日本薬理学雑誌
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128 巻 , 2 号
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特集:消化管病態研究のフロンティア
  • 竹田 潔
    2006 年 128 巻 2 号 p. 68-71
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/31
    ジャーナル フリー
    慢性炎症性腸疾患は,消化管における免疫系の破綻により発症することが知られている.外界異物の生体内侵入を非自己として感知し排除する免疫系は,自然免疫系と獲得免疫系から成り立っているが,これまでは抗原を非自己として認識する獲得免疫系の分子機構が詳細に解析されてきた.そしてT細胞を中心とした獲得免疫系の慢性炎症性腸疾患との関わりが明らかになってきている.しかし,まだ慢性炎症性腸疾患の根本的な原因解明には至っていない.最近,微生物の構成成分を認識するToll-like receptor(TLR)の機能解析により,自然免疫系の活性化機構が明らかになった.さらに,自然免疫系が獲得免疫系の活性化をも制御していることも明らかになってきた.そして自然免疫系の活性制御機構の破綻が,慢性炎症性腸疾患の発症を誘導することも明らかになった.そのため,自然免疫系の活性は,特に大腸粘膜局所においては過剰な免疫応答を抑制するために絶妙に制御されている.その分子機構の一端として,核に発現するIκB分子IκBNSが,自然免疫系細胞において,あるサブセットのTLR依存性の遺伝子発現をNF-κBの活性を抑制することによりブロックし,個体レベルで炎症抑制に関わっている事が明らかになってきた.
  • 堀 正敏, 藤澤 正彦, 尾崎 博
    2006 年 128 巻 2 号 p. 72-77
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/31
    ジャーナル フリー
    クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)では重篤な消化管運動機能障害を発症するが,これは腸内環境の悪化を招いて粘膜炎症をさらに悪化させる.すなわち,消化管運動機能の改善は疾患の治癒や緩解にとって極めて重要な治療ステップと考えられている.この消化管運動機能障害はIBDに限定されるものではなく,腸閉塞など様々な原因で生じる腸炎や,外科手術後の消化管機能障害(post-operative ileus:POI),敗血症などで広く認められる症状であるが,消化管運動機能低下に関わると考えられる筋層部での炎症応答についてはまだ良くわかっていない.消化管筋層部において,リンパ球系の細胞は粘膜層に比べて圧倒的に少ない代わりに,漿膜下と筋層間神経叢,内輪走筋内に多数のマクロファージが健常時から常在している.また,平滑筋細胞自身も炎症応答細胞として機能することから,筋層部は粘膜部とは異なる独自の炎症応答機構を備えていると考えられる.ここでは,消化管筋層部での炎症応答機構に着目し,消化管運動機能障害の分子機構について概説したい.
  • 富永 真琴
    2006 年 128 巻 2 号 p. 78-81
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/31
    ジャーナル フリー
    カプサイシン受容体TRPV1は1997年にクローニングされ,感覚神経特異的に発現し,カプサイシンのみならず私達の身体に痛みをもたらすプロトンや熱によっても活性化される多刺激痛み受容体として機能することが,TRPV1発現細胞やTRPV1遺伝子欠損マウスを用いた解析から明らかにされた.さらに,TRPV1は炎症関連メディエイター存在下でPKCによるリン酸化によってその活性化温度閾値が体温以下に低下し,体温で活性化されて痛みを惹起しうることが分かった.このTRPV1の機能制御機構は急性炎症性疼痛発生の分子機構の1つと考えられている.TRPV1は消化管の感覚神経にも多く発現することが明らかになっているが,消化管では疼痛発生以外に粘膜保護などの消化管の生理的機能に深く関わることが明らかになりつつあり,それは長い歴史をもつトウガラシの消化管機能への影響に関する研究成果を説明する.TRPV1やTRPV1発現神経の消化管機能制御の詳細な作用メカニズムの解明が待たれている.
  • 川畑 篤史
    2006 年 128 巻 2 号 p. 82-87
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/31
    ジャーナル フリー
    Proteinase-activated receptor(PAR)は,特定のセリンプロテアーゼによって活性化されるGタンパク共役7回膜貫通型受容体であり,PAR1,PAR2,PAR3,PAR4の4つのファミリーメンバーが知られている.これらのPARは消化器系臓器全般に広く発現し,多様な役割を演じている.PAR2およびPAR1はいずれも胃粘膜において種々の機能の制御に関与し,第一義的には粘膜保護の方向に働いているが,その機能メカニズムは大きく異なっている.消化管平滑筋運動調節においてPARは抑制的な面と促進的な面を併せ持ち,その機能の特性やメカニズムは動物種や臓器部位によって大きく異なる.またPAR2は内臓痛および腸炎症の発現,さらに外分泌機能の調節にも関与している.このように,PARの消化管機能は複雑であるが,PARアゴニストあるいはアンタゴニストは,胃粘膜傷害のほか,消化管運動・内臓痛覚の異常に関連する過敏性腸症候群,炎症性腸疾患などの治療にも利用できる可能性があり,今後,特に臨床応用の面における研究の進歩が期待される.
