日本薬理学雑誌
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133 巻 , 5 号
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受賞者講演総説
  • 日比野 浩
    2009 年 133 巻 5 号 p. 247-251
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/14
    ジャーナル フリー
    内耳蝸牛を満たす内リンパ液は,+80 mVの高電位を帯びた特殊な細胞外液である.この蝸牛内高電位は聴覚機能に必須である.高電位の維持には上皮組織である血管条を介した,全蝸牛レベルでのK+循環が重要とされてきた.血管条は,単層の辺縁細胞からなる内層と,基底・中間細胞からなる外層から構成される.内層は内リンパ液に,外層は通常の細胞外液に近いイオン組成を持つ外リンパ液に接する.2層に囲まれた血管条内の細胞外空間は~+90 mVの高電位を示し,これが蝸牛内高電位の主要素であると予想されてきた.また,血管条細胞外空間の高電位の維持には,K+チャネルが深く関わると考えられてきた.しかし,蝸牛内高電位の成立機構の多くは不明であった.本研究により,内向き整流性K+チャネルKir4.1が血管条に強く発現することが明らかとなった.Kir4.1は血管条における唯一の機能的な内向き整流性K+チャネルであった.後に,Kir4.1は中間細胞の頂上膜に局在することが報告された.生理実験により,血管条細胞外空間の高電位の大部分は,Kir4.1を介して発生したK+拡散電位であることが示された.また,血管条細胞外空間は,隣り合う内・外リンパ液から電気的に隔離されており,これが高電位の維持に必要であることも明らかとなった.更に,辺縁細胞の頂上膜に分布する電位依存性K+チャネルKCNQ1/KCNE1を介して発生する拡散電位も,蝸牛内高電位の成立に大きく寄与することが判明した.故に,蝸牛内高電位は,血管条の2つのK+拡散電位と電気的絶縁状態により成立する.
  • 金子 雅幸
    2009 年 133 巻 5 号 p. 252-256
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/14
    ジャーナル フリー
    小胞体のタンパク質品質管理機構の破綻に伴う小胞体への変性タンパク質の蓄積は,小胞体ストレスと呼ばれ,最近,神経変性疾患をはじめ多くの疾患発症に関与することが示唆されている.しかし,小胞体ストレス防御機構の一つである小胞体のタンパク質分解系endoplasmic reticulum-associated degradation(ERAD)に関わる遺伝子はほとんど解明されていない.筆者らは,バイオインフォマティクス的手法により,数種の新規ヒトERAD関連遺伝子の同定に成功した.その一つであるヒトHRD1に関し詳細に検討した結果,(1)ユビキチンリガーゼ活性を有し,小胞体ストレスを抑制すること,(2)脳において神経細胞特異的に発現すること,(3)Pael-R(家族性パーキンソン病責任遺伝子Parkinの基質タンパク質)を分解促進することにより神経細胞死を抑制すること,(4)APP(アルツハイマー病原因タンパク質アミロイドβの前駆体)を分解促進することによりAβの産生を抑制し,さらに,アルツハイマー病患者死後脳でタンパク質量が減少していること,(5)IRE1-XBP1経路によって誘導されること等を見出した.これらの新知見から,HRD1の発現を促進する薬物,もしくはHRD1のタンパク質の減少を抑制する薬物は,神経変性疾患治療薬となりうることが考えられる.
