心理・社会的ストレスはうつ病や不安症などを含む精神疾患のリスクファクターとなることが知られている.一方,これらストレスへの暴露は痛みを遷延化し,重症化させる要因にもなる.しかし,ストレスが引き金となる慢性疼痛の病態機序は複雑であり,未解明の部分が多く有効な治療薬も確立されていない.長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1は,今から約20年前に発見されて以降,末梢でのインスリン分泌促進機構に関する研究が進んでいる.申請者らのグループは,GPR40/FFAR1の中枢神経系における生理作用の解明に向けた研究に取り組み,疼痛および情動の調節に関与していることを見出してきた.現在,これらの知見を元に,ストレスが関連した慢性疼痛形成に対して脂肪酸シグナルの関与について研究を進めている.本総説では,心理ストレスが関連して生じる慢性疼痛の現状,GPR40/FFAR1を介した疼痛制御機構について,心理社会的ストレスを模倣する社会敗北ストレスを負荷した術後痛モデルマウス(慢性疼痛モデル)を用いた私達の知見をもとに,ストレス誘発慢性疼痛の新たな治療標的としての脂肪酸受容体シグナルの関与について,総説としてまとめた.
線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は,慢性的な全身疼痛を主症状とし,極度の疲労,不眠,抑うつを副症状とする難治性疾患である.臨床研究では,発症の引き金となる心理的ストレスの存在,交感神経系の過興奮,免疫系の異常などが指摘されているが,病態への寄与に関しては不明な点が多い.本研究において我々は,FMの実験的マウスモデルとして,反復性酸性食塩水誘発性全身性疼痛(repeated acid saline-induced generalized pain:AcGP)モデルおよび断続的心理的ストレス誘発性全身性疼痛(intermittent psychological stress-induced generalized pain:IPGP)モデルを採用した.AcGPモデルでは,腓腹筋への片側反復酸注入により長期にわたる機械性痛覚閾値の上昇が誘発された.二次リンパ臓器である脾臓に着目し,AcGPマウス由来の脾細胞を摘出・単離し,未処置のレシピエントマウスに静脈内投与すると,ドナーマウス同様に疼痛様行動が生じることを明らかにし,その責任細胞の一種としてCD4陽性T細胞を見出した.脾臓は交感神経に直接支配されているため,次に我々は痛みの発生や維持にアドレナリン受容体が必要かについて解析した.選択的β2遮断薬であるブトキサミンの投与は,AcGPマウスにおける疼痛様行動の発生を阻止したが,維持には影響を与えなかった.さらに,ドナーであるAcGPマウスにβ2遮断薬を前投与しておくと,AcGP脾細胞養子移植による疼痛惹起が再現されなかった.さらに,別のFMモデルであるIPGPモデルを用いることでも交感神経系および脾臓の重要性についての知見を得た.これらの結果から,FM病態では,交感神経系β2シグナル伝達が身体的/心理的ストレスによって亢進し,それに反応して活性化した脾臓の免疫系細胞が痛みの形成と維持に重要な役割を果たしていることが明らかとなり,病態メカニズムの解明には脳-脾臓連関の理解が重要であることが示された.
慢性疼痛モデルにおいて,特に痛みが遷延化した状況下で脊髄アストロサイトが活性化していることが知られている.それ故,脊髄アストロサイトを標的とした有用な鎮痛薬の開発に向けた創薬研究が注目を集めている.中枢神経系においてはアストロサイトに限局して発現・機能する膜タンパク質であるconnexin43(Cx43)はgap junctionの構成要素として細胞間情報伝達に関わることがよく知られている一方で,特徴的に長いC末領域を介してシグナル分子と相互作用することで細胞機能に影響を及ぼすユニークなタンパク質でもある.これまでに著者らは神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄後角アストロサイトにおいて,Cx43発現が著明に低下していることを見出した.そこで脊髄アストロサイトのCx43発現低下と痛みの発症との関連性を検討したところ,Cx43発現が低下することでグルタミン酸トランスポーターであるGLT-1や炎症性サイトカインであるinterleukin-6(IL-6)といった疼痛に関連する分子の発現が変動することが示された.特にCx43発現低下によるIL-6発現制御に着目してin vivo,in vitroの両面で解析を進めたところ,神経障害性疼痛時においてCx43発現低下により駆動したAkt-glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)シグナル伝達系を介してIL-6発現が増大することで痛みが惹起されていることが明らかとなった.このように,アストロサイトのCx43は従来知られてきた機能とは異なる,細胞内情報伝達分子との相互作用を介して疼痛関連分子の遺伝子発現を制御することで,痛みの遷延化に関与している新たな役割が示されたことから,慢性疼痛に対する創薬標的としての可能性に期待を抱かせる.