  • 加藤 伸一, 竹内 孝治
    2006 年 128 巻 2 号 p. 88-92
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/31
    ジャーナル フリー
    慢性関節リウマチ(RA)患者では非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)の消化管傷害性が増大していることを実験モデルを用いて基礎レベルで再現し,その機序について検討した.実験的関節炎モデルであるアジュバント関節炎ラットでは,インドメタシンにより誘起される胃損傷が関節炎の程度に依存して著明に増悪した.この増悪は誘導型一酸化窒素(NO)合成酵素(iNOS)由来のNOに起因していることが判明した.また,消化管傷害性の少ない抗炎症薬として注目されている選択的シクロオキシゲナーゼ(COX)もまた関節炎ラットでは従来のNSAIDsと同様に胃損傷を惹起した.このことは,関節炎ラットの胃粘膜においてはCOX-1のみならずCOX-2由来のプロスタグランジン(PGs)もまた恒常性維持に寄与していることを示唆している.さらに,関節炎ラットでは傷害発生のみならず,一旦発生した慢性潰瘍の治癒も正常ラットと比較して有意に遅延した.インドメタシンの連続投与は正常ラットにおける治癒を有意に遅延させたが,関節炎ラットではインドメタシンによる治癒遅延がさらに助長された.関節炎ラットにおける慢性潰瘍の治癒遅延は,治癒過程において重要な役割を担っているbasic fibroblast growth factor(bFGF)などの細胞増殖因子の発現異常に起因していることが判明した.アジュバント関節炎ラットを用いたこれら一連の検討の結果は,実際のRAなどの慢性的な全身性炎症状態における消化管粘膜機能やNSAIDsなどの薬物に対する感受性が変化していることを示唆するものであり,臨床的にも興味深い.従って,RA患者に対するNSAIDsの使用は特に慎重になる必要があると考えられ,またRAなどをターゲットとした抗炎症薬などの開発においては,関節炎を発症させた動物を用いて基礎研究を行うことが副作用の軽減という観点からも重要であると考えられる.
総説
  • 丹羽 俊朗, 本田 真司, 白川 清治, 今村 靖, 大崎 定行, 高木 明
    2006 年 128 巻 2 号 p. 93-103
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/31
    ジャーナル フリー
    選択的セロトニン再取り込み阻害薬フルボキサミンの薬物相互作用に関するin vitro阻害試験および臨床試験の報告を総説としてまとめた.まず,各cytochrome P450(CYP)の代表的な基質であることが知られている薬物に対するin vitro阻害試験および臨床試験結果を整理した.In vitro阻害試験において,フルボキサミンはCYP2A6,CYP2C9,CYP2D6,CYP2E1およびCYP3A4に比べCYP1A2およびCYP2C19を強く阻害し,臨床試験での阻害効果はCYP1A2>CYP2C19>CYP3A4>CYP2C9>CYP2D6(阻害無し)の順である.次に,国内にてフルボキサミンと併用される約80種の薬物(特に血糖降下薬および高血圧治療薬)とフルボキサミンとの薬物相互作用のin vitro阻害試験および臨床試験の報告を調査したが,いずれも一部の薬物で検討されているのみであった.そこで,それぞれの薬物の代謝に関与する薬物代謝酵素および尿中未変化体排泄率を調査したが,主にフルボキサミンにより阻害されるCYP(特にCYP1A2およびCYP2C19)で代謝される薬物ではフルボキサミンとの併用の際には注意を要し,代謝を受けにくく尿中未変化体排泄率が高い薬物ではフルボキサミンによる薬物相互作用を受けにくいことが推察される.したがって,フルボキサミンとの併用治療を行う際には,併用薬の薬物動態を考慮し,CYP阻害による薬物相互作用を起こしにくい併用薬を選択する必要があると考えられる.
治療薬シリーズ(6)過敏性腸症候群
  • 宮田 桂司, 伊東 洋行
    2006 年 128 巻 2 号 p. 104-107
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/31
    ジャーナル フリー
    過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は脳腸相関が深く関与する疾患の代表である.致死的な疾患ではないが,患者のQOLに及ぼす影響は大きく,より有効な薬剤の開発が望まれている.その発症メカニズムは複雑であり,消化管機能異常の発現する部位や発現パターンに依存して下痢型,便秘型およびその交替型に分類され,特に便秘型IBSの便通異常に関する病態モデルがないなど,創薬にとっては難しい疾患の一つでもある.一方,下痢型IBSに関しては,臨床予測性の高い便通異常および痛覚過敏に関する病態モデルが複数存在している.現在,制限付きではあるが,米国でセロトニン5-HT3受容体拮抗薬が下痢型IBS治療薬として上市され,我が国においても5-HT3受容体拮抗薬の上市は間近である.さらに,腸管神経叢における情報伝達機構が明らかになるにつれ,新たな神経伝達物質をターゲットとした創薬研究も行われており,今後の展開が注目される.
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