日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
160 巻, 3 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
アゴラ
特集 薬理学-免疫学-構造生物化学から視る新たながん治療戦略
  • 吾郷 由希夫, 原 雄大
    2025 年160 巻3 号 p. 157
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML
  • 立花 雅史
    2025 年160 巻3 号 p. 158-162
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell:MDSC)は担がん生体において抗がん免疫応答を抑制することで,がんの進展を促進している.近年開発された免疫チェックポイント阻害薬は様々ながん治療において著効を示すが,20~30%程の患者にしか有効性を示さず,効果予測のためのバイオマーカーや併用療法の開発が待望されている.免疫チェックポイント阻害薬の治療抵抗性の原因としてMDSCが挙げられていることから,MDSCを標的とする治療法は免疫チェックポイント阻害薬の併用療法として有望である可能性を秘めている.顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)は発熱性好中球減少症の治療や予防に用いられているが,MDSCの増殖促進を介した腫瘍促進的な作用も報告されている.著者らは,G-CSFがγ-glutamyltransferase 1(GGT1)の発現を亢進させることでMDSCの免疫抑制能を増強させることを明らかにした.GGT1は細胞外グルタチオンを分解する膜発現型酵素であり,がん早期発見のマーカーとしても期待されており,腫瘍増悪化にも関与することが報告されている.G-CSF刺激によるGGT1発現上昇に起因するグルタチオン分解の促進により生成物であるグルタミン酸量が増加し,グルタミン酸が代謝型グルタミン酸受容体を介してシグナルを伝達することでMDSCの免疫抑制能が増強される可能性を見出した.さらに,発熱性好中球減少症モデルマウスにおいてG-CSFががんの進展を促進することを見出し,モデルマウスにおけるG-CSFの腫瘍促進的な作用を明らかにした.加えて,GGT阻害によってその効果が打ち消されることを明らかにした.以上のことから,GGT阻害によってG-CSFによる薬理効果を阻害することなく,MDSCを介した副作用のみを阻害できる可能性を示したと考えられた.本知見は,より安全かつ効果的ながん治療の開発に資するものと考えられる.

  • 浅野 智志, 坂元 孝太郎, 吾郷 由希夫
    2025 年160 巻3 号 p. 163-166
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    現在,乳がんに使用される分子標的薬は上皮成長因子受容体を標的としており,これらが陰性の乳がんサブタイプに使用しても効果は低い.そのため,新たな標的分子の特定が急務である.血管作動性腸管ペプチド(VIP)受容体2(VIPR2)は,Gαs,Gαi,およびGαqタンパク質に結合して,下流シグナルを制御するGタンパク質共役型受容体である.VIPR2は脳の視交叉上核で強く発現していることが知られているが,多数の末梢臓器にも発現している.また,甲状腺がん,胃がん,肺がん,膵腺がん,肉腫,神経内分泌腫瘍での発現が報告されており,特にVIPR2 mRNAの発現およびVIPR2遺伝子のコピー数が乳がんで増加することが示されている.そこで我々は乳がん細胞の増殖・遊走におけるVIPR2の関与を検討した.VIP-VIPR2が,ホスファチジルイノシトール-3キナーゼγ(PI3Kγ)の活性化に伴うホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸の産生を促進させ,仮足の形成と伸長を調節することで,細胞遊走を制御する新規の分子機構であることを明らかにした.VIP-VIPR2はまた,cAMP/プロテインキナーゼA/細胞外シグナル調節キナーゼおよびPI3K/AKT/glycogen synthase kinase-3βシグナル伝達経路を介してサイクリンD1の発現に関与しており,その結果,細胞周期のG1/S移行を調節することで細胞増殖を制御していることを見いだした.本稿では,VIPR2シグナルによる乳がん細胞増殖・遊走の調節機構の詳細と,これらの表現型へのVIPR2選択的アンタゴニストペプチドKS-133の効果から,新規乳がん関連分子としてのVIPR2と,分子標的薬候補としてのKS-133の可能性を議論したい.

