日本薬理学雑誌
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135 巻, 5 号
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総説
  • 西田 基宏, 大場 三奈, 仲矢 道雄, 黒瀬 等
    2010 年 135 巻 5 号 p. 179-183
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    慢性的な高血圧や大動脈狭窄,あるいは心筋梗塞などは,心臓の心不全への移行を決定する重要な因子である.心臓が心不全へと移行する過程で形態や構造上の変化(リモデリング)が生じる.心臓リモデリングの初期の過程において,ノルアドレナリン,アンジオテンシン(Ang)II,エンドセリン-1などの神経体液性因子が関与することが示唆されている.これらのアゴニストは,細胞膜上の7回膜貫通型受容体(GPCR)を刺激し,三量体GTP結合タンパク質(Gタンパク質)を活性化する.Gタンパク質には4つのファミリー(Gs, Gi, Gq, G12)が存在し,それぞれが独立したシグナリング経路を活性化する.現在までに,遺伝子改変動物を用いた数多くの研究が進められ,それぞれのGタンパク質シグナリングの役割が次第に明らかになってきた.ここでは,Gタンパク質の4つのファミリーが心肥大・心不全形成で果たす役割について紹介する.Gタンパク質を介したシグナリングの知見は,Gタンパク質が受容体によって活性化されることから,新たな心不全治療薬の開発につながるものと期待される.
実験技術
  • 直 弘, 佐々木 一暁, 小田切 則夫, 今泉 真和, 安東 賢太郎
    2010 年 135 巻 5 号 p. 185-189
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    新規医薬品を開発する上で実施を求められている非臨床試験のひとつに安全性薬理試験があり,中枢系,心血管系,呼吸系に対する作用を必須に検討しなければならない.最近の新薬は合成医薬品に代わってバイオ医薬とよばれるタンパク質や抗体医薬が主役になろうとしている.バイオ医薬は作用に種・組織特異性があるために安全性薬理試験の実施に当たっては交差反応性がある種・組織の使用が求められる.そうした中でヒトと交差反応性があると考えられる種としてカニクイザルの使用が増えている.そこで,我々は安全性薬理試験の必須検討項目である呼吸機能をWhole Body Plethysmograph法を用いてカニクイザルで測定する装置を考案した.カニクイザルのWhole Body Plethysmograph法はマウス,ラットのそれと原理は同じであるが,カニクイザルで呼吸機能の検討として汎用されていた血液ガス分析に比べ,動物の負荷が少なく,採血部位からの感染の懸念がないという利点がある.また,血圧や心電図を測定できる送信機を動物に埋め込んでおけば,呼吸機能測定と同時にこれらパラメーターも測定できる.実際にモルヒネを投与した例では1回換気量と分時換気量は低下したが,呼吸数,心拍数,血圧,QTcは変化しなかった.一方,ソタロールを投与した例では呼吸数,1回換気量,分時換気量,心拍数,血圧には影響しなかったが,QTcは顕著に延長した.Whole Body Plethysmograph法はカニクイザルをチャンバー内に入れるだけで測定が可能なので一般毒性試験にも使用可能である.さらに前述の様に血圧,心電図の同時測定も可能であるので,これらのパラメーターを測定できる送信機を埋め込んだ動物を用いれば安全性薬理試験を毒性試験に組み込んで実施することも可能となる.
創薬シリーズ(5) トランスレーショナルリサーチ(1)
  • 大野 隆之, 永井 洋士, 福島 雅典
    2010 年 135 巻 5 号 p. 190-193
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    トランスレーショナルリサーチ(TR:Translational Research)とは,アカデミアや研究機関等の基礎研究から生まれる多くの成果(シーズ)から有望シーズを選抜し,非臨床・臨床試験での検証を通じて新規の医薬品や医療技術として実用化へつなげる(橋渡しする)研究・事業として位置付けられている.近年,ゲノム科学や再生医学等の発展により遺伝子や細胞を用いた新規治療法等の実現へ向けた基礎研究の成果が多く挙がっているが,その大半が実用化されていない.その実用化のためにTRの重要性が認識され,臨床開発の基盤整備とともに,シーズ開発が強力に進められている.
