日本薬理学雑誌
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148 巻, 3 号
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特集 痛みと情動の新たな展開
  • 濱田 祐輔, 山下 哲, 田村 英紀, 成田 道子, 葛巻 直子, 成田 年
    2016 年 148 巻 3 号 p. 128-133
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー

    慢性疼痛患者は,持続的な痛みを訴える一方で,二次的にうつや不安障害などの精神障害や睡眠障害などの高次脳機能障害を伴うケースが多い.特に,睡眠障害は多くの慢性疼痛患者において共通して認められる症状のひとつであり,逆に睡眠の量や質の悪化が痛みの重症度やうつ・不安障害の悪化に密接に関係している.このような複雑な合併症状による負の連鎖は,「慢性疼痛」という病態を複雑にして患者のQOLを著しく低下させてしまう.こうした現状は,疼痛治療において,疼痛以外の併発・合併症状の改善も考慮に入れて治療を行う必要性を示唆している.そこで我々は,慢性疼痛下における睡眠障害の発現メカニズムについて解析を試みた.神経障害性疼痛モデルマウスを作製し,疼痛下の前帯状回領域において,グルタミン酸遊離量の増加ならびに細胞外GABA濃度の低下を認め,前帯状回領域における神経回路の興奮-抑制のバランスの異常により睡眠障害が惹起されうる可能性を見出した.また,この神経障害性疼痛モデルマウスにおいて,前帯状回領域における神経活動の機能変化にアストロサイトの活性化が一部寄与していることが明らかとなった.さらに,オプトジェネティクス法を駆使した前帯状回アストロサイトの特異的活性化により,睡眠障害が惹起されることを見出した.したがって,慢性疼痛下における睡眠障害の発現の一端には,前帯状回領域における興奮-抑制バランスの調節不全ならびに神経-グリア相互作用の機能異常が関与している可能性が考えられる.

  • 西中 崇, 中本 賀寿夫, 徳山 尚吾
    2016 年 148 巻 3 号 p. 134-138
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー

    近年,幼少期における精神的あるいは身体的な虐待が大きな社会問題となっている.幼少期の不適切な養育環境を経験することによって,成人期における精神疾患の発症リスクが増加することが報告されている.幼少期のストレスによる脳の機能的あるいは構造的な変化が成人期における精神疾患の発症に関与すると考えられている.さらに,幼少期のストレスは,成人期の精神疾患のみならず慢性疼痛の発症リスクを増加させることも報告されている.近年,痛みの慢性化には,脳内における神経の機能変化が関与していることが示唆されていることから,幼少期ストレスは脳内の疼痛制御機構に対しても影響を与えることが示唆される.これまでに,幼少期ストレスと疼痛,特に治療対象となる慢性疼痛との関係については,臨床的なエビデンスは得られているものの,そのメカニズムは不明な点が多い.また,基礎研究に関してはほとんど検討されていない.そこで我々は,マウスを用いて幼少期ストレスによる成熟期における慢性疼痛の影響について解析を試みた.幼少期ストレスは成熟期のマウスにおいて情動機能障害を引き起こした.幼少期ストレスのみでは疼痛行動に対する影響は認められなかった.しかし,神経障害性疼痛で認められる痛覚過敏は,幼少期ストレスによって増強した.さらに,幼少期ストレスは,神経障害性疼痛後の情動機能障害を雌性マウスにおいてのみ増悪させた.神経系の発達や情動機能の調節にかかわるbrain-derived neurotrophic factor(BDNF)の脳内における発現変化が,ストレス負荷直後の幼少期においてのみ認められた.本研究の結果から,マウスにおいて幼少期ストレスは成熟期における神経障害性疼痛を増強することが示唆された.本モデルは幼少期ストレスと慢性疼痛の相互関係に関わる分子的なメカニズムを明らかにするための有用なモデルになることが示唆された.

  • 橋川 成美, 小川 琢未, 坂本 祐介, 橋川 直也
    2016 年 148 巻 3 号 p. 139-143
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー

    カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は,様々な生理機能を有するペプチドである.強力な血管弛緩作用がその機能として第一にあげられる.CGRPは神経細胞で産生されて遊離されることから,神経系との関わりが考えられる.今回は行動異常とCGRPとの関連性について紹介を行う.我々はマウスに15日間ストレスを負荷することによって,海馬におけるCgrp mRNA量の減少が起こっていることを明らかにした.そこで,CGRPがうつ様行動に影響を及ぼすのではないかと仮説を立て,ストレスを負荷するマウスにCGRP(0.5 nmol)を脳室内投与した結果,うつ様行動の抑制が見られた.同様に海馬新生細胞数の減少の抑制,神経成長因子(NGF)mRNA量の増加が見られた.In vitroにおいても,マウス海馬E14培養細胞株にCGRP(100 nM)を添加すると,Ngf mRNAレベルの増加が見られた.そこで,ストレス負荷マウスにNGF受容体阻害薬であるK252aを投与し,行動を観察した結果,CGRPによる抗うつ作用の減少が観察された.これらの結果はCGRPがNGFの増加を介して抗うつ作用を引き起こしている可能性を示唆している.