子宮内膜症は生殖年齢女性の約10%に認められる慢性の進行性炎症疾患であり,月経困難症・骨盤痛などによるQOL低下が問題となる.症状の進行により,不妊の原因(排卵障害・卵管障害),妊娠後の産科合併症(早産・前期破水・前置胎盤など)が増加することに加え,稀ではあるが卵巣がんへの進展を起こすことも知られている.少子化対策・女性活躍推進が叫ばれる昨今の社会情勢において重要視されている疾患の1つである.治療の基本は,疼痛抑制と妊孕性温存であり,薬物療法と手術療法により卵巣機能の温存を図りながら,体外受精をはじめとする生殖補助医療(ART)を駆使する.薬物療法は,低用量ピル(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬:LEP),黄体ホルモン,GnRHアナログなどのホルモン療法が選択されることが多い.これまで,ヒト子宮内膜症病変組織由来の培養細胞や子宮内膜症モデルマウスを用いて研究をすすめ,腹腔マクロファージや子宮内膜症細胞が産生する炎症性サイトカインや抗アポトーシス因子(IAP)が病態形成に重要であること,そこではNF-κBが中心的役割を有することを明らかにした.ヒト子宮内膜症組織ではIAP発現が高く異所性生存に促進的に関与すること,IAPがヒト子宮内膜症細胞の薬剤抵抗性アポトーシスに作用することから,IAP阻害薬の新規薬剤としての可能性を示した.さらには,薬用ハーブ・パルテノライドや選択的エストロゲン受容体調節剤が,NF-κB阻害により病変を縮小させることを示した.最近では,生物発光技術による非侵襲的な初期病変の観察や,ノックアウトマウスを応用したモデルマウスにより新知見を得た.本稿では,これまでの研究成果を掲示し,新たな子宮内膜症治療薬の可能性について考察する.
子宮内膜症の治療の主軸はホルモン療法であるが,排卵を抑制するため,治療中妊娠はできない.子宮内膜症は不妊の要因にもなるため,不妊治療中は内膜症も悪化しより状況が悪くなるという悪循環に陥る.一方で,卵巣温存手術である卵巣子宮内膜症性嚢胞摘出術は,卵巣にダメージを与えるというジレンマがある.以上より,非ホルモン性の薬物治療が望まれている.当教室では,これら子宮内膜症治療の問題点の解決をめざし,卵巣機能の維持と両立する治療につながる臨床研究や基礎研究に取り組んできた.このうち子宮内膜症モデルマウスを用いた2つの研究を紹介する.一つ目は,卵巣子宮内膜症性嚢胞のモデルマウスを用いて,nucleotide-binding oligomerization domain, leucine-rich repeat, and pyrin domain-containing(NLRP)3阻害薬の作用を検討したものである.患者由来検体ならびに,マウスモデルの病変において,卵巣子宮内膜症性嚢胞では,子宮内膜に比して,NLRP3の発現が亢進していることを確認した.子宮内膜での発現は,子宮内膜症併存の有無によって変化を認めなかった.モデルマウスへの阻害薬の投与により,病変が縮小することを確認した.NLRP3の阻害は,着床の場である子宮内膜の増殖を抑制しないことから,挙児希望と両立する治療法になる可能性が示唆された.既存薬でもNLRP3阻害作用を持つ薬剤があり,内膜症治療への応用も期待される.二つ目は,腹膜病変マウスモデルを用いた子宮内膜への細菌感染と子宮内膜症発生についての検討である.既存データベースならびに,患者由来検体から,子宮内膜症の発生に子宮内膜へのフソバクテリウム感染による子宮内膜線維芽細胞の表現型変化が関与することをつきとめた.モデルマウスでの検討では子宮内膜へのフソバクテリウム感染により病変が増大すること,さらに,抗菌薬投与による除菌の結果,病変が縮小することを確認した.NLRP阻害作用を持つ既存薬剤,抗菌薬のドラッグリポジショニングが,子宮内膜症の新しい非ホルモン性治療となる可能性が示された.
