日本薬理学雑誌
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115 巻 , 1 号
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  • 今泉 正洋, 小野寺 憲治
    2000 年 115 巻 1 号 p. 5-12
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    不安の動物モデルは,いわゆる“Geller型”や“Vogel型”の抗コンフリクトテストや罰刺激を用いない測定方法である light dark test, hole-board test, social interaction test, 高架式十字迷路法など数多く報告されている.これらのモデルは,全て臨床で有用性が明らかなベンゾジアゼピン系抗不安薬が有効であることから,薬理学的に不安の測定系として認められている.しかし,近年臨床適用されるようになったセロトニン系抗不安薬の上記モデルにおける活性は必ずしも一致しておらず,これらには異なった種類の不安が含まれている可能性がある.アメリカ精神医学会による精神疾患の診断統計マニュアル第4版(DSM-IV)には,不安障害として広場恐怖を伴わないパニック障害,広場恐怖を伴うパニック障害,パニック障害の既往歴のない広場恐怖,特定の恐怖症,社会恐怖,強迫性障害,外傷後ストレス症候群,急性ストレス障害,全般性不安障害,一般身体疾患による不安障害,物質誘発性不安障害,特定不能の不安障害について述べられている.上記障害の中には,ベンゾジアゼピン系抗不安薬で治療できない例も多く,これらの治療薬の評価のための動物モデルも重要である.例えば,高架式十字迷路から派生した高架式T字迷路で,ラットがエンクローズドアームからオープンアームに出るまでの回避潜時とオープンアームからの逃避潜時を測ることにより,条件恐怖と無条件恐怖を分けて測定し,後者によってパニック障害の治療薬を評価しようとする試みや強迫性障害のモデルとしてのビー玉埋め法なども報告されているが,これらの不安障害のモデルの確立は今後の課題である.
  • 秦 多恵子, 伊藤 栄次, 西川 裕之
    2000 年 115 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ストレスによって誘発される不安について,その誘因ストレス,生物学的背景の違いによる不安への感受性・不安レベルの相異,関連する脳内物質の動きなどを中心に以下の項目を述べた.(1)はじめに:どんなに小さなストレス刺激であっても生体はそれに反応し,各種内在性物質の量的変化や代謝回転の変化を生じる.またストレス状況下で誘発されるであろうマイナス情動の1つに不安がある.(2)不安はストレスにより誘発されうる:環境温度リズムの急変に基づくSARTストレスや,拘束ストレスなどによって生ずる異常行動が抗不安薬によって改善されるなど,ストレスと不安が関係しているという間接的な事例と,高架式十字迷路でオープンアームへの進入回数,探索時間等を測定することにより,不安との関係を直接求めた各種拘束ストレスやSARTストレスの実験例を示した.(3)不安レベルは受ける側のコーピング・ストラテジーにより異なる:Fischer 344系およびLewis系ラットでは雄性は十字迷路のオープンアーム上に全く進入しない.Wistar系では高週齢ほど不安レベルが高い.また雄性の方が早い時期(低週齢)から不安レベルが高くなるなど,同じラットでも系統,性別,週齢,ファミリー等によってストレスから受ける不安レベルが異なる.(4)不安に関連する脳内物質のストレスによる変化:各種の拘束ストレスやSARTストレスにより脳内のCRF,NA,5-HT,DA,AChなどが変化し,この変化は抗不安薬によって改善する.(5)おわりに:ストレスに伴って現れる不安行動はいずれの1つの神経系に異常が生じても誘発される可能性がある.しかし,1神経系あるいは1物質の変化のみによるものではなく,それらのバランスが崩れた場合に不安を含む様々の異常が現われると考えられる.従って,この崩れたバランスを元に戻すように働くものが抗不安薬の候補となりうる.
