日本薬理学雑誌
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127 巻, 3 号
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特集:薬理学における痛み研究の新しい潮流
  • 富永 真琴
    2006 年 127 巻 3 号 p. 128-132
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    TRPチャネルは6回の膜貫通領域を有する陽イオンチャネルであり,4量体として機能すると考えられている.また,大きなスーパーファミリーを形成し,哺乳類では6つのサブファミリーに分かれている.カプサイシン受容体TRPV1は1997年にクローニングされ,感覚神経特異的に発現し,カプサイシンのみならず私達の身体に痛みをもたらすプロトン,熱によっても活性化される多刺激痛み受容体として機能することが,TRPV1発現細胞やTRPV1遺伝子欠損マウスを用いた解析から明らかにされた.さらに,TRPV1は炎症関連メディエイター存在下でPKCによるリン酸化によってその活性化温度閾値が体温以下に低下し,体温で活性化されて痛みを惹起しうることが分かった.このTRPV1の機能制御機構は急性炎症性疼痛発生の分子機構の1つと考えられている.カプサイシンは逆説的に鎮痛薬としても使われているが,その作用メカニズムの一つとしてTRPV1の脱感作機構が考えられている.痛みを惹起する刺激(温度刺激,機械刺激,化学刺激)のうち,温度刺激による痛みはおよそ43度以上あるいは15度以下で起こるとされている.TRPV1は初めて分子実体の明らかになった温度受容体であり,現在までに8つの温度感受性TRPチャネルが報告されている.侵害刺激となる温度によって活性化するTRPV1,TRPV2,TRPA1は侵害温度刺激受容に関与するものと思われる.感覚神経に発現する他の温度感受性あるいは機械刺激感受性TRPチャネルも侵害刺激受容に関わる可能性が考えられている.これらの侵害刺激受容TRPチャネルは,新たな鎮痛薬開発のターゲットとして注目される.
  • 川畑 篤史
    2006 年 127 巻 3 号 p. 133-136
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    Protease-activated receptor-2(PAR-2)は,トリプシン,トリプターゼなどの特定のセリンプロテアーゼの細胞への作用を媒介するGタンパク共役型受容体である.PAR-2は知覚神経C線維ニューロンに発現し,炎症性疼痛や熱痛覚過敏の発現に関与している.また,PAR-2は内臓痛の情報伝達・制御にも重要な役割を演じている.結腸内腔側に存在すると考えられるPAR-2の活性化により,遅発性の内臓痛覚過敏が誘起される.一方,PAR-2は膵臓では痛みに対して促進的な面と抑制的な面を併せ持つ.このように,PAR-2は痛みの情報伝達制御に関与する新たな生体内分子として,創薬の面からも興味がもたれている.
  • 井上 敦子, 仲田 義啓
    2006 年 127 巻 3 号 p. 137-140
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    サブスタンスPを代表とする神経ペプチドは,刺激に応じて一次知覚神経から遊離され,脊髄後角において二次神経に痛み情報を伝達すると同時に,末梢組織で遊離された神経ペプチドは,免疫担当細胞,肥満細胞,血管平滑筋細胞に作用して神経因性炎症反応を引き起こす.我々は,一次知覚神経の活性化の解析モデルとして脊髄後根神経節初代培養細胞(培養DRG細胞)を用い,サブスタンスPの動態(生合成と遊離)について炎症性メディエータの影響とその作用メカニズムを検討している.炎症反応により組織局所や神経支配する一次知覚神経のサブスタンスP含量は増加する.培養DRG細胞を炎症性サイトカインであるインターロイキン1βで処置すると,数時間でサブスタンスPが遊離され,数日間の処置で細胞内サブスタンP前駆体PPT mRNAレベルの増加が観察された.また,発痛物質でもあるブラジキニンで培養DRG細胞を前処置すると,カプサイシンによるカルシウムの取り込みを増加したことから,一次知覚神経の興奮性を促進することがわかった.また,数時間のブラジキニン処置でカプサイシンによるサブスタンスP遊離が増強された.インターロイキン1βとブラジキニンの長時間処置によるサブスタンスP遊離に及ぼす影響はシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬で抑制され,インターロイキン1βとブラジキニンにより培養DRG細胞においてCOX-2の発現誘導が観察された.サイトカインなどの炎症性メディエータは,種々神経ペプチドの動態に影響を及ぼすことによって炎症反応,炎症性痛覚過敏を引き起こすと考えられる.その作用機序および細胞内伝達経路を解明することは病的痛覚過敏の制御に極めて重要であると思われる.