子宮内膜症では,何らかの原因で子宮内膜類似様の組織が子宮外の部位で生着,機能し,炎症や線維化を起こす.その発生機序として月経血の逆流説が最も有力である.しかしながら,詳細な病態メカニズムは明らかになっていない.我々は,子宮内膜症モデルマウス作成時の卵巣摘出部位(損傷出血部位)に子宮内膜症様病変が出現しやすいことを観察している.さらに,月経血中に含有される催炎症性因子であるプロスタグランジンE2(PGE2)とトロンビンが子宮内膜症様病変の炎症を悪化していることを示唆した.そこで,月経血中の子宮内膜片は低酸素状態にあるということに着目し,低酸素条件下におけるPGE2/トロンビンの炎症と線維化に対する効果について,初代培養子宮内膜間質および腺上皮細胞を用いて検討した.この条件下で子宮内膜間質細胞から分泌されるケモカインCXCL12は,低酸素下でのPGE2とトロンビン刺激によって腺上皮細胞で発現が上昇するCXCR4受容体に作用し,上皮間葉転換(EMT)を起こした.このEMT誘導により,子宮上皮細胞は線維化や細胞遊走・浸潤能の獲得を介して内膜症病態の進行に関わることを示唆した.次に,PGE2/トロンビンの子宮内膜間質細胞に対する効果をRNA-seqにて網羅的に解析したところ,PGE2/トロンビンがトランスフォーミング増殖因子(TGF)β経路を活性化し,特に,TGFβファミリーを構成するアクチビンAの産生と分泌が増加することを明らかにした.さらに,アクチビンAは結合組織増殖因子(CTGF)発現の上昇を介して,子宮内膜間質細胞の性質を線維芽様から線維化に特徴的な筋線維芽細胞様へと分化させることを示した.このように,CXCL12/CXCR4及びアクチビンA/CTGFシグナル系は,子宮内膜症病変における線維症の改善における標的として期待される.
アルツハイマー病(AD)の原因の一つであるアミロイドβ(Aβ)42は,アミロイド前駆体タンパク質(APP)がβセクレターゼまたはγセクレターゼによって切断されることによって産生される.Aβ42オリゴマーは強い神経毒性を示すことから,Aβ42は治療薬開発の効率的な標的となる可能性が予測されている.我々は,所有するペプチドライブラリーを用いてMMP7を活性化するペプチドをスクリーニングし,Tob1タンパク質のBoxA領域に由来する合成ペプチドJAL-TA9(YKGSGFRMI)がタンパク質分解活性を示すことを見出した.一般に,酵素は数千個以上のアミノ酸からなる高分子タンパク質であるとされ,低分子合成ペプチドが酵素活性を持つという報告は今までにない.世界で初めて発見した酵素活性を持つペプチドの総称として我々はCatalytideと名付けた.本研究では,JAL-TA9が可溶性Aβ42だけでなく,固形状態のAβ42に対しても切断活性を持つことを明らかにした.さらに,AD患者の脳切片を用いて切断活性を実証した.JAL-TA9はアルツハイマー病患者の脳に蓄積したAβ42の量を減少させた.以上のことから,JAL-TA9はこれまでにないアルツハイマー病の根本的治療薬の開発にとって魅力的なシーズペプチドである.