  • 鳥居塚 和生, 溝脇 万帆, 花輪 壽彦
    2000 年 115 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    更年期不定愁訴は多彩で個人差も大きいが,のぼせ,ほてり,冷え性など身体的愁訴のほか,精神面では不安感,憂欝,不眠などといった症状を呈する.閉経前後では卵巣機能の低下によりエストロゲンの分泌が低下し,視床下部からのGnRHや下垂体前葉からの卵胞刺激ホルモンなどの過剰分泌が起こる.この過剰分泌による調節機能の障害が自律神経に異常をきたし更年期障害の諸症状がもたらされると考えられている.性ホルモンが精神症状に及ぼす影響については,いまだに不明な点も多いが,女性においては性ホルモンのバランスが大きく変化する月経前,産褥期,更年期といった3つの時期に,月経前症候群(PMS),月経前不快気分障害(PMDD),マタニティーブルー,更年期不定愁訴など気分障害関連の症状を呈することが多い.その最も重症な時期においては,不安を伴う中等症程度のうつ状態を呈すこともあり,日常の社会生活に支障をきたすこともある.プロゲステロン代謝物をはじめとしたステロイド類の一群はGABAA受容体の調節をしていることが示されてきた.これらのステロイド類の一群はニューロステロイドと呼ばれ,GABAA受容体に結合することから気分障害や性行動,ストレス反応など情動反応への寄与が考えられている.脳内のニューロステロイドは性周期,妊娠,ストレス,性行動,記憶や加齢などの過程において生理的に神経伝達修飾作用を行っていると推定できる.未解決の部分が多くあるが,性ホルモン,ニューロステロイドなどは中枢神経系に作用しその機能を調節する役割を担っていると考えられる.
  • 辻 稔, 武田 弘志, 松宮 輝彦
    2000 年 115 巻 1 号 p. 29-38
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    近年,不安と脳内serotonin(5-HT)神経との関連が注目されている.特に,5-HT受容体サブタイプの一つである5-HT1A受容体の役割が重要視されており,臨床においても,5-HT1A受容体作動薬の抗不安薬としての有効性が認められている.しかしながら,前臨床研究において従来用いられてきた薬効評価法では,これら新規抗不安薬の薬効は必ずしも満足できる結果が得られていないのが現状である.このことは「不安の多様性」を浮き彫りにしているのかもしれない.近年,conditioned fearとunconditioned fearといった異なったタイプの不安を同時に検出することを可能にした高架式T字迷路法が,新規の不安評価法として考案された.本法を用いた一連の研究結果より,5-HT神経の投射路と種々の不安発現との関連性が明らかにされつつある.また,マウスの情動行動を指標としたhole-board試験においては,ストレス刺激の負荷により誘発されるマウスの情動変化に対して,benzodiazepine(BZP)系および5-HT1A系の化合物が全く異なる効果を示すことが明らかになってきている.このことは,情動を調節する上で,BZP受容体および5-HT1A受容体を介した機構がそれぞれ,異なった役割を担っていることを示唆させるものである.したがって,今後,「不安の多様性」を念頭においた研究が重要であり,これらの研究の発展が不安障害の病態生理学的特徴の解明および新規の有効な治療薬の開発を試みる上で有用な情報を提供するものと考える.
