日本薬理学雑誌
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118 巻, 2 号
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総説
  • 新井 好史
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 2 号 p. 81-88
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    近年, 主に製薬企業を中心にしてHTS(ハイスループットスクリーニング)が導入·実施されている. HTSは新しいリード化合物を発見することが目的であり, オートメーション等の技術を最大限に利用したスクリーニングシステムである. 数十万検体にもおよぶ多数の検体を高速にスクリーニングするためには, 化合物管理, アッセイ技術, オートメーションやデータ処理等のあらゆる過程で極めて高い効率を達成する必要がある. 本総説では, その中でもHTSにおけるアセッイ系に関連した内容について記載する. HTSでは効率的にスクリーニングするために, 96穴マイクロプレートを用いていたが, スピード·コスト等の点からアセッイ系のミニチュア化が進められ, 最近では384穴, 1536穴プレートといった高密度プレートを使用するようになってきた. 同時に, ホモジーニアスまたはミックス&メジャーと呼ばれるアッセイ技術が開発されてきた. 必要な試薬類を混合するだけで測定が可能になるアセッイ手法である. ラジオアイソトープを利用したアッセイ系ではSPAやCytostar-Tといった方法が, 蛍光検出を応用したものでは, 時間分解蛍光法(HTRF, LANCE, アルファスクリーン)や偏光蛍光法(FP)等がある. また, 細胞を使ったアッセイ系では, 細胞増殖アッセイやリポータージーンアッセイが高密度プレートでのHTSが可能であり, 更に細胞内Ca2+濃度変化を指標にしたHTSも可能である. HTSでは多数の検体を処理する必要から, 1検体への評価は簡便にならざるを得ない. それ故, 質の高いアッセイ系を構築する必要がある. アッセイ系の質的評価法として, 最近良く使われるZ’-ファクターについても紹介する.
実験技術
  • 植田 弘師, 井上 誠
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 2 号 p. 89-95
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    神経因性疼痛は消炎鎮痛薬や麻薬性鎮痛薬に対し抵抗性を示す疼痛疾患である. その疾患としては帯状疱疹後神経痛, カウザルギー, 三叉神経痛, 糖尿病性神経炎などをはじめ数多く認められ, その苦痛は患者のQOLを著しく損なうものである. この発現機構を解明し有効な治療法を確立するために, これまで様々な実験動物モデルと神経因性疼痛を評価する末梢性疼痛試験法が開発されてきた. なかでも著者らが開発した発痛物質利用と宙吊り法を取り入れた新しい末梢性疼痛試験法は従来型の動物モデルにおける疼痛過敏反応を非常に高感度, 定量的に計測でき, 分子機構解明に役立つ方法として注目される. 著者らは従来型の試験方法と比較しつつこの新しい方法を駆使し, 神経因性疼痛に見られる可塑的疼痛過敏応答変化の分子機構の解明へと努力している. 本稿では, 神経因性疼痛を評価するための様々な動物実験モデルと評価に用いられる末梢性疼痛試験法について解説した.
新薬紹介総説
  • 木戸 秀明, 大滝 裕
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 2 号 p. 97-105
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    ループ利尿薬は強力な水および電解質の排泄作用により浮腫を軽減することから, 各種の浮腫性疾患に対して古くから広く使用されている. しかしながら, 同時にカリウム排泄量の増大に伴う低カリウム血症が惹起されることから, カリウム保持性利尿薬の併用などが行われている. 新規利尿薬トラセミド(ルプラック®)はループ利尿作用に加え, 抗アルドステロン作用に由来するカリウム保持性を併せ持った薬物であり, 生物学的利用率が高く, 食事の影響を受けないという薬物動態的特長も加え, 個体差の少ない安定した利尿効果を示す. 動物実験において, トラセミドは, 代表的なループ利尿薬フロセミドよりも約10倍強力な尿量増加作用を示し, 一方で尿中へのK+排泄量の増加がNa+排泄量の増加に比べ軽微である結果, 尿中Na+/K+比を上昇させた. その作用プロファイルはフロセミドおよび抗アルドステロン薬スピロノラクトンを併用した際の効果に匹敵した. また, 日本および海外で浮腫性疾患患者を対象に実施された臨床試験において, トラセミドはフロセミドに比して高い有効性および安全性を示した. さらに, 慢性心不全患者を対象とした大規模臨床試験において, トラセミドは心臓死の発生率をフロセミドに比し低減したが, その機序の一部に本薬の抗アルドステロン作用が寄与したと推察される. 本邦において, 10数年ぶりに上市されたループ利尿薬トラセミドは, 既存薬に勝る薬理特性から, 浮腫性疾患の治療薬として大いに期待される.