アルツハイマー病(AD)の治療薬を見出すために多くの研究が行われてきたが,臨床に使用可能な効果的な薬は未だ開発されていない.最近,FDAはアミロイドベータ(Aβ)の凝集を阻害する抗体薬であるレカネマブをAD治療薬として承認した.しかしながら,ADに対する根本的な治療薬は依然として存在しない.本研究においては,JAL-TA9(YKGSGFRMI)を用いてAβを切断する反応を通じてADを治療する戦略を提案する.JAL-TA9を海馬のCA1領域および脳室内空間に単回投与したところ,APPノックインマウスの短期記憶の欠損が改善された.また,Aβ25-35誘導モデルマウスの記憶もY迷路試験および物体認識試験により改善された.これらのデータは,JAL-TA9がAD治療に有効である可能性を強く示唆している.しかしながら,これらの投与方法は高侵襲性のため,臨床応用が困難である.そこで,JAL-TA9の鼻腔内投与による認知症改善効果を検証した.興味深いことに,Aβ25-35誘導ADモデルマウスの認知症は,3日に一度,4回の投与により改善された.これらの結果は,JAL-TA9がADの進行段階でも有効であることから,JAL-TA9がAD治療において最適な候補であることを強く示唆している.
我々は,JAL-TA9(YKGSGFRMI)とANA-TA9(SKGQAYRMI)の2種類のCatalytide(CatalyticPeptide)について報告している.両ペプチドもTob/BTGファミリータンパク質に属し,Aβ42を切断する.アルツハイマー病をターゲットとした場合,Catalytideを脳実質に送達する必要があるが,血液脳関門(BBB)により,全身循環から脳への侵入が制限されている.そこで我々は,ANA-TA9を鼻腔から脳へ直接投与し,BBBを迂回する経路を評価した.本研究では,JAL-TA9に関する知見を報告する.ラットおよびマウスを用いた動物実験により,JAL-TA9の血漿中クリアランスは,血漿,全血および脳脊髄液(CSF)における分解よりも速いことが明らかになった.JAL-TA9を経鼻投与した場合,血漿中濃度が低いにもかかわらず,脳内濃度は腹腔内投与後よりも有意に高かった.この結果は,JAL-TA9が鼻腔から脳へ直接送達されることを強く示唆している.嗅球におけるJAL-TA9の濃度は5分でピークに達したが,前頭部脳における濃度は30分,後頭部脳における濃度は60分でピークに達した.これらの結果より,JAL-TA9は他の投与経路に比べ,経鼻投与により効率的に脳に送達された.
レカネマブは新規アルツハイマー病治療薬として開発されたアミロイドβ(Aβ)を認識する抗体薬である.Aβの脳内蓄積を低下させることで疾患の進行を遅らせることが期待されている.しかしながら,現在までにAβを完全に除去して症状を改善させる薬は開発されていない.代表的なCatalytideであるJAL-TA9(YKGSGFRMI)はAβを分解しアルツハイマー病モデルマウスの症状を改善することからJAL-TA9は効果的にAβを除去するアルツハイマー病治療薬の有望な候補であると示唆されている.JAL-TA9の活性中心はGSGFRである.アルツハイマー病治療により有効なCatalytideを同定するため,我々はGSGFRの1アミノ酸変異体を21個作成し構造活性相関解析を行った.その結果,我々はAβ25-35の凝集を抑制するだけでなく,凝集したAβ25-35を乖離させる2つの低分子ペプチド(GSGFKとGSGNR)を発見した.さらにGSGFKのマウス脳室内への投与はAβ25-35による短期記憶障害を抑制し,ミクログリアの貪食作用を促進した.以上より,GSGFKはレカネマブと同様にAβを標的としているが,安全面並びに投与方法,コストにおいてレカネマブより優れている.
創薬・薬理研究において,標的分子に作用する化合物や薬効を示す化合物の標的分子を早期に特定することは極めて重要である.しかし,この過程には多大な労力が伴い,しばしば研究の律速段階となる.本稿では,この問題を解決するための簡便かつ迅速な手段として,アフィニティーセレクションマススペクトロメトリー(Affinity Selection Mass Spectrometry:ASMS)を用いた結合化合物および結合タンパク質のクイックスクリーニングを紹介する.ASMSは,化合物と標的分子の結合を検出する技術である.さらに,ASMSの改良により対象とする標的分子の範囲を広げ,創薬プロセスの初期段階における重要なボトルネックを解消し,研究のスピードと成功率を向上させた.以下のキーワードを軸に,新たなスクリーニング手法の有用性を論じる.