  • 伊藤 誠二
    2006 年 127 巻 3 号 p. 141-146
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    ガス状物質一酸化窒素(NO)は細胞膜を自由に透過できることから,神経細胞―神経細胞や神経細胞―グリア間の細胞間クロストークだけでなく,逆行性メッセンジャーとしてシナプスの神経伝達に重要な役割をする.1980年代にfura-2などのCa2+蛍光プローブの開発により,イノシトールリン脂質代謝による細胞内Ca2+動態が可視化されたように,NO蛍光プローブDAF-FMにより,グルタミン酸NMDAチャネルの活性化が電気生理学的手法でなくNO産生としてとらえられ,神経因性疼痛の発症・維持におけるグルタミン酸―NO系の役割が分子レベルで解明されつつある.神経型NO合成酵素(nNOS)はNMDA受容体を通って流入したCa2+によりカルモジュリンがnNOSに結合して活性化されると考えられてきた.NMDA受容体,PACAP,Fynキナーゼなどのノックアウトマウスに神経因性疼痛モデルを作製し,疼痛行動を解析した結果,FynキナーゼによるNMDA受容体NR2BサブユニットのTyr1472のリン酸化とnNOSの細胞質から細胞膜へのトランスロケーションがnNOSの活性化と神経因性疼痛の維持に必要であることがわかった.NR2Bサブユニットは長い細胞内部分のC末端にPDZ結合モチーフESDVとその近傍にインターナリゼーションシグナルYEKLをもち,後者に含まれるY(=Tyr1472)のリン酸化は,NR2Bサブユニットを後シナプス肥厚に留めることとnNOSの活性化,すなわちシナプス終末からの情報の「受容の場」と「シグナル変換」の2つの機能に関与する.これまで神経因性疼痛は痛覚伝達系の形質転換や神経回路網の再構築といった不可逆的な器質的変化のため難治性と考えられてきたが,神経損傷1週間後でもNR2B選択的拮抗薬は神経因性疼痛に対して鎮痛効果を示し,脊髄後角のNO産生が可逆的に抑制されることから,神経因性疼痛は機能的変化で維持されている.神経因性疼痛が神経損傷部位からの持続的入力により慢性化していると仮定すると,神経再生による治癒が可能でありNOは痛みのバイオマーカーとなることが期待される.
  • 望月 秀紀, 谷内 一彦
    2006 年 127 巻 3 号 p. 147-150
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    ポジトロン断層影像法(PET)など脳機能画像法が開発されたことによって,これまで研究することが困難だった中枢レベルの痒みの研究が可能となった.現在,中枢における痒みのイメージング研究において2つの展開がある.ひとつは“痒み”という感覚が脳内でどのように作り出されているのか,そして,もうひとつは,中枢神経系を介した痒みの抑制システムの存在についてである.痒みと痛みは同じ末梢神経線維によって伝達されるにもかかわらず,私たちはそれらを異なる体性感覚として知覚する.その違いが脳内でどのように作り上げられているのかが最近のPET研究によって明らかにされつつある.痒みと痛みの脳内ネットワークは非常によく似ているがいくつかの相違点があると考えられている.例えば,痛みの認知に関係する視床や二次体性感覚野は痒み刺激を与えてもあまり反応しない.このような脳内ネットワークの違いが,痒み・痛みといった感覚の違いを作り出している可能性がある.アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー疾患は,現在,国民の3割が患う国民病として知られており,その治療法の開発が強く望まれている.特に,アトピー性皮膚炎患者の場合,掻きむしる行為が原因で症状が悪化する.痒みの治療法として,抗ヒスタミン薬など薬剤治療が一般的に用いられるが,それでも痒みの治療は多くの問題を抱えている.その問題のひとつは,心理的ストレスによる痒みの悪化である.逆に,趣味に没頭しているときなどは痒みが軽減される.このような現象から,脳内に痒みを増減するようなシステムが存在する可能性が指摘されている.我々は痒みに関するPET研究から,中脳中心灰白質を中心とした痒みの中枢性抑制システムの存在をヒトにおいて証明した.今後,中枢性痒み抑制メカニズムによる痒みの新たな治療薬の開発が期待される.