新薬紹介総説
  • 檜杖 昌則, 石橋 太郎, 野村 俊治
    2010 年 135 巻 5 号 p. 194-203
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    バレニクリン酒石酸塩はα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に対する部分作動薬であり,α4β2 nAChRに対する強い親和性と,他のnAChRサブタイプに対し500倍以上の高い選択性を有する.α4β2 nAChR発現細胞を用いた電気生理学的検討において,最大作用がニコチンの40%程度となる部分作動薬作用を示し,ドパミン神経系の神経化学的検討では,線条体スライスからのドパミン遊離作用ならびに側坐核でのドパミン代謝回転およびドパミン遊離作用において,ニコチンの約40~60%の最大作用を示した.また,これらの検討でニコチンと併用した場合は,ニコチンの作用を抑制した.ニコチン依存症のモデルであるニコチン依存ラットでの行動学的検討では,バレニクリンはニコチン自己摂取を特異的に抑制し,ニコチン依存症の喫煙者の禁煙治療に有効であることが示唆された.一方,薬物弁別試験およびバレニクリン自己投与試験の結果から,バレニクリンはニコチン様自覚効果と強化効果を有することが示されたが,その作用はニコチンと比べ弱く,またニコチンで見られる断薬時の退薬症候は全く認められなかった.臨床試験では,1 mg 1日2回の12週間投与で第9~12週の4週間持続禁煙率および第9~52週の持続禁煙率においてプラセボ群に対して有意に高い禁煙率を示し,外国臨床試験では既存の経口禁煙治療薬と比較して優れた効果を示した.バレニクリンはニコチンを含まない新しい作用機序を有する禁煙治療薬であり,優れた禁煙率を示すことから,ニコチン依存症の薬物治療の新たな選択肢として効果的な禁煙治療に資することが期待される.
  • 中尾 薫, 安藤 晃裕, 平形 美樹人, 安藤 直生, 竹下 浩一郎, 宮本 庸平, 望月 英典
    2010 年 135 巻 5 号 p. 205-214
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/13
    ジャーナル フリー
    レミッチ®カプセル2.5 μg(主成分はナルフラフィン塩酸塩)は,血液透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果が不十分な場合に限る)を効能・効果として2009年1月に承認された,選択的なオピオイドκ受容体作動薬である.各種そう痒モデル動物の抗ヒスタミン薬感受性および抵抗性の引っ掻き行動に対して,ナルフラフィン塩酸塩は用量依存的な抑制作用を示し,種々の痒みに対して止痒作用を発現する可能性が示唆された.また,ナルフラフィン塩酸塩の作用がκ受容体拮抗薬nor-BNIの脳室内投与により抑制されることから,中枢神経系のκ受容体の活性化を介して止痒作用を発現するものと考えられた.非臨床および臨床試験から,薬物動態学的特徴として,(1)長期投与により未変化体または代謝物が蓄積する可能性はないと考えられる,(2)投与後速やかに吸収され,肝臓や腎臓に高濃度分布すると共に,薬理作用部位と考えられる中枢神経系にも分布する,(3)CYP代謝反応の主な分子種はCYP3A4であり,それを阻害する薬剤との併用により未変化体の血漿中濃度が上昇する場合がある,(4)ナルフラフィン塩酸塩はP糖タンパク質の基質であるが,併用した他のP糖タンパク質基質薬物の輸送に影響を及ぼす可能性は低い,(5)未変化体およびその代謝物は,透析により除去され,血液透析患者において蓄積する可能性は低い,という特徴を有する.臨床においては,ナルフラフィン塩酸塩2.5および5 μgの1日1回原則として夕食後の経口投与により,既存治療抵抗性そう痒症を有する血液透析患者に対して止痒作用を示し,その作用は長期の反復投与によっても減弱しなかった.また,動物を用いた依存性試験および臨床試験の結果から,ナルフラフィン塩酸塩が依存性および乱用をもたらす可能性は非常に低いと考えられた.以上のように,ナルフラフィン塩酸塩は,血液透析患者の既存治療抵抗性のそう痒症を抑制し,QOLを向上できる極めて有効な薬剤であると考えられる.
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