日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
134 巻, 4 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集:アポトーシス関連分子を標的とした疾病治療
  • —アルツハイマー病解明へのアプローチ—
    田熊 一敞, 片岡 駿介, 吾郷 由希夫, 松田 敏夫
    2009 年 134 巻 4 号 p. 180-183
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    「細胞の自殺プログラム」として見いだされたアポトーシスは,胎生期における器官形成や各器官での新陳代謝に伴う細胞死のみならず,虚血性病変や悪性腫瘍などでの細胞死においても関与することが示され,生理的あるいは病態的いずれの細胞死においても重要な役割を果たすことが明らかとなってきた.中枢神経系においても,アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経脱落疾患においてアポトーシスの関与が見いだされた.このような背景のもと,種々の疾患において,アポトーシスの発現制御機構の解明を通した新たな治療法開発へのアプローチが,国内外ともに最近の研究の潮流となりつつある.本稿では,アルツハイマー病におけるアポトーシスについて,アミロイドβペプチドによるミトコンドリア障害を中心に最近の研究の進展を紹介する.
  • 足立 壮一
    2009 年 134 巻 4 号 p. 184-191
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    癌治療において細胞死の機序を解明することは,新規治療法の開発や耐性化の克服などの治療成績の向上や,副作用の軽減など,患者治療に直結する重要な研究である.In vitroの培養系における各種白血病や癌細胞株の研究から,細胞死の1つであるアポトーシスについては機序の解明が進んでいる.しかしながら,生体内での細胞死の機序は不明のことが多く,また固形腫瘍における細胞死では,近年,アポトーシス以外の細胞死が注目されている.我々は,白血病,固形腫瘍いずれにおいても以下の系において,アポトーシス以外の細胞死の1つである,オートファジーの関与を証明した.(1)難治性白血病であるBcr-Abl陽性白血病(フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病,慢性骨髄性白血病)に対して,従来から上記白血病の特効薬とされている,imatinib mesylateよりも有効な薬剤INNO-406によるin vitroにおける細胞死の機序にオートファジーが関与し,in vivoにおいても非アポトーシスの細胞死がみられること,(2)難治性固形腫瘍rhabdoid腫瘍におけるin vitroおよびin vivoでのHDAC阻害薬(depsipeptide)による細胞死の機序にオートファジーが関与し,AIFの核からミトコンドリアへの偏移がオートファジーに関与すること,の2点である.いずれの系においても,オートファジーを抑制すると細胞死が増強されたことから,オートファジーの抑制は難治性白血病,固形腫瘍の治療ターゲットとなりうる可能性が示唆され,オートファジーに関与する新薬の開発が望まれる.
  • 竹村 元三
    2009 年 134 巻 4 号 p. 192-197
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    アポトーシスによる心筋細胞の脱落が種々の心疾患,特に急性心筋梗塞あるいは心不全の形成あるいは病態増悪の過程に関与している可能性が示唆されている.たしかに培養心筋細胞においてはアポトーシスは実験的に比較的容易に誘導できる.しかしながら心不全を含め実際の心疾患における心筋細胞アポトーシスの直接証明である形態学的証拠は未だに示されていない.したがって急性心筋梗塞あるいは心不全における心筋細胞の抗アポトーシス治療の有効性は不明である.一方,心筋の間質細胞などの非心筋細胞は心筋梗塞巣(肉芽組織)において大量にアポトーシスで消失することがわかっている.かつ,このアポトーシスを阻害すると梗塞後慢性期の左室リモデリング,心不全が軽減されるため,将来大型梗塞後心不全予防法のひとつとなる可能性がある.
  • 松田 直之, 山本 誠士, 寺前 洋生, 高野 健一, 別府 賢, 山崎 弘美, 横尾 宏毅, 畠山 登, 小池 薫, 服部 裕一
    2009 年 134 巻 4 号 p. 198-201
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    敗血症(sepsis)は,感染症を基盤とする全身性炎症反応病態であり,組織酸素供給の低下したショックを合併しやすい病態である.敗血症に合併するショックの初期病態は,一酸化窒素やプロスタノイドなどの過剰産生による体血管抵抗の減弱した血流分布異常性ショック(warm shock)である.しかし,敗血症の持続により血管内皮細胞障害が進行すると,末梢循環の損なわれたcold shockへ移行し,高められた体血管抵抗により心収縮性低下が具現化する.この血管内皮細胞障害を導く要因として,アポトーシスが関与する.敗血症では,血管内皮細胞や主要臓器のさまざまな細胞でDeath受容体ファミリーの細胞膜発現が高まり,さらにアダプター分子であるFas-associated death domain protein(FADD)が増加し,カスパーゼ-8とカスパーゼ-3が活性化し,アポトーシスが誘導される傾向がある.敗血症性ショックにおいては,warm shockをcold shockへ移行させない管理が必要であるとともに,特に血管内皮細胞のアポトーシスを抑制する創薬が必要とされている.FADDやカスパーゼの阻害を標的としたアポトーシス治療は,敗血症性ショックの進展を防ぐ治療として有効と評価された.
総説
  • 北川 一夫
    2009 年 134 巻 4 号 p. 202-206
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    脳梗塞急性期の治療薬として現在国際的に使用されているのは血栓溶解薬のみである.しかしその恩恵を受けることのできる患者は脳梗塞全体の5%以下であり,脳梗塞に有効な保護薬の開発が期待される.これまでグルタミン酸受容体拮抗薬をはじめとした神経細胞を主な標的とした治療薬は基礎実験では有効なものの臨床試験では有用性が証明されなかった.神経細胞だけでなく脳梗塞進展に密接に関連しているミクログリアや脳血管内皮細胞でも虚血侵襲により炎症反応が誘導される.さらに血栓溶解療法に伴って発生する血液脳関門障害,出血性脳梗塞の発生にも血管周囲での炎症反応が関与していると想定される.炎症制御を標的とした治療薬の開発は有望と考えられるが,脳梗塞治療手段として取り入れる場合には,炎症反応は組織障害性に働くだけでなく,虚血耐性の獲得,組織修復機転,組織再生過程など内因性の脳保護機転にも関与しているため,炎症を制御する部位,時間,標的細胞などを十分に考慮する必要があると考えられる.現在までに得られた基礎実験,臨床データからは,脳虚血早期の主としてミクログリア,脳血管壁周辺での炎症反応を制御することが,脳保護効果を発揮する上で有望ではないかと考えられる.
実験技術
  • 岩木 和夫, 林 譲
    2009 年 134 巻 4 号 p. 207-211
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    検出限界は,ある物質を検出できる最少量であり,ノイズとシグナルの境界とも言える.科学としての学問的興味から,分析化学の分野では数十年前から熱心な研究が行われている.一方,ある物質が存在するか否かは,クリティカルな国際問題とも成りえることから,国際ルールである分析法バリデーションにおけるパラメータとして採用されている.たとえば,ISO,IUPACなどで検出限界が取り上げられている.しかし,検出限界の概念を統計学的に与えてある解説は多いが,実際に求める方法を提示してある文献は少ない.現実には,分析者は,自分の分析法の検出限界を自分の責任で推定し,提出または公表しなければならない.しかし,求めた検出限界の信頼性が最も重要な問題である.数少ない繰り返し測定から求めた検出限界は,求めるごとに数倍異なることもある.少ない実験からの検出限界はばらつくことを知りながら,その偶然の値を採用し,危険な物質の検出限界を大きく推定することや,発見したい目的物質の検出限界を小さく見積もるのは反則である.本稿では,ISO11843 Part5の方法を解説する.この方法は,統計的に信頼できる検出限界を与えるので,国際的に通用するデータの信頼性を保証できる.分析法としては,競合法ELISAと非競合法ELISAを例に挙げる.
創薬シリーズ(4) 化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その3) 代謝(3)
  • 南畝 晋平, 東 純一
    2009 年 134 巻 4 号 p. 212-215
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    チトクロムP-450(CYP)遺伝子多型が,薬物血中濃度の個人差を引き起こす原因の一つとなることは,もはや周知の事実である.CYP遺伝子多型情報は,これまで,臨床上問題となる薬物反応性,副作用発現の個人差の原因を明らかにするための手段として用いられてきた.近年,医薬品の開発成功率の低下から,遺伝子多型情報を医薬品開発に利用し開発の効率化を図ろうとする動きが議論されており,CYP遺伝子多型は最も有力なターゲットになると考えられる.実際,被験者のゲノムDNAをバンキングし,予想外の有効性や安全性の結果が出たときに遺伝子多型解析が可能な体制をとる製薬企業が増えてきている.さらに,2008年3月には「医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクス実施に際し考慮すべき事項(暫定版)」が日本製薬工業協会から発表された.今後,医薬品開発における遺伝子多型情報の利用が一般的になっていくと思われる.
新薬紹介総説
  • 楠本 啓司, 森 光宏, 田之頭 淳一, 戸塚 伸夫
    2009 年 134 巻 4 号 p. 217-224
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    エカード®配合錠はアンジオテンシンII(AII)タイプ1受容体拮抗薬(ARB)であるカンデサルタン シレキセチル(ブロプレス®錠,以下C.C.)4 mgまたは8 mgとチアジド系利尿薬であるヒドロクロロチアジド(HCTZ)6.25 mgとの配合剤である.両剤とも臨床において広く使用されている薬剤であるが,HCTZはレニンアンジオテンシン(RA)系の賦活化による血漿レニン活性上昇の結果,長期間使用すると降圧効果が減弱することがあるといわれている.したがって,RA系を抑制するC.C.とRA系を活性化するHCTZとの併用は,C.C.本来の降圧効果に加えてHCTZのRA系活性作用による降圧効果の減弱を補い,相乗的な降圧効果をもたらすことが期待される.高血圧自然発症ラット(SHR)を用いてC.C.とHCTZとの併用が降圧作用に与える影響について検討した結果,C.C.は反復経口投与により単独で降圧作用を示し,HCTZとの併用により降圧効果が増強するという成績が得られた.一方,HCTZの反復経口投与において示される利尿効果に対してC.C.はほとんど影響を与えなかった.したがって,利尿作用の発現に伴いRA系を賦活化するHCTZとRA系を抑制するC.C.の併用は,降圧作用の増強の点において合理的なアプローチであることが明らかとなった.臨床第III相試験において,エカード®配合錠によるトラフ時坐位拡張期血圧下降量はC.C.単独群およびHCTZ単独群に比べて有意に大きく,エカード®配合錠の有用性が立証された.また,エカード®配合錠を反復投与した場合の薬物動態に変化はなく,安定した降圧効果が得られると考えられた.さらに,エカード®配合錠の長期(52週間)投与試験において,単剤で報告されている以外の新たな副作用や遅発性の副作用も認められなかった.以上より,エカード®配合錠はC.C.単剤で効果不十分な患者の新たな治療選択肢として,個々の患者の状態に合わせた降圧治療に寄与できるものと考えられる.
  • 岩田 理子, 藤井 秀二, 吉田 慎哉, 原田 寧
    2009 年 134 巻 4 号 p. 225-231
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/14
    ジャーナル フリー
    エトラビリン(ETR)は,ジアリルピリミジン骨格を母核とする新規の非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)で,野生型ヒト免疫不全ウイルス(HIV)および既存のNNRTI耐性株に対し強力な抗ウイルス活性を示す.ETRは柔軟な立体構造を持ち,NNRTIが結合する逆転写酵素内の疎水ポケットで複数の配置を取るため,耐性変異によるポケット内の構造の変化に対しても対応が可能となり,NNRTI耐性株への感受性が維持されると考えられる.さらに,in vitroでの検討からETRは耐性を引き起こしにくく,感受性の低下には既存NNRTIよりも多くの変異の発現を必要とする遺伝的障壁(genetic barrier)が高い薬剤であることが示された.既存のNNRTI耐性を含む多剤耐性HIV-1に感染し,治療選択肢が限られた患者に対する第III相比較試験において,24週および48週時解析においてETRはプラセボに比し統計学的に有意に高いウイルス学的効果を示し,長期投与時においても忍容性が高いことが確認された.類薬のうち世界的に汎用されているエファビレンツ(EFV)で多く認められている精神神経系事象はETR群とプラセボ群に差がなく,ETRはEFVと安全性プロファイルが異なる新しいNNRTIであることが示された.既存のNNRTIに対する耐性には著しい交叉耐性が知られているが,既にNNRTIに対する感受性の低下を示す患者に対しても,ETRは有効性および安全性の両面で新たな治療選択肢の1つとなることが期待される.
feedback
Top