日本薬理学雑誌
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135 巻, 4 号
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特集 眼薬理学の最近の進歩
  • 相原 一
    2010 年 135 巻 4 号 p. 129-133
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    緑内障は特徴的な視神経乳頭障害とそれに伴う視野障害を有する慢性進行性視神経症であり,緑内障性視神経症と捉えられ,その原因は多因子性である.その中で眼圧が最大の危険因子であり,また唯一の治療方法が眼圧下降治療である.眼圧下降治療薬は大きく,房水産生抑制と房水流出促進をターゲットとする薬剤に分かれている.房水産生抑制薬は交感神経β遮断薬,α2刺激薬,および非選択性交感神経刺激薬,また,炭酸脱水酵素阻害薬が存在する.房水流出促進薬としては主としてプロスタグランジン(PG)関連薬があり,その他にはα1遮断薬,副交感神経刺激薬が存在する.PG関連薬は世界的に5種類存在するがそのうちプロスト系と呼ばれる4種類が強力な眼圧下降効果を持ち,1日1回点眼であること,副作用が局所であること,β遮断薬と異なり昼夜の日内変動に関係なく一定の眼圧下降効果を有すること,高いアドヒアランスが期待できることから,第一選択薬となっている.また,点眼薬という特殊な剤型と眼表面からの特殊な眼内薬物移行,ならびに特に緑内障に特徴的な長期にわたる点眼治療を必要とする点から,緑内障治療薬は主剤の特徴のみならず,製剤そのもの,また基剤の防腐剤などの添加剤の眼表面への影響に留意して開発,処方が行われている.また今後上市予定の合剤,将来的には眼圧下降以外の緑内障治療手段として注目されている神経保護薬の開発も待たれる.
  • 亀井 千晃, 中野 祥行, 香川 陽人, 伊澤 可奈, 矢野 春奈
    2010 年 135 巻 4 号 p. 134-137
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    アレルギー性結膜炎に対するヒスタミンH4受容体の役割をマウスの眼部引っ掻き行動ならびにアレルギー症状を指標として検討した.ヒスタミンは,用量依存性に眼部の引っ掻き行動ならびに浮腫,充血などのアレルギー症状を誘発した.ヒスタミンにより誘発された眼部引っ掻き行動は,H1受容体拮抗薬であるレボカバスチンおよびH4受容体拮抗薬であるJNJ7777120(1-[(5-chloro-1H-indol-2-yl)-carbonyl]4-methyl-piperazine)により抑制された.アレルギー症状は,レボカバスチンでのみ抑制された.単独では有意な効果を示さなかった用量のレボカバスチンとJNJ7777120の併用により,ヒスタミン誘発眼部引っ掻き行動ならびにアレルギー症状は有意に抑制された.ヒスタミンH1受容体作動薬により誘発されたアレルギー性結膜炎は,レボカバスチンおよびJNJ7777120により抑制されたが,ヒスタミンH4受容体作動薬により誘発されたアレルギー性結膜炎は,レボカバスチンでは拮抗されなかった.抗原誘発アレルギー性結膜炎に対してもレボカバスチンおよびJNJ7777120は抑制作用を示し,両者の併用により効果は増強された.以上の成績より,ヒスタミンH4受容体は,アレルギー性結膜炎と密接に関与すること,また,H1受容体拮抗薬では抑制されないアレルギー性結膜炎に対し,H4受容体拮抗薬が有用である可能性が示唆された.
  • 中村 雅胤
    2010 年 135 巻 4 号 p. 138-141
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    近年,ドライアイはメディアなどでも取り上げられているように,広く世間でも認識されるようになってきたが,その病因,治療,管理などについて十分に理解されているわけではない.ここ十数年,ドライアイの疫学,病態,診断,治療などに関する研究はめざましいものがあり,ドライアイに関する理解もかなり進んだ.2004年に世界のドライアイ専門家が集まり,Dry Eye WorkShop(DEWS)が結成され,ドライアイの定義,分類,疫学,病因,臨床試験,治療法などについて広く議論された.3年間の議論の後,DEWSの活動を「2007 Report of the International DEWS」として発表された.本稿では,DEWSおよび国内のドライアイ研究会の活動内容,特に新しいドライアイの定義と診断基準を紹介するとともに,近年のドライアイ治療薬の開発の方向性,新しいドライアイの検査・診断法について概説する.
  • 赤池 昭紀, 久米 利明, 泉 安彦, 小坂田文隆
    2010 年 135 巻 4 号 p. 142-145
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    網膜が傷害されると,ミューラーグリアが網膜前駆細胞に脱分化する.その過程において,網膜の傷害後Wnt/β-cateninシグナルの活性化が重要な役割を果たす.ミューラーグリアより脱分化した網膜前駆細胞は内顆粒層から外顆粒層へ遊走し,レチノイン酸の適用により視細胞へと分化する.同様の網膜再生作用は網膜変性モデルにおいても観察される.これらの知見は,網膜傷害後の修復過程にWnt/β-cateninシグナルが重要な役割を果たすことを示すものであり,Wntシグナルの制御が神経再生を目指した薬物治療の一つとなりうることが示唆される.一方,網膜再生に向けた移植医療につながる基礎研究の一貫として,胚性幹(ES)細胞から網膜細胞への分化に向けた研究が進められており,WntシグナルとNodalシグナルの阻害薬の存在下で浮遊培養をすることにより網膜前駆細胞および網膜色素上皮細胞へと分化することが示された.レチノイン酸,タウリン,N2 supplementの添加により,視細胞への分化が促進する.ES細胞から視細胞への分化制御方法の確立により,ヒトES細胞由来視細胞移植による網膜の再生治療の実現化を大きく前進しつつある.