  • 佐々木 淳, 倉石 泰
    2006 年 127 巻 3 号 p. 151-155
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    神経因性疼痛は長期間持続する難治性の疼痛である.持続的な痛みは患者のQuality of Lifeを著しく低下させることから,痛み自体が治療の対象となる.しかし,従来の鎮痛薬では疼痛を十分にコントロールすることは難しい.また,同一症状の疼痛でも疼痛発症機序は多様であり,同一の治療法の効果は一様ではない.神経因性疼痛モデルは数多く報告されており,末梢神経損傷するタイプ,病態特異的タイプ,化学療法薬誘発タイプに分けられる.ヒト同様,モデルによって疼痛発症機序に違いがあり,薬物の効果も大きく異なる.絞扼性神経損傷(chronic constriction injury)モデル,坐骨神経部分損傷(partial sciatic nerve ligation)モデル,脊髄神経結紮損傷(spinal nerve ligation)モデルは,いずれも末梢神経損傷タイプの神経因性疼痛モデルであるが,疼痛の種類によっては発現のしやすさがモデル間で異なり,交感神経依存性やモルヒネ感受性にもモデル間で明らかな違いがある.神経栄養因子は3つのモデル全てで関与が報告されているが,substance P―neurokinin受容体系とglutamate―N-methyl-D-aspartate受容体系は,モデルによって,また疼痛の種類によって関与の程度が大きく異なる.各々のモデルでの疼痛機序は異なると考えることが重要であり,様々な神経因性疼痛のモデルで検討すること,そして,このようなモデル間の差がどのようにして生じるのかを明らかにすることが非常に重要である.
  • 田邊 勉
    2006 年 127 巻 3 号 p. 156-160
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    これまでに電位依存性Caチャネルとして,10種類の遺伝子が同定されており,電気生理学的,薬理学的に分類されているタイプとの対応付けがなされている.痛みの伝達機構における電位依存性Caチャネルの役割としては,(1)シナプス前終末における痛覚伝達物質の放出,(2)シナプス前および後終末における細胞膜の興奮性の増大,(3)細胞内Ca依存性シグナル伝達機構の活性化,(4)遺伝子発現変動による痛覚伝達の可塑的変化などが考えられるが,どのタイプのチャネルがどのような貢献をしているのかに関しては未知の点が多い.我々は神経系において特異的に発現するチャネルとして同定された,P/Q型,N型,R型Caチャネルに着目し,これらチャネルの痛み伝達機構における役割の解明を目指し研究を行っている.本稿においては,電位依存性Caチャネルの,1.痛覚鈍磨,2.痛覚過敏,3.神経因性疼痛,4.オピオイド鎮痛とトレランスにおける役割に関して,我々の研究室で得られた成果を紹介する.
  • 植田 弘師
    2006 年 127 巻 3 号 p. 161-165
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    神経傷害に伴い誘導される慢性疼痛は難治性神経因性疼痛と呼ばれ,抗炎症薬や強力な鎮痛作用を有するモルヒネによって除痛されにくい.従って,急性の痛みとは仕組みが全く異なり,末梢神経傷害に伴う一次知覚神経と脊髄での可塑的機能変調がその基盤となると考えられる.著者らは近年,神経傷害後,長期に認められる痛覚過敏・アロディニア現象を誘導する初発原因分子として脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)を同定した.このLPAは後根神経節や脊髄後角における疼痛伝達分子の発現増加や一次知覚神経の脱髄現象を誘導し,これらがそれぞれ痛覚過敏やアロディニア現象の分子基盤となることが明らかになった.
