日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
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105 巻, 5 号
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総説:第93回総会特別講演
今月のテーマ:クローン病の緩解維持療法
  • 高木 承
    2008 年 105 巻 5 号 p. 643-648
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    本邦では,クローン病緩解維持療法として成分経腸栄養療法(ED)が頻用されてきたが,その有用性については無作為割付比較試験(RCT)で評価されていなかった.EDによる緩解維持療法の有用性を検討するため,近年東北大学大学院消化器病態学分野を中心にRCTを計画,実施した.EDを施行した群は,施行しない群に比べて有意に再燃が抑制されていた.また両群間でQOL,医療費において有意差を認めなかった.このRCTの結果より,EDによる緩解維持療法は有用であると結論した.今後は,新しい治療法も含めて栄養療法,薬物療法を上手く組み合わせて質の良い緩解維持療法を施行すべく適切なガイドライン作りが急務である.
  • 松井 敏幸
    2008 年 105 巻 5 号 p. 649-658
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    本邦でもinfliximab(INFX)によるCrohn病(CD)に対して,緩解導入のみならず緩解維持療法が可能となった.緩解導入後INFXの反復投与の効果は,CD患者に長期間緩解をもたらすことがある.そのため難治性の病態を有する多くのCD患者に対し入院や手術を避け社会復帰を可能とすることになる.INFXの長期効果に関する理論的背景と実際,投与時期,投与目的,安全性,効果予測,さらにはINFX無効例に対する対処法について考察した.その結果,適切な患者選択のもと,早期治療を開始して,粘膜治癒を目指す,など新たな目標がみえてきた.
  • 岩男 泰
    2008 年 105 巻 5 号 p. 659-668
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    Crohn病(CD)は若年者に好発する難治性疾患であり,再燃緩解を繰り返して長期の経過をたどるため,緩解導入後の維持療法は重要である.免疫調節剤が保険適応になり,CD治療における選択肢が広がった.CDの緩解維持療法として高いエビデンスを有するが,骨髄抑制をはじめとする副作用も一定の割合で発生する.副作用の可能性を十分に説明し,同意を得てから投与する必要がある.白血球数など血液データをモニタリングしながら,少量から開始し徐々に増量する.有効例では3∼4年間の継続投与を行う.免疫調節剤の薬物動態の解明が進んでおり,有効性の向上,副作用防止などテーラーメード医療の実践が期待される薬剤である.
総説
  • 神澤 輝実
    2008 年 105 巻 5 号 p. 669-678
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    膵臓と胆道は,複雑な発生経過をとり,種々の形成異常を生じる.腹側膵管と背側膵管の癒合が不十分な膵管癒合不全では,主導管となる背側膵管の開口部の副乳頭が一般に膵液排出機能が低下することから,膵炎との関連性が推察される.膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する膵·胆管合流異常では,Oddi括約筋作用が合流部に及ばないため,膵液と胆汁の相互逆流がおこり,胆道と膵に種々の病態を生じる.先天性胆道拡張症では胆管癌を,胆管非拡張型の膵·胆管合流異常では胆嚢癌を合併しやすい.膵·胆管合流異常のない例でも,膵液胆道逆流現象や胆汁膵管逆流現象が生じることが明らかになり,前者は胆嚢癌との,後者は膵炎との関連性が注目されている.
症例報告
  • 津谷 亮佑, 本谷 聡, 田中 浩紀, 中垣 卓, 西岡 均, 萩原 武, 小澤 広, 黒河 聖, 安保 智典, 今村 哲理
    2008 年 105 巻 5 号 p. 679-685
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    症例は26歳女性.潰瘍性大腸炎(UC)再燃のため当科入院となった.プレドニゾロンにより治療されたが改善なく,ステロイド抵抗性難治性UCと診断された.シクロスポリン持続静注療法などの治療を行ったが効果を認めなかったため,Infliximab 5mg/kgを計画的に投与した.初回投与より症状の改善を認め12週後に緩解を得た.Infliximabは難治性UCの治療に有効である可能性が示唆された.
  • 前川 智, 芳川 一郎, 山崎 雅弘, 久米 惠一郎, 上田 城久朗, 木原 康之, 田代 充生, 大槻 眞
    2008 年 105 巻 5 号 p. 686-691
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    症例は62歳女性.42歳時に潰瘍性大腸炎(UC)を発症し,以降再燃緩解を繰り返していたが,今回のUC再燃時に右上強膜炎と両下腿の結節性紅斑を発症した.ステロイド投与と顆粒球吸着療法で,UCが臨床的緩解するとともに,上強膜炎と結節性紅斑も軽快した.UCの腸管外合併症として上強膜炎と結節性紅斑を同時に併発した症例は,本邦ではこれまで報告例がなく,非常にまれである.