実験技術
  • 三重 元弥, 高橋 健
    2016 年 148 巻 3 号 p. 144-148
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー

    近年,ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体イピリムマブの米国での悪性黒色腫に対する承認を皮切りに,ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体のニボルマブあるいはペムブロリズマブが,悪性黒色腫患者の他,肺がん患者等を対象とした臨床試験で有効性を示すなど,がん免疫療法は目覚ましい進歩を遂げている.がん免疫療法は,進行期のがん患者に生存期間の延長効果を示すのみならず,長期に渡って治療効果を持続させることも明らかになり,新しい治療法として脚光を浴びている.その一方で,免疫の調節変動がもたらしたと考えられる自己免疫反応等の,化学療法では認められにくい副作用が発現することも懸念される.新しいがん免疫療法の開発が,今後増加していくことが予想されるが,効果的な研究開発のためには,その有効性に加え,安全性も適切に評価できるモデルが必要とされる.抗腫瘍活性を評価するモデルとしては,従来から抗がん薬の評価に用いられているシンジェニックモデルや外来遺伝子導入株などの移植モデル,化学発がんモデルやGenetically Engineered Mouse Model(GEMM)などの自然発症モデル,また,近年開発がすすめられている免疫ヒト化マウスモデルなど多岐にわたるが,免疫感受性の違いや異所性および異種性といった課題がある.ここでは,免疫チェックポイント分子阻害薬の反応性を中心に,それぞれの特徴および課題等を紹介する.また,がん免疫療法では免疫関連有害事象(irAE)が重篤な副作用として問題となるが,モデルを用いた予測についての現状も概説する.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(6)
  • 角田 慎一
    2016 年 148 巻 3 号 p. 149-153
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー

    近年,モノクローナル抗体製剤をはじめとする各種生物製剤,いわゆるバイオ医薬品の開発が加速している.バイオ医薬品は,従来の低分子薬では達成困難な治療効果を発揮しうることから,アンメットメディカルニーズを満たす新規医薬品として期待は大きい.また,昨今の抗体医薬では,モノクローナル抗体に抗がん薬を付加したantibody-drug conjugate(ADC)や,二重特異性抗体といった全くの人工的なフォーマットの抗体医薬も既に実用化されるなど,有効性,安全性に一層優れた次世代型抗体医薬の開発も大きく期待されている.このような次世代の抗体医薬を開発するうえでは,有望な標的分子を見出すことが重要であることはもちろんのこと,有用な抗体を創製する技術が重要である.筆者らの研究グループでは,革新的なバイオ医薬品の開発に資する創薬基盤技術の一つとして,機能性抗体の迅速スクリーニング技術を確立した.本稿では,筆者らのバイオ創薬技術と,それを基盤とする創薬支援の取り組みについて紹介する.

新薬紹介総説
  • 鳥越 香織, 中山 直樹, 阿知和 宏行
    2016 年 148 巻 3 号 p. 154-161
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー

    近年,多発性骨髄腫では新規薬剤が開発され,治療成績が向上している.しかし,現在のKey drugであるプロテアソーム阻害薬ボルデゾミブおよび免疫調整薬(Immunomodulatory drugs:IMiDs®)レナリドミドの2剤に治療抵抗性・不応性になった患者に対する有効な治療選択肢は極めて限られており,新たな薬剤が求められている.ポマリドミドは,米国セルジーン社が創製したサリドマイド,レナリドミドに続く新規のIMiDs®であり,主作用として直接的殺腫瘍作用,免疫調整作用,骨髄微小環境への作用を示す.また,経口カプセル剤のため,骨髄腫患者にとって治療に伴う負担が軽く,利便性が高い.非臨床試験からは,in vitroでは同じIMiDs®のレナリドミド耐性株においても腫瘍増殖抑制やアポトーシス促進が示され,in vivoではレナリドミドと交差耐性を示さないことが確認された.ポマリドミドの標的は442個のアミノ酸から成るセレブロン(Cereblon:CRBN)であり,CRBNは催奇形性の主要な原因因子であることが分かっている.最近の研究結果から,このようなCRBNを介したIMiDs®の作用機序が解明されている.臨床においては,米国で行われた第Ⅰ/Ⅱ相試験(MM-002)でデキサメタゾンとの併用効果が認められ,欧州で行われた第Ⅲ相試験(MM-003)でデキサメタゾンとの併用によりボルテゾミブおよびレナリドミド抵抗性の患者にも有効性が確認された.本邦では2012年より日本人対象の治験を開始した.日本人再発難治骨髄腫患者を対象とした第Ⅰ相試験(MM-004)では,ポマリドミドの薬物動態学的パラメータは海外試験の結果と類似し,安全性プロファイルも同様であった.再発難治骨髄腫日本人患者でのデキサメタゾンとの併用におけるポマリドミド4 mgの有効性および安全性については,後の第Ⅱ相試験(MM-011)にて確認された.2014年6月には希少疾病医薬品の指定を受け,海外での臨床試験成績および国内臨床試験の結果を踏まえ,2015年3月に「再発又は難治性の多発性骨髄腫」に対する製造販売承認を取得した.ポマリドミドは,レナリドミドやボルテゾミブによる治療にもかかわらず再発・進行した難治性の多発性骨髄腫に有効な薬剤であり,骨髄腫疾患領域のアンメット・メディカル・ニーズを満たす画期的な新薬である.なお,本剤は催奇形性を有する可能性があるため,レブラミド®・ポマリスト®適正管理手順(Revmate®:レブメイト)の下での使用が承認条件として定められている.

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