  • 井上 和秀
    2006 年 127 巻 3 号 p. 166-170
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    ATPは後根神経節(DRG)ニューロン,後角ニューロン,脊髄ミクログリアおよび上位中枢神経系などに発現する様々なATP受容体サブタイプを介して痛み情報伝達に多様に関与している.正常ラットでは,DRGニューロンのC-線維に発現するP2X3受容体は自発痛様行動および熱性痛覚過敏に関与し,同Aδ線維に発現するP2X2/3受容体は急性メカニカル・アロディニア(非侵害性の機械刺激や触刺激を激痛として誤認識する病態)に関与する.一方,神経因性疼痛モデルラットでは,P2X3アンチセンスや選択的P2X3およびP2X2/3受容体拮抗薬A317491の末梢適用により持続性メカニカル・アロディニアが抑制される.これは末梢レベルではDRGニューロンのP2X3およびP2X2/3受容体が神経因性疼痛発症に関与していることを示している.ところで,最近,特に世界的に注目されているのは脊髄ミクログリアにおけるP2X4受容体サブタイプと神経因性疼痛の関係である.神経因性疼痛モデルラットでは,脊髄後角のミクログリアに,細胞体の肥大化や突起の退縮および細胞増殖など,典型的な活性化の形態変化が認められ,しかもこの活性化型ミクログリアにはP2X4の高濃度発現が認められ,P2X4受容体拮抗薬やP2X4アンチセンスにより持続性メカニカル・アロディニアが抑制される.このことから,神経損傷により活性化したミクログリアが,P2X4受容体を介して,神経因性疼痛の発症維持に重要な役割を果たしていることが推察出来る.P2X4受容体の発現増加メカニズムにフィブロネクチン-インテグリン情報伝達系が深く関与している.このように,ATPは,全く異なった様式で,正常および病態での痛み情報伝達に重要な役割を担っていると考えられる.
  • ―臨床の立場から―
    冨安 志郎
    2006 年 127 巻 3 号 p. 171-175
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    がんは化学的,機械的刺激を受容する様々な受容体を一次知覚線維上に発現することにより,持続的に一次知覚線維を刺激する.次第に痛覚過敏やアロディニアといった疼痛伝達系の感作から強い痛みを発生するようになる.強い痛みの持続は脊髄の感作や内臓-体性収束などのメカニズムにより関連痛と呼ばれる病巣から離れた部位に痛みを発生させる.がんの痛み治療の基本的考え方は原因病巣からの侵害入力を遮断して疼痛伝達系の感作を予防することである.基本的に腫瘍増殖に伴う侵害受容性疼痛であるので,WHO3段階除痛ラダーに従い,痛みの程度に合わせて非オピオイド,オピオイドを組み合わせて除痛を行う.オピオイドは徐放製剤に加えて残存する痛みに速やかに対処するための速効性モルヒネをレスキューとして準備しておく.オピオイドの必要量には個人差が大きい.レスキュー使用量を徐放製剤に上乗せしていくことで,眠気や呼吸抑制の出ない適切な徐放製剤必要量をタイトレーションすることが一般的である.嘔気・嘔吐,便秘といったオピオイドの副作用には予防的に対処する.腫瘍による神経根や脊髄圧迫に伴う神経障害障害性疼痛に対しては抗うつ薬や抗けいれん薬などの鎮痛補助薬を用いる.がん患者の痛みは身体的な痛みに加えて不安,抑うつなどの精神的痛み,役割の喪失や経済的問題などの社会的痛み,死を意識する病気を前にして,生きることに意味を見出せなくなる霊的痛みなどが発生する.がん患者の除痛にあたっては身体症状を緩和する医師,精神症状を緩和する医師,がん専門看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,栄養士,理学療法士など多職種がチームを組むことで,患者,家族の希望に沿った全人的ケアを行うことが重要である.