  • 萩原 誠也, 平山 眞章, 高橋 利幸, 目黒 高志, 森田 高行, 堀田 彰一, 新津 洋司郎
    2008 年 105 巻 5 号 p. 692-698
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    未分化多形肉腫は通常軟部組織に発生する腫瘍として知られており,消化管に病変をもつことは極めてまれである.症例は55歳,男性.下腹部痛を主訴に入院.大腸内視鏡検査にて下行結腸に隆起性病変を認め,通過障害が考えられたため左半結腸切除術を施行した.腫瘍は腸間膜から粘膜下までを占め上皮の異型は見られなかった.また腸間膜および大網に播種を認めた.未分化多形肉腫と診断され,大腸原発腹膜転移と推測された.
  • 宮原 孝治, 植木 亨, 水野 元夫, 小林 沙代, 梶川 直子, 岩堂 昭太, 黒目 学, 大江 啓常, 植松 周二, 岡本 良一, 白神 ...
    2008 年 105 巻 5 号 p. 699-704
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,男性.吐血を主訴に当院を受診し,上部消化管内視鏡にて十二指腸乳頭より血性胆汁の流出を認め,胆道出血と診断した.腹部単純CTでは胆嚢内結石および胆嚢内血腫を認めた.入院後,腹部血管造影にて,右肝動脈前枝から分枝する動脈に仮性動脈瘤を認め,同部にmicrocoilを用い動脈塞栓術を行い止血しえた.仮性動脈瘤の胆嚢内穿破に対し,止血処置として動脈塞栓術が極めて有効であった.
  • 板場 壮一, 本田 邦臣, 中村 和彦, 吉永 繁高, 樋口 奈緒美, 秋穂 裕唯, 宜保 淳也, 有田 好之, 伊藤 鉄英, 田中 雅夫, ...
    2008 年 105 巻 5 号 p. 705-710
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,女性.2002年十二指腸水平脚の潰瘍穿孔の既往あり.2005年10月より腹痛,嘔吐が出現し,上部消化管内視鏡検査にて多発性十二指腸潰瘍を認め,当科紹介となる.ダブルバルーン小腸内視鏡検査にて上部空腸に多発する潰瘍瘢痕を認めた.ガストリン高値,選択的動脈内カルシウム注入試験,画像所見などより十二指腸腹側のガストリノーマと診断し,腫瘍摘出術を行った.摘出標本はリンパ節内の神経内分泌腫瘍であった.今後,ダブルバルーン小腸内視鏡検査はZollinger-Ellison症候群診断の一助になる可能性があると考えられた.
  • 新井 修, 松枝 和宏, 片山 幸子, 平尾 謙, 三好 正嗣, 毛利 裕一, 能登原 憲司, 山本 博
    2008 年 105 巻 5 号 p. 711-718
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性.黄疸精査のため行ったCTで膵びまん性腫大と肝門部·下部胆管に狭窄を認め,膵生検にて自己免疫性膵炎と診断した.膵外病変として間質性肺炎,後腹膜線維症,硬化性胆管炎が併存した.ステロイド治療が奏功し,中止後も再燃は見られないが,経過中腎盂癌,膀胱癌,同時性重複早期胃癌の合併が見られた.自己免疫性膵炎では悪性腫瘍の合併について注意すべきである.
  • 武藤 俊博, 清水 泰博, 佐野 力, 水野 伸匡, 山雄 健次, 二村 雄次
    2008 年 105 巻 5 号 p. 719-724
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    症例は58歳男性.上腹部激痛を主訴に近医を受診し膵頭部動脈瘤の破裂が疑われ当院紹介となった.胃十二指腸動脈と下膵十二指腸動脈が主な流入動脈,胃結腸静脈幹を主な流出静脈とする膵動静脈奇形と診断し,膵頭十二指腸切除を施行した.本症例は口腔粘膜所見,習慣性鼻出血,内臓器血管異常性病変の存在よりOsler病と診断された.本邦ではOsler病に合併した膵動静脈奇形の報告はいまだになく本症例が初の報告である.
  • 唐崎 秀則, 石崎 彰, 柳川 伸幸, 中野 靖弘, 笹島 順平, 水上 裕輔, 丹野 誠志, 徳差 良彦, 三代川 斉之, 小原 充裕, ...
    2008 年 105 巻 5 号 p. 725-731
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/07
    ジャーナル フリー
    Von Hippel-Lindau病(VHL病)は遺伝性多発腫瘍性症候群で,膵病変も高率にきたすことが知られているが,これを契機に診断されることはめずらしい.今回,膵病変を認めVHL病の診断に至った2症例を経験したので報告する.症例1は40歳女性.副腎褐色細胞腫,膵内分泌腫瘍,脊髄血管芽腫に対して切除術を施行した.症例2は小脳,脊髄血管芽腫の手術歴を有する68歳女性で,多発性膵漿液性嚢胞腺腫に対して膵亜全摘術を施行した.VHL病に合併した膵管内乳頭粘液性腫瘍は過去に報告例がないが,症例1には画像的に,症例2には組織的に膵管内乳頭粘液性腫瘍の合併を認めた.両者とも膵病変を含む多発腫瘍の存在からVHL病を疑い,遺伝子検査にて診断を確定した.VHL病は遺伝病であり,人権に配慮した対応を要する.われわれは複数科からなる遺伝カンファレンスで協議のうえ対応にあたり,患者家族から新規VHL病患者を1名同定し得た.
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