propiverine hydrochloride (プロピベリン)は,主として過活動性膀胱に起因する尿失禁および頻尿の改善薬として臨床的に用いられている.プロピベリン,ヒト血漿中に認められるプロピベリンの活性代謝物 1-methyl-4-piperidyl benzilate N-oxide (DPr-P-4 (N→O)),オキシブチニンおよびテロジリンのモルモット膀胱,唾液腺,大脳皮質,回腸縦走筋および心臓の各組織ムスカリン受容体との結合親和性について比較検討した.プロピベリンおよびDPr-P-4 (N→O) は,各組織膜画分への
3H-quinuclidinyl benzilate(
3H-QNB)の特異的結合を競合的に阻害した.オキシブチニン,テロジリン,ピレンゼピンおよびアトロピンも同様に
3H-QNBの結合を競合的に阻害した.被験薬の膀胱ムスカリン受容体への結合親和性は,アトロピン>オキシブチニン>ピレンゼピン,DPr-P-4 (N→O),テロジリン>プロピベリンの順であった.プロピベリンおよびDPr-P-4 (N→O) は,アトロピンと同様に各組織ムスカリン受容体に選択性を示さなかった.一方,M
1選択性のピレンゼピンの大脳皮質ムスカリン受容体への結合親和性は,膀胱の10.1倍高かった.オキシブチニンの唾液腺および大脳皮質ムスカリン受容体への結合親和性は,それぞれ膀胱の10.9倍および13.9倍高かった.またテロジリンの大脳皮質ムスカリン受容体への結合親和性は,膀胱の4.4倍高かった.本研究においてはプロピベリンおよびオキシブチニンのピロカルピン(1mg/kg,s.c.)刺激による唾液分泌に及ぼす影響についても無麻酔下のイヌを用いて比較検討した.プロピベリン(5mg/kg,i.v.)では唾液分泌に及ぼす影響は観察されなかった.一方,オキシブチニン(0.1~0.5mg/kg,i.v.)により用量依存的かつ有意な唾液分泌抑制が観察された.またこれらの被験薬投与後20分間の唾液分泌抑制率のID
50値(95%信頼限界)は,プロピベリンおよびオキシブチニンでそれぞれ,6.88mg/klg,i.v.(4.71∼15.67),0.154mg/kg,i.v.(0.115∼0.205)であった.以上の結果から,プロピベリン,その代謝物であるDPr-P-4 (N→O),オキシブチニンおよびテロジリンは,いずれも膀胱のムスカリン受容体を競合的に阻害するが,これら被験薬のムスカリン受容体への結合親和性は,組織により異なることが明らかとなった.またプロピベリンは唾液分泌に及ぼす影響がオキシブチニンより少ないことが示唆された.
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