  • 服部 政治
    2006 年 127 巻 3 号 p. 176-180
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    〈目的〉近年,「痛み:Pain」が5番目のバイタルサインとして治療の質向上のため重要視されるようになった.欧州や米国では患者のPainに関した大規模調査が行われ,国民のPain保有率や患者意識調査の報告がなされているが,本邦では大規模調査は行われていなかった.そこで今回,痛みからの解放を目指した医療の質向上のための基礎的資料作成のため,日本での慢性疼痛の有病率の推定,疼痛部位の特定,慢性疼痛保有者の医療機関への通院治療状況に関する大規模調査研究を実施した.〈対象と方法〉調査は,インターネットで行い,第1次調査として一般生活者30,000名の中から慢性疼痛保有者を抽出するためのスクリーニング調査,第2次調査として1次調査で抽出された慢性疼痛保有者の疼痛に関する詳細と治療状況の調査の2段階で行った.〈結果〉一次調査:回答を得られた18,300名の回答から,慢性疼痛のスクリーニング条件を満たしたものは,2,455名(13.4%)であった.最も多い症状としては腰痛が58.6%と多く肩痛が次いで多かった.この2,455名により詳しい二次調査を実施した結果,「痛み」のために仕事・学業・家事を休んだことがあると答えた方は34.5%であった.痛みに関する治療は95.4%の方が原因となる疾患を治療している医療機関で受け,満足のいく程度に痛みを和らげたとする方は22.4%であった.診療科では,痛みの治療に整形外科を受診している方が45%と第一位である一方,ペインクリニックを受診している方は0.8%と低値であった.〈結論〉日本では,約13%の方が生活や仕事になんらかの支障を来たす痛みを保有していたが,治療によって満足な痛みの軽減は得られておらず,疼痛治療を専門とする医療機関の充実がこれからの重要な課題のひとつであると思われた.
実験技術
  • 渕上 淳一, 高橋 真樹
    2006 年 127 巻 3 号 p. 183-189
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    これまでに多くの慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease,以下COPD)の動物モデルが開発されているなかで,喫煙曝露モデルはヒトのCOPDに類似した病変が作製可能なことから,COPDのモデルとして有用性が高い.喫煙曝露あるいはタバコ煙溶液の投与により,以下の3種のモデルを開発した.1.モルモットを用いた喫煙曝露モデル:モルモットにタバコの煙を4週間曝露した.処置群では呼吸機能および肺機能の悪化,好中球およびマクロファージの浸潤が認められた.気管では上皮細胞の過形成により肥厚がみられ,気道病変をもつ病態であった.2.ラットを用いた喫煙曝露モデル:ラットにタバコの煙を3カ月間曝露した.処置群では呼吸機能および肺機能の悪化,動脈血ガスの酸素分圧の低下および二酸化炭素分圧の上昇が認められた.気管粘膜上皮の過形成による肥厚,肺胞壁の破壊による肺気腫状態を示し,気腫性病変および気道病変を併せ持つ病態であった.3.タバコ煙溶液およびリポポリサッカライド誘発モデル:モルモットにタバコ煙溶液ならびにリポポリサッカライド溶液を気管内に直接投与して20日間で作製した.処置群では呼吸機能および肺機能の悪化,炎症性細胞の浸潤が認められた.肺の過膨張および肺胞壁の破壊による肺気腫症状を示した.これら3種のモデルは,COPDの病態メカニズムの解明および新規治療薬の開発に大きく貢献するものと期待される.
治療薬シリーズ (1) うつ病
  • 斎藤 祐見子, Zhiwei Wang, 丸山 敬
    2006 年 127 巻 3 号 p. 190-195
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    オーファンGタンパク質受容体(GPCR)のリガンド探索は新規生理活性物質の発見と新規創薬標的に直結すると考えられている.あるオーファンGPCRのリガンドが既知物質と判明した場合でも研究が飛躍的に進展する.受容体同定により,そのリガンドの既知あるいは未知の生理作用の薬理学的解明が進み,創薬開発を開始することができる.メラニン凝集ホルモン(MCH)とその受容体はそのケースかもしれない.MCHノックアウト(KO)マウスは「ヤセ」であるため,摂食中枢の下流に位置する分子として大きな注目を集めた.1999年にオーファンGPCRの利用によりMCHの受容体が同定され,そのアンタゴニスト開発・KOマウス行動解析が一気に進む.驚いたことにMCHアンタゴニストは摂食行動は勿論「うつ状態」動物モデルに対しても効果を持つことが報告された.オーファンGPCRのリガンドとして発見された他の神経ペプチドも今後の精神病治療にとって有用な標的候補となる可能性がある.