  • 西 葉子
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 2 号 p. 107-115
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    従来のシクロスポリン経口製剤(サンディミュン®カプセル·内用液)は, 消化管吸収過程において胆汁酸や食事の影響を受けやすく, 個体内, 個体間で吸収のバラツキが生じ易く, また, 一部に吸収が不良で十分な血中濃度を得難い症例が存在することが知られていた. ネオーラルは, これらの問題を克服すべく, 安定した薬物動態が得られるよう改良した新しい経口シクロスポリン製剤である. 有効成分であるシクロスポリンは, ノバルティスファーマ社(スイス)で開発された免疫抑制薬で, シクロフィリンと複合体を形成し, T細胞活性化のシグナル伝達において重要な役割を果しているカルシニューリンに結合してカルシニューリンの活性化を阻害する. これにより脱リン酸化による転写因子NFATの細胞質成分の核内移行が阻止され, IL-2に代表されるサイトカインの産生を抑制する. しかし, 脂溶性製剤であるサンディミュンは, 胆汁酸に乳化された後上部消化管から吸収されるため, 前述のように吸収が安定しない問題があった. このため吸収を安定させる目的で, ネオーラルは親油性溶媒, 親水性溶媒, 界面活性剤をバランスよく含むマイクロエマルジョン前濃縮物製剤として水溶性と同様の性質を呈するよう製剤的に改良した. この結果, 従来のサンディミュンに比べ, Cmax, Tmax, AUCなどの個体内および個体間のCV(変動係数)は減少し, 食事の影響も受け難いことが報告されている. また, 血中濃度が上がらない, 二峰性を示すなどの現象がみられるサンディミュン吸収不良例においても, ネオーラルはこれらの現象を改善させる. このように, ネオーラルにより安定した薬剤吸収が可能となり, またAUC0-4(absorption profile)やC2(投与2時間後の血中シクロスポリン濃度)などの新たなTDMパラメータも検討され, 臨床的にも成績向上が期待できる. ネオーラルは, 安定な吸収により, シクロスポリン治療に新たな可能性を広げる薬剤である.
  • 中島 博之
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    クロバザム(CLB)は新規のベンゾジアゼピン(BZP)系抗てんかん薬である. ジアゼパムに代表される既存のBZP系薬剤が複素環の1,4位に窒素原子を有する1,4-BZPであるのに対し, CLBは1,5位に窒素原子を有する初めての1,5-BZPである. CLBのBZP受容体に対するKi値(nM)は2,130と1,4-BZPに比べ, 親和性が弱いものの, サブタイプ型別では, 1,4-BZPに比べ, 抗けいれん作用に関与するω2受容体に対し, より高い選択性が認められている. マウスを用いた種々の薬物誘発けいれんおよび最大電撃けいれんにおいてCLBが抗けいれん作用を示す用量は近接しており, 更に1,4-BZPに比べ, 抗けいれんスペクトラムが広い可能性が示唆された. 更にラットにおける扁桃核(AMY)および海馬(HIP)キンドリング試験で, CLBは経口投与および腹腔内投与で用量依存的なキンドリング発作抑制作用を示した. また, 抗けいれん作用発現用量と協調運動機能低下作用発現用量から求められた保護係数(PI)は1,4-BZPよりも概して高く, 安全性が高いことが示唆された. ヒトでは既存の抗てんかん薬で発作の軽減がみられない症例への併用薬として, Lennox-Gastaut症候群や側頭葉てんかんを中心とする難治性てんかんに対する臨床試験で, 幅広い効果スペクトルと高い有効性および安全性が認められている.
原著
  • —ラット漿膜内酢酸注入潰瘍性大腸炎モデル—
    小島 僚太郎, 浜本 昇一, 森脇 正彦, 岩館 克治, 大脇 達也
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 2 号 p. 123-130
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis, UC)を対象とした薬理研究の分野で繁用されている酢酸注腸によるラット大腸炎モデルの優れた特性に加え, さらに客観性, 定量性を備えた新たなラット漿膜内酢酸注入潰瘍性大腸炎モデルを確立したので報告する. 本モデルは, ラット大腸漿膜下への酢酸注入(20%, 0.02ml)により, 限局した部位に円形ないしは楕円形状のUC様病変を作製するものである. 作製した潰瘍の大きさはノギスを用いて直接的に測定することが可能で, 結果は潰瘍面積(mm2)として数値であらわされる. 臨床的に重要な炎症ファクターの一つであるロイコトリエンB4について, 本モデルの潰瘍部位における存在量を経時的に測定したところ, 潰瘍面積の変化と良く相関していた. また, 潰瘍部位には炎症性細胞の組織浸潤など典型的な炎症組織像が認められ, ヒトUCの病態との類似性が示された. UCの治療に広く用いられる5-アミノサリチル酸あるいはリン酸プレドニゾロンナトリウムの注腸投与による作用を本モデルにて検討したところ, ほぼ臨床用量の範囲で有意な潰瘍面積の縮小効果が認められた. 以上の結果, 本モデルは従来の大腸管腔内への酢酸注入によるモデルと同様にヒトUCの病態を反映し, さらに従来のモデルよりも客観性, 定量性に優れた新たな薬物の評価システムとして今後のUCに対する薬理研究に役立つものと考えた.
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