アポハイド®ローション20%はオキシブチニン塩酸塩を有効成分とする原発性手掌多汗症の局所治療薬である.オキシブチニンは長年にわたり過活動膀胱の治療薬として医療現場で使用されており,その薬理学的特性及び過活動膀胱に対する有効性及び安全性は広く知られている.これまで原発性手掌多汗症の治療において第一選択は,塩化アルミニウム外用療法と水道水イオントフォレーシス療法のいずれかであったが,本剤の登場によりこれらに外用抗コリン薬が新たに追加された.原発性手掌多汗症の原因であるエクリン汗腺からの発汗は,アセチルコリンが汗腺上に存在するムスカリン性アセチルコリン受容体のサブタイプM3受容体に結合することで惹起される.一方,オキシブチニンはムスカリンM3受容体に結合することで,抗コリン作用を示すことが確認されている.また,オキシブチニンによる臨床効果にはその活性代謝物であるN-デスエチルオキシブチニンも関与すると考えられている.久光製薬株式会社はこれらによる発汗抑制作用を期待して本剤の開発に着手し,国内で原発性手掌多汗症患者を対象とした臨床試験を実施した結果,本剤はプラセボと比較して発汗量のレスポンダー(発汗量がベースラインから50%以上改善した患者)の割合が有意に高く,本剤のプラセボに対する優越性が検証された(本剤群:52.8%,プラセボ群:24.3%;群間差:28.5%;P<0.001,Fisherの直接確率法).安全性に関しては,抗コリン作用による有害事象や適用部位の有害事象(皮膚症状)が報告されたものの,大部分が軽度であった.52週間の長期投与時において効果の減弱は認められず,有害事象により治療を中止した患者は少数(2/125例)であった.以上のことから,アポハイド®ローション20%は原発性手掌多汗症の患者に新たな治療の選択肢を提供できると考えられる.
Futibatinib(製品名:リトゴビ®錠4 mg)は,大鵬薬品によりシステイノミクス創薬技術を用いて開発された新規のFGFR(fibroblast growth factor receptor:線維芽細胞増殖因子受容体)阻害薬である.「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌」を効能・効果として,2023年6月に国内製造販売承認が取得された.FutibatinibはFGFRのキナーゼドメイン内にあるP-ループのシステイン残基に共有結合し,FGFR1~4を選択的かつ不可逆的に阻害することによって抗腫瘍効果を発揮すると考えられている.開発中の薬剤を含め多くのFGFR阻害薬はATP競合型であり,共有結合型の不可逆的FGFR阻害薬としては,Futibatinibが初めて承認された薬剤となる.腫瘍細胞株を用いた実験では,FutibatinibはFGFRのリン酸化とその下流のシグナル伝達を阻害することで,細胞増殖を抑制することが示された.共有結合型の不可逆的FGFR阻害薬であるFutibatinibは,他のATP競合型の可逆的FGFR阻害薬と比べて,より幅広いFGFR変異体に対して阻害活性を示し,野生型のFGFR阻害効果と大きく乖離することなく細胞増殖を抑制する.また,FGFRがドライバーとなっているヒト腫瘍細胞株を皮下移植したマウスを用いた実験において,Futibatinibの経口投与は腫瘍縮小効果を示した.また,化学療法歴のあるFGFR2融合遺伝子またはFGFR2遺伝子再構成を有する肝内胆管がん患者を対象として実施された国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅱ相パートにおいて,主要評価項目の全奏効率は41.7%であり,共存遺伝子変異の有無によらず一貫した有効性を示した.安全性においてはいくつかの特徴的な副作用を認めたがいずれも管理可能であり,良好な安全性プロファイルを示した.Futibatinibは,治療選択肢の限られた胆道がんにおいて重要な薬剤であるとともに,他のがん種での開発が複数進行しており,より多くの患者への貢献が期待される薬剤である.