骨格筋は運動機能に関わる運動器としてだけでなく,さまざまなホルモン様の生理活性物質を分泌する内分泌臓器としての役割も果たしている.肝における代謝を考える場合に,臓器間ネットワークの視点から肝の代謝をとらえることはきわめて重要で,糖・脂質代謝には,肝,脂肪組織(内臓・皮下),筋肉(骨格筋)のネットワークのなかでとらえていく必要がある.2022年10月より日本肝臓学会の社会保険委員会にて肝臓リハビリテーションワーキンググループが作られ,その指針が2023年4月に公開された.サルコペニアにともなう,肝臓疾患における身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善するため,今後この分野は肝臓分野のなかでも注視される領域である.
サルコペニアは肝硬変の重篤な合併症であり,QOLの低下や予後と関連するため,適切な評価と対策が必要である.サルコペニアの予防および治療として,分岐鎖アミノ酸製剤を使用した栄養療法と運動療法が期待されているが,特に運動療法に関してはエビデンスの蓄積が期待される.「肝疾患におけるサルコペニア判定基準」(2021年に改訂第2版が公開),「肝硬変診療ガイドライン2020」(年次改訂あり),「高齢者肝硬変診療ガイドライン」は,サルコペニア合併肝硬変患者の診療において有用である.サルコペニア対策は「肝硬変のトータルマネージメント」の基本であり,その実践は患者のQOLや長期予後の改善につながる.
肝硬変の治療の基本は栄養療法である.わが国のガイドラインでは,低アルブミン血症,Child-Pugh分類B/C,サルコペニアを合併する肝硬変を積極的な栄養療法の対象としている.サルコペニアの発症抑制に就寝前捕食や分岐鎖アミノ酸製剤が有効であり,亜鉛,カルニチンなどを併用した栄養療法が肝疾患患者の予後改善に必要である.一方,わが国ではウイルス性肝硬変が減少し,アルコール性肝硬変,脂肪性肝疾患の増加が著しい.肝疾患の病態に直接的な傷害を引きおこすアルコールについて,早急な対策が必要とされている.近年発売された飲酒量低減薬を含めたアルコール対策を,有効に実施する必要がある.
運動療法はさまざまな疾患の基本治療である.サルコペニアは脂肪肝の重要な要因であり,運動療法は脂肪肝の改善に有用である.また,サルコペニアは肝硬変や肝がん患者の予後や生活の質に関わる要因であり,運動療法によりサルコペニアや生活の質が改善することも報告されている.このように,肝疾患患者の診療においてサルコペニアの改善を目指したリハビリテーションは不可欠であり,2023年,日本肝臓学会は「肝臓リハビリテーション指針」を作成している.本稿では,脂肪肝,肝硬変および肝がん患者に対する運動療法について,日本からの報告を中心に概説する.また,実際に運動療法を行う際の注意点についても合わせて論述する.
肝臓外科手術は,原発性肝癌や転移性肝癌などに対して施行される肝切除術と非代償性肝硬変や急性肝不全などに対して施行される肝移植に大別される.これら肝臓外科手術患者は一次性サルコペニアや二次性サルコペニアを有していることが多く,術前サルコペニアや筋肉の質低下,内臓脂肪肥満などの体組成異常は術後予後不良因子である.しかし,術前低骨格筋量症例であっても,周術期栄養療法により予後が改善し,肝移植患者でも術前リハビリテーション・栄養介入により筋力や身体活動が改善するため,サルコペニアや低栄養の是正をターゲットとした周術期リハビリテーション・栄養介入が肝臓外科手術成績向上のブレークスルーになると期待される.
医療現場におけるダイバーシティの観点において,医師とメディカルスタッフの関係性は重要事項の1つである.本研究では,消化器内科と関わりの深いメディカルスタッフ136名を対象に女性医師についてアンケートを実施した.また,消化器内科の女性医師10名にスタッフとの関係性,および仕事と生活についてのアンケートも行った.その結果,医療現場もジェンダーレスの考え方が浸透している一方で,89%で女性医師が特に頼りになった場面を経験しており,今後も消化器内科で女性医師の需要は高くあり続けることがわかった.女性医師が女性であることを能力の1つとして活かしつつ,患者や現場からのニーズに応えていける時代を作る必要がある.
当院で化学療法を施行した膵癌患者のうち,初診時にD-dimerを測定し,D-dimer上昇時には下肢静脈超音波検査を施行した51例を対象として,初診時の静脈血栓塞栓症(VTE)合併率および深部静脈血栓症(DVT)のリスク因子について評価を行った.初診時のVTE合併率は35.3%(51例中18例)であった.DVTのリスク因子は,多変量解析から原発巣が膵体尾部,D-dimerの上昇が同定された.全生存期間はDVT陽性群で短い傾向を認めた(218日vs 523日).膵癌患者はVTEの合併が多く,特に原発巣が膵体尾部,D-dimerの上昇をともなう症例では,積極的に血栓症のスクリーニングを行うべきである.
73歳女性.72歳時に潰瘍性大腸炎を発症したが,メサラジン不耐症であった.10カ月後に再燃しサラゾスルファピリジン(SASP)とプレドニゾロンの投与により臨床的寛解となったが,SASP投与53日後に無顆粒球症を発症した.敗血症性ショックに陥ったが,抗菌薬,顆粒球コロニー刺激因子製剤,強心剤にて症状は回復した.薬剤誘発性リンパ球刺激試験ではメサラジン顆粒,SASP錠いずれも陽性であった.5-アミノサリチル酸不耐症の患者では,薬剤選択は慎重に判断すべきである.
化学放射線治療後に切除した肺原発転移性膵腫瘍の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は60歳の男性.肺癌治療後の経過観察中にPET-CTで膵体部腫瘍を認めた.EUS-FNAでは,腫瘍細胞の増殖を認め,免疫染色で肺癌膵転移と診断した.化学放射線療法を施行した後,膵体尾部および脾合併切除術を施行した.原疾患に関しては再発なく,良好にコントロールされていたが,術後42カ月で他病死された.