  • 岩崎 憲治, 竹中 聡
    2025 年160 巻3 号 p. 167-171
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    滑膜肉腫は,軟部肉腫の一種であり,若年成人の四肢関節近傍に好発する.その特徴は,再発性かつ病的特徴をもつ染色体転座t(X;18)(p11.2;q11.2)であり,結果としてSSX1またはSSX2遺伝子がSS18と融合する.発現したSS18-SSX融合タンパク質は,クロマチンリモデリング複合体であるSWItch/Sucrose Non-Fermentable(SWI/SNF)複合体(本稿中,ヒトの場合に限定してmSWI/SNFと記載する)に異常を引き起こす.この肉腫発生のプロセスにおける最初のイベントともいえる分子メカニズムについて,2020年から急激な研究の進展があった.特に構造生物学的研究が進み,structure-based drug design(SBDD)の可能性が開けてきた.SS18-SSX1は,正常なmSWI/SNFの構成サブユニットである野生型SS18のかわりに入り込み,これもまたmSWI/SNFの構成サブユニットであるSMARCB1を追い出す.こうしてできた異常なmSWI/SNF(ssSWI/SNF)は,H2A K119Ubを含むヌクレオソームの位置に移動する.H2Aは,コアヒストンタンパク質の一つであり,その119番目のリシン残基がユビキチン化されたものが,H2A K119Ubである.この修飾を含むヌクレオソームが存在するクロマチン領域は,遺伝子発現が抑制されていることが多い.さらにこの位置にはポリコーム複合体が存在するが,それと競合してssSWI/SNFが局在することによって,遺伝子の活性化が起きる.これが肉腫発生の最初のイベントである.本来主に精巣に発現するSSX1がクロマチンリモデリング複合体に異常性をもたらしていることは容易に想像がつく.これまでSS18-SSXを含むssSWI/SNFがどのようにクロマチンと結合するかは不明であったがついにSSX1のC末端領域がヌクレオソーム中の酸性パッチという領域に結合することがわかり,さらにその構造がクライオ電子顕微鏡によって解明された.

  • 原 雄大, 松尾 一彦, 中山 隆志
    2025 年160 巻3 号 p. 172-176
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    ケモカインは,細胞遊走制御を担うサイトカインの一群である.健常人においては,免疫細胞の遊走を介して,生体の恒常性の維持や免疫応答の誘導に寄与する.また,免疫・アレルギー疾患を始めとして,がんや神経変性疾患等の種々の疾患においては,病変部位や所属リンパ節でのケモカインの異所性発現がみられ,免疫細胞の遊走を介してこれら疾患の病態制御にも密接に関わっている.グリオーマは,極めて悪性の原発性脳腫瘍の一種である.末梢組織に発生したがんと同様に,腫瘍組織には様々な免疫細胞の浸潤が確認されているが,他のがんと比較し,それら浸潤細胞の遊走制御機序には不明な点が多い.また,現在,免疫療法はがん治療の大きな柱の1つとして精力的に研究・開発が進められており,複数種のがんにおいて有効性が示されている.しかしながら,グリオーマにおいては,がん免疫療法の有効性が見出されていない.一方,ケモカインはグリオーマに対する腫瘍免疫応答に寄与することが示されており,グリオーマに対するがん免疫療法の有望な治療標的分子となると期待される.したがって,ケモカインおよびケモカイン受容体のグリオーマ病態制御における役割を解明することは,新たながん免疫療法の開発に繋がる可能性がある.本総説では,ケモカインおよびケモカイン受容体のグリオーマでの役割について最新の知見も交えて概説する.