  • 久米 利明
    2009 年 133 巻 5 号 p. 257-260
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/14
    ジャーナル フリー
    グルタミン酸神経毒性は,中枢神経変性疾患および脳虚血に伴うニューロン死の危険因子の一つであり,神経伝達物質,神経栄養因子などの内在性因子による制御を受けることを示す知見が報告されている.本研究では,グルタミン酸神経毒性を制御する新規内在性因子を探索する目的で,動物細胞の培養時に頻用されるウシ胎仔血清に注目し,神経保護活性物質の精製・単離を行い,新規神経保護活性物質セロフェンド酸を発見した.その薬理作用について検討したところ,培養大脳皮質ニューロンにおいて,高濃度グルタミン酸によるニューロン死に対して,セロフェンド酸は保護作用を発現した.電子スピン共鳴を用いた検討により,セロフェンド酸は活性酸素種であるヒドロキシラジカルの生成を抑制することが明らかとなり,セロフェンド酸が抗ラジカル作用を有することが明らかとなった.また,低濃度のグルタミン酸誘発アポトーシス性ニューロン死に対してもセロフェンド酸は著明な保護作用を発現した.そのメカニズムについて検討したところ,セロフェンド酸はグルタミン酸により誘発されるミトコンドリアの脱分極を抑制することで,その後のカスパーゼ-3の活性化を抑制し,グルタミン酸神経毒性を抑制することが示唆された.さらに,ラット中大脳動脈閉塞による一過性脳虚血モデルにおいてセロフェンド酸を脳室内投与したところ虚血により生じる梗塞巣体積が減少した.これらの研究成果は,セロフェンド酸がin vitro,in vivoの両者において神経保護作用を発現することを示すものであり,そのメカニズムに抗ラジカル作用および抗アポトーシス作用が関与することを明らかにした.セロフェンド酸は胎仔期特異的に存在する低分子量の神経保護活性物質であり,胎仔期のニューロン生存を促進する因子の一つとして働くことが示唆されるとともに,新たな神経変性疾患治療薬としての応用にむけた展開が期待される.
実験技術
  • 村田 幸久
    2009 年 133 巻 5 号 p. 261-265
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/14
    ジャーナル フリー
    血管は人体のあらゆる組織に隈なく走行しており,成人の血管をすべて伸ばすとその長さは約10万kmにも及ぶ.血管の役割は生命維持に不可欠な酸素,栄養や水分を全身組織に運搬することであり,異常な血管新生や動脈硬化に代表される血管閉塞は組織機能の破綻に直結する.血管新生は既存の微小血管から新たな血管枝が分岐して血管網を構築する現象であり,生理的には創傷治癒時に観察されるほか,糖尿病性網膜症,関節リュウマチや悪性腫瘍の進展に深く関わる(1).特に腫瘍の増殖や転移における血管新生の役割は盛んに研究されており,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)やアンギオポイエチンの関与が証明されてきた.これら細胞生物学的,分子生物学的な血管新生研究の進展を背景に,抗VEGF抗体やシグナル阻害薬の抗癌薬としての臨床開発や認可が現在進んでいる.抗血管新生療法とは逆に,血管新生は組織再生に不可欠な要因であることから,近年注目されている再生医療の現場では,効率的な血管新生促進法の開発が進められている.これが確立されれば,心筋梗塞,脳梗塞ならびに糖尿病に合併する閉塞性動脈硬化症など,これまで治療が難しかった重症虚血性疾患の治療や再生が可能となるであろう.このように今後,血管新生を標的とする薬物の評価に対する学術的,社会的ニーズはますます増加すると考えられる.本稿ではin vitroとin vivoの大きく2つにわけて代表的な血管新生評価法についてその方法と特徴の概要をまとめてみたい.
創薬シリーズ(4) 化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その1)吸収(1)(2)
  • 大河原 賢一
    2009 年 133 巻 5 号 p. 266-269
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/14
    ジャーナル フリー
    薬物には様々な物理化学的特性を有するものがあるため,化合物原体がそのままの形で生体に投与されることはきわめて稀であり,通常は適当な形状,すなわち剤形に加工され用いられる.医薬品の剤形の性質は,投与後の薬物体内挙動に多大なる影響を及ぼすため,最終的な薬理効果を支配する重要な因子となっている.したがって,医薬品の研究・開発段階において,製剤設計の果たす役割は非常に大きい.本稿では,薬物の消化管吸収の改善あるいはその制御を目指した製剤設計技術(DDS技術)に着目し,それらの現状を紹介させていただく.