  • 茶木 茂之, 奥山 茂
    2006 年 127 巻 3 号 p. 196-200
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    ストレス社会を反映して,うつ病・不安障害などのストレス性疾患を患う患者数は増加の一途を辿っているが,現在使用されている抗うつ薬は治療効果および作用発現の速さという点で必ずしも満足できるものではない.最近,種々の神経ペプチドと呼ばれる短鎖アミノ酸がストレス反応において中心的役割を果たす分子として注目されている.神経ペプチドは感情およびストレス反応に関与する脳内の特定部位において生合成され,神経伝達物質あるいは調節物質として機能する.さらに,それらの発現および遊離はストレス負荷によって顕著に変化し,脳内神経回路あるいは神経内分泌系を介して種々のストレス反応を惹起する.神経ペプチドは細胞膜表面に発現するそれぞれの神経ペプチドに特異的な受容体に結合することにより生理機能を発現する.さらに,それぞれの受容体には通常数種類のサブタイプが存在することが知られている.各神経ペプチド受容体サブタイプに特異的な化合物および受容体サブタイプの遺伝子改変動物を用いた行動薬理学的検討により,各神経ペプチド受容体サブタイプの生理機能およびうつ病との関連が明らかになりつつある.これら神経ペプチド受容体の中で,コルチコトロピン放出因子1型受容体,バソプレッシン1b受容体,メラニン凝集ホルモン1型受容体およびメラノコルチン-4受容体はストレス反応との関連が示唆されている.さらに,それぞれの受容体に特異的な拮抗薬が創出され,種々動物モデルにおいて抗うつ作用が認められたことから,これらの受容体の新規抗うつ薬創出のターゲットとしての有用性が期待される.
  • 橋本 謙二
    2006 年 127 巻 3 号 p. 201-204
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    近年,自殺の増加が社会問題になってきており,年間3万人以上の方が,自ら命を絶っている.自殺の原因の一つが,代表的な精神疾患のうつ病であるといわれている.うつ病の治療には,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)等の抗うつ薬が使用されている.SSRIの急性の薬理作用は前シナプスに存在するセロトニントランスポーターを阻害することにより,シナプス間隙のセロトニン量を増加させることであるが,治療効果の発現には数週間を要することが知られている.一方,SSRIのセロトニン神経系における作用は投与直後に認められることから,セロトニン神経系に直接に作用するだけでなく,細胞内の様々なシグナル伝達系に関わる転写因子制御の分子メカニズムが注目されている.本稿では,うつ病の病態および抗うつ薬の作用メカニズムにおける脳由来神経栄養因子(BDNF)の役割に焦点を当て,最新の知見について解説する.
  • 市丸 保幸, 青木 真由美, 島 由季子
    2006 年 127 巻 3 号 p. 205-208
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    本総説では詳細な作用機序には触れず,現在抗うつ薬として臨床開発中のものを中心に,それぞれの作用機序から大まかに分類し,概説する.現在臨床的に使用可能な薬剤はすべてモノアミン(ノルエピネフリン,セロトニン,ドパミン)に何らかの形で影響を及ぼし,抗うつ効果を現すので,前半では三・四環系の作用機序を含め,モノアミン系に作用する候補化合物についてSSRI,SNRI,NDRI,SNDRI,5-HT受容体関連,MAO阻害薬,PDE阻害薬の順に開発品をまとめた.また,後半では既にSSRIと同等あるいはそれ以上の有効性・有用性が報告されているメラトニン系のagomelatineをはじめに,neurokinin(NK)関連,CRF関連,GPCR関連,その他いくつかの新しい作用機序を持つユニークな化合物をまとめた.
  • 白山 幸彦
    2006 年 127 巻 3 号 p. 209-212
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    うつ病の症状は,軽症から重症だけでなく,その内容も多岐にわたり,反応する薬物も様々である.抗うつ薬はセロトニンまたはノルピネフリンを介して治療効果を上げていると考えられているが,うつ病自身の原因はそうではないようである.第一選択薬が無効であった場合,第二選択薬は注意を要する.その決定に際して,ガイドラインは有用である.その運用に当たっては機械的にならず,その選択理由を考えることが大事である.また,その判断基準に客観的な治療マーカーを見出していくことが重要な課題である.コルチゾール,デヒドロエピアンドロステロン,テストステロン,の血中濃度はそれ自身の値だけでなく,比を取ることでさらに強力な治療マーカーとなる可能性を有すると考えられる.