  • 中原 努, 森 麻美, 坂本 謙司, 石井 邦雄
    2010 年 135 巻 4 号 p. 146-148
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    緑内障および糖尿病網膜症は,後天性の失明や視力低下の原因として重要な位置を占めている.これら網膜疾患の発症および進行には,網膜循環障害が関与している.従って,網膜循環改善薬が有用な予防・治療薬になり得ると考えられるが,現在,網膜循環障害に適応を有する医薬品はカリジノゲナーゼのみである.その原因として,網膜循環に関するin vivo研究が少ないため,網膜循環調節機構の詳細が十分に解明されていないという事実を挙げることができる.そこで我々は,これまでに小動物用 in vivo 網膜血管径計測システムを独自に構築し,それを用いて正常および病態モデルラットにおける網膜循環調節機構に関する研究と,網膜循環改善薬の探索を行ってきた.その結果,一酸化窒素(NO)は,シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)由来のプロスタノイドを介して網膜血管を拡張させること,そして網膜血管の拡張性調節には cGMP よりも cAMP シグナル経路が重要な役割を演じていることを明らかにしてきた.このことは,網膜血管において cAMP を選択的に増加させる薬物が,網膜循環改善薬となる可能性があることを示唆している.
  • 中村 信介, 嶋澤 雅光, 原 英彰
    2010 年 135 巻 4 号 p. 149-152
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    増殖糖尿病網膜症(proliferative diabetic retinopathy : PDR),未熟児網膜症,網膜静脈閉塞症および加齢黄斑変性症(age-related macular degen-eration : AMD)などの後眼部疾患は,網膜における病的な血管新生により惹起される疾患で不可逆的な視野欠損や失明を引き起こす.しかし,これまでこれら疾患に対する有効な治療薬はなく,その網膜血管新生を阻害する薬剤の開発が試みられてきた.近年,強力な血管新生促進因子として血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor : VEGF)が同定され,さらにPDRおよびAMDの発症に深く関与していることが明らかにされ,VEGFをターゲットとした治療薬の開発が進められてきた.現在では抗VEGF抗体が医療現場において大きな成果を上げ,新たな治療法として確固たる地位を築きつつある.
総説
  • 福井 裕行
    2010 年 135 巻 4 号 p. 153-157
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    多くのGタンパク質共役型受容体と異なり,ヒスタミンH1受容体刺激はH1受容体遺伝子発現の亢進を介して,同種の受容体アップレギュレーションを引き起こした.この分子機構にはタンパク質キナーゼC-δの活性化シグナルが関与する.また,IL-4受容体刺激により,H1受容体遺伝子発現亢進を介する異種のアップレギュレーション機構も存在する.この分子機構にはJak3,Stat6を介するシグナルが関与する.アレルギー性鼻炎モデルラットの鼻粘膜において,鼻炎発作に伴いヒスタミンH1受容体遺伝子の発現亢進を介するH1受容体アップレギュレーションが引き起こされた.このH1受容体アップレギュレーションにはH1受容体を介する同種のH1受容体遺伝子発現亢進機構とH1受容体を介さない異種のH1受容体遺伝子発現亢進機構が関与する.異種のH1受容体遺伝子発現亢進機構もH1受容体シグナルが関与するが,1週間以上の長時間のH1受容体シグナルを必要とした.異種のH1受容体遺伝子発現亢進シグナルはIL-4により仲介されることが示唆され,アレルギー性鼻炎の症状悪化に関係することが考えられる.アレルギー性鼻炎モデルラットの症状は抗ヒスタミン薬の投与量よりヒスタミンH1受容体遺伝子発現レベルに依存することから,H1受容体遺伝子はアレルギー疾患感受性遺伝子であることが明らかである.タンパク質キナーゼC-δ活性化シグナルを介するヒスタミンH1受容体遺伝子発現亢進は抗アレルギー作用が伝承される緑茶,および,苦参などの天然物医薬により強力に抑制され,これらの天然物医薬はアレルギー性鼻炎モデルラットの症状を強力に抑制した.タンパク質キナーゼC-δシグナルを抑制する天然物医薬は抗ヒスタミン薬と薬理機構が異なり,新規アレルギー疾患治療薬としての有用性が期待される.
新薬紹介総説
  • 田中 基晴, 赤堀 壬紀, 後藤 展見
    2010 年 135 巻 4 号 p. 159-168
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    ラジレス®はCiba-Geigy社(現ノバルティス ファーマ社)で創製されたアリスキレンフマル酸塩(アリスキレン)を有効成分とする経口降圧薬であり,レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系の起点に位置する酵素のレニンを直接的に阻害する新規の作用機序を有する.アリスキレンは,ヒトレニンに対して高い種特異性(IC50 : 0.6 nM)を有し,また酵素選択性も高い.動物実験においてもアリスキレンは高血圧モデルにおいて降圧作用を示すのみならず,さまざまな病態における心,腎の臓器障害を保護する作用を示すことが明らかにされている.国内,海外における臨床試験において,さまざまな重症度の高血圧患者に対し,アリスキレンは,150 mgおよび300 mgの1日1回投与で持続的な降圧効果を示し,忍容性も優れていることが示された.また,最近報告された探索的な臨床試験において,アリスキレンの腎臓および心臓に対する臓器保護作用が示唆されているおり,現在,アリスキレンの臓器保護効果を検討するための複数の大規模臨床試験が日本を含む世界各国で実施中である.
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