  • 矢野 浩志
    2009 年 133 巻 5 号 p. 270-273
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/14
    ジャーナル フリー
    創薬の初期から,薬物吸収に関連した種々のin vitro試験や物性パラメーターが評価されるようになった.しかし,それらの数値を有効に活用するためには,溶解性および膜透過性などの化合物の物理的な特性と,実際の吸収への関連を明らかにすることが重要である.物性を通じ吸収過程を理論的に細分化し,そして統合することで,定量的な吸収率予測および吸収過程に問題がある化合物の排除へとつながると思われる.近年,難溶解性や低膜透過性に起因して,吸収低下のリスクが伴う化合物も多く合成されるなか,そのリスク自体を定量化することが求められており,そういった定量化につなげるための切り口として「物性評価と薬物吸収の関連」についてまとめた.
新薬紹介総説
  • 有吉 祐亮, 水本 継吾
    2009 年 133 巻 5 号 p. 275-280
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/14
    ジャーナル フリー
    イルベサルタン(イルベタン®)は,仏Sanofi社(現sanofi-aventis社)が創出したアンジオテンシンII(AII)タイプ1受容体(AT1)拮抗薬(ARB)で,それ自体が活性物質であり,優れた経口吸収性を有している.本剤はAT1受容体に選択的で競合的な拮抗作用を示すが,AT1受容体からの解離が緩徐なため摘出血管や脊髄穿刺ラットのAII収縮を最大反応も抑制するinsurmountableな拮抗様式を示す.海外では1997年8月よりヨーロッパ各国および米国において高血圧症の適応で承認され,2008年1月現在86ヵ国*で販売されている.また,ヨーロッパ各国では2002年6月に,米国では2002年9月に他のARBに先駆けて糖尿病性腎症(2型糖尿病を合併する高血圧症における腎症)の適応が承認された.日本人に対する臨床試験では10.1~15.2時間の長い血中半減期を示し,軽症から重症の高血圧症に優れた降圧効果を示した.これら臨床試験の結果から,2008年4月に「高血圧症」の適応で塩野義製薬株式会社が製造販売承認を取得した.
  • 平田 拓也, 舩津 敏之, 毛戸 祥博, 阿久沢 忍, 秋保 啓, 西田 明登, 笹又 理央, 宮田 桂司
    2009 年 133 巻 5 号 p. 281-291
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/14
    ジャーナル フリー
    イリボー®錠(ラモセトロン塩酸塩)は,男性における下痢型過敏性腸症候群(IBS)治療薬として2008年に上市された,強力かつ選択的なセロトニン5-HT3受容体拮抗薬である.ラットを用いた薬理試験において,ラモセトロンは恐怖条件付けストレス(CFS)およびコルチコトロピン放出因子(CRF)により惹起される排便亢進を用量依存的に抑制し,その効力は他の5-HT3受容体拮抗薬や既存のIBS治療薬よりも強力であった.また,これらの排便異常を抑制する用量とほぼ同じ用量範囲で,ラモセトロンはCFSによる大腸輸送能亢進およびCRFによる大腸水分輸送異常に対しても有意な改善効果を示したことから,その排便異常抑制作用には,ストレスによる大腸輸送能および水分輸送の異常に対する改善作用が寄与していると考えられた.さらに,ラモセトロンは拘束ストレスによる下痢および大腸痛覚閾値低下をほぼ同じ用量範囲で有意に抑制したことから,ストレスによる排便異常および大腸痛覚過敏のいずれにも有効であることが明らかとなった.一方,臨床においては,RomeII基準に合致した下痢型IBS患者を対象に,第II相および第III相多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験を実施した.その結果,ラモセトロン5μgの1日1回12週間投与は,全般症状,腹痛・腹部不快感および便通異常のいずれに対しても優れた改善効果を示し,プラセボに対する優越性が確認された.また,同じく下痢型IBS患者を対象に実施した長期投与試験の結果から,ラモセトロンの治療効果が長期間持続するとともに,効果や副作用の発現に応じて用量を適宜増減することで,より高い有効性と安全性が得られることが明らかとなった.以上,非臨床薬理試験および臨床試験の結果から,ラモセトロンは下痢型IBS患者において便通異常と腹痛をともに抑制し,その症状の寛解に極めて有効な薬剤であると考えられる.
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