日本薬理学雑誌
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153 巻, 4 号
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総説
  • 内原 脩貴, 多胡 憲治, 多胡 めぐみ
    2019 年 153 巻 4 号 p. 147-154
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/11
    ジャーナル フリー

    BCR-ABLは,慢性骨髄性白血病(CML)や急性リンパ芽球性白血病(ALL)の原因遺伝子産物であり,転写因子STAT5やキナーゼAktの活性化を介して強力な形質転換能を示す.BCR-ABLを標的とした分子標的薬イマチニブの開発により,CMLやALLに対する治療効果は劇的に改善された.しかしながら,イマチニブの継続的な投与により,bcr-abl遺伝子にイマチニブ耐性を示す二次的な突然変異が生じることも報告されている.これまでに,イマチニブ耐性CMLやALLに対する第二世代のBCR-ABL阻害薬として,ニロチニブやダサチニブが開発されているが,BCR-ABLのATP結合領域に存在するT315I変異は,これらの第二世代のBCR-ABL阻害薬に対しても抵抗性を示すため,薬剤耐性を克服した新規の白血病治療薬の開発が望まれている.我々は,ヒノキ科ヌマスギ属の針葉樹であるラクウショウの球果から抽出されたアビエタン型ジテルペン化合物であるタキソジオンが,細胞内の活性酸素種(ROS)を産生することにより,BCR-ABL陽性CML患者由来K562細胞のアポトーシスを誘導することを見出した.タキソジオンは,ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅲの活性を阻害することにより,ROSの産生を誘導した.また,タキソジオンは,ROSの産生を介して,BCR-ABLやその下流シグナル分子であるSTAT5やAktをミトコンドリアに局在させ,これらの分子の活性を阻害するというユニークな機序により,BCR-ABL陽性細胞のアポトーシスを誘導することを新たに見出した.さらに,タキソジオンは,T315I変異を有するBCR-ABL発現細胞に対しても強力な抗腫瘍活性を示すことが明らかになった.我々の研究成果は,タキソジオンがBCR-ABL阻害薬に耐性を示すCML,ALLの新たな治療薬として応用できる可能性を示すと共に,BCR-ABL以外の原因遺伝子に起因する様々な腫瘍性疾患に対する治療薬開発においても重要な手掛かりとなると期待される.

  • 大久保 洋平
    2019 年 153 巻 4 号 p. 155-160
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/11
    ジャーナル フリー

    中枢神経系における神経細胞の機能および生存においては,細胞内Ca2+動態が適切に制御されていることが不可欠である.主要な細胞内Ca2+ストアである小胞体は,Ca2+の供給および取込を通じて,神経細胞においても細胞内Ca2+動態制御に重要な役割を果たしている.小胞体Ca2+シグナリングの変調が,様々な病態における神経細胞死に関与することが示唆されており,アルツハイマー病を含めた神経変性疾患に関する新規メカニズムとして注目を集めている.本総説では,小胞体Ca2+シグナリングの変調と神経細胞死の関係について,我々の研究を含めた最新の知見を紹介する.また当該分野の研究推進のために不可欠である,小胞体内腔Ca2+動態の可視化技術について,最近の進展を紹介する.

  • 中山 亮太, 池谷 裕二, 佐々木 拓哉
    2019 年 153 巻 4 号 p. 161-166
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/11
    ジャーナル フリー

    精神機能の神経基盤を解明するために,実験動物を用いた多数の行動試験が行われてきた.こうした行動評価法は,動物の行動が精神状態を正確に反映しているという前提を基にして行われるが,実際には動物行動の個体差は大きく,また精神状態も常に変動するため,行動試験のみですべての精神状態を推定するのは困難である.また,個々の神経細胞の生理動態と行動発現を結び付けるには,より高い時間解像度をもって精神状態を推定する必要がある.こうした課題に対して,我々は動物の行動評価に加えて,脳と末梢臓器の電気生理信号を同時計測する実験技術を開発してきた.本技術では,自由行動をしているマウスやラットから,多数の脳波,心拍数,呼吸数,覚醒状態を反映した筋電位,さらに迷走神経の活動電位を同時に計測できる.本稿では,最も汎用される行動試験の1つである高架式十字迷路試験を例にとり,行動試験と電気生理計測を組み合わせることで,生体内部で生じる精神状態を,より高い時間解像度でより正確に推定することが可能になることを紹介する.またストレス研究の一例として,動物にストレス負荷を与えた際の末梢臓器活動に基づき,複数の脳領域間の機能的連関が,個々の動物のストレス感受性と関連があることを見出した知見を紹介する.本研究のように多臓器の生理動態に着目したアプローチはまだ発展途上ではあるが,今後も多数の生理信号を計測し,得られたビッグデータから有用な統計値を検出するような研究アプローチはますます重要になると考えられる.こうした新しい研究知見が蓄積することで,従来は個々の臓器にとどまっていた薬理作用の議論を超えて,全身システムの中で各臓器の位置づけを見直し,神経支配や多臓器連関の観点から治療標的の考察が可能になると期待される.

  • 西村 嘉晃, 川内 健史
    2019 年 153 巻 4 号 p. 167-171
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/11
    ジャーナル フリー

    大脳皮質を構成する興奮性神経細胞は,実際に機能する場所ではなく脳室帯付近で誕生し,脳表層までの長い距離を移動して整然とした層構造を形成することが知られている.この神経細胞移動の制御機構の解析は,疾患の原因遺伝子を突破口にした研究や遺伝子改変技術を用いた研究を中心に行われてきた.これらの方法により,いくつかの重要な分子が同定されてきたが,神経細胞移動は連続的な形態変化を伴う多段階の移動であるため,それぞれの分子が移動過程のどの段階を制御しているかなどの詳細な解析は困難な面もあった.これに対して,大脳皮質のスライス組織を用いた薬理学的アプローチにより,様々な知見が得られてきた.薬剤添加実験は,(i)簡便に多くの分子の機能阻害実験が可能である,(ii)一過的に急速な機能抑制を行えるため経時的な形態変化に対する影響を詳細に解析できる,(iii)サブタイプの多い分子をまとめて機能阻害できる場合がある,などの利点がある.本項では,大脳皮質形成における神経細胞移動の制御機構について,主に薬理学的なアプローチから得られた知見を中心に紹介したい.

