日本薬理学雑誌
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143 巻, 1 号
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特集 HMGB1-RAGE系を標的とする創薬
  • 大熊 佑, 伊達 勲, 西堀 正洋
    2014 年 143 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    脳外傷後に必発する脳浮腫は,しばしば脳ヘルニアを生じ致命的となる.脳浮腫はまた,脳低酸素症を増悪し,その結果脳障害を助長する.脳外傷急性期における患者の救命と神経後遺症の軽減化のために,急性期の脳浮腫を制御することは極めて重要である.しかし現在,エビデンスを伴う薬物治療法はない.最近,脳虚血時の炎症惹起物質として核内DNA結合タンパク質であるhigh mobility group box-1(HMGB1)が注目されている.HMGB1を標的とする抗体治療は虚血性脳障害に有効であったが,最近外傷性脳障害にも著効することが動物実験で明らかにされた.さらに神経因性疼痛の動物モデルでも抗体治療の有効性が示された.抗HMGB1抗体の作用機序について概説する.
  • 山本 靖彦, 山本 博
    2014 年 143 巻 1 号 p. 10-13
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    RAGE(receptor for advanced glycation end-products)は当初,糖尿病血管合併症や動脈硬化に関わる最終糖化反応生成物(advanced glycation end-products:AGE)の細胞表面膜型受容体として同定された.我々はこれまでにRAGE過剰発現マウス,RAGE欠損マウスを作製し,生体におけるRAGEの機能的役割を明らかにしてきた.現在,RAGEはAGEのみならずhigh mobility group B1(HMGB1)をはじめとする様々なリガンドを認識し,多彩な生物学的機能を有するpattern-recognition receptors(PRRs)の一員であると理解されるようになってきた.また,RAGE遺伝子転写産物からは選択的スプライシングの違いによって膜型RAGE以外にも新たに内在性分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE:esRAGE)が生じる.膜型RAGEもタンパク質分解酵素によって,細胞膜直上で切断sheddingされ可溶型RAGE(soluble RAGE:sRAGE)に転換しうる.esRAGE,sRAGEは細胞外でリガンドを捕捉しデコイ受容体として働きうる.このようなRAGE自体の多様性と病態形成への関わり,さらにRAGEを標的とした創薬について考えてみたい.
  • 森 秀治, 高橋 英夫, 豊村 隆男
    2014 年 143 巻 1 号 p. 14-17
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    HMGB1やAGEsといったRAGEリガンドによって,単球,マクロファージ,血管内皮細胞が刺激を受けると,MAPキナーゼ群の活性化,ROS産生増大,低分子量Gタンパク質の活性化などを介してNF-κBを中心とした転写因子リン酸化が誘導される.その結果,炎症性サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-αなど),ケモカイン(MCP-1など),細胞接着因子(ICAM-1など),マトリックスメタロプロテアーゼなどの様々な炎症関連因子の発現亢進を引き起こし,このことが炎症,糖尿病合併症,腫瘍増殖をはじめとする様々な病態形成の分子基盤となっていることが示唆されている.本稿では,「HMGB1,AGE-RAGE系」を分子標的にした創薬のための種々の方策について講じるとともに,特にAGEs-RAGE反応を抑制し得る新たな分子標的薬の開発の第一ステップとして,固相法に基づいたAGEs-RAGE間結合アッセイの構築ならびに結合遮断活性を示す創薬シーズの探索例について述べる.
  • 伊藤 隆史
    2014 年 143 巻 1 号 p. 18-21
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    High mobility group box 1 protein(HMGB1)はほとんど全ての有核細胞に豊富に含まれているDNA結合タンパク質である.核内においては,DNAの構造を維持し,転写を調節する役目を担っているが,細胞がダメージを被ったり,活性化されたりすると,受動的もしくは能動的に細胞外に放出され,危機的状況を周囲に知らしめる警笛の役割を果たす.これは一種の生体防御反応であるが,敗血症の際には過剰なHMGB1が全身を循環し,全身性炎症反応症候群(SIRS)や播種性血管内凝固症候群(DIC)の引き金となりうる.DIC治療薬として近年広く使用されるようになった遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤は,プロテインCを活性化して抗凝固作用を発揮するが,HMGB1の中和,分解を促進する作用も併せ持っている.本稿では,細胞外HMGB1の作用とトロンボモジュリン製剤によるインターベンションについて概説する.