特集 異分野融合で挑む薬剤耐性菌感染症に対する新規治療法の開発
  • 石澤 啓介, 鈴木 仁人
    2025 年160 巻3 号 p. 177
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML
  • 中馬 真幸, 合田 光寛, 濱野 裕章, 新村 貴博, 武智 研志, 八木 健太, 石澤 有紀, 座間味 義人, 石澤 啓介, 田﨑 嘉一
    2025 年160 巻3 号 p. 178-183
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    薬剤耐性菌(antimicrobial resistance:AMR)は国内外で拡大しており,新規治療法の開発や既存治療薬の適正使用が求められている.これまでに我々は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症の治療薬の副作用の管理・予防・克服を目指して,医療ビッグデータを活用した研究を行ってきたので,その事例を紹介する.1つ目の事例では,バンコマイシン関連腎障害(vancomycin-associated nephrotoxicity:VAN)の発症と生命予後との関連を検討した.まず,仮説形成のためにthe US Food and Drug Administration Adverse Events Reporting System(FAERS)を解析した結果,VAN発症後の報告死亡率の上昇が認められた.これを,詳細な医療情報(electronic medical records:EMRs)にて検証した結果,発症後のVAN遷延は死亡と関連し,AKI stage 2以上への進展がVAN遷延のリスク因子であることが明らかとなった.VAN発症例には重度VANへの進行予防が重要であることが示された.2つ目の事例では,ダプトマイシン(daptomycin:DAP)とスタチンの併用による筋障害リスクへの影響を検討した.スタチンがDAP関連筋障害に及ぼす影響を,メタ解析とFAERSによる不均衡分析で検討した.両解析ともにスタチンの併用がDAP関連横紋筋融解症の発症リスクを上昇することを示した.2つの方法の併用により互いの結果を補完して,結論の信頼性を高めることができた.以上より,両剤の併用はその安全性を考慮して慎重に行う必要があることが示された.医療ビッグデータは,それぞれに固有の特徴や解析の注意点を有する.適切な解釈や他の手法との併用を行うことで,他の分野においても信頼性の高い研究成果が発進されることが期待される.

  • 竹村 美紀
    2025 年160 巻3 号 p. 184-190
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    抗菌薬に対する耐性(AMR)の世界的な広がりは国際社会における脅威であり,全世界におけるAMRによる死亡例は127万人とHIVやマラリアによる死亡例数を上回った一方,新規抗菌薬の研究開発は低調でAMRに対する治療薬パイプラインが不足している.このような現状を踏まえ,G7においても2015年より継続的にAMRはAgendaに取り上げられており,2023年G7広島首脳コミュニケにおいてもAMRの世界的かつ急速な拡大を認識しプッシュ型及びプル型のインセンティブを探求,実施することが述べられている.さらに世界保健総会において2015年にAMRに関するグローバル・アクション・プランが採択され,日本においては2016年に本邦初のAMRアクションプランが策定され,2023年には改訂版が発表されている.英国において本格的導入に向けた活動が進み,日本を含めた一部の国で試行導入が始まっているプル型インセンティブ制度のさらなる拡大・拡充により,鈍化しているAMR治療薬の新規創製に向けた動きが活性化することが望まれる.塩野義製薬株式会社によって創製されたシデロフォアセファロスポリン系抗菌薬セフィデロコルは,世界保健機関(WHO)等で特に優先して対応する必要性の高い病原体に位置づけられているカルバペネム耐性のグラム陰性菌に対し良好な抗菌活性を示す.本剤に関しては,低中所得国を含む世界中の国々におけるアクセス向上を目指したGlobal Antibiotic Research and Development Partnership(GARDP)ならびにClinton Health Access Initiative(CHAI)とのパートナーシップに基づいた活動が進められている.AMRに立ち向かうための取り組みを成果として結実させるためには,国家や分野の垣根を超えた世界中の人々のさらなる理解と協力が重要である.

  • 合田 光寛, 新村 貴博, 石澤 啓介
    2025 年160 巻3 号 p. 191-194
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    近年,臨床における多様な患者層・様々な因子を内包する医療ビッグデータを用いた網羅的な解析により,実臨床を反映した臨床効果を評価する研究が様々な疾病を対象に数多く展開されている.一方で,医療ビッグデータを用いた感染症治療に関連した研究報告は,世界でもいまだほとんどないのが現状である.その原因として,多くの医療ビッグデータでは,感染症の起因菌に関する情報が乏しいことに加えて,感染症治療の効果判定に関する情報が乏しく,適切な患者群の設定やアウトカムの設定が難しいため,研究デザインの構築が困難であることが挙げられる.本稿では,医療ビッグデータを用いた多層的データマイニングの技術・知識と基礎細菌学者,感染症専門医の技術・知識を融合して,感染症治療効果に関する解析を行なった研究事例を紹介する.フロモキセフは,広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌に対して有効であるが,これまでにセフメタゾールの臨床的有効性と比較された報告はない.そこで,院内感染対策サーベイランスデータとレセプトデータを用いて,ESBL産生菌感染症の治療におけるセフメタゾール,フロモキセフの有効性について検証した.ESBL産生株を含む第三世代セファロスポリン耐性大腸菌および肺炎桿菌は,フロモキセフおよびセフメタゾールに対して同様の感受性を示した.レセプトデータ解析の結果,入院期間中央値はセフメタゾール群で11日,フロモキセフ群で4日であり,後者で有意に短かった(log-rank検定,P‍<‍0.001).本研究の結果から,尿路感染症治療においてフロモキセフはセフメタゾールと同様に有効であることが示された.現在利用可能な医療ビッグデータを用いて,感染症治療に関わる解析を行う際には,データベースの特性を理解した上で,感染症治療に精通している臨床医と連携することにより価値のある解析結果が得られる可能性がある.

