日本薬理学雑誌
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139 巻, 3 号
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総説
  • 田中 秀和
    2012 年 139 巻 3 号 p. 93-98
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/10
    ジャーナル フリー
    神経回路ができるとき,神経突起が標的細胞と接着することでシナプス結合が成立する.神経回路が成立したあとでも,シナプス形成過程の一部をくりかえすことで,シナプスの強化・抑圧やつなぎかえが起きる.我々は,これらの過程に接着分子カドヘリンが関与する可能性を検討してきた.研究を進める中で,カドヘリンが思いのほかダイナミックにシナプスの生理機能にかかわることがわかり,さらにその過程で新たなシグナル伝達経路も見いだされた.こうしてわかってきた事実は,神経回路のなりたちや可塑性に新たな視点を与えるばかりでなく,カドヘリンが神経伝達物質の放出機構や受容体の機能調節に深くかかわっている可能性も示唆している.またカドヘリン遺伝子の異常は,自閉症などの疾患感受性に関連しており,シナプスの接着・リモデリング関連分子は,新たな治療標的として薬理学への貢献が期待される.
  • 服部 光治
    2012 年 139 巻 3 号 p. 99-102
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/10
    ジャーナル フリー
    脳の形成およびシナプス可塑性に関与する分子の機能異常が精神神経疾患の発症や増悪化に関わるという例は今や珍しくない.リーリンは,胎生期の神経細胞移動や脳の層構造形成に必須の巨大(分子量430 kDa以上)な分泌タンパク質であり,シナプス可塑性をはじめ生後脳における機能も明らかになりつつある.一方,ヒトサンプルの研究や遺伝子多型の研究結果から,アルツハイマー病,統合失調症,自閉症,気分障害などの精神神経疾患にリーリンが関与することが提唱されている.そしてこれら研究の多くが,リーリンの「機能低下」が疾患発症に寄与することを示唆している.すなわち,リーリンの「機能増強」は神経難病の治療につながることが期待される.しかし,細胞レベルや生化学レベルで極めて多くの研究がなされたにもかかわらず,リーリンによる情報伝達機構の全貌は見えてきていない.さらには,リーリン機能低下をうまく再現できる動物モデルもないため,これが生体に具体的にどのような異常を引き起こすのかについてはほぼ不明である.その上で,リーリンの「機能増強」をどのように行うのかという大きな問題も残されている.本総説ではリーリンの機能について分子レベルでわかっていることを概説し,ヒト疾患における研究結果について紹介したい.また,リーリン機能増強の有力な方策の1つとして,リーリンの分解阻害が考えられるので,リーリンの特異的分解機構についても述べる.最後に,リーリンの機能解明を阻んでいる要因と,今後の展望や進むべき方向についても議論したい.
  • 竹内 孝治, 田中 晶子, 加藤 伸一, 天ヶ瀬 紀久子
    2012 年 139 巻 3 号 p. 103-108
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/10
    ジャーナル フリー
    非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)による小腸障害性は,シクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害に基づく内因性プロスタグランジン(PG)の産生低下に端を発した防御系の脆弱化を背景として,腸運動亢進,粘液分泌低下,腸内細菌の粘膜内浸潤,誘導型一酸化窒素産生酵素(iNOS)の発現,一酸化窒素(NO)の過剰産生,好中球浸潤および活性酸素などにより説明される.従来,消化管粘膜の恒常性維持にはCOX-1由来のPGが重要であると考えられてきたが,現在ではCOX-1阻害のみでは損傷は発生せず,COX-1阻害に加えてCOX-2阻害もNSAIDの消化管障害性に必須であることが判明している.NSAIDの投与後には,COX-1阻害によりCOX-2が誘導され,COX-2由来のPGが代償的にCOX-1阻害に基づく機能変化も含めた有害事象に対して保護的に働くため,COX-2を同時に阻害することが小腸損傷の発生に必要なわけである.NSAID投与後に見られる事象の中でも,小腸運動の亢進や粘液分泌の減少は,腸内細菌の粘膜内浸潤,好中球浸潤,およびiNOS誘導などの他の事象に先行して認められる.COX-1阻害はPG産生の抑制を介して,小腸運動亢進や粘液分泌の低下を誘起し,腸内細菌の浸潤およびiNOS発現誘導までは生じるが,引き続き生じるNO産生や好中球浸潤などは同時に誘導されてくるCOX-2由来のPGにより抑制されるため,COX-1阻害のみでは損傷発生に繋がらない.腸内細菌の代わりに胃酸が重要な役割を果たしているという違いはあれ,同様の結果はNSAIDの胃障害性についても得られており,NSAIDによる消化管障害の発生にはCOX-1とCOX-2の両者の阻害が関係しており,COX-2も消化管粘膜の恒常性維持において重要な役割を演じているものと思われる.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(7)(8)
