日本薬理学雑誌
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117 巻, 2 号
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総説
  • 小畑 俊男, 山中 康光
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP)と鉄によって引き起こされるドパミン(DA)性神経障害に活性酸素が関与している.これはB型モノアミン酸化酵素(MA0-B)により1-methyl-4-phenylpyridinium cation (MPP+)に変化した後, パーキンソン病が発現するが, その病因に酸化的ストレスの関与が考えられている.MPP+は強力なDA放出促進薬の一つであり, DAの自動酸化と, スーパーオキシドアニオン(O2-)を介してヒドロキシラジカル(·OH)を生成させる作用がある.すなわち, レセルピンによりDAを枯渇させるとMPP+による·OHの産生が低下した.またアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であるイミダプリルはアンジオテンシン(II)によるDAの放出を抑制することにより, MPP+による·OHの産生を抑制した.一重項酸素(1O2)のスカベンジャーであるヒスチジンによっても·OHの産生が抑制され, MPP+により産生されるラジカル種に1O2の存在が示唆された.さらに低密度リポタンパク質(LDL)の酸化阻害薬であるフルバスタチンによって·OHの産生が抑制された.これはLDLの酸化が·OHの産生に関与していることを示している.これらの薬物はMPP+により引き起こされる活性酸素を抑制する作用を有することにより, 抗パーキンソン病薬としての応用が可能と思われる.
  • 野元 正弘, 岩田 真一, 加世田 俊
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 2 号 p. 111-122
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病の主要な運動症状は振戦, 無動, 筋固縮, 姿勢保持障害である.このうち最も重要な症状は無動であり, 自発運動の減少, 動作緩慢, 巧遅運動の障害, すくみが含まれる.主要な病変は黒質線条体系ドパミン神経の変性であり, その原因としては酸化的ストレスや神経毒の関与が研究されている.この神経変性に対して抗酸化薬, 神経の再生促進薬あるいは変性抑制薬は今後開発されるべき分野である.また, 一部のパーキンソン病では遺伝子の異常が明らかにされており, 遺伝子治療も将来は可能であろう.現在臨床応用されている薬物は症状の改善薬であり, 線条体で低下しているドパミンの補充, ドパミンやL-DOPA(レボドパ)の代謝酵素の阻害薬, ドパミン受容体作用薬, 抗コリン薬, NMDA受容体拮抗薬である.さらに, アデノシン受容体拮抗薬, ドパミンの放出促進薬·取り込み阻害薬, セロトニン受容体作用薬, 神経栄養因子, ニコチン受容体作用薬などが研究されている.また, 現在の治療薬の問題点は中等度以上の進行例でみられる薬効の持続の短縮(wearing-off)とジスキネジア, 幻覚興奮妄想などの治療薬により起こる症状である.薬効の短縮に対しては持続の長い治療薬やMAO障害薬がある程度有効である.精神症状に対してはドパミン受容体拮抗薬も有効であるが, パーキンソン病治療薬を減量せざるを得ないことが多く, 対処の困難な場合が多い.また, 進行例ではドパミンを補充しても十分な効果は得られないため, ドパミン神経以外の伝達物質の作用もさらに検討されるべきである.ドパミン神経以外の作用薬の効果は動物で評価しにくいことが開発上の一つの問題点でもある.この総説では現在応用されている治療薬と臨床研究されている薬および実験的に抗パーキンソン病作用を認め, 研究されている薬物について概説する.
新薬紹介総説
  • 西尾 伸太郎, 車谷 元
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 2 号 p. 123-130
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    プロスタサイクリン(PGI2)は主に血管内皮細胞で合成される内因性のエイコサノイドであり, 血小板の粘着/凝集や血管の収縮に対して強力な抑制作用を有している.しかしながら, その半減期が極めて短いために治療薬としての使用は静脈注射に限られていた.ベラプロストナトリウム(以下ベラプロスト)は, 世界ではじめての経口投与可能なPGI2誘導体であり, 東レ株式会社で創製された.ベラプロストはPGI2の不安定性の原因となっているエキソエノールエーテル構造をフェノール構造に置き換えるとともに, ω-側鎖に化学修飾を加えることで抗血小板作用と副作用との分離を図ったものである.ベラプロストの有効性は, まず慢性動脈閉塞症の臨床試験で示され,「慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍, 疼痛及び冷感の改善」の治療薬として1992年に製造承認を取得した.現在では,「ドルナー®」,「プロサイリン®」の商標で広く臨床応用されている.原発性肺高血圧症は原因不明の肺血管抵抗の増大によって, 数年で死に至るきわめて重篤な疾患であるが, 本症に対する有効性が示され, 1999年に「原発性肺高血圧症」の効能追加が認められた.ヨーロッパにおいて, 間歇性跛行症を対象疾患としたプラセボとの比較試験が実施され(BERCI-2), ベラプロスト投与群での有意な歩行距離の改善が最近報告された.ベラプロストは, 抗血小板, 血管拡張, 血管平滑筋細胞増殖抑制をはじめ, 内皮細胞保護, 炎症性サイトカインの産生抑制などの多彩な薬理作用を有する.多くの疾患において, PGI2の産生低下やThromboxaneA2/PGI2比の不均衡が微小循環の障害をもたらし, 病態の増悪に関与するとされる.ベラプロストの発売以降も多くの基礎および臨床での研究がなされ, 脳卒中, PTCA後の再狭窄, 糖尿病性神経障害, 糖尿病性腎症, 脊柱管狭窄症, 糸球体腎炎, 動脈硬化など, なお有用な薬剤に乏しい多くの疾患での有効性が示唆されている.今後こうした疾患とPGI2の低下の関与が明確になり, コントロールされた臨床試験によってベラプロストの有効性が検証されることが期待される.
  • 八島 由紀彦, 大金 亨
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 2 号 p. 131-137
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    新規免疫抑制薬mycophenolate mofetil(MMF,CellCept®)は, 真菌由来化合物であるmycophenolic acid(MPA)の経口的バイオアベイラビリティを改善する目的で合成されたプロドラッグで, 腎移植後の難治性拒絶反応の治療薬である.MPAはGTPのde novo合成における律速酵素であるIMP dehydrogenase(IMPDH)を特異的に抑制(IC50=25nM)することで, GMP産生を選択的, 可逆的かつ不競合的に阻害する.したがって, MPAの投与によりguanidine nucleotideの供給を主としてde novo系に依存しているTおよびBリンパ球の増殖·活性化を選択的に阻害され, 細胞傷害性T細胞産生の抑制あるいは抗体産生能の抑制などの免疫抑制作用が発現する.一方, MPAはIL-2レセプター発現を抑制しないことから, リンパ球の増殖能に対し選択的に影響することが示唆されている.イヌを用いて検討された同種腎移植モデルにおいて, 急性拒絶反応の発現を抑制し, 移植臓器の長期生着の可能性を示した.また, イヌを用いた実験的移植片対宿主病(GVHD)モデルにおいては, MMFとcyclosporine A(CsA)の併用投与で, 拒絶反応の発現が抑制され, 投与中止後も長期にわたり移植臓器が生着したことから, 免疫寛容誘導の可能性も示唆された.さらに, 本邦あるいは海外において実施された腎臓移植に対する臨床試験においても, 移植腎の長期生着を可能にし, 拒絶反応出現の抑制効果が認められている.
新薬開発状況
  • —COX-2選択的阻害薬とNO遊離型NSAIDs—
    竹内 孝治, 田中 晶子
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 2 号 p. 138-148
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)はサイクロオキシゲナーゼ(COX)阻害に基づくプロスタグランジン(PG)の産生低下によって解熱·鎮痛·抗炎症作用などを発揮するが, 副作用として消化管における種々の機能異常と粘膜傷害を誘起する.NSAIDsの消化管における副作用軽減を目的とした種々のアプローチにより, 最近, COX-2選択的阻害薬と一酸化窒素(NO)遊離型NSAIDsが開発されてきた.前者は炎症反応に密接に関連しているCOX-2のみを選択的に阻害し, 消化管粘膜の恒常性維持に重要とされているCOX-1には影響を与えないため, 副作用としての消化管傷害性を示さない.一方, 後者のNO遊離型NSAIDsは, PGと共に胃粘膜防御に関与することが知られているNOの遊離基を従来のNSAIDsに付加した薬剤であり, COX阻害により齎される有害な作用をNOによって代償させることを目的としている.何れの試みもNSAIDsとしての抗炎症作用を保持した条件下で, 消化管傷害性を極端に低下させることに成功している.しかしCOX-2も, ヘリコバクターピロリ感染あるいは関節炎などの病態時においては, 胃粘膜恒常性の維持に関与していることが示されており, COX-2阻害の齎す消化管への影響が再検証されつつある.またNOに関しても, 誘導型NO合成酵素由来のNOが炎症性腸疾患においては増悪因子として作用することが指摘されており, NO遊離型NSAIDsによる炎症性腸疾患への影響が懸念されている.本稿では, 消化管粘膜の恒常性維持におけるCOXアイソザイム, PGおよびNOの役割も含め, 消化管傷害性の低い新たなNSAIDsであるCOX-2選択的阻害薬とNO遊離型NSAIDsについて概説し, これら薬剤の有用性に関し既存のNSAIDsと比較考察した.
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