  • 佐藤 輝紀, 久場 敬司
    2019 年 153 巻 4 号 p. 172-178
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/11
    ジャーナル フリー

    Apelinは内因性のAPJ受容体アゴニストであり,生体内に広く発現し,血管拡張作用,心筋収縮力増強,体液調節,代謝の制御,心血管系の発生,骨格筋の再生など多くの生理機能を有することが解明されてきた.高血圧,心不全,肺高血圧,動脈硬化など心血管系病態に対するApelinの改善効果について多くの研究がなされてきたが,近年サルコペニアや加齢性疾患における役割が注目されている.Apelinの薬理作用のひとつにレニン-アンジオテンシン系(RAS)との相互作用があるが,これまでの私たちの研究成果から,アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の制御を介して,RASを負に調節することで心不全病態を改善することが明らかになってきた.また近年,第2のAPJ受容体リガンドElabela/Toddlerが心臓発生に不可欠なホルモンとして同定され,Apelinと同様にElabelaが心機能維持,心保護効果の薬理作用を有することが明らかになってきた.心不全パンデミックとよばれ,心不全患者が年々増加している一方で,その病態解明ならびに治療方法の開発はいまだ十分とは言えない.Apelinは強心作用と心保護効果を併せ持つことから新規カテゴリーの心不全治療薬候補であり,今後ApelinあるいはAPJ受容体アゴニストが新しい心不全治療薬として発展することが期待される.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(29)
  • 森 政之, 樋口 京一
    2019 年 153 巻 4 号 p. 179-185
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/11
    ジャーナル フリー

    世界的に高齢者人口の急速な増加が予測されている状況下,「健康で活動的な人生の期間を可能な限り延長する」という医学研究の最終目標を達成するためには,ヒトの〝老化〟の基本的なメカニズムの生物学的理解,および,老化に伴い発症する様々な〝老化関連疾患〟の発症機序の医学的解明が重要な課題である.老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mouse:SAM)は一群の近交系マウス系統で,このうちSAMP系統は共通して促進老化と短寿命を呈する.同時に,老化アミロイド症,老年性骨粗鬆症,学習・記憶障害など,ヒトに類似した様々な老化関連疾患をそれぞれの系統特異的に示すことから老化研究に有用なモデル動物として広く利用されている.本稿ではSAMマウスの特性,およびSAMマウスを用いた基礎ならびに応用研究の現状を紹介する.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(30)
  • 吉成 浩一, 永井 美香
    2019 年 153 巻 4 号 p. 186-191
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/11
    ジャーナル フリー

    肝臓における薬物代謝は医薬品の体内動態に密接に関わり,シトクロムP450(P450)が主要な役割を果たしている.併用薬の薬物動態を変化させる薬物間相互作用(drug-drug interaction:DDI)は,薬物治療において用量調節や併用禁忌などの使用制限に繋がるため,医薬品開発においては構造展開が可能な期間に回避したいリスクファクターである.それゆえ近年の医薬品開発においては,創薬段階からDDIリスクを見積もり,DDIリスクの低い化合物の取得が重要となっている.P450誘導はDDI発現機序の1つであり,核内受容体の活性化が関わる.本稿では,酵素誘導の機序及び現在の酵素誘導評価手法を概説した後,我々が最近構築した,創薬段階に活用可能な新たなin silico手法による酵素誘導評価法を紹介する.

新薬紹介総説
  • 小川 真実, 江戸 淑子
    2019 年 153 巻 4 号 p. 192-198
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/11
    ジャーナル フリー

    レテルモビルは新規作用機序を有する抗ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)薬である.ウイルスに対する作用様式及び耐性ウイルスのゲノム配列の解析から,本薬の標的がウイルスのDNAターミナーゼ複合体であることが示された.既存のDNAポリメラーゼ阻害薬がウイルスDNAの複製を阻害するのとは異なり,本ターミナーゼ阻害薬はウイルスDNAの切断及びカプシドへの一単位長のゲノムのパッケージングを阻害する.細胞培養系でのHCMVの臨床分離株に対するレテルモビルの50%作用濃度はナノモル濃度であり,低濃度で抗HCMV作用を示す.レテルモビルはHCMVの実験室及び臨床分離株に対してin vitroで抗ウイルス作用を示す以外に,既存の抗HCMV薬に耐性のウイルス株に対しても活性を有する.レテルモビルはHCMVに対して選択性を示す一方で,他のヘルペスウイルス科を含む主要な病原ウイルスに対して活性を示さなかった.異種移植マウス感染モデルでのレテルモビルの50%及び90%有効用量は,それぞれ3及び8 mg/kg/日であった.同種造血幹細胞移植(HSCT)患者でのHCMV感染及びHCMV感染症は,全身状態の悪化や死亡率の増加につながる重篤な疾患である.第Ⅲ相国際共同試験では,同種HSCT患者でのレテルモビルの経口又は静脈内投与により,臨床的に意味のあるHCMV感染の予防効果が確認され,骨髄毒性及び腎毒性を示唆する傾向は認められず,忍容性も良好であった.

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