける脳卒中後遺症改善作用,諸種モデル動物における学習・記憶障害改善作用)の脳内作用部位として,脳卒中発現後の神経症状のうち,情動異常の改善作用には,主として,視床背内側核および乳頭体が,また運動機能障害の改善作用には視床下核,尾状核-被殻および小脳核が,また学習・記憶障害改善作用には,大脳皮質,中隔核,海馬,視床背内側核などが関与しているものと推定された.
  • 久保田 新, 桑原 明彦, 八景 正乃, 中村 圭二
    1986 年 88 巻 2 号 p. 125-158
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    水溶性benzodiazepineで,短時間作用型の静注用麻酔導入剤midazolamの薬物依存性を,カニクイザルを用い静脈内投与により検討した.主対照薬はtriazolamとし,各被験薬の用量は中枢抑制最小量の1/3を中心とした.sodium pentobarbital 0.6~1mg/kg/inj を自己摂取する動物の交差自己摂取試験のうち,総量制限付きFRlでは自己摂取を維持した動物が5例中4例(80%)をこえる最小用量は,midazolam 0.01,triazolam 0.001mg/kg/inj で,chlordiazepoxide 0.03~3mg/kg/inj では40%をこえず,flurazepam 1 および3mg/kg/injは自己摂取を維持しなかった.時間制限付きFR10では6例中5例(83%)をこえる最小用量はmidazolamが0.03,triazolamが0.003mg/kg/inj であった.日内累進比率試験では,midazolamの自己摂取維持能はtriazolamと同程度かより弱かった.薬物自己摂取開始能試験では,各薬物各4例中midazolam(0.003~0.1mg/kg/inj)で3例,triazolam(0.0003~0.01mg/kg/inj)で1例が自己摂取を開始したが,摂取回数はpentobarbital(0.1~3mg/kg/inj,4例全例が開始)より低く,溶媒レベルに近かった.pentobarbitalで身体依存を形成した7例の動物の単一用量抑制試験では,midazolamの抑制は不完全でそのED値は0.36mg/kgで,triazolamの0.02mg/kg,pentobarbitalの2.45mg/kgと異なり,25%中枢抑制用量を上回った.各4例の動物でmidazolam,triazolam,pentobarbital(中程度中枢抑制用量1日2~3回,すなわち,0.9,0.09,60mg/kg/day)の4週間連投後禁断症状が認められた動物はそれぞれ0,1,3例,高用量(同単位用量1日4回;1.2,0.12,80mg/kg/day)の2週間連投後では1/3,2/3,3/4例であった.更に同用量を2週間連投後休薬し,拮抗薬Ro15-1788を1ないし3mg/kg,i.v.投与した各3例中,triazolamでは2例に禁断症状が誘発されたがmidazolamでは1例にも認められなかった.
  • 古謝 武志, 野元 正弘, 清水 隆雄, 出水 干二, 福田 健夫
    1986 年 88 巻 2 号 p. 159-165
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    TRHによるマウスの全身性振戦を静電容量型トランスデューサーを使って定量的に観察し,この振戦におよぼす薬物の作用をoxotremorine振戦と比較した.TRH20mg/kgによる振戦の潜時は15.1±1.7分,持続時間は20.4±2.2分であった.最大振戦発現時の振戦周波数は13.7±0.3Hzであった.oxotremorine 0.5mg/kgによる振戦の潜時は4.3±0.4分,持続時間は18.0±2.2分であった.最大振戦発現時の振戦周波数は12.7±0.3Hzであった.oxotremorineによる振戦周波数は時間経過と共に著明に低い周波数へ移動した.この現象はTRHでは見られなかった.またTRHの振戦では水平,垂直方向の両方向の体の動きが同程度に認められるのに対して,oxotremorine振戦は水平方向の動きが主であった.TRHによる振戦はhaloperidolあるいはpropranololにより著明に抑制されたがatropineでは抑制されなかった.一方oxotremorineによる振戦はatropineで著明に抑制されたがhaloperido1やpropranololでは抑制されなかった.以上の結果からTRHによる振戦はoxotremorine振戦と質的に異なり,その発現にドパミン受容体やアドレナリンβ-受容体が強く関与し,甲状腺ホルモンやコリン系の関与は少ないものと思われる.またこの実験で使用した静電容量型トランスデューサーを応用した振戦測定装置およびパワーアレイによる分析は潜時,持続時間,周波数および強度を同時に測定することのできる有用な方法であると思われる.
  • 鎌田 紘八, 等々力 英美, 楠本 昌子, 石 幸子, 赤松 隆
    1986 年 88 巻 2 号 p. 167-172
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    マウスの初期胚を2細胞期および8細胞期に採取し,それぞれ24時間,ブレオマイシン(Bl)および6-メルカプトプリン(MP)を作用させた.その後,胚盤胞期に到達するまでの48時間および24時間,清浄な培養液内で発育させ,培養期間中の死亡率,野化胚盤胞への発育率を観察した.培養終了時に胚盤胞の細胞数,分裂指数および染色分体交換(SCE)の頻度を測定した.BlおよびMPはいずれも経時的および濃度に依存して胚の死亡率を増加させ,また艀化胚盤胞への発育率を低下させた.各胚盤胞の細胞数,分裂指数は両物質共に対照とほぼ同じであった.SCE頻度は対照と類似したが,両物質共に高頻度のSCEを示す少数例の胚を認めた.BlやMPの作用後,発育抑制作用はみられなかったが,細胞回転を経過すると胚の死亡が増加した.BlやMPはいずれも非発癌性変異原として分類されているので,これらの変異原は初期胚に対し,突然変異を誘発させ胚の死亡を増加させる可能性を示した.
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