  • 蔵並 潤一
    2012 年 139 巻 3 号 p. 109-112
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/10
    ジャーナル フリー
    GLPとはGood Laboratory Practiceの略称で,安全性に関わる非臨床試験の信頼性を確保するための基準であり,33年前に世界に先駆け米国において制定された.日本には,その後4年遅れて導入され,省令化や安全性薬理試験への適用等の変革を遂げてきた.一方,海外に目を転ずると,日本のGLP制定に先駆けOECD GLPが制定され,その後一部改正を経て現在に至っている.さらに,OECDにおけるGLP適合査察機関現地評価制度の合意を受け,GLPの国際整合が加速された.日本の医薬品GLP省令は,2008年の一部省令改正により国際整合の波に乗り,自由度が増した結果,自ら考え,自ら行動することの重要性が取り沙汰されはじめた.申請資料の信頼性の基準とGLPとのボーダレス化が進む中,我々は試験の信頼性の確保に真に必要な,「筋肉」のみを残す取り組みを始めるべきであろう.
  • 吉野 卓史
    2012 年 139 巻 3 号 p. 113-116
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/10
    ジャーナル フリー
    この3年間で,未承認薬・適応外薬問題の解消に向けて,厚生労働省が未承認薬の開発支援および承認審査迅速化のために約130億円の基金を造成する一方で,研究開発型製薬企業で組織する日本製薬工業協会(製薬協)が「一般社団法人未承認薬等開発支援センター」を設立し,製薬協加盟のいかんに拘わらず未承認薬・適応外薬開発の支援に取り組む等,官民一体となっての動きが活発化してきている.本稿では未承認薬・適応外薬の我が国における現況を報告する.
新薬紹介総説
  • 鈴木 巌, 小関 靖
    2012 年 139 巻 3 号 p. 117-126
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/10
    ジャーナル フリー
    フォンダパリヌクスナトリウム(アリクストラ®;以下フォンダパリヌクス)は,未分画へパリン(unfractionated heparin: UFH)のアンチトロンビン(antithrombin: AT)結合部位を完全化学合成した新規の抗凝固薬であり,以下に示す薬理学的データが得られている.(1)ATに結合し,そのトロンビン阻害作用には影響せずに活性化血液凝固第X因子(Xa因子)阻害作用を増強した.(2)in vitroの測定系では,UFHの約4倍の活性であった.(3)複数の実験系でトロンビン産生を阻害した.(4)プロトロンビナーゼ複合体の形成を阻害した.(5)動脈・静脈血栓モデルで血栓形成抑制作用を示し,その時間経過は血漿中の抗Xa活性と同様に推移した.(6)皮下出血モデルで,効果と安全性のマージンはUFHに比べて高かった.(7)血小板凝集を促進しなかった.(8)II型ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)の発症誘導の可能性は極めて低いことが示された.(9)静脈血栓溶解モデルでt-PAのフィブリノゲン溶解活性および血栓溶解作用を増強した.(10)活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT)とプロトロンビン時間(prothrombin time: PT)を延長させたが,その程度は小さかった.(11)単回皮下投与後,最高血漿中濃度(Cmax)には投与後約2時間で達し,消失半減期は14~17時間,絶対的生物学的利用率は101%であった.(12)in vitro試験では,臨床血中濃度での血漿タンパク結合率は97~98.6%で,主にATと結合した.(13)腎機能低下患者では,クレアチニンクリアランス(CLcr)の低下に伴い,AUC0-∞が増加し,消失半減期が延長した.急性肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism: PTE)および深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)の初期治療を目的とした臨床第III相試験(海外・国内)では,フォンダパリヌクスの既定用量を1日1回反復皮下投与した結果,海外の試験では,対照薬であるUFHあるいはエノキサパリンと同等の治療効果と安全性が確認され,国内の試験でも治療効果が確認された.上述のデータを基に急性PTEおよびDVTの初期治療薬としての承認申請を行い,2011年1月にアリクストラ®皮下注5 mg・7.5 mgの製造販売承認を得た.
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