実験技術
  • 樋口 蓮太郎, 向井 康敬, 乘本 裕明
    2025 年160 巻3 号 p. 195-200
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    動物の行動を生み出す脳の仕組みをさらに深く理解するためには,従来の電気生理学的手法に加えて,神経修飾物質の動態を詳細に観察する技術が不可欠である.しかし従来の計測技術では,高い空間的および時間的分解能を同時に実現することが難しく,とくに自由行動中の動物における神経修飾物質のリアルタイム観察には限界があった.近年開発された蛍光指示タンパク質「GRABセンサー」は,この課題を克服し,神経修飾物質をリアルタイムで高精度に測定できる革新的なツールとして注目されている.最近ではドパミン(DA),アセチルコリン(ACh),ノルアドレナリン(NE),神経ペプチドなど多様な神経修飾物質に対応するセンサーが次々に開発され,特異性や感度,時間分解能に優れた計測が可能となっている.本稿では,GRABセンサーの特徴や利点,実際の使用例,さらには使用時に注意すべきポイントについて概説する.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流65~ベンチャーが拓く創薬研究~
  • 加藤 祐樹, 河合 宏紀
    2025 年160 巻3 号 p. 201-206
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    AI技術が広く普及し,多くの人々がそれを手に取れる時代になってきた.創薬の分野でも例外ではなく,実際に多くの製薬企業がAI技術を創薬研究に活用し始めている.当社が主たる事業としている画像解析の分野も,AI技術の進歩と創薬研究への応用が進む.そのような「AI民主化」とも呼べる時代において,当社を含めたAIベンダーが果たしていく役割とは何であろうか.創薬研究者に技術を正しく使いこなして適切に研究に活用していただくために,そして今以上に多くの研究者が技術の恩恵を受けられるために必要なことは何か.画像解析AI技術の創薬研究への応用例も含めながら,「真のAI民主化」に貢献していくために当社がこれまで取り組んできたこと,今後取り組むことなどをお伝えしたい.

新薬紹介総説
  • 大槻 健樹, 赤利 精悟, 柏木 直美, 小野 嘉之
    2025 年160 巻3 号 p. 207-219
    発行日: 2025/05/01
    公開日: 2025/05/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    ウパシカルセトナトリウム水和物(ウパシカルセト)は,味覚増強の探索から派生して開発された,日本発のアミノ酸を基盤とする構造を有する新規低分子カルシウム感知受容体(CaSR)作動薬である.ウパシカルセトは,CaSRに特異的に作用し,細胞外カルシウム(Ca)存在下で活性化させることで,副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を抑制すると考えられる.ウパシカルセトは,非臨床試験において,二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)に伴う異所性石灰化,副甲状腺過形成,骨障害及び,結合部位や薬理学的特性が検討され,SHPTに伴う諸疾患の進展抑制効果,作用機序および結合様式を支持する結果が得られた.ウパシカルセトは,臨床試験において,血液透析下のSHPT患者を対象とした国内第Ⅰ/Ⅱ相試験(AJ1001試験),国内第Ⅱ相用量調整試験(AJ1002試験),国内第Ⅲ相二重盲検並行群間比較試験(AJ1004試験)及び国内第Ⅲ相長期投与試験(AJ1003試験)において有効性,安全性が確認された.ウパシカルセトは,2021年6月に「血液透析下の二次性副甲状腺機能亢進症」の効能又は効果として製造販売承認を取得し,同年8月に発売された.

最近の話題
コレスポンデンス
feedback
Top