  • 松本 真知子, 吉岡 充弘
    2000 年 115 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    不安障害に関わっていると考えられているセロトニン(5-hydroxytryptamine:5-HT)受容体について現時点での知見を概説した.現在5-HT受容体は,7ファミリーに分類され,少なくとも14種類のサブタイプが存在している.このうち不安と最も関連性が深いとされているのは5-HT1A受容体である.5-HT1A受容体の部分作動薬であるブスピロンおよびタンドスピロンは,依存性の少ない有用な抗不安薬として現在臨床で用いられている.イプサピロン,ゲピロンなど抗不安作用を示す多くの5-HT1A受容体作動薬は,5-HTの遊離,合成あるいは神経発火を抑制する.また5-HT1A受容体ノックアウトマウスでは不安が亢進する.これらの結果は5-HT1A受容体を介した5-HT遊離調節機構が不安の発現あるいは病態に深く関わっていることを示唆する.一方5-HT1B受容体ノックアウトウスでは攻撃行動が増強する.5-HT2および5-HT3受容体拮抗薬は様々な不安モデル動物を用いた実験で抗不安作用を示す.アンチセンス法により5-HT6受容体発現を抑制した場合も,不安による5-HT神経過活動は減弱する.以上の結果は,5-HT1A受容体以外にも5-HT1B,5-HT2,5-HT3および5-HT6といった多くの5-HT受容体が不安障害に関わっていることを示す.これらの受容体が不安発現に直接寄与しているのか,あるいは不安により適応的に生じた5-HT神経過活動を調節しているのかは明らかでないが,不安の病態生理に5-HT神経系が重要な役割を担っていることは確かであろう
  • 小倉 博雄, 小笹 貴史, 荒木 伸, 山西 嘉晴
    2000 年 115 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    記憶や認知機能に障害を持つアルツハイマー病患者では脳内のコリン作動性神経の異常が認められる.塩酸ドネペジルは新規骨格を有する抗コリンエステラーゼ剤で,アセチルコリン(ACh)の分解を抑制することにより脳内のコリン作動性神経を賦活し,アルツハイマー病の症状を軽減することを意図した薬剤である.塩酸ドネベジルはコリン作動性神経においてAChの分解に関与するアセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対し強力な阻害活性(IC50値6.7nM)を示した.経口投与により塩酸ドネペジルはラット脳内に良好に移行し,脳内AChEを低用量(0.625mg/kg)から用量依存的に阻害し,脳内AChを増加させた.マイクロダイアリシス法を用いた検討では塩酸ドネペジルはラット海馬あるいは大脳皮質の細胞間隙AChレベルを2.5mg/kgで上昇させた.一方,末梢の心臓や小腸のコリンエステラーゼに対してはほとんど阻害作用を示さなかった.ラットを用いた大脳基底部破壊による受動回避反応障害に対しては0.125~1.0mg/kgで,中隔野破壊による水迷路学習障害に対しては0.5mg/kgで,更には抗コリン剤のスコポラミンによる放射状迷路の遂行障害に対しては0.5mg/kgで,塩酸ドネペジルはこのような脳内コリン作動性神経の障害で生じる種々の学習課題の遂行障害に対し改善作用を示した.軽度および中等度のアルツハイマー病患者を対象とした臨床試験では塩酸ドネペジル(5および10mg/日)は12週間および24週間の2つの試験において,いずれもその有効性が確認された.また副作用は少なく,更に作用持続が長いことから1日1回の服用で有効であることが確かめられた.このように塩酸ドネペジルは前臨床試験において示された有効性がアルツハイマー病を対象とした臨床試験で明確に立証された.
  • 中村 譲治, 桑名 良寿, 行俊 信幸
    2000 年 115 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    トピラマートはfructopyranose骨格を有する新規の抗てんかん薬である.動物実験においては最大電撃痙攣を抑制し,ペンチレンテトラゾール痙攣に対しては抑制作用を示さない.また痙攣の閾値にはほとんど影響を与えないことから,発作波の伝播を抑制するタイプの薬物であると考えられている.作用機序としては,神経細胞の電位依存性ナトリウムチャネルを使用依存性(use-dependent)に抑制する作用,GABA(γ・アミノ酪酸)による塩素イオンの流入を増加させる作用,カイニン酸α-amino-3-hydroxy-5-methylisoxazole-4-propionic acid (AMPA)受容体を介する内向き電流の抑制作用がこれまでに判明している.海外の臨床試験においては部分発作等に対する有効性が確認され,既に英国,米国をはじめ世界55力国では部分発作治療薬として承認を取得しており,現在,本邦においても症候性局在関連性てんかんを対象とした第III相試験が計画されている.
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