「慢性膵炎臨床診断基準2009」は,世界に先駆けて早期慢性膵炎の診断基準を提案した.国内外で早期慢性膵炎の病態,診断,治療について議論が活発化している.2016年に慢性膵炎の新しい定義“new mechanistic definition”が提唱され,その概念的モデルで早期慢性膵炎は「再発性急性膵炎」と「確実な慢性膵炎」の間に位置づけられ,緩解しうる病態と捉えられている.しかし,精度の高い診断のためには,感度・特異度に優れる新たなバイオマーカーや画像診断技術の開発が必須である.慢性膵炎の早期診断と早期の治療介入は膵癌の合併を予防し,患者予後の改善につながることが期待される.早期慢性膵炎をめぐる現状と課題ならびに展望について述べた.
現在の本邦における診断基準では,慢性膵炎は,慢性膵炎確診・準確診・早期慢性膵炎・慢性膵炎疑診の4病態に分類されている.実臨床においては,いずれも臨床徴候と画像診断の組み合わせで診断は比較的容易に可能であるが,慢性膵炎という疾患を念頭に置いて診療を進めなければ,確定診断に至ることが難しいことも少なくない.この観点から,精査のステージに上げるための臨床徴候や病歴を十分に理解しておくことは極めて重要である.また,本邦が世界に先駆けて提唱した早期慢性膵炎診断基準では画像診断として超音波内視鏡(EUS)の役割が大きいが,より正確な診断を行うためには,各EUS所見の理解とともに,慢性膵炎に影響を与える可能性のある臨床像(飲酒,喫煙,急性膵炎の既往など)を把握し,総合的に判断する必要がある.一方で,近年では早期診断におけるEUS-elastographyによる膵硬度測定やセクレチン負荷MRIなどの有用性も報告されており,慢性膵炎早期診断の幅は確実に広がりをみせている.
疼痛を有する慢性膵炎の内科治療,特に内視鏡治療の有用性を述べた.ESWL併用による内視鏡治療の結石消失率は76~88%と高く,症状緩和率も93~100%と高い.膵管ステントは疼痛の改善率74~94%と報告され,ESWLによる排石促進にも有用である.plastic stentが主に使用されるが,最近metallic stentの有用性が報告されている.仮性囊胞に対する内視鏡治療は主膵管との交通の有無で経消化管的か経乳頭的に行い,成功率90%前後,有効率58~88%と報告されている.慢性膵炎に対する内科治療は安全に行えるが,まだ多くの課題が残っており,さらに症例を蓄積して克服していく必要がある.
慢性膵炎にともなう疼痛や膵囊胞・膿瘍,狭窄症状などに対しては内服治療,内視鏡的治療が選択されるが,コントロール困難な場合や,悪性腫瘍の合併を疑う場合は手術の適応となる.慢性膵炎の外科治療は,神経切離術,膵管ドレナージ術,膵切除術の3つに大別される.神経切離術は軽度~中等度の疼痛症例に適応があるが,範囲は限られている.膵管ドレナージ術は主膵管拡張症例によい適応であり,膵切除術は病変が局在している場合に有効である.それぞれのメリット・デメリットを勘案し,術式を決定すべきである.当科では両者のメリットを合わせ持つFreyの手術を第一選択としており,適宜工夫を加えながら,数多くの症例に施行している.
症例は27歳女性.約2年前に肛門痛を主訴に当院へ受診となる.精査にて大腸型クローン病と診断され,その後はメサラジン製剤および栄養療法にて寛解維持されていた.寛解維持中に咳嗽,嚥下時違和感を認めたことから画像検索を施行すると,気管から気管支壁の著明な肥厚およびその周囲の炎症性変化を認めた.気管支鏡下の気管生検では非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,クローン病の腸管外合併症である気管気管支炎と診断した.
症例は42歳,男性.禁煙後に血便が出現し潰瘍性大腸炎と診断された.5-ASA,プレドニゾロンの投与で寛解導入したが減量にともなって再燃し,強力静注療法,白血球除去療法,抗TNF-α製剤,タクロリムスなどで加療したが,寛解導入できなかった.ところが,喫煙の再開で血便は消失し,内視鏡的にも粘膜治癒を確認した.禁煙後に発症し,喫煙の再開で寛解に至ったことから,ニコチンや一酸化炭素を介した抗炎症作用が考えられた.
症例は73歳男性.膵腫瘤精査目的に受診.画像検査で膵体部に充実成分をともなう囊胞性病変を指摘.病変近傍の主膵管にも不整が疑われ,混合型IPMNの診断で膵中央切除した.術前に充実成分と捉えていた部分は病理学的に線維化をともなう領域で,実験膵癌モデルで見られるtubular complexと呼ばれる変化に酷似していた.これが主膵管と分枝膵管の病変間に介在し,IPMNの進展形式を考える上で重要と考えた.
症例は65歳男性.2年前より尾側膵管に蛋白栓をともなう多房性囊胞様病変を認め,分枝型IPMNとして経過観察されていたが,EUSで囊胞の体部寄りに10mm大の低エコー域が出現してきたため,分枝型IPMN併存膵癌を疑い手術施行.術後標本による検討では,蛋白栓による主膵管狭窄が尾側膵管に囊胞状拡張をきたし,さらに膵管狭窄部周囲に散在性の炎症性変化をともなった所見であった.
79歳男性.腹部不快感を契機に診断した腫瘤形成性膵炎の経過観察中に,膵石と,末梢胆管拡張をともなう肝腫瘤が出現した.血清IgG4高値で,肝腫瘍生検にて多数のIgG4陽性形質細胞と線維化を認めた.自己免疫性膵炎の関与が疑われる慢性膵炎とIgG4関連肝炎症性偽腫瘍と診断し,ステロイド治療を開始した.2カ月後に膵石乳頭部嵌頓をきたしたが内視鏡的に解除し得た.後日自己免疫性膵炎の画像所見改善と肝腫瘤消失を確認した.
症例は78歳男性.発熱,咳嗽および両下肢しびれ,筋力低下を主訴に入院.胸部CT検査で両肺間質影を認め,尿検査は潜血・蛋白が陽性,血液検査でMPO-ANCA陽性より,好中球細胞質抗体関連血管炎の1つである顕微鏡的多発血管炎(MPA)と診断された.入院中に右季肋部痛が出現.急性胆囊炎と診断し,経皮的胆囊ドレナージ術後に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行.病理組織学的にMPAによる急性胆囊炎と診断された.