総説
  • 浅井 将, 城谷 圭朗, 近藤 孝之, 井上 治久, 岩田 修永
    2014 年 143 巻 1 号 p. 23-26
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病の原因物質アミロイドβペプチド(amyloid-β peptide:Aβ)はその前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein:APP)からβおよびγセクレターゼの段階的な酵素反応によって産生される.アルツハイマー病の発症仮説である「アミロイド仮説」を補完する「オリゴマー仮説」は,オリゴマー化したAβこそが神経毒性の本体であるとする仮説であるが,オリゴマーAβのヒトの神経細胞への毒性機構や毒性を軽減する方法は未だ不明であった.そこで我々は,この問題点を解決すべく若年発症型家族性アルツハイマー病患者2名および高齢発症型孤発性アルツハイマー病患者2名から人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)を樹立し,疾患iPS細胞から神経細胞に分化誘導を行って細胞内外のAβ(オリゴマー)の動態と細胞内ストレス,神経細胞死について詳細に検討した.その結果APP-E693Δ変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来の神経細胞内にAβオリゴマーが蓄積し,小胞体ストレスおよび酸化ストレスが誘発されていることがわかった.一方,1名の孤発性アルツハイマー病患者においても細胞内にAβオリゴマーの蓄積と上記と同様の細胞内ストレスが観察された.これらの小胞体ストレスおよび酸化ストレスはβセクレターゼ阻害薬によるAβ産生阻害やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)によって軽減された.このように孤発性アルツハイマー病においても Aβオリゴマーが神経細胞内に蓄積するサブタイプが存在すること,およびこのサブタイプに対する個別化治療薬としてDHAが有効である可能性を示した.
  • 井上 隆司, 淺沼 克彦, 関 卓人, 長瀬 美樹, 長船 健二
    2014 年 143 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    腎糸球体壁は毛細血管内皮細胞,基底膜,足細胞(ポドサイト,podocyte)が形成する「スリット膜」と呼ばれる特殊な3層構造からなり,常に60 mmHg以上の血管内圧を受けている.足細胞は分岐した突起を互いに伸ばして20~45 nmの間隙を形成し,この間隙は小孔が規則的に並んだ構造を有するスリット膜によって覆われている.糸球体の限外濾過能力は,主にこの孔の大きさと基底膜の陰性荷電とに依っている.種々の原因によって足細胞のリモデリングや障害が生じると,足細胞突起が展退してスリット膜の濾過障壁としての機能が失われ,タンパク尿を伴う慢性腎機能不全に陥る.最近有病率が急速に増加しつあるタンパク尿を伴う慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の多くが,足細胞の障害に起因すると考えられている.足細胞の突起は収縮能を有するアクチン線維が分布し,正常時には毛細管内圧変化に応じて収縮し,濾過障壁の溶質透過性をダイナミックに調節していると想像されている.スリット膜の足細胞突起側には,数多くのタンパク質(nephrin,Neph1,podocin,TRPC6等)が集積して複合体を形成し,足細胞内でアダプタータンパク質(CD2AP等)を介してアクチン細胞骨格と連結している.最近の研究から,この膜タンパク質-細胞骨格複合体が,腎糸球体の濾過機能制御において,決定的な役割を果たす種々のシグナル伝達のプラットホームとして機能していると考えられるようになってきた.さらに,これらのタンパク質の遺伝的・後天的要因(炎症,化学物質暴露等)による量的・機能的変化が,腎糸球体の濾過障壁機能の異常や消失を引き起こす重要な原因となっている証拠が得られつつある.しかし,これまでの多くの研究は,足細胞を単離することの技術的困難等から,ほとんど形態的・生化学的解析に限られていた.近年,これを大きく打開したのは,不死化足細胞の樹立である.また最近では,iPS細胞から足細胞を再生する技術の開発についても展望が開けつつある.本シンポジウムでは,「Podocytologyがひらく新しい慢性腎臓病治療戦略」と題し,不死化足細胞株樹立等の実験手法の革新によって急速に進みつつある足細胞機能異常に関する研究(podocytology)の最新の成果の紹介と,それらが今後のCKD発症増悪の予防・軽減の治療戦略にもたらす可能性や展望について議論を行った.以下にはそのエッセンスについて,各演者の先生方にお纏めいただいた(第86回日本薬理学会年会シンポジウム オーガナイザー 井上隆司,淺沼克彦).
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(11)
新薬紹介総説
  • 吉崎 弘幸, 友成 章
    2014 年 143 巻 1 号 p. 40-43
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    オファツムマブは,新規のヒト型IgG1κモノクローナル抗体であり,B細胞に発現するヒトCD20分子上の細胞外小ループおよび細胞外大ループを含む抗原決定基(エピトープ)に特異的に結合する.In vitro試験において,オファツムマブはCD20の発現レベルが高いB細胞性腫瘍細胞株のみならず,発現レベルが低い腫瘍細胞株に対しても補体依存性細胞傷害作用(CDC)を介した細胞溶解を惹起した.さらに,オファツムマブは抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用(ADCC)を介しても細胞溶解を惹起した.重症複合型免疫不全(SCID)マウス異種移植モデルにおいて,オファツムマブは用量依存的に生存期間を延長させる作用が示された.また,海外第II相臨床試験において,フルダラビン抵抗性の慢性リンパ性白血病(CLL)患者に対してオファツムマブ単剤療法の臨床的有用性が示唆された.さらに日韓共同第I/II相臨床試験において,日本人CLL患者に対するオファツムマブ単剤療法の良好な忍容性と臨床的有用性が示唆された.オファツムマブは,本邦においてこれらの非臨床および臨床試験の成績に基づき,2013年3月25日に「再発又は難治性のCD20陽性CLL」を適応として承認された.
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