日本薬理学雑誌
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137 巻, 6 号
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総説
  • 林 秀樹
    2011 年 137 巻 6 号 p. 227-231
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/10
    ジャーナル フリー
    中枢神経系の脂質代謝および脂質輸送は,末梢組織と異なる独自の調節機構を確立している.末梢循環では超低比重リポタンパク(VLDL)や低比重リポタンパク(LDL),高比重リポタンパク(HDL)などが存在するが,哺乳類のリポタンパクは血液脳関門を通過できないため,脳脊髄液中ではグリア細胞由来のHDL様リポタンパクのみが存在し,中枢神経系内の脂質輸送を行っている.アポリポタンパクE(アポE)は中枢神経系の主要なアポリポタンパクであり,グリア細胞由来のアポE含有リポタンパクは神経細胞に脂質を供給する役割に加え,受容体にリガンドとして結合し,軸索伸長の促進や神経細胞死抑制の役割を担うことが明らかとなっている.またLDL受容体ファミリーのVLDL受容体およびApoER2はシグナル受容体として働き,発生期の神経細胞遊走の調節に重要である.アポEの遺伝子多型の1つであるε4アリル(表現型:アポE4)が,アルツハイマー病(AD)発症の最も強力な遺伝的危険因子として知られているが,その他にも脂質代謝とADを含む神経変性疾患との深い関わりを示す多くの研究成果が報告されている.
実験技術
  • 杉本 直樹
    2011 年 137 巻 6 号 p. 232-236
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/10
    ジャーナル フリー
    従来の手法では,有機化合物の絶対純度を簡単に測定することが困難であった.定量核磁気共鳴法(定量NMR: quantitative NMR(qNMR))は計量学的に信頼性の高い定量値または純度値を求めることができる強力なツールとして注目を集め始めている.1H-NMRは,特に有機化合物の構造決定のための代表的な定性分析法の1つであり,これは官能基上の水素の数と信号強度が比例することを利用しているが,1H-NMRスペクトル上に観察される水素の数を示す信号強度は10%を超えるばらつきがあり,有機化合物の精密な定量分析には不向きであるとされていた.しかし,近年,定性的なNMR測定条件を全面的に定量用に最適化することで,1H-NMRスペクトル上の化合物の水素の信号強度は結合状態に依存せず分子構造が異なっても等モル量であれば等しく観察されることが見出された.この定量的なNMR現象を利用することによって,qNMRは他の定量分析法に匹敵する不確かさ約1%以内の定量精度を実現した.さらに,これまでの定量分析技術の常識を覆し,たった1つの純度既知の基準物質を上位標準とするだけで無限の有機化合物の絶対量や絶対純度が国際単位系(SI)にトレーサブルに求められるようになった.今後,qNMRは多分野の研究に関連する有機化合物の絶対純度決定法として応用がはじまり,得られた分析値や評価値の信頼性を間接的に裏付けるための必須の分析技術となると考えられる.本稿では,有機化合物の純度に関するSIトレーサビリティの重要性,qNMRの原理,市販標準品や試薬の絶対純度測定への応用例などを紹介する.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(20)(21)
新薬紹介総説
  • 梛野 健司, 高 忠石, 原田 寧
    2011 年 137 巻 6 号 p. 245-254
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/10
    ジャーナル フリー
    パリペリドンは,日本国内および海外で非定型抗精神病薬として広く使用されているリスペリドンの主活性代謝物(9-ヒドロキシ-リスペリドン)であり,リスペリドンと同様にドパミンD2およびセロトニン5-HT2A受容体に対する阻害作用を有し,セロトニン・ドパミンアンタゴニスト(SDA)に分類される.さらに,パリペリドンの製剤は,放出制御型徐放錠であり,放出制御システム(osmotic controlled release oral delivery system: OROS®)を用いることによって,24時間持続的にパリペリドンを放出し,安定した血漿中薬物濃度が維持できる.これによって,1日1回投与による統合失調症治療が可能になり,有効性および忍容性の向上が期待できる.パリペリドンは,D2受容体および5-HT2A受容体に対してリスペリドンと同程度の親和性を示し,D2受容体と比較して5-HT2A受容体に対して高い親和性を示した.これらのことから,パリペリドンは,統合失調症においてドパミン神経系が関連する陽性症状の改善だけでなく,陰性症状の改善および従来の定型抗精神病薬で問題となる運動障害(錐体外路系副作用)の軽減が期待できる.国内の臨床試験は,成人の統合失調症患者を対象とした探索的試験を第II相試験として実施し,positron emission tomography(PET)検査により,投与量および血漿中濃度とD2受容体占有率との関係を検討した.第III相試験では,統合失調症では国内で初めてのプラセボ対照二重盲検比較試験を実施し,パリペリドンER 6 mg,1日1回朝投与のプラセボに対する優越性を検証するとともに,初回投与時に低用量からの漸増が不要で維持用量の6 mg/日から投与を開始しても安全であることを確認した.また,48週間の長期投与試験において,長期間の曝露に伴う安全性リスクの増加はなく,有効性の維持についても確認した.特に,日本人統合失調症患者に対するエビデンスが明確に示されたことの意義は大きく,パリペリドンERは,現在の本邦における統合失調症の治療において第一選択薬となりうる薬剤として期待される.
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