日本薬理学雑誌
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153 巻, 1 号
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特集:進化する骨粗鬆症治療薬 国内患者1,300万人のQOL向上へ
  • 鈴木 恵子, 長岡 正博, 五十嵐 薫, 篠田 壽
    2019 年 153 巻 1 号 p. 4-10
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/12
    ジャーナル フリー

    ビスホスホネート製剤(bisphosphonate(s):BP,BPs)は,P-C-P結合を基本骨格とする骨吸収抑制薬であり,骨吸収が亢進した病態に対して,最も信頼できる治療薬として使用されている.P-C-Pの中心炭素原子に付加される側鎖の違いにより,薬理作用や作用機序などが大きく異なるが,その構造中に窒素原子をもつかどうかで,窒素含有BPs(nitrogen-containing BPs:NBPs)と,窒素非含有BPs(non-NBPs)に大別される.筆者らは,既存のBPsについて構造活性相関を研究する過程で,新規のnon-NBPである[4-(メチルチオ)フェニルチオ]メタンビスホスホネート(MPMBP)が,歯周病原因菌などの菌体成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)刺激による炎症メディエーター産生を抑制することを確認した.この抗炎症作用はMPMBPがもつメチルチオフェニルチオ基の抗酸化活性によるものと推測されたため,in vitro,in vivoの両面から骨形成作用について検討した.その結果,1)培養骨芽細胞のアルカリホスファターゼ活性および骨形成関連遺伝子の発現を有意に上昇させ,2)培養頭蓋冠のコラーゲン合成および石灰化を促進し,3)正常ラット・ウサギ上顎歯槽骨への局所投与で骨を新生するなど,既存のBPsでは報告されていない骨形成促進効果を有することを見出した.すなわちMPMBPはBPに共通する骨吸収抑制作用に加えて,抗酸化作用および抗炎症作用に基づく骨形成促進作用を併せ持つ化合物であることから,有効かつ安全なBPとして骨粗鬆症治療に応用できる可能性があると考えられる.さらに局所投与部位の炎症反応を抑制し,新生骨を形成することから,高頻度に細菌感染が起こる口腔内において,骨欠損部での骨の増生や再生に応用することも視野にいれて基礎研究を進めている.

  • 保田 尚孝
    2019 年 153 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/12
    ジャーナル フリー

    RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)の発見は破骨細胞分化・活性化調節メカニズムの解明,骨代謝と免疫学をつなぐ研究領域(骨免疫学)の開拓,抗ヒトRANKL中和抗体(デノスマブ)の開発など大きなインパクトをもたらした.デノスマブは欧米をはじめ,日本を含めた多くの国で骨粗鬆症治療薬およびがん骨転移による骨病変の治療薬として臨床応用されており,今やブロックバスター(2017年度売上は39億ドル)になっている.破骨細胞分化に必須の絶対的因子であるRANKLを標的にした抗体医薬の切れ味は強力であり,多くの患者にとって福音となった.最近のトピックスとして,骨芽細胞が産生するRANKLが骨形成の調節に必要であること,RANKLとその受容体であるRANKの双方向性シグナルが骨芽細胞と破骨細胞の相互作用に重要な役割を果たすことが示され,筆者らが提唱してきたRANKLリバースシグナリング仮説が証明された.抗RANKLアゴニスト抗体など,骨芽細胞上のRANKLに結合して骨形成シグナルを入れる物質が新たな創薬候補となろう.一方,抗RANKL中和抗体が胸腺髄質細胞の分化・成熟を抑制することにより,がん免疫を増強することが明らかになりつつある.抗RANKL抗体はがん骨転移や骨粗鬆症などに対する骨病変の治療薬であるという概念を超えて,がん免疫増強を介したがん治療薬の可能性が見えてきている.

  • 長谷川 智香, 宮本 幸奈, 山本 知真也, 網塚 憲生
    2019 年 153 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/12
    ジャーナル フリー

    骨粗鬆症治療薬の副甲状腺ホルモン(PTH)製剤として,遺伝子組み換え型ヒトPTH[1-34]であるテリパラチドが用いられている.我が国においては,連日製剤と週1回製剤の2種類が存在しており,そのどちらも骨量を増加させ,また,骨折率を低下させることが報告されている.一般的にPTHを持続投与すると骨吸収を誘導するのに対して,PTH間歇投与では骨量増加につながることが知られている.その細胞学的メカニズムとして,PTHは骨芽細胞の前駆細胞である前骨芽細胞に対して細胞増殖を亢進する一方,成熟型骨芽細胞に対しては破骨細胞とのカップリングに依存して,骨形成を促進することが報告されている.さらに,我々は,PTH間歇投与の頻度(投与間隔)の違いにより,骨の細胞群の挙動が異なることを明らかにした.PTH高頻度投与では,成熟型骨芽細胞が活発に骨基質合成を行うだけでなく,前骨芽細胞の増殖が亢進して厚い細胞性ネットワークを形成し,その中で多数の破骨細胞が誘導されていた.その結果,高骨代謝回転の骨リモデリングにより骨形成が誘導されていた.しかし,PTH低頻度投与では,成熟型骨芽細胞による骨形成が亢進するが,前骨芽細胞はあまり増加せず,よって破骨細胞形成の誘導も上昇しなかった.この場合,骨リモデリングとミニモデリングの両方によって骨形成が誘導されることが明らかにされた.このように,PTH製剤の投与頻度が異なると,骨の形態や形成のされ方が違うことが強く示唆された.以上より,PTH製剤の投与頻度によって骨形成促進における作用機序が異なると思われる.

  • 高岡 一樹, 岸本 裕充
    2019 年 153 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/12
    ジャーナル フリー

    近年,骨粗鬆症や骨転移を有するがん患者の治療に広く用いられているビスホスホネート(bisphosphonate:BP)による重大な副作用のひとつとして,難治性の骨露出を特徴とするビスホスホネート関連顎骨壊死(BRONJ:bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw)が問題視されている.当初,BRONJは,がんの骨転移や多発性骨髄腫などに対して使用されるBP注射薬の「高用量」投与によって生じると考えられたが,骨粗鬆症に対するBPの「低用量」投与でも無視できない頻度で発症することが明らかとなってきた.また,BPとは異なる機序で同じ骨吸収抑制作用を示す抗RANKL抗体製剤デノスマブもまた顎骨壊死を発症する可能性があり,BRONJと合わせてantiresorptive agent-related osteonecrosis of the jaw(ARONJ)と呼称されている.BRONJの発生メカニズムは未だ不明な点が多く,わが国ではBRONJの患者数は増加傾向にあるが,一方で発症リスクの軽減や治療法の戦略は整いつつある.2010年にわが国における最初のBRONJのポジションペーパーが発表されたにもかかわらず,患者が増加した要因として,BPを長期投与している患者の増加が最も強い影響を及ぼしていると推察するが,抜歯の制限を含むわが国におけるこれまでの予防的対応に何らかの問題があった可能性も否定できない.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(27)
  • 榎本 健史, 池田 和仁
    2019 年 153 巻 1 号 p. 28-34
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/12
    ジャーナル フリー

    精神科領域では既存薬よりも有効性に優れた化合物探索の多くは失敗してきた.その主な要因の1つには,精神疾患の適切な行動評価系と病態モデル動物の欠如が挙げられる.精神疾患の病態では前頭前皮質の関与が高いことから,今後のトランスレーショナル研究では本脳領域の発達した非ヒト霊長類コモンマーモセットが実験動物として有望である.臨床では統合失調症や大うつ病患者で認められる意欲低下,否定的感情バイアス,認知機能障害などを客観的かつ定量的に測定する臨床ラボラトリー課題が開発されている.マーモセットでもトランスレーショナル研究のために,臨床ラボラトリー課題に対応した行動アッセイ系の構築が進んでいる.一方,精神疾患の病態を反映したマーモセットモデルの作製には未だ多くの限界がある.本稿ではマーモセットを用いた精神科領域のトランスレーショナル行動薬理研究の現状と展望について概説する.

新薬紹介総説
  • 前田 裕美, 仲村 英樹, 菊川 義宣
    2019 年 153 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/12
    ジャーナル フリー

    帯状疱疹は神経節に潜伏感染した水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)の再活性化により生じるウイルス感染症であり,神経支配領域に一致して帯状に出現する疱疹と痛みが特徴である.アメナメビルは非核酸類似構造の抗ヘルペスウイルス薬であり,ウイルスDNA複製に必須とされるウイルス由来のヘリカーゼ・プライマーゼ複合体の酵素活性を阻害することで,抗ウイルス作用を示す.また,アメナメビルは代表的な薬物代謝酵素チトクロームP450(cytochrome P 450:CYP)の分子種であるCYP3Aで主に代謝され,糞中に排泄される.In vitro抗ウイルス試験の結果,アメナメビルはVZVに対しアシクロビルより高い抗ウイルス活性を示し,アシクロビル低感受性VZVに対しても抗ウイルス活性は減弱しなかった.国内帯状疱疹患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験では,アメナメビル400 mgを1日1回食後経口投与したところ,主要評価項目である投与4日目までに新皮疹形成停止が認められた患者の割合は81.1%であり,バラシクロビル塩酸塩に対する非劣性が検証された(P<0.0001,Farrington-Manning法をMantel-Haenszel型の調整に拡張した非劣性検定).副作用は10.0%(25/249例)に認められ,主なものはフィブリン分解産物増加(2.0%),心電図QT延長(1.6%),β-NアセチルDグリコサミニダーゼ増加(1.2%),α1ミクログロブリン増加(1.2%)等であった.以上から,アメナメビル錠1日1回400 mg投与は帯状疱疹治療における有効性と安全性が確認され,本邦において新たな治療選択肢になり得ると考えられた.

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