総説
  • 芦澤 一英
    2006 年 127 巻 3 号 p. 213-216
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    近年,製薬企業は効率的な新薬開発実施のために製品開発のスピード化が強く要請されている.一方,開発候補化合物の約4割が生物薬剤学的性質に基づく理由で開発段階においてドロップアウトし,開発コストを押し上げ創薬難度を高める原因になっている.そのため,創薬のスピードアップには,探索段階における莫大な数の試験サンプルの合成や評価を実施する際に,経口吸収性に関わる溶解度や脂溶性などの物性評価も,同時に短時間で実施することが重要である.また,開発候補化合物は,最終的な原薬と製剤の品質保持を考慮し,原薬開発基本形である塩形および結晶形を選定する必要がある.新しい化合物を医薬品として世に送り出すためには,開発の早い段階であらゆる化合物特性をよく調べておくことが重要であり,本稿は「創薬段階における物性評価の重要性」についてまとめた.
  • 堀井 郁夫
    2006 年 127 巻 3 号 p. 217-221
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    創薬初期段階からその薬効・安全性・薬物動態・物性を総合的に評価する事は有用な医薬品を効率的に創生するのに重要である.医薬品開発候補化合物の選択には,多面的な科学領域からの総合的な評価が望まれ,薬理学的・生化学的・生理学的,毒性学的・病理学的,薬物動態学的,化学的,物性的性状などを考慮しながら総合的に評価する実践的挑戦がなされてきている.創薬における探索段階の初期から開発候補化合物選定までの評価試験導入手法のパラダイムシフトの必要性とその実践が今後の創薬の重要挑戦事項である.多面的科学領域からの総合的評価により,(1)薬理作用と毒作用のバランス(薬物動態評価を含めて)からの薬効・安全性評価,(2)物性評価からの開発性の評価(臨床の場での製剤的適応性),(3)構造活性/毒性相関評価(薬理・毒性・薬物動態データ),(4)候補化合物選定のためのランキング設定,(5)当該化合物に潜在しているリスクの明確化とその対応策などが的確にできるようになる事が期待される.
新薬紹介総説
  • 久保山 昇, 林 一郎, 山口 忠志
    2006 年 127 巻 3 号 p. 223-232
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/01
    ジャーナル フリー
    ミグリトール(セイブル®錠)は糖に類似した化学構造を有し,体内に吸収されることにより類薬と異なる作用特性を示す新規α-グルコシダーゼ阻害薬(以下α-GIと略)である.薬物動態試験において,ミグリトールはラット小腸上部にて吸収され,代謝を受けずにほとんどが尿中に排泄された.また,肝薬物代謝酵素の誘導および阻害作用は認められなかった.薬理試験において,ラットの小腸由来スクラーゼ,イソマルターゼおよびマルターゼ活性を競合的に阻害するが,膵α-アミラーゼ活性を阻害しなかった.正常ラットにスクロースを負荷した際に用量に依存した血糖上昇抑制および糖質吸収遅延作用を示し,高用量においては糖質の吸収を阻害した.α化でんぷん,生でんぷんおよびスクロースを負荷した際の血糖上昇を用量依存的に抑制したが,グルコース負荷に対しては作用を示さなかった.また,GKラットに高スクロース・高脂肪食を8週間与えた慢性モデルに対し,HbA1Cの上昇を抑制し,膵島の病理組織変性を抑制する傾向を示した.国内の臨床試験では,2型糖尿病患者に対し食後の急峻な血糖上昇を強力に抑制し,血糖上昇ピークを遅延させ,食後の急峻な血糖上昇によるインスリンの過剰な分泌を抑制した.また,12週間の用量反応試験では用量に依存した食後血糖およびHbA1Cの低下が認められた.スルホニルウレア(以下SUと略)剤との12週間の併用試験においては,空腹時血糖,食後の血糖および血清インスリンの低下,HbA1Cの低下が認められ,継続して実施された52週間の長期投与においてもこれらの作用が減弱することはなかった.有害事象の大半は過度の薬理作用と考えられる消化器症状であった.また,低血糖は単独投与では発現せず,SU剤との併用においても発現率を増加する傾向はなかった.以上,非臨床および臨床試験の成績から,ミグリトールは2型糖尿病の食後過血糖を改善し,かつ安全な薬